8-01 小父さん達の日常
今回は、ライト小父さんの視点です。
随分お待たせしてすいません。
また8章の終わりまで、しばらく投稿致します。
マルヴィラさんや中尉さん・准尉さんが来た日。
スカッシュで汗を流した後、マルヴィラさんはメグの部屋に行った。
中尉さんと准尉さんはそれぞれこっちで用意した部屋に行った。話を聞いたら丸3日あの機械の中に潜んでいたらしいから、軍人とはいえ疲れは溜まってるだろう。
念のためニシュに見張りに立ってもらっているが、まあ大丈夫だろう。
で、残った俺達3人と言えば……。
「セイン、ライト。部屋で作戦会議しないか?」
ほーら、やっぱり来た。
ケイトさん達が定期的に酒を差し入れてくれるようになってから、グンターは3日と空けずに誘ってくる。
「例によって、ドリンク持参でか?
飲むのは構わんが、お客さんもいるんだし、程々にしとけよ。」
「全く、グンターは飲み始めると止まらないんだから。
明日、二日酔いで顔合わせたらメグ怒るよ。」
「わーかってるよ。ってか、お前等も人の事言えるのか?」
失礼な。グンターよりは節度を持って飲んでるつもりだ。
……3回に1回はメグに怒られてる気がするけど。
毎回怒られるグンター程じゃない筈だ。多分。
部屋のストックから、予め水で割って寝かせておいた焼酎とサバ缶を出してからグンターの部屋に行く。
作戦会議は、各自で自分の飲む物とつまみを持ち寄るスタイル。1杯か2杯くらいは別の物が飲みたくなって貰う事はあるが、お互い酒の好みが違い過ぎる。
グンターはワインも飲むが、最近はウィスキー派。グラスにシングルで氷を入れて飲んでるが、大抵1回で半瓶空ける……明らかに飲み過ぎだろう。つまみは肉系が多い。サラミだったり、事前にメグに頼んで炒め物を作って貰ったり。
セインはワインだったりブランデーだったり。ワインの場合は1回で1本空けるが、ブランデーはチビチビ飲む。つまみはチーズが多いな。
俺は焼酎が多い。水で割って氷を入れて飲むか、お湯割りだな。つまみはサバ缶とかの缶詰が多い。
酒とつまみを毎回差し入れてくれるケイトさんとマルヴィラさんには感謝している。メグには『酒を減らしてくれたら食料がもっと差し入れして貰えるのに』と怒られるが、なんだかんだ大目に見て貰っている。
だから作戦会議の最初は、こんな掛け声になっている。
「ケイトさんとマルヴィラさん、そして我らが娘メグに感謝を。」
「「「乾杯!」」」
ちなみにこの掛け声を考えたのはグンターだ。
メグは生まれた時から見てるから、俺達は皆、メグの事を自分の娘の様に思ってるが……セインも俺も結婚してねえってのに。
お互いに酒を一口飲んでから、本題に入る。
「お前さん達から見て、あの中尉さんと准尉さんはどうだ?」
「中尉さんはしっかりしてるね。うっかりしてると色々聞き出してきそう。
まあ、僕たちをどうこうしようって言う気は無さそうだけどね。」
セインが中尉さんの印象を語る。
武器を預けるって行動に驚いたが、確かに俺達やメグに危害を加える積りは無さそうだ。
彼とは俺も後で話をしてみよう。
「ライトはどうだ?」
「中尉さんは俺は余り話してないからわからん。ただ、准尉さんはあんまり裏表が無さそうだな。恐らく軍歴も浅いだろう。
マルヴィラさんとも打ち解けてる感じだったし、彼女の方は大丈夫だと思う。
お前達は中尉さんと何を話してたんだ?」
「最初中尉さんは、スラムの様な雰囲気で、俺達が全員その日暮らしをしている様子を想定していたらしい。
だがメグが、ちゃんと挨拶しただろう。
予想外にメグがしっかり教育されていた事に面食らったそうだ。」
……まあ、ここがスラムと言われれば、その通りかもしれないが。
「すると何かい。
食い詰めた俺達に食料とかを提供したら、ホイホイと何でもやるとでも思ってたのかねえ。」
「そこまでは思ってなかっただろうがな。
でも、多少の侮りはあったかもしれない、って正直に謝ってくれたよ。
中尉さんは訓練された軍人だろうが、誠意ある対応はしてくれているな。」
「こっちを下に見てたら出てこない台詞だね。
ひとまずは信用しても良いんじゃないかな。」
「気を抜かない方が良いとは思うけどな。
中尉さんについては明日の様子を見てメグとも相談しようか。」
まあ中尉さんについてはこの辺でいいだろう。
「准尉さんとはどんな話を?」
「俺達が普段どんなことをして過ごしてるか、って事を聞かれたな。
後は……事故当時の事は、今度ゆっくり聞かせて欲しいってさ。
あとはまあ、普段ここでどんな風に過ごしてるのか、とか。他愛もない話だったな。」
メグにどんな服が似合いそうだとか……そう言えばケイトさんも、こっちに来た時にそんな話をしてた気がするな。
ケイトさんと准尉さんは、向こうで一緒に仕事をしているらしい。
2人は本当に気が合いそうだ。
「まあ、久々に女性に囲まれて、浮かれて余計な話をしなかったのなら良いんじゃないかな。
マルヴィラさんは何か言ってたかい?」
思わぬ返しが来て、発言したセインを見る。
全く……セインの奴、判りにくい拗ね方してやがるな。
「メグが下に行ってる間、飯はマルヴィラさんが作ってくれるらしい。
代わりにトレーニングルームを使わせて欲しいってよ。」
「飯を作ってくれるのは有難いな。
しかしトレーニングルームって、お前が主として居座ってるじゃないか。
だったらお前が良いと思ったら良いんじゃないのか。」
「俺もそう言ったんだが、ちゃんと全員の許可取ってくれって言われたからな。
『間借りするんだから、家主全員の許可がない事はしない』んだと。」
「律儀なんだな。まあ、俺は良いと思うぞ。」
「僕も構わないよ。」
「わかった。彼女には明日伝えておく。」
……なんだ? さっきから、セインが意味ありげな視線を投げて来るが。
「どうした、セイン?」
「……いや、ライトがマルヴィラさんと仲良さそうだなあと。」
丁度良い。さっきの仕返しをしておくか。
「なんだ、セイン。
ケイトさんが来てくれなくて拗ねてんのか?」
ぶはっ!!
急にセインが酒を吹き出す。
「うわ、汚ねえ! 酒吹いてんじゃねえよ!」
「な、なんで僕が拗ねるのさ……。」
「お前、ケイトさんの事が好きなんだろう?
気立てが良くて品も良い、美人のお嬢様だしな。」
「んな、な、なっ!」
その赤くなった顔は、酒に酔っただけじゃない筈だ。
「全く、分かり易過ぎる。
お前がケイトさんと話してる時、赤くなってしどろもどろになってる様子を見て、俺達が何にも気付かない筈がないだろう?」
「わ、判ってたの? グンターも?
……ひょっとして、ケイトさんにも気付かれてる?」
「あれで気付かない方がどうかしているがな。
メグに色恋はまだ早いのか、気付いてなかったけどな。」
「マルヴィラさんに聞いたが、ケイトさんは気配りの人なのに、何故かそっち方面はからっきし鈍いそうだ。
良かったなセイン。本人にはまだ気づいてないそうだぜ。
俺達が温かく見守ってやるから、さっさと告白するんだな。骨は拾ってやる。」
「なんで玉砕する前提なんだよ!
それに今はそれ所じゃないでしょ。
……どの道、ここを脱出するまでは何も言うつもりは無いよ。」
「セインの気持ちだけでも、先に伝えておく方が良いと思うけどなあ。」
「俺もグンターと同意見だな。」
「そんな事言われても……どうやって話せば良いのか……。
女性にそんな話をしたこと無いから。」
そんな物、ストレートに言えば……ああ、そうか。
そういやセインの奴、事故前に女性と付き合った事も無かったって言ってたか。
グンターもそれに気づいたのか、頭を振っている。
「そう言うライトこそ、マルヴィラさんとはどうなのさ!」
む、いかん。揶揄い過ぎたか。
セインは手持ちのグラスからブランデーを一気に飲んで、酒の勢いで反撃してきやがる。
「マルヴィラさんねえ……いい女だと思うよ。
ケイトさんや准尉さんよりは俺の好みなのは確かだが……これが恋愛感情なのかどうか、自分でもよく分からん。
もう十何年も、女性とお付き合いなんかしてないからな。」
「それにしては、マルヴィラさんや准尉さん達と普通に会話してたじゃないか。」
「そりゃあセインと違って、クーロイに来る前にも何人か付き合った経験があるからな。」
最後に付き合った女には……クーロイに来ると言ったら、逃げられちまったっけ。
あー、何か嫌な事思い出しそうだ。
その後も酒が入ったセインに突っ込まれつつ、こっちも酒の勢いでセインにやり返し、グンターはその横で黙々と酒が入っていた。
ー……何か、大事な事を忘れてる気がする。
だが酒の入った頭では結局思い出せないまま、酔いつぶれて寝てしまった。
◇◇◇◇◇
……痛ててて。頭が痛いし、おまけに胃もムカムカする。
二日酔いになるまで飲んだのは何日ぶりだろうか。
結局あのまま、グンターの部屋の床で寝てしまったらしい。
ドンドンドン! ドンドンドン!
部屋の扉を叩く音がするので、起き上がって扉を開ける。
そこには、鬼の顔をしたメグが。
「まーた、潰れるまでお酒飲んでたの!?
今日は中尉さんや准尉さんと、今後の打ち合わせをするんじゃなかった?」
「……すまん。」
そう言えば、飲んでも良いけど飲み過ぎるなって、昨日散々釘を刺されたんだった。
酒の勢いで突っかかってきたセインに対抗するのに、こっちも飲んじまった。
グンターは平常運転……いつもの様に淡々と飲み過ぎた。
グンターとセインはまだ寝てる。
「もう! しっかりして頂戴!
あまり酷いと、ケイトお姉さんに言って差し入れ止めて貰うからね!」
「……面目ない。」
「とにかく、グンター小父さんとセイン小父さん起こして、シャワーでも浴びて目を覚ましてきて!
朝ご飯とっくに出来てるんだからね!」
そう言って、メグは去っていった。
朝ごはんの時間に起きて来なくて、心配して起こしに来てくれたらしい。
メグは優しい子に育ってくれたな。
「……なーに、そこでしんみりしてるの。
あんまりメグちゃんを心配させてるんじゃないわよ。」
「……その通りだな。反省してる。」
今のやり取りを扉の陰で見ていたらしいマルヴィラさんに怒られてしまった。
いやホント、面目無いな。
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