8-02 ロックとプロテクト
しばらく主人公視点が続きます。
朝起きて、マルヴィラお姉さんと一緒に朝ごはんを作る。
今日はスープとトースト、卵にソーセージと軽いメニューにする。
ちなみに卵は缶詰とか冷凍で色々バリエーションがあるけど、今日は冷凍ゆで卵を解凍して、塩とマヨネーズのどちらかを選べるようにしてる。
「ゆで卵とソーセージ、人数分作らなくて大丈夫なの?」
「昨日の夜、小父さん達がまた酒盛りしてたみたい。
二日酔が酷いとあまり食べられないって言うから、飲み会開けは味の濃いメニューは人数分作らないの。」
「……人数分作ってあげたら。余ったら私が食べてあげるから。」
ひょっとして、中尉さんやお姉さんには量が足りなかったかな?
昼ご飯作る前に聞いてみよう。
小父さん達を起こしに行ったら、案の定、昨日は酒盛りしてたみたい。
いつも飲み過ぎてるのはグンター小父さんだけど、今回はセイン小父さんが一番二日酔いが酷そう。
比較的症状がマシなライト小父さんは全部食べたけど、グンター小父さんとセイン小父さんは卵もソーセージも食べなかった。
余った分は、中尉さんとマルヴィラお姉さんが食べてくれた。やっぱり2人には量が足りなかったみたい。
食べた食器を片付けた後、そのまま皆で作戦会議になった。
今日の作業は事前に決めていた通り、今日は管理エリアのコックピットで、航法コンピューターと、17年前の通信記録のプロテクトについて調査。
中尉さんと准尉さんの事は完全に信用した訳じゃないから、それぞれの作業に小父さん達のサポート……というか、監視を付ける。
航法コンピューターのロック解除は中尉さんとライト小父さんが担当。
中尉さんは宇宙を飛ぶ船の操縦に関するエキスパートらしい。ライト小父さんは、昔宇宙空間でデブリを集める掃宙艇ってのに乗った事があるから、多少は知識があるんだって。
通信記録のプロテクト解除は准尉さんとセイン小父さん。准尉さんはコンピューターのセキュリティ関連に詳しいらしい。サポートにはプログラム関係の事は得意なセイン小父さんが付く。
万が一の保険として、ニシュをコックピットの見張りに立てる。中尉さんと准尉さんもこれに了承してくれた。
手の空いたグンター小父さんはいつもの様に中の生命維持関連の装置や、外……デブリ探知レーダーとか恒星光発電装置なんかの点検をする、と言ってたけど。
「お前が一番、二日酔が酷いだろ!」(ライト小父さん)
「いつもに増して飲んでいたんだから。休んでなよ。」(セイン小父さん)
「無理しないで、ちょっと休んでいたら?」(マルヴィラお姉さん)
「……止めた方が良いな。作業が出来る状態には見えん。」(中尉さん)
「ちょっと昨日の酒量が多すぎると推察します。アルコール摂取状態での作業はお勧めしません。宇宙空間は論外です。」(ニシュ)
「大人しく水飲んで休んでて。二日酔でちゃんと動けてないんだから。」(私)
……と、准尉さん以外の全員から指摘され、結局作業が終わるまで部屋で休んでいて貰った。自分だけ仕事を外された事に不貞腐れていたけど、深酒した小父さんの自業自得なんだからね!
准尉さんも、やっぱり危ないんじゃないかと思ってたらしい。でも准尉さんはお酒も飲めないし、『二日酔いがどれくらい辛いのかも知らないから、経験者に任せただけ』だそう。
じゃあ、代わりに私が装置の点検をしようと言ったら、『後で私やライトが付き添うから、待ってて』ってセイン小父さんに止められた。
小父さん達は点検作業はまだ私に一人で任せてくれないの。
心配してくれてるのは分かるんだけど、むくれちゃう。
仕方が無いので、コックピットでの作業の間、私はマルヴィラお姉さんから料理を教わりながら、料理の作り置きをすることにした。
横で一緒の料理を作りながら思うんだけど、マルヴィラお姉さんってすごく手際が良い。自分が1品ずつしか作れない所を、お姉さんは2品同時に作って、なおかつそれをしながら私に指導までしてくれる。
「どうしたらそんな同時進行で料理が作れるの?」
「完成形とそこに行くまでのプロセスが、手待ち時間も含めて頭の中にあるからよ。
例えば焼くのだって、いい焼き加減になるまで待ってることあるじゃない? その間にこっちの料理の手順が済ませられそう、って考えるのよ。
メグちゃんは焦らなくていいのよ。まずは1品1品を丁寧に作って、美味しい作り方をしっかり覚えること。繰り返し作って体で覚える段階よ。」
「しっかり覚えないと、ケイトお姉さんの料理みたいになる?」
「……ふふふっ。確かに彼女の料理はポンコツなんだけどね。
ケイトの場合は、本気で好きな事だと物凄い集中力を発揮するの。
だけど、料理は多分『できたらいいかな』くらいの軽い気持ちなんだと思う。本気で取り組めないから注意力が散漫になって、挙句変な方に気を回して失敗しちゃうのよ。
でもね。ケイトはとっても色んなこと知ってるし、私よりずっと頭も良いし、友達としてすっごく尊敬してるの。次ケイトに会った時は、あんまり料理の事を揶揄わないであげてね。」
「……うん。わかった。」
ちょっと思い出してしまった。
ケイトお姉さんが今回来れなかったのは残念。
適度に休憩を取りながら、お姉さんと大量の料理ストックを作って冷凍庫にしまい込んだ。
そうこうして4時間程経ったところで、皆がコックピットから戻ってきた。
「おかえりなさい。作業の方はどうだった?」
「あー、すまん。飯の後で良いか? 久々に頭使って疲れたわ。」
「……そうだね、出来れば。」
ライト小父さんもセイン小父さんもちょっと疲れた様子。中尉さんや准尉さんもちょっと疲れた顔をしてるし、グンター小父さんを起こしに行ってご飯を食べてからにしよう。
グンター小父さんを起こして、ご飯を食べた後、調査の様子を皆で聴いた。
「航法コンピューターの方は行き詰っている。
航路コントロール権限の方は、私のパイロット資格証のスキャンで問題なかったが、問題はその後に仕込まれていたクイズが厄介だった。」
何でクイズ?
そう思った私に、中尉さんが説明を続けてくれた。
「軍の慣例として、航法コンピューターのロックの際に幾つかクイズ形式で質問を残すのだ。
その船の引継ぎ事項があれば、その確認のための質問だったり、引継ぎが必要なくても軍内の隠語なんかを質問にしたりするんだ。
ただ、今回のクイズはそんな慣例とは随分違っていてね。」
最初の何問かは数学的パズルだったらしく、それは中尉さんとセイン小父さんで何とか考えて答えたんだって。問題はその後。
『第6問:このロックを掛けたのは誰か』
『第7問:ロックを掛けた人物を殺しに来たスパイは誰か』
『第8問:ロックを掛ける事になった切っ掛けの事故は何か』
『第9問:その切っ掛けを起こした原因の人物は誰か』
といった質問が出て来たらしい。
「そこまで質問が分かってるっていう事は、そこまでは解けたって事?」
「ああ。当時の関係者の人名を片っ端から当て嵌めてみた。」
『第6問:このロックを掛けたのは誰か』
→ ダニエル・バートマン
『第7問:ロックを掛けた人物を殺しに来たスパイは誰か』
→ グレン・クレッグ
『第8問:ロックを掛ける事になった切っ掛けの事故は何か』
→ 3区への天体接近
「「何だと(何だって)!?」」
何故かグンター小父さんとセイン小父さんが驚く。
「……俺も驚いた。
ロックを掛けたのが当時の3区コロニー管理責任者、ダニエル・バートマン中佐だったってのはともかく、自治政府への引継の管理責任者、グレン・クレッグ中尉がスパイだったって言うんだからな。」
「ダニエル・バートマン中佐がロックを掛けた可能性は高いが……本当に彼がロックを掛けたとして、少なくとも彼はそう考えていた、という事だろう。
それに、答えられなかった質問……『その切っ掛けを起こした原因の人物は誰か』……当時のクーロイ星系の軍関係者や自治政府高官等の名前を思いつく限り入れてみたが、全くダメだった。
ただこの質問は……飛来した天体が3区に衝突した17年前の事故が、単なる漂流物の衝突では無く、裏に人為的要因がある事を示唆している。」
……ええええっ!!!!
「あ、あの事故が……人為的要因で、起きたってことか?」
「少なくとも、ダニエル・バートマン中佐はそう思える証拠を掴んでいたのだろう。
通信記録を探ればわかるかも知れない。
……航法コンピューターのロック解除で分かったのはここまでだ。
通信記録のプロテクト解除の方はどうだった、准尉?」
思わぬ衝撃があったけど、今は解けなかった質問の答えは分からない。
担当していた准尉さんとセイン小父さんの方を見る。
「……え、ええ。
通信記録のプロテクトは2重に掛けられていました。ソフトウェア的なプロテクトだけでも先に解除すれば、閲覧だけは出来そうですが……その2つのプロテクトを解除するのは、現時点では不可能です。」
「解除できない?」
「ええ、ソフトウェア的なプロテクトは、『特定の声紋による、特定の合言葉』を発しないと、こちらのプロテクトは解除されないようです。
特に声紋認証は解析が難しいので、今ここにある設備では、私ではプロテクトを外すのは無理です。このロックを掛けた人物の声紋でないと解けないでしょう。」
「難しいな…。」
中尉さんも天を仰ぐ。セイン小父さんも首を振ってる。
私にもその声紋認証+合言葉の解除は難しい事は分かる。
「もう一つのプロテクトは一見ハードウェア的なもので、解除の為には特定の『鍵』が必要なようです。
シリコンで鍵穴の型は取ってあるのですが……鍵穴の内部に何種もセンサーが組み込まれていて、単純なシリンダー鍵では無さそうでした。
形の問題だけではなく、『鍵自体が特定の素材でできていること』『鍵の中にメモリーが組み込まれていて、鍵の特定の場所に合計12個の端子が付いている事』までは分かりました。メモリーの中身に何が入っていればよいのかは、まだ……。」
「その鍵というのは、どんな物だ?」
中尉さんに訊かれて、准尉さんは鍵穴から取ったであろうシリコン型を取り出す。それは10㎝程の長さの長方形で、表面にあちこち赤い丸と青い丸が書いてある。
「端子の接続点が鍵穴の中にあった所が赤い丸の場所、青い丸は鍵穴内部に何らかのセンサーがある場所です。このうちいくつかはダミーが混じっていると思いますので、この型通りに作っても解除できるとは限りません。」
「その通信記録を保存している記録媒体自体は見つかったか?」
この中尉さんの問いには准尉さんもセイン小父さんも首を横に振る。
そもそもどこに保存されているかも、分からないのか。
「……一旦、今までの情報を整理しようか。
航法コンピューターはクイズ形式で解けるロックが掛かっている。
通信記録のプロテクトは2つ。一つは声紋認証+合言葉によるソフトウェア的なプロテクト、もう一つは特殊な鍵による半物理的なプロテクト。
航法コンピューターのロックの質問内容から、恐らく当時のコロニー管理責任者ダニエル・バートマン中佐が掛けたものと思われる……といったところだろうか。」
中尉さんがまとめてくれたけど、ちょっと違和感を覚えた。
他にもモヤっとする所があるし、確認してみよう。
「えっと、中尉さんとライト小父さんに訊きたいんだけど。 航法コンピューターの方の最初に会ったクイズって、どんなだったの?
例えば、すっごく難解な高度な数学問題だったり、あるいは逆に難しく見えて実は言葉遊びだった、みたいな引っ掛け問題だったりとか。」
「……もう解いたものだったから、気にしてなかったな。
落ち着いて時間を掛けて考えれば解けない問題ではなかったな。」
「ただ中尉さん、超難問の4問目の後のあの5問目は、作った奴の意地の悪さを感じたな。
あ、そうだ。
あとでメグにも解いてもらおうと思って、問題をメモしてたな。」
そう言って、ライト小父さんは私にメモを渡してきた。
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第1問
電子レンジである食べ物を温めるのに、
500Wなら3分、1500Wなら1分かかる。
では、1000Wなら何分かかるだろうか?
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第2問
クレッグ君は5回に1回帽子を忘れる癖のある子供。
彼が3件の家を順番に訪れて家に帰って来た時、帽子を忘れてきたことに気が付いた。
クレッグ君が2件目の家に帽子を忘れて来た確率は?
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第3問
グレンという男が死に、天国への門の前へやって来た。
そこには3つの扉がある。
・1つは、開けたら天国へ通じるもの
・1つは、開けたら1日地獄へ落とされ、また門の前へ戻されるもの
・1つは、開けたら2日地獄へ落とされ、また門の前へ戻されるもの
・地獄へ落とされてから門の前に戻ってくると、扉はシャッフルされている
グレンが天国に行くまで、平均でどのくらいかかるだろうか?
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第4問
あるコロニーには、4タイプの住人がいる。
・「いつも正直者」の住人は、いつも真実を語る。
・「誤魔化す正直者」の住人は、いつも真実を語るが、例外的に自分が犯人の場合だけは「自分は無実」と言ってしまう。
・「いつも嘘つき」の住人は、いつも嘘をつく。
・「気弱な嘘つき」の住人は、いつも嘘をつくが、例外的に自分が犯人の場合は正直に「自分は犯人」と言ってしまう。
このコロニーで殺人事件が発生し、外部から来た警察が捜査を行った。
目撃者によると犯人は1人。
その時間に犯行が可能だったのは、住人A、B、Cの3人だけ。
A「僕は無実です。Bが犯人です! Cは私と違うタイプです。」
B「私は無実よ。Aが犯人だわ! Aは正直者グループね。」
C「俺は無実だよ。Bが犯人だ!」
殺人犯は誰だろうか?
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第5問
ハリー氏は色々なペットを飼っている。彼の飼っているペットの内、
・3匹を除いて全部犬である。
・3匹を除いて全部猫である。
・3匹を除いて全部トカゲである。
・3匹を除いて全部ハムスターである。
さて、ハリー氏は何匹のペットを飼っているだろうか。
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……今はいちいち解かないけど、出題者は相当……ね。
2問目と3問目で、スパイさんを揶揄ってるし。
「今その問題考えてる時間じゃないぞ、メグ。」
「解こうとしてた訳じゃ無いってば!
ちょっと別の疑問があって考えてたの。
この5問目の後が、さっきの関係者名を入れて行ったっていうもの?」
「そうそう。ここから急にクイズの傾向が変わったんだ。」
……私の予想通りだと、なんとなくダニエル・バートマン中佐の意図は分かった気がする。
でも、そうするともう一つ違和感がある。
「ねえ、准尉さん。
通信記録のプロテクトの方なんだけど、声紋認証によるプロテクトって簡単に掛けられるものなの?」
「通常であれば難しいと思いますが、宇宙船のコックピットであれば、多分そんなに……中尉、どう思います?」
「宇宙船を動かす場合、簡単な指示ならパイロットが声で出せるように、コックピットの端末には声紋パターン認証と音声認識の機能は組み込まれている。
それを使えば、比較的簡単にこんなプロテクトを掛けられるだろうな。」
中尉さんが代わりに答えてくれた。
やっぱりそうか……。
次回、17年前の事故前後の状況を読み解いていく推理回です。
ちなみにヒントはこの話だけではなく、過去の話にも散りばめられています。
クイズの1~5問目の解説はここでは書きませんが
全て論理的に解ける問題です。
読者の皆さんにも頭をひねって頂ければ嬉しいです。
特に4問目は超難問。
わかった! 答え合わせしたい! と言う方は
メッセージを送って頂ければ、出来る限りコメントさせて頂きます。
他の読者の方々の楽しみの邪魔になるかもしれませんので
感想欄に解答を直接記載するのは御遠慮下さい。
なお、1~5問目は私のオリジナルではなく、それぞれ出典元があります。
ご要望があれば、後日、活動報告にて出典元も併せて解答を公開させて頂きます。
いつもお読み頂きありがとうございます。
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