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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第8章

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8-06 三者会談(後)

前回に引き続き今回もケイト視点です。

最後に少しだけ、別視点が入ります。

「侯爵の仰るには、3区の採掘場は枯渇し、閉鎖されている筈ですよね。ですが、それにしては不自然な事があるのですよ。

 少なくない頻度で、3区の採掘場辺りに隕石らしき物が落下していったり、逆に採掘場から隕石らしき物が打ち上げられていたり、といった現象が確認できています。」


 3区の外壁に設置したカメラにそんな映像が映っていたと、メグちゃん達からも聞いています。


「恐らくですが、3区の採掘場で採掘した物資を、軽い素材でできた隕石の中身に詰め込んで、打ち上げているのではないのですか?

 そして隕石に偽装したまま、星系外へ中身を横流ししているのでは、と考えています。これについては、詳細を確かめるべく、採掘場に人を遣わしています。」


「ほう……あの宇宙軍の警備を潜り抜けて、採掘場に人を遣ったか。

 あそこで何が行われているかは私も知っているが、私達の手による物ではない。」


「……では、誰なのですか?」


 中将閣下の問いに、侯爵は頭を振る。

 話すつもりは無さそうです。


「あれが運んでいるのは、ケイ素やリン鉱石……この惑星オイバロスの表面には腐るほどある、安価な資源だ。

 だが、とある者達には命を繋ぐ大事な資源でね。彼らには以前、私から資金援助をしていたのだが、援助の代わりに採掘を黙認して欲しい、と頼まれたのだ。

 これを横流しだと言われればそれまでだが、『バレないようにやるなら、構わない』との陛下の内々の言も、頂いている。」


「なっ……。」


「だが、君が内偵に来たことで、これも『リオライトを横流しした』ことにされ、処断されるのだろう。

 今更、その流れを止める事ができると思えん。」


「どうして、そう思うのですか?」


 思わず、私から侯爵にそう尋ねてしまった。


「3区に残っていた生存者達の存在だ。

 3区にゴミ捨て用のエリアを設置する際も、管理エリア方面への立ち入りを陛下から厳しく制限された。『絶対に管理エリアへ行ってはいけない』とね……恐らく、管理エリアには何か、陛下が困る物があるのだろう。

 しかし、今更ながら生存者の存在を陛下は知ってしまった。しかも既に管理エリアに入っていると言う。

 となると、次に陛下が取る策は何か……それは、管理エリアにある『何か』の抹消と、その存在を知る可能性のある者の処分。

 責任者として、私も含まれるのだろう。」


 抹消、処分……つまり、メグちゃん達の命が、危ない!?


「中将、君も部外者では居られないぞ。恐らく、君の排除も狙っているはずだ。

 何せ君は『イデアの麒麟児』だ。()()()()()()()には目の敵にされているし、そもそも旧イデア派の期待を集めている事が陛下には気に入らない筈だ。

 命まで取られる事は無いと思うが、罪を仕立上げられて追放される……そんな可能性は、考えておいた方が良い。

 そうなる危険性は、私達……旧ラミレス派は、良く知っている……。」


 旧ラミレス派?


「エインズフェロー殿は、知らないだろうな。

 昔、このダイダロス帝国がまだ王国だった頃……。旧ラミレス王国は、ダイダロス王国の武力攻勢に屈し、降伏して王国に組み入れられた。

 今のイデア家と同じように、当時のラミレス王家が第二王族として組み入れられる事で、旧ラミレス王国の貴族達もダイダロス王国に帰属した。

 しかしダイダロスが帝国になった頃、帝室の乗っ取りを企てたとして旧ラミレス王家は、一族郎党や旧ラミレス貴族らと共に、新規星系開拓の名目で帝国から追放された。

 それが、今から300年近く前の話だ。」


「実は、当時の旧ラミレス王家にも、神童と呼ばれ期待を受けた男子が居たのだ。彼が旧ラミレス王国から帰属した者達の期待を集めた事を恐れた帝室が、罪をでっちあげ追放した、というのが、私達旧ラミレス派に伝わっている認識だ。」


 中将と侯爵が、事情を知らない私に説明してくれる。


「中将……首都星系駐留軍に、何か動きが無かったか?」


「実は……先日、8000人規模の宇宙艦隊が招集され、各地に訓練で散っていった……そういう報告を聞いている。」


「やはりか。既に手遅れに近いな。

 となると……やはり、ここはエインズフェロー殿に託すしかないな。」


「私、ですか?」


 何でしょう、私はただの一般人ですよ?


「管理エリアに、何が残っているのかは私も知らない。

 しかし、そこに陛下が気にするような物がある筈だ。それを……式典までの間に、持ち出す事は可能だろうか。」


 管理エリア……私が聞いているのは、アレだけかな。


「私が聞いているのは、管理エリアの航法コンピューターにはロックが掛かっていることと、3区の事故の7日前~6時間前までの通信記録にプロテクトが掛けられている事だけです。

 恐らく、そのプロテクトが掛かった通信記録がそれに当たると思いますが、解除の見込みはまだ立っていません。

 そして航法コンピューターも、まだロックが解除できていないそうです。」


「そうか……ちょっと待て。航法コンピューターの、ロック?」


「はい。当時の3区の管理責任者、ダニエル・バートマン中佐が掛けたと見られています。

 『忠誠を誓う相手は誰か』……そんな質問の答えを入れないと、解除できないそうです。」


 つい先日の3区への訪問で、マルヴィラからの手紙で知らされた最新の情報です。

 中将にはシェザンさんを通じて伝わっている筈です。


「……事故の数時間前、バートマン中佐と交信した時に、何か妙な事を口走っていたが……そうか。あれはそういう事だったのか……。」


 侯爵が考え込み、呟いていましたが、しばらくすると懐からメモ用紙を取り出し、何やら書き込んでいます。

 メモに書き込んだページを3枚切り取り、私に差し出してきます。


「このメモは誰にも見せずに、中の情報を3区の生存者達に渡しなさい。

 1枚目はロックに掛かっている質問の答えだ。恐らく間違っていないだろう。

 2枚目は宇宙船での脱出先に困った時に頼ると良い。3枚目はその際に必要になるだろう。」


「誰にも、と言うのは3区の会の協力者達にも、ですか?」


「生存者達には、陛下に知られずに管理エリアごと逃げ延びて欲しい。その為には、その情報が陛下の側に渡る事は何としても避けねばならん。

 しかし陛下の耳目がどこに居るのか分からない。君が信頼している3区の会であっても、私が信頼する自治政府の面々であっても、居ないとは限らないのだ。

 それに中将には悪いが、君の配下には陛下の側に通じている者が確実にいると思っている。

 だからその情報は隠し通した上で、確実にエインズフェロー殿の手で生存者達へ届けて欲しい。」


 メモを見て、書かれている内容を覚えておく。

 ……責任重大ね、これは。


「少々話し疲れた。……吸っても良いかね?」


「どうぞ、これを焚き付けにでも。」


 そう言って、侯爵にメモを戻す。

 侯爵は灰皿の上でメモに火を点ける。取り出した葉巻に火を移す間に、メモは燃えて灰になっていく。


「ふぅ……。

 その、管理エリアに残されている通信記録が、陛下のアキレス腱なのだろう。

 私達はなまじ立場がある故、命を取られるとは思わないが、その中身を知らないとはいえ、私や中将は何らかの責任を押し付けられるだろうな。

 しかし、生存者達には陛下から身を守る立場が無い。陛下の手の者に捕まってしまえば、恐らく命はあるまい。

 だからなるべく早く、その情報を生存者達に渡して、クーロイから逃げてもらいなさい。」


「どうして、彼らを助けようと?」


 何の意図があって彼らを助けようとしてくれるのか。その意図が分かりません。


「その管理エリアの記録を持って逃げれば、陛下の手勢はそれを追って東奔西走するだろう。その間、私や自治政府の面々、ラズロー中将は恐らく生かされ続ける。

 私達の生存確率を上げるためだと思ってくれ。

 君に言いたいのは以上だ。中将とはもう少し話があるが……中将の方から、彼女に何かあるかね?」


「いや……正確には『あった』のだが、今となっては意味を成さない。

 先日提供頂いた情報も、侯爵の話では恐らく陛下には漏れている可能性がある。

 侯爵のメモの内容は聞かないが……宜しく頼む。」


「……わかりました。

 では私はこれにて、失礼します。本日はありがとうございました。」


 席を立ちあがり、2人に一礼をして、部屋を後にしました。


 この情報をただ手紙に残して向こうに託しても、手紙が見つかってしまえば一巻の終わりです。どうやって渡すか、考えないと……。




(ラズロー中将視点)


「結局、侯爵が私や彼女と面談したかった理由は何なのです?」


「最初は、君の内偵を止めさせようと思っていたのだ。その為の口裏合わせだな。しかし、聞いていると想像以上に状況が悪かった。

 近いうちに、宇宙軍がここクーロイに乗り込んできて、私や君は逮捕される……だろうな。

 現場指揮官があの凡夫だろう? 裏で陛下が糸を引いているのは間違いない。最早事態を止められまい。

 であれば、我々に出来る事は……彼らを逃がして陛下を慌てさせ、時間稼ぎを図る以外に無いな。」


 侯爵にとっては、それが今の最善なのだろう。

 しかし、今まで協力してくれた3区の会はどうなる?

 侯爵の話が本当なら、彼らの立場は危うい。


「君の場合は、君を目の敵にする()()()()()()()が息巻くかもしれんが、君の誠実な人柄と仕事ぶりから、軍部にも君を支持する者は意外と多い。

 君のこの数年の監査の仕事は、無駄では無かったのだ。

 陛下とて軍部の支持は必要だから、君にはあまり無体な真似はできん筈だ。


 ただ、3区の会は……集まってきている遺族たちはともかく、先ほどの事務局長の彼女や、会長のエルナン氏は危ないだろう。

 私も出来る限りの手を回しておく。君も彼女達を守ってやり給え。」


 葉巻を吸いながら、侯爵は私の疑問に答える。


「……何か、無いのですか。

 この事態を止められる方法が!」


「無いな。

 その管理エリアの通信記録の内容次第では、プロテクトを解除し、内容を市井に流布させれば、あるいは……とは思う。

 しかし目途は立っていないのだろう?

 今できる事は、それを持ち逃げしてもらい、解除できるまで隠匿することだけだ。」


「一体、どこへ逃がすというのですか!

 この帝国を出て他所の国に行くには、この場所は外れに過ぎる。ここから帝国の外に出ても……ま、まさか!」


 そういう事なのか!?


「……話は以上だ。それでは、失礼する。

 3区の生存者達が逃げられるよう、君も助けてくれ。」


 そう言って侯爵は立ち上がり、葉巻の火を消し、灰を全て携帯灰皿に入れ……入ってきた奥の扉から悠然と出て行った。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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