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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第7章

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7-08 会議の後で

今回は別視点になります。

(カルロス侯爵視点)


「……つまりは3区の会が、ネズミの協力者達と見ていたわけか。」


 監察官付きの近衛と会議前に諍いを起こしたとの事で、副監察官グロスター宮廷伯爵からクレームが入り、ハビエル・クロック総務部長を会議から外さざるを得なかった。

 会議終了後に、彼の上司たる総務長官、政府トップの行政長官と共に、クロック総務部長から事情聴取を行った。


 3区の内情を探っていると見られるネズミ達は、ほぼ間違いなく軍情報部だろう。

 3区の会の事務局長の女性、彼女の経営する回収業者、そして3区の会そのもの。全てネズミ……軍の情報部の協力者と、そう彼は見ていたらしい。


「ですから、内偵を遅らせる為に回収業者の妨害をしたり、3区の会の要望を全部突っぱねたりしてきたのです。

 今回だって、何か余計な資料を持って来ていたら没収するつもりで……。」


「だが、他の回収業者にカルテルを組ませても逆効果だったし、代表の女性を襲わせたら余計に警戒されて入り込む人間を増やしただけだったではないか。

 かえって逆効果になっていないか?」


「そ、それは……私の不徳の致す限りで……。」


 クロック総務部長は、行政長官に叱責されて縮こまっている。

 あの女性や3区の会がネズミの協力者だという彼の主張が仮に正しかったとしても、やり方が不味い。結果的に逆効果にしかなっていない。

 忠誠を誓ってくれるのは良いが、自分で考えて行動した結果が逆効果になるようでは困る。もう少し程度の低い仕事……使い走りにしか使えないな。内偵を防ぐ方は別の人間を宛てよう。


「クロック君。

 君の忠誠は疑っていないが、監察官側に目を付けられてしまっている以上、今までの様にはいかない。

 そうだな……ひとまず監察官閣下の意向に従って、3区の会と協力して式典準備を進めてくれ。内偵の件は私が預かる。件の回収業者についても今以上の妨害は不要だ。

 下がってよいぞ。」


 意図を理解した総務部長が項垂れ、一礼して去って行った。

 行政長官と総務長官に目を向けると、二人は怪訝な顔でこちらを見ている。


「監察官閣下の意向通りに、3区での式典を進めても宜しいのですか?」


 行政長官の問いかけに首肯する。


「監察官の背後には皇帝陛下が居る。陛下の意向であれば仕方ないだろう。

 それにな……採掘場はそろそろ本当に閉鎖する。あそこを閉鎖してしまえば、もう内偵や監査で突かれる心配はない。」


「閉鎖ですか……探られている様では仕方ありませんな。」


「そんな後ろ向きな理由ではない。

 実はな、待ちに待った連絡が届いた……『準備が出来た』そうだ。」


「「!!!」」


 2人とも目を見開き、喜色を浮かべる。


「ただ、物資は出来ればもう少し欲しいそうだ。現在輸送中の物は?」


「輸送中の物資は、恐らく20トン程になるはずです。」


「では必要量はもう少しで満たせそうだな……。

 いつでも()()()()を送れる様に準備してくれ。タイミングはこちらで指示する。」


「畏まりました。」


 総務長官が一礼するが、まだ下がらない。


「まだ何かあるのか?」


「別件で3件程。うち2件は3区のゴミ処理機導入試験の関連で、もう1件は気になる事がありまして。」


「気になる事?

 ……まあいい。先に導入試験の方を聞かせてくれ。」


 わざわざ曖昧な事を持ち出す理由が分からないが、総務長官には気になる事なのだろう。


「では。

 今度の導入試験は前回とは違うタイプの処理機の試験ということでしたが、前回は試験というよりデモンストレーションが主目的で性能試験は不十分とのメーカー側見解です。

 そこで、前回型と2台を3区に持ち込んで比較試験をしたい、というメーカー側の要請が来ています。」


「試験日は再来週だぞ? 今からそんな変更は間に合うのか?」


 総務長官が報告した要請事項に、行政長官が反論する。


「元々比較試験の予定で、メーカー側は最初から2台を持ち込む前提で申請を出していたようです。

 ですがこちらも、総務部長が内偵を疑って握りつぶしていたようで……。

 メーカー側に確認を取った所、対応可能との連絡が来ております。」


「やむを得まい。前回は性能試験にはならなかった様だからな。

 下手に拒否して監察官が口を出してきても困る。対応可能というなら認めてやれ。」


「了解しました。

 もう1件も同じくメーカーからの要望なのですが、処理機導入の為の比較検討用に、子会社のゴミ回収業者を3区のゴミ回収に同行させて、手作業によるゴミ回収の効率を計測したいそうです。

 こちらは、5回ほど既存のゴミ回収に同行して計測したいとの事です。」


「それも認める方向で構わんだろう。監視さえつければ問題は無い。

 ……それで、気になる事というのは?」


「はい。

 以前、出元不明の歌がここクーロイで流行し、首都星系にまで広まりました。

 それが先日、秘書からたまたま聞いた話なのですが……その歌の歌い主が宇宙を漂流していて、助けを求めているのではないかと、秘書の子供が通う小学校の生徒の間で盛り上がっているらしくて。」


「……子供の与太話の類なら、閣下にお聞かせする事ではないだろう。」


 行政長官はそう言うが、何か引っかかる。


「何か気になる事があるのか?」


「子供の話だと話半分に聞いていたのです。

 しかし流行り出してからそれなりに期間が経っているにも関わらず、出元不明、つまり誰が歌っているのか分からないこと。クーロイが発信源だという事が何故か気になりました。

 調べて分かったのですが、歌の出元……というか、最初に()()()のは、うちの政府職員の1人の家族だと分かりました。」


「拾った?」


「はい。その職員の息子が、クーロイの放送局からではない発信源不明のAM電波から拾った様です。

 歌のデータがその子供から同級生に流れて、動画のBGMに使われ、そこから拡散したようです。

 どこで入手したか、最初は秘密にしていたようですが、子供ですから。

 秘密を守れず広まったのでしょう」。


「しかし、AM電波を個人で飛ばすなど出来る訳がない。

 発信源は突き止めたのか?」


「発信源についてはまだ分かりません。

 ただ、クーロイに以前あったAM放送局設備は廃却したり、FM放送局に再利用されたりしていますから、外からでしょう。

 誰が歌っているかも特定できていません。念のため、クーロイの生活圏に設置している監視設備から拾った声から声紋パターンを拾い出し、歌の声紋パターンと照合したのですが……該当する声紋パターンはありませんでした。」


 うーむ、発信源が特定できないAM電波……待て。AM電波?


「AM放送局……そう言えば、3区の放送設備も事故前に廃却されていたか?」


「3区ですか?……あの事故前は3区に限らずどの区もAM局は稼働していた筈です。

 しかし閣下。3区のAM局は管理エリア内です。

 あの事故以降、閣下の指示で奥には立ち入りを禁じています。

 あの事故でコロニー全体がダメージを受けていますし、何より3区は無人です。あそこが稼働しているとは考えにくいのですが……。」


 管理エリアは()()()で立ち入りを禁じている。

 普通に考えると3区の放送局ではない筈なのだが……ここクーロイは最辺境だ。星系外からの電波というのも、考えづらい。

 なんだろう。嫌な予感がする。


「総務長官。念のため、その電波の周波数を確認してくれ。

 それが、かつての3区のAM局の周波数と一致するのかどうか。」


「周波数は、1027MHzだそうです……3区の事は想定していませんでしたから、一致するかは後で確認します。」


 総務長官が手元の資料を確認してそう回答する。

 仮にそれが3区の周波数に一致するとしたら……!

 頭の中で最悪な想像が駆け巡る。


「……監察官には知られないよう、内密に至急ラズロー中将と面会したい。

 行政長官、手配してくれんか。」


「どういう事です? ラズロー中将は監察官の配下では?」


「グロスター宮廷伯爵が居る限り、彼が監察官の配下という事は絶対に有り得ない。

 皇家の分家次期当主たるラズロー中将が、グロスター如き小物の下には付かんだろう。

 ラズロー中将自身は陛下から別命を受けて内偵しているのだろうな。」


 グロスター宮廷伯爵は皇宮の内向きの雑務を取り仕切る者。小物だが、皇帝の信任を背景に皇宮でやりたい放題しているという噂だ。

 彼は皇家本家には尻尾を振るが、分家にはかなり幅を利かせているらしいからな。分家の次期当主たるラズロー中将は、グロスターの事を大分嫌っている筈だ。実権が無い分家とはいえ、それに仮にも殿下と呼ばれる身分の彼が、グロスターの下に付くことは良しとしないだろう。

 その辺りを説明すると、行政長官も総務長官も納得した。


「では、どうしてラズロー中将と?」


「仮にその電波が3区のAM局から出ているとしたら……考えにくいが、3区に人が居るという事だ。

 仮に人が居て、それがあの事故の生存者だとすると、いやそうでなくてもまずい。

 ラズロー中将がどこまで情報を掴んでいるか確かめたい。事によっては、ラズロー中将自体も危うい。」


「式典の件の問い合わせとして接触する事は可能だと思いますが、監視はついているでしょう。

 監察官に知られない様に彼とコンタクトを取る方法が必要ですね。

 ちょっと思いつきませんが……。」


「3区に人が居るという前提で考えてみたまえ。

 我々に気付かれない形で、誰が一番、3区に居るその人物と接触しやすいかな。」


「……なるほど。3区の会の事務局長、回収業者の女ですか。

 彼女がラズロー中将と繋がっていると?」


「恐らくな。奇しくもクロック総務部長が想定していた通りだ。

 やり方はともかく、彼の推測()()は正しかったのだろう。

 彼女を通じて、ラズロー中将とコンタクトを取れるかアプローチしてくれ。」





(???視点)


「かの者より報告が入っています。

 潜入員が2名、民間人1名を連れてクーロイを離れ、採掘場の調査に向かうとの事です。」


「やっとか。もう少し遅ければ、式典の延期を()()するところだったぞ。

 奴の手の者は入っているか?」


「残念ながら。」


「……そうか。まあいい。」


 向こうの様子を直接探る事はできないか。

 それでも大勢に支障はないだろう。


「民間人というのは、あの『3区の会』とかいう所の関係者か?」


「3区の会では無いですが、あそこの事務局長が経営する回収業者の従業員です。」


 それは都合がよい。後でトッド侯爵を締め上げる口実にも使えそうだな。


「部隊の訓練の様子はどうだ?」


「制圧部隊の訓練は想定ケースを全て消化し、練度を上げる段階に入っています。

 もう一つの部隊も、想定ケース対応の8割は消化したようです。

 部隊指令官からは、決行日には充分間に合うとの報告です。」


「最悪のケースの想定対応は?」


「残りの艦隊を小編成に分けて、拿捕訓練を順次させています。

 クーロイや近隣星系、およびクセナキス星系に展開できる準備は出来ています。」


「宜しい。極めて順調だな。」


 邪魔な奴らを一掃して、皇家の安寧と私の揺るぎない立場が得られる。

 そんな、ほんの少し先にあるその未来を想像し、自然と笑みが浮かんだ。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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