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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第7章

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7-10 アンサーソングは流れたけれど

今回は俯瞰視点です。

本日中にもう1話投稿します。

「今週も始まりました、クリシュナ・ヘクターの『ミュージック・クルージング』。

 皆さまからのリクエストだけでなく、毎週ゲストを招いてそのゲストの音楽観やプライベートなどをトークで掘り下げるこの番組。

 先週お伝えした通り、今週は歌手のナタリー・エルナンさんをお迎えして、プライベートや、今話題となっている3区の会の事など、色々伺ってみたいと思います。

 そして、ナタリー・エルナンさん。なんと久しぶりの新曲を、この『ミュージック・クルージング』で初出し、しかも生演奏して頂けるという事です。果たしてどんな曲何でしょうかねー。

 そんなこんなで只今13:00から、3時間の生放送でお送りいたします。


 最初にお送りするのは、ペンネーム風の谷さんからのリクエストで……。」



 クーロイ星系のある木曜日の午後。

 0区から発信するホットビートFMの中でも平日午後に放送されるこの番組は、主に仕事中の大人に向けたもの。学生は学校に通っている時間の為、中高年層も含めた大人のリスナーをターゲットにしている。DJも40代前半の低音の美しい男声で、番組全体にちょっと落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 この番組にナタリー・エルナンが出演し、番組内で新曲発表するという事で、主に年配層にて話題になっていた。

 何せ、立ち上げ前の政府との騒動に始まり、彼女に対する総務長官の暴言から監察官の派遣までの経緯、そして3区での行方不明者追悼式典の開催決定など、3区の会にまつわる話題が立て続けに上っているのである。

 その3区の会代表となるナタリー・エルナンが、このタイミングで出演することで俄かに注目を集めていたのだ。



 番組が始まって30分程、リスナーからのリクエストの楽曲が流れた後、いよいよゲストコーナーになる。


「……それでは、御登場頂きましょう、ナタリー・エルナンさんです。

 宜しくお願いします。」


「クリシュナさん、番組スタッフの皆さん、リスナーの皆さん。

 宜しくお願い致します。ナタリー・エルナンです。」


 番組スタッフたちであろう拍手の中、DJのクリシュナに続いて、昔と変わらず艶のある声でナタリー・エルナンが挨拶する。


「もう大ベテランと言っても良いキャリアをお持ちのナタリーさんですが、相変わらず美しく艶のある御声をなさっていますね。

 その声をキープする秘訣をお聞かせ頂けますでしょうか。」


「あらあら。もうおばあちゃんの私の声を褒めて頂いて光栄ですね。

 一応歌手ですから、毎日のボイストレーニングは欠かしていませんけど……」


 トークの冒頭は声の話に始まり、影響を受けたアーティスト、過去の楽曲などの話題が続き、10分程していよいよ3区の会の話題に入る。


「ナタリー・エルナンさんと言えば、ここクーロイ0区に『3区行方不明者家族の会』という、以前の事故被害者の捜索を求める市民団体を立ち上げられました。

 事故以来使用されていなかった3区コロニーで、慰霊式典を行う事が先般政府から発表があり、色々『3区の会』について話題になっています。

 そもそも、ナタリーさんがこの『3区の会』を立ち上げた切っ掛けと言うのは何でしょうか?」


「……実は、私はあの事故で、末の娘が行方不明になりました。

 あれから幾度となく『3区へ渡って娘を探したい』と政府に申し入れてきたのですが、受け入れてもらえませんでした。そのまま何年も経ってしまったのですけど。

 それが最近、このクーロイ星系から拡散した、あの『星に祈りを』でしたかしら……。」


「ああ、あの『♪星は光、星は闇~』で始まる、あの曲ですか。」


「そうそう。その曲ね。

 その曲が帝都星系でも流れる様になって、末娘の事を思い出したのです。

 それで久しぶりにクーロイに来てみたら、3区はゴミ捨て場になっていて、時々回収業者さんが3区に出入りするようになっていて、ビックリしたの。

 じゃあ私も3区に行きたいと思って、それでその足でもう一度政府に申し入れたら、『団体交渉ではないと受け付けない』って言われちゃってね。

 余りに腹が立ったから、勢いで団体を立ち上げたの。」


「なんと勢いですか。

 それにしては、政府としっかり団体交渉して、成果が挙がってきましたね。」


「ええ、これについては事務局長以下、会のスタッフに感謝しています。

 私も帝都に時々戻らないといけませんし、私が居ない間もしっかり政府と交渉を進めてくれるスタッフが揃ってくれて有難いですね。」


「なるほど。ちゃんと自分が居なくても動く組織になっていると。

 そういう組織作りについて聞きたいというチャットも流れてきていますが、一応ここは音楽番組ですし、そろそろ新曲についてお聞きしたいと思います。」


 DJとナタリーのトークは、ようやくナタリーの新曲についての話題に入る。


「所でナタリーさん。

 この番組で新曲を発表頂けるという事なのですが、そもそも何故ここで発表をしようと思ったのですか?」


「ええ、実は、あの歌を歌ったご本人からお手紙を頂きまして。」


「えっ……『星に祈りを』?

 という事は、『星姫』ご本人から?」


「ええ、そうなのです。

 あの歌を歌った彼女も、3区で御両親が行方不明になったそうなの。

 彼女なりに御両親を弔う歌だったそうよ。」


 新曲発表の経緯の中で『星姫』についての話題が飛び出し、俄かに番組チャットページが盛り上がりを見せる。


『えっ、つまりナタリーさんは星姫ちゃんの正体を知ってるって事?』

『あの歌ってそんな意味だったんだ』

『星姫ちゃんってどんな子なの? クリシュナさん、ナタリーさんに聞いて!』

『声の感じから小さい女の子だと思ったんだけど、あの事故で両親を亡くしたなら20歳位の女性なのかな』


 流れるチャットコメントを他所に、ナタリーは話を続ける。


「あの歌を聞いて、彼女からの手紙を読んで、また末娘への思いが溢れて来たからそれを歌にしたの。

 でも発表する積りは無かったんだけど……スタッフからの評価がとても良くて、是非発表すべきだって事になって。

 この歌が生まれた切っ掛けとなった『星姫』の彼女に敬意を表して、発表するならこのクーロイから、って思ったの。」


「成程。それでこのクーロイで新曲発表しようという事になったのですね。

 では、この番組を選んでいただいたきっかけは?」


「TVも考えたのですけど、片方の局とは揉めてしまいましたでしょう?

それに、こんなおばあちゃんの顔を晒してもしょうがないと思って、ラジオを最初にすることにしたの。

 この番組なら年配の方も多く聞いていらっしゃるでしょう。それにクリシュナさんとも以前、何度かお仕事を一緒にさせて頂くことがありましたし。それで、この番組なら良いかなと思いまして。」


「数ある中から選んでくださって、有難うございます。

 ここで、リスナーの方から番組チャットの方に沢山質問が届いているのですが、そこから幾つか抜粋してお聞きしたいと思います。

 まずは、その『星姫』さんとは実際にお会いされたんですか?

 お会いしたとしたら、どんな方なのですか?」


「手紙は何度かやり取りさせて頂いていますが、向こうの希望で、まだ会うどころか、電話やメールもしたことはありませんの。」


「では次の質問。これは私からなのですが。

 『星姫』っていう呼び方は、ウチのホットビート100って番組でついた呼び方なんですけど、そのまま『星姫』と呼んでも問題ないですか?」


「ふふふ。

 ご本人にも聞いたのだけど、『名乗りを上げる積りはないから、それで大丈夫』だそうよ。

 ちなみに曲名についても、『決めてなかったから、それでいい』ですって。」


「ちなみに彼女は、何歳くらいの方なんですか?」


「ご本人が特定できる具体的な氏素性や年齢については、諸事情で申し上げる事はできませんの。

 ただ、若い女性なのは確かですね。」


「次に行きます。お手紙ではどのような事をやり取りされているんですか?」


「3区で行方不明になった私の末娘や、向こうの御両親の話だとかですかね。

 後はそうね、普段なにしてるの、とか、そんな結構他愛もない話もしています。」


「ちなみになんですけど、彼女が友達とあちこち遊びに行ったりとか、そういった話せそうなエピソードはありますか?」


「そうねえ……彼女は最近料理にハマっているそうよ。

 特にスープを作る事が多いらしくてね、

 自分で食べるより、周りに食べて貰う方が好きなんですって。」


 DJのクリシュナは、あの手この手で『星姫』の事を聞き出そうとするも、ナタリーは当たり障りのない情報で全てをやんわり躱してしまう。


「色々質問を頂いたんですけど、話せることが少なくってごめんなさい。

 諸事情で、年齢や生活圏を特定できる情報は出さないで欲しいって言われてるの。

 今日はこれで勘弁して頂戴ね。」


「……分かりました。

 では、改めまして新曲に付いてですが……。」


 ここでようやく、新曲についてのトークに入る。

 曲にはどんな思いが込められているか等のトークに入るのだが、番組チャットは相変わらず『星姫』の話題で占められていた。




「……思わぬ話題が出て、時間が押してしまいましたが、ナタリーさんはそろそろスタンバイをお願いします。

 フルオーケストラのバージョンも用意するという事ですが、今日はナタリーさん自身によるピアノの弾き語りと、ストリングスの伴奏でお送りさせて頂きます。

 ……はい、大丈夫ですね。

 それではナタリー・エルナンの初披露となる新曲。『小さな欠片』です。

 どうぞ!」


 そして、彼女のピアノソロによるイントロから、Aメロへと入っていく。


◆◆◆◆◆


ほんの小さなひとかけら ただそれだけを手掛かりに

幼い貴方は旅立った 遥か宇宙の果てへと


ほんの小さなひと紡ぎ 心の歌を餞に

老いた私は只祈る 遠く星の瞬きに


幾千の星を 過ぎ来たる 幸せの便り

杳々なる地は 透き通り 手は届かない


遠く遠く 姿は見えず 声は聞こえず

多くの星たちが 瞬いて消えた



ほんの些細なひとかけら 遥か遠くより辿り着く

幾年経った遠い記憶 あの背を思い出す


ほんの微かな一筋の 光が真っ直ぐに胸をうつ

仄かに灯る新たな炎 安息の地はまだ遠く


幾千の時を 乗り越えて 残された形見

誰も知らないまま そこにあれど 手は届かない


遠く近く 声は聞こえ 姿は微かに

私はその星に手を差し伸べる


◆◆◆◆◆




 クーロイ星系のFM放送で初披露されたナタリー・エルナンの新曲だが、遠く離れた娘の事を想う歌そのものが、主に中高年の女性リスナーの心に響いた。

 しかし一般的には、曲そのものよりも『星姫』が実在の女性であることが明かされたトークの内容の方が話題を浚った。

 

 この時の番組内容は業界関係者の手により帝都ダイダロス星系をはじめ、『星姫』の歌が広まった主要な星系へと拡散され、『星姫』の事を何とか聞き出そうとあちこちの星系の番組にナタリーが呼ばれる事になった。

 しかし、ナタリーの口からは『星姫』の性格などが少しだけ明かされたが、氏素性や年齢、学生なのか社会人なのか、どんな生活をしているのか等、プライベートに関する情報は遂に明かされなかった。


 ナタリーの新曲自体は、中高年層の間で地味に浸透していった。

 一方、クーロイをはじめナタリーが出演した番組が放送された星系では、『星姫』名義の『星に祈りを』が、再びチャート上位に返り咲くという現象が起きた。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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