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1-04 管理エリアへの通路と居住区画

 ある日、アタシは大きくズゥゥゥンと響く音で目が覚めた。時計を見ると寝てから3時間位。その時全員にオープン回線が入る。


「デブリが衝突して、壁に大きな穴が開いたみたいだ。近くの区画の隔壁は閉じて重力装置を切ったが、ちょっと全員出て来てくれ。」


 全員寝てしまっていたら何かあった時に対処できない。だから順番で夜の当直をしてるんだけど、今日の当直はライト小父さんだった。ちなみに小父さん達には、子供は寝てろって言われてるから、アタシは当直の頻度を減らされてる。


 どこの区画だろう? そう思って部屋の端末で調べてみると閉鎖したのは一番奥の管理エリア寄りの区画、かつてマンサ小母さんの医務室があった場所の近くみたい。

 あそこも、もう使えなくなるのかな……。



 ともかく、全員でエアロック前まで行って宇宙服を上から着て、外壁修繕材を各々バックパックに入れて、エアロックを通って宇宙空間に出る。そして命綱の先に付けた金具を外壁に設置したスロープに取り付け、スロープを伝って現場へと向かう。


 現場に行くと、外壁には60~70㎝位の直径で穴が開いていて周囲も陥没してる。明かりを当てて穴の中を覗き込むと、穴の向こうは部屋みたいだった。ただ向かい側の壁が陥没してるのと、外壁を突き破った破片が浮遊してるのがわかる。


 コロニーの外壁は1m位の厚さがある筈だけど、1mの壁にこれだけ大きな穴を開けるってことは、よっぽど大きなデブリだったか、あるいは小さいデブリが物凄い速度で飛んできたか。


「思ったより随分大きい穴だけど、コレは塞いでおかないと不味いね。この区画は放棄するかい?」


「そうだなあ……放棄するにしても、穴を塞いでから、一度この区画の状況を中から調べて判断しようか。」


 セイン小父さんとグンター小父さんが区画の放棄について話し合ってるけど、アタシはそれよりも気になる事があるのでライト小父さんに聞いてみる。


「ライト小父さん、これだけ大きな穴を開けるデブリが、レーダーに引っ掛からなかったの?」


「……デブリというより隕石だろうな。静止軌道面とは全く違う方向から飛んできた物体が直撃したようだ。レーダーに引っ掛かった時にはもう遅かった感じだ。」


 レーダーの観測履歴を調べてたライト小父さんがアタシの質問に答えた。

 アタシたちや他のコロニーの活動で出たデブリだったら、互いのコロニーを結ぶ静止軌道面と並行に飛ぶものだけを気を付ければいい。今回の物はそうでなかったって事は、どこからか星の引力に引かれて飛んできた氷とか石だったみたい。

 しかも想定外の角度だったのと速度が速すぎて、迎撃用の小型レーザーをすり抜けてしまってコロニーの外壁に衝突して、穴を開けてしまった。


 今回は小さい石だったみたいだけど、あの事故の時みたいに大きな物体だったら今度こそこのコロニーはおしまいだった。


「こればっかりは手持ちのレーダーじゃ無理だな。それこそ航宙軍が持ってる大型観測レーダー設備が無いとな。」


「大型観測レーダーって、このコロニーのどこかにあったりするの?」


「わからん。外から見てもこのコロニーにそれらしい物は付いてないな。」


 飛んでくる小さい隕石とかは防ぎようが無いんだね。残念。

 しかりここまで大きい穴が開いてると、外壁修繕材が部屋に流れちゃって塞ぐのが難しそうね。


「小父さん達、これってどうやって塞ぐの?」


「一緒に緩衝材を持ってきてるだろ? 一旦それでこの穴を塞いでしまおう。穴の処置は中から部屋を確認して考えるか。」


 その後皆で幾つか案を出したけど、結局最初のグンター小父さんの案で落ち着いた。

 まず、穴を透明シートで一旦塞いで、凹んだ部分を上から透明シートで覆う。そして、皆でシートの中にスプレーホースを入れて、中に緩衝材を吹き付ける。緩衝材は泡状になってシートとシートの間を満たしていく。後は上のシートを壁に止めれば、外での作業はおしまい。


 それから中に戻って、隔壁で閉じた区画の重力を戻す。穴が開いた時に重力装置を切ったのは、近くを飛んでるデブリが穴に吸い寄せられるのを防ぐため。それから閉じた区画に空気を入れて、元の気圧に戻ったら隔壁を開ける。

 皆で穴の開いた部屋に行ったら、ドアの横の壁に直径5cm位の隕石がめり込んでた。隕石は外壁を突き破ったことで大分勢いが減ったみたい。それと部屋中に外壁やら部屋の壁やらの破片が散乱してた。

 アタシ達が住んでる部屋以外は使える物は全部再利用装置に入れてるから、大した物はこの部屋にも残ってない。隕石はケイトお姉さんが要るって言うかも知れないから取っておいて、後の破片は全部拾ってゴミコンテナ行きかな。

 


 部屋を掃除した後は、穴をどうするかを小父さん達が話し合うようなので、アタシはこの区画の他の部屋への影響を見て回る。


「♪ここは 誰も いない部屋だから

  何にも無いはず 空っぽさ~♪

 ♪ろくに 掃除も してない部屋には

  塵も積もって 白い床~♪」


 歌を歌いながら誰もいない区画の部屋を見回っていると、どの部屋もうっすら塵が積もっている。隕石が衝突した影響で塵が乱れているくらいだ。


 だけど区画の一番奥の部屋を開けようとした時、ドアが微妙に重かった。開けると部屋の様子に何か違和感を覚えた。何だろう?

 部屋をよく見てみると、部屋の左の壁に近いところの床の塵が、壁の方にゆっくり動いている。その壁に近寄ってみると、壁と床の隙間からシューっと小さい音がして、空気が少し流れ出してるみたい。

 この壁の向こう側って外じゃないはずなんだけど、通路が無かったから行ったことが無い。それにしても空気が流れ出してるって事は、空気が無いってこと?


「区画の一番奥の部屋で、外じゃない方向に空気が漏れてる。一旦塞いでおくよ。」


「……何? 今行くからちょっと待ってろ。」


 ドアを開けたまま部屋で待ってると、小父さん達3人共やって来た。

 グンター小父さんが、壁と床の隙間からわずかに空気が漏れている事を確かめると、壁を軽く叩き始めた。


「この奥になんかありそうだが、一旦軽く塞いで、さっきの穴の処理を先にやってしまうか。この向こう側の調査はその後だな。」


 そう宣言したグンター小父さんに従って、空気が漏れてる穴を塞いでさっきの部屋に皆で戻る。

 今回の処置としては、隕石で穴の開いた部屋の中も緩衝材で埋め尽くしてしまって、部屋の扉は壁補修材で固めて開かないようにする。これで当面は大丈夫だと思う。



 穴の開いた部屋の処置の後、皆で宇宙服を取りに行って、区画の中に入ってからさっきの部屋で宇宙服を着る。全員着たら隔壁を閉じて、区画の空気を抜いて重力も切る。

 空気を抜き終わって先程の壁とその周囲をよく調べると、端の方に操作パネルが隠されていたけど、パネルには電気が通っていなくて使えなかった。仕方なく壁の空気が抜けていた箇所の上側をプラズマ切断機で切断すると、壁の向こうには管理エリア方向に真っ直ぐ暗い通路が伸びていた。


「何があるか分からないから、2人が進んで残り2人は命綱を持っておこうか。行くのは軽い方が良いから、メグともう一人はライトでどうだ?」


「アタシは構わないよ。」


「ああ、俺もそれでいい。」


 グンター小父さんの提案にアタシとライト小父さんが了承する。アタシの命綱をセイン小父さんが、ライト小父さんの命綱をグンター小父さんが持つ。そしてアタシとセイン小父さんが、暗い通路を照らしながらゆっくり進む。

 通路の途中で、外側の壁に指が入るか入らないか程度の穴が開いていた。空気が無かったのはこの穴が原因かな? 外壁補修材で穴を塞いで先に進む。


 暫く進むと、突き当り右壁に扉が見えた。

 扉の横には操作パネルがあって、電気も通ってるみたい。パネルには『IDをかざしてください』って表示されてる。


「ライト小父さん、ID持ってる?」


「自分のは持ってるが、多分通らないと思うぞ。」


 ライト小父さんはバックパックからIDを出してパネルにかざした。パネルからピーって音が鳴って、『このIDでは通行許可がありません』って表示された。


「やっぱり駄目か。グンター小父さんにセイン小父さん、一旦戻るね。」


 アタシ達はグンター小父さんとセイン小父さんの所に戻って、通路の途中の壁の穴を塞いだこと、奥の扉は許可のあるIDをかざさないと開かないだろう事を伝えた。

 穴を塞いだので空気をこの区画に入れてみると、どこにも空気が抜けなかったので重力も元に戻した。


「確か、この部屋を最初に使ってたのはあの人だから……ちょっと思い当たるIDを持ってくる。」


 そう言ってセイン小父さんが一旦戻って行った。

 セイン小父さんが戻ってから全員で扉の前まで行く。そこでセイン小父さんが取り出したIDをかざすと、ピピッと短くパネルが鳴り、

 『認証済ID:マンサ・アムラバト 扉を開けます』

 って表示された。


「事故があってからマンサさんはずっと医務室で寝泊まりしてたけど、事故の前にあの部屋を使ってたのはマンサさんだよ。だからひょっとして、と思ったんだ。」


「じゃあマンサ小母さんはここを通れたんだね。じゃあ小母さんは事故の後なんでこっちに来なかったんだろ?」


「操作パネルが壊れて動かなかっただろ? 事故で壊れて、通れなかったんじゃないかな。」


 そうかもしれない。セイン小父さんの推測に納得した。



 ともかく、目の前で扉が横にスライドして開いた。中は明かりが点いているし空気はありそう。

 扉の内側はすぐ両側に人が入れるくらいの隙間があって、椅子にロボット?アンドロイド?が座ってる。グンター小父さんが慎重に前に進むけど、動く気配は無さそう。その奥はまたすぐ扉になってる。今度はIDをかざす場所はなくて、近づくと勝手に開いた。


 奥に進むと左右と正面に通路が伸びて、左右の通路には一定間隔で扉がある。正面の通路は中ほどに向かい合った扉と、突き当り正面に扉と、また左右に分かれた通路。

 多分ここは管理エリア内。電力などは生きてるみたいだけど、床にはうっすら塵も積もっていて人の気配はない。でも何があるか分からないから、4人で一緒になって行動する。


 入って来た扉の右側の通路から見て回る。こっちの通路は暫く進んだ先で左に折れ、また暫く進むと左に折れて、入って来た扉の正面の通路と繋がっていた。

 部屋はマンサさんのIDをかざせば扉は開いた。部屋に有った制服を見た小父さん達によると、ここは多分管理エリアで働く軍人さん達の住居エリア、それも下士官達の住居だったみたい。

 事故の時以来誰も居ないみたいで、多くの部屋の冷蔵庫に古い食品が残されていた。古すぎて、冷凍してる物も含めて廃棄するしかない。服は再利用できるけど、4人で持って帰られる分量じゃないから今は放置。 トイレの紙含めた紙類はアタシが全部回収した。

 お酒は全部小父さん達が回収してた。どんだけ好きなの。


 入って来た扉の正面に見えた扉は、住居エリアの別の部屋への通路が伸びてた。通路の先が生きてる部屋かどうかわからないから、ここは放置しよう。


 入って来た扉の左側の通路は、部屋のドアにマンサさんのIDをかざしても入れる部屋が無かった。

 左側の通路は右に折れ、その途中で向かい合わせに扉がある。通路の先は右に折れてるから、入って来た扉の正面の通路と繋がってると思う。

 向かい合わせの扉の左側は開かなかったけど、右側の扉はマンサさんのIDで開いた。



 入ったその部屋は狭かったけど奥に扉がある。


「なんでこんなところに玄関がある部屋があるんだよ…。」

「軍の偉いさんと家族の住居って感じだな。」


 セイン小父さんとグンター小父さんが何か話してる。

 奥の扉を開けると通路があって、通路の途中に左右に2つずつと奥にも1つ扉がある。

 左の手前の扉を開くと、屋根?のついた小さめのベッドと、テーブルと椅子、クローゼットと洋服タンス、クローゼットの横には、肩まで髪を伸ばし紺色のワンピースを着た女性型のロボット?が椅子に座っている。


「天蓋付きベッドに、木の調度品? こんなのを持ち込むってどんだけ金持ちなんだよ。」


 ライト小父さんがちょっとぼやいてる。

 部屋を覗き込んで、皆で話しながら暫く様子を見てたけど、そのロボットは動く様子はない。セイン小父さんが部屋に入ってロボットの前に立っても動かない。大丈夫そうかな?

 洋服タンスをセイン小父さんが開けたけど、直ぐ閉じてアタシを呼んだ。何でだろうと思ってアタシが開けてみると、洋服タンスの中にはケイトお姉さんに貰ったのと同じような女性用下着が。それでか。

 クローゼットの扉の中にはワンピースが何種類か。

 あと、何か不思議な形の箱。その箱を開けると……。


「ん? これ、ヴァイオリンか?」


 横から覗き込んだセイン小父さんが呟いた。


「ヴァイオリンって?」


「楽器だよ。こうやって持って、弓をこうして音楽を弾くんだよ。」


 セイン小父さんはそう言って、アタシに首と左手でヴァイオリンを構えさせ、右手で弓を弦に当てて横に引いて音を出させた。


 その途端、洋服タンスの横に座っていたロボット?から、ピピピピピ……と音が鳴り、ロボットがゆっくりと立ち上がる。

 セイン小父さんが慌ててアタシとロボットの間に割り込む。部屋の入口にいるグンター小父さんとライト小父さんもバックパックから何かを取り出してこちらの様子を伺っている。


 ええ、何で突然動くの!?



いつもお読み頂きありがとうございます。


前作「王宮には『アレ』が居る」も宜しくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n6335hb/

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