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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第6章

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6-07 公開TV討論会と、その影響

今回は俯瞰視点です。

本日は2話投稿ですので、ご注意下さい。

 0区に2つあるTV局の一つ、クーロイ放送。政府からは独立した民間放送局ではあるが、自治政府寄りの報道をする事が多い。

 クーロイ放送にて週1回、休日の午前中に生放送で行われる討論番組は、政治に関心のあるクーロン星系の住民の関心が高く、クーロイ星系の世論にも大きく影響を与える。

 議論を紛糾させたり露骨に政府の方針に異を唱えたりする者は、この討論番組に呼ばれることは殆どなく、呼ばれたとしても司会者が露骨に意見を抑えさせたりすることもある。

 視聴者からのクレームが寄せられることもあるが、この星系は政府の力が比較的強いため、こうして時折政府側のプロパガンダ的に使われることもあった。

 クーロイ放送が自治政府寄りだと見做されている理由は、この辺りにもある。



 討論番組のある週のテーマが『今後の3区の行方』になり、そこに自治政府の総務長官アレッサンドロ・アファスネス、そしてナタリー・エルナンの出演が発表されると、視聴者の間では驚きの声が上がった。

 総務長官アレッサンドロ・アファスネスは、政府トップである首長の下で行政事務を取りまとめる、政府内の実力者である。

 一方のナタリー・エルナンはデビュー以来50年程活躍するベテラン歌手であるが、クーロイ星系において最近の彼女は、17年前の3区における隕石衝突事故の、被害者家族団体の代表という面で注目されている。


 『3区行方不明者家族の会』、通称『3区の会』は、彼女の出資によってつい数か月前に設立されたばかりの被害者団体である。

 3区の会は、17年前の3区への隕石衝突事故で『3区に取り残された全員が死亡した』とする自治政府の公式見解を受け入れていない。

 むしろ、事故後の3区から当時の行方不明者の遺体やIDが一切見つかっていない事から、当時3区に残された人々を『行方不明者』と位置づけ、3区への立ち入りと行方不明者捜索を自治政府に強く要望している。


 そういった経緯から、ナタリー・エルナンおよび3区の会は、3区への立ち入りを拒む自治政府と対立しており、政府の事務方トップと、対立軸にあるナタリー・エルナンの討論番組への出演は驚きを持って迎えられたが、同時に『また政治的なプロパガンダ会か』と揶揄する声も上がった。




 討論番組には毎回一般視聴者の観覧枠が20枠ほどあり、毎回希望者の抽選によって決まるが、通常のこの一般観覧への応募は精々数倍であるところ、この回に限って70倍を超える希望者が殺到した。

 また一般観覧だけではなく、首都星系ダイダロスやクセナキス星系等、他星系で活動する大手メディアからの取材希望が多数申し込まれた。


 放送局側は事務手続きの混乱を理由に、一般観覧および他星系からの取材の一律中止を検討した。

 一般観覧については、局側がこの回の一般観覧の中止を決めた。表向きは討論の混乱を避けるためとしていたが、希望者の少なくない割合を3区の会に属する被害者家族が占めていたため、『3区の会を封じ込めたい政府の要望によるものだろう』という憶測がチャットボード上で流れていた。


 しかしジャーナリズム側の取材拒否については、申し込み側大手メディア達からの猛反対を受け、メディア側が撮影機材を持ち込んで討論の内容を撮影する事も、局側が押し切られる形で許可する事になったが、撮影した映像のクーロイ星系での放映だけは頑なに拒否した。

 クーロイ星系の放送局は規模が小さく、自力で番組を作る力が弱い。それはこのクーロイ放送も例外ではない。そのため放送時間の少なくない割合を、他星系のメディアから映像コンテンツを購入して放映しているのが実態で、そのコンテンツ提供元の要求を全て拒絶することは難しかったのだ。



 討論番組の会場に入り、用意された席に座って番組の開始を待ちながら、司会者から討論の進行について説明を受けていた。

 司会者の言う説明は、

 『発言許可のない場面での発言は認められない』

 『進行を妨げる不適切な発言は司会者の権限で中断させることもある』

 『事前許可のない資料の提示は認められない』

 『進行の妨害行為には退場させることもある』

といった、適切な議事進行を妨げてはならない、という事に関する注意に終始した。



 番組開始5分前、収録スタジオに総務長官が入って来た時、そこにある大手メディア達の撮影機材を見て怪訝な顔をしたが、司会者が彼の傍によって何かを言うと、長官は途端に満足そうな表情になり、一瞬エルナン氏へ侮蔑の視線を向けたあとで司会者の横の席に腰を下ろした。


 長官とエルナン氏以外の討論参加者は、政府側の意見を追従するだけの所謂『御用学者』が数名だけという状態で、討論番組がスタートした。

 視聴者の大方が予想した通り、討論番組の内容はあからさまに政府方針に誘導する内容だった。


 エルナン氏の発言は他の御用学者の発言に遮られ、そのまま司会者は学者側の発言を促してエルナン氏の発言機会を失わせる。

 長官と御用学者達の間で本質的ではない内容の討論が展開され、エルナン氏が口を挟もうとすると『貴女の発言は許可していません』と司会者が遮る。

 エルナン氏が出したフリップはカメラに映らず、彼女が事前提出したプロジェクター投影資料の提示を訴えても司会者が耳を貸さず、投影もされない。


 こうして、3区の事故行方不明者の捜索という3区の会側の主張は出せず、3区の犠牲者追悼のあり方についての議論で番組は終了した。


「これに懲りて、無駄な主張を政府に出すのは止めて欲しいものですな。」


 収録後、長官はエルナン氏に侮蔑の視線を投げながらそう言い残して、スタジオを去っていった……その時点で、取材していた大手メディア側のカメラが、まだ回っていた事に気付かずに。




 結果、この討論番組の模様は、クーロイ星系以外で大反響を呼び、それがクーロイ星系へ大きな影響を与えた。


 まず問題視されたのは、収録後に総務長官がエルナン氏に放った一言。

 これにより、民間報道機関であるはずのクーロイ放送が、自治政府側の企みに加担して3区の会の意見を封殺したことが決定的になった。

 クーロイ星系での報道としては、今まで通りの運営だったのだが……この事が、クーロイ放送も属するメディア業界団体である、帝国報道機関連合会――今回取材した大手メディアも加盟している――の理事会の逆鱗に触れた。

 この連合会は、時の政府によって意図的に報道内容が歪められたり、弾圧を受けたりした過去の反省から設立され、報道の独立性を非常に重んじる理念を掲げている。ところが今回のクーロイ放送の騒動は、この連合会の理念に真っ向から反するものであった。

 そこで、連合会内部で緊急理事会合が行われ、事実精査までの仮処分としてクーロイ放送の連合会員としての資格停止――事実精査後、除名処分に変更された――、およびクーロイ放送に対する加盟各社からの取引停止処分を決定した。


 これにより、クーロイ放送は他星系のメディアからコンテンツ提供を受ける事が困難になった。

 放送するコンテンツに困ったクーロイ放送は、過去に放映権を獲得したコンテンツを放送することで凌ぐが、購入コンテンツ以外に魅力的な番組を作る力のないクーロイ放送はあっという間に視聴率が低下し、広告スポンサーも離れ、広告収入の無いクーロイ放送はやがて経営危機に陥ることになる。



 また、これを機にナタリー・エルナン氏が、討論番組を取材した大手メディアに招かれることになった。

 エルナン氏は招かれた先々で、根拠を交えて3区の会の主張を述べた。

 これによって、事故当時の3区自治政府の対応のまずさが明らかになった。


 特に批判が集まったのは、事故当時、3区に残された人々への最終退避勧告が、シャトル運航が止まった後に出された事である。


 エルナン氏の公開した資料によると、当時、3区へ隕石が衝突すると言う情報を事故の数日前に察知した一部の3区住民が一斉に避難したという。

 しかも避難民から理由を聞き取ったところ、彼らは一様に『3区に隕石がぶつかるかも知れない』『大きな事故が起きる可能性がある』等の情報を知り合いから聞いて、避難してきたという。

 自治政府への移行後、クーロイ星系の人口が若干ながら増えつつあり、3区の全員が避難できるだけの許容量が1区や2区コロニーには無かったため、自治政府側はシャトル運航停止という措置でそれ以上の避難民の流入を阻止したのだ。


 自治政府側は、『当時は政府の立ち上げ初期で混乱しており、部署間の連携が出来ていなかった』と釈明していた。

 しかしエルナン氏の公開した別の資料によると、当時3区に居た自治政府職員の内、生命維持設備のメンテナンスチーム以外の全職員に対して、事故の3日前に業務命令として3区からの退避勧告が出ていた事が、事故後の聞き取り調査にて確認されている。

 また、自治政府議会の議事録は原則公開されているが、この事故の4日前から事故当日まで、重要案件としてほぼ全ての議会議事録が非公開になっている(現在に至るまで、これらの議事内容は公開されていない)。


 これらの事実を鑑みて、自治政府は隕石の3区への衝突の可能性を事故の4日前には既に把握していて、議会と政府上層部にて対応策を検討していたものと推測される。事前に避難した住民達は、彼らとその家族、あるいは彼らにその情報を聞いた近隣住民が避難したものと考えられる。


 この点について、

 『3区を切り捨てる前に、他星系への応援要請等出来なかったのか』

 『逃げられない状況の人に避難勧告を出したのは、単なる責任逃れの為だろう』

 『住民の人命を何だと思っているんだ』

などと多数の非難が自治政府に対して寄せられた。

 またクーロイ自治政府だけではなく、近隣の星系政府や、帝国中央政府に対しても『救助の手は出せなかったのか』などと言う批判が寄せられたという。




 クーロイ自治政府は批判を受け、総務長官アレッサンドロ・アファスネスの更迭と、3区の行方不明者捜索について3区の会と協議の場を持つことを発表し、事態の収拾を図った。

 しかし発表された総務長官の後任が、アファスネス前長官の補佐をしていたステファノ・アイアロス副長官の昇格だったことから、自治政府の方針が変わらないと見做され、事態が鎮静化することは無かった。

 自治政府と3区の会側との協議の場については、3区の会側が他星系メディアを含めた公開協議を求めたことに対し、自治政府側が非公開協議を求め、協議に入る前段階で紛糾していた。



 事態の推移を見守っていた帝国中央政府は、批判にさらされても頑なに態度を変えないクーロイ自治政府に業を煮やし、遂に『行政監査官』のクーロイ星系への派遣を決定し、クーロイ自治政府に通告した。

 この通告は、クーロイ星系政府を震撼させた。

 

 行政監査官とは、帝国各地の地方政府の行政が適切かを精査し是正するための臨時職であり、行政監査官は皇帝直属としてその強力な権限を行使する。

 300年を超える帝国史の中で、行政監査官の派遣が行われたのは3度しか無く、いずれも帝国内の重要星系が政府の混乱で暴動の危機にあった際に派遣された事例しかない。

 人口わずか数万しかいない辺境星系であるクーロイに、中央政府が行政監査官という強大な権限を振るって介入してくるなど、クーロイ星系自治政府、そして管轄するカルロス侯爵は予想もしていなかったのだ。

 

 それでも辺境星系に大物は派遣されないだろう、と高をくくっていた自治政府は、後日発表されたその人選にまた腰を抜かした。


 フォルミオン=アエティオス・ダイダロス。


 指名された行政監査官は、帝国の名を姓に持つダブルネーム持ち――つまり皇位継承権を持つ者が行政監査官に任命されたのだ。

 その名は、国内最高峰の教育機関である国立帝都大学を次席で卒業したばかりの、第四皇子を指すものだった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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