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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第6章

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6-05 事実と現状を打ち明けました

ケイト視点です。

 父に助力を頼んだ所、ハルバートさんの次男キャスパーを送り込んできました。彼はハルバートさんの後継と目されていて、ハリエット長兄の補佐をしていた筈です。

 父は他にも、経理のエキスパートのビューロ、マルヴィラのお母様クレアさん――邸のメイド長を後任に引き継いで来たそうです――、そして父の後ろ盾をして下さっているトッド侯爵の遠縁にあたるガント・ピケット氏の3人を、この会の為に送ってきました。


 錚々たるメンバーを送ってきましたが、父は私に跡を継がせたいのでしょうか?

 それをキャスパーにぶつけてみると、


「旦那様にはそのような心積もりは御座いません。

 お嬢様がこの『3区の会』の細かな事務作業に囚われないための人選だと思って頂ければ。」


 と返されました。

 ……父に何か含みがあり、キャスパーもそれを判っているようですが、今はまだ話すつもりは無さそうです。


 他にもクセナキス星系の人材派遣会社から、20台後半らしい男性のキートン・シェザン氏、20台前半女性のナナ・カービー氏という2名の派遣事務員と、更に彼らの管理責任者ランドル・モートン氏とも顔を繋ぎました。

 彼らと面会をした時にキャスパーから教えられましたが――彼らは、軍情報部からの助力だそうです。シュザンさんとカービーさんは情報収集、モートンさんは2人と情報部との連携を取る傍ら、3区への潜入捜査を担当するようです。


 私から大枠の指示を出してくれれば、後はキャスパーが全体を見て作業管理をしてくれると言うので、ひとまずエルナン氏がクーロイに再度来るまでの間の作業――会則や内部規約の作成等、会としての活動を行うための準備作業をお願いしました。


 エルナンさんがクーロイに戻って来て、会の事務所で彼女とこちらのメンバーとの顔合わせをした後、会議室に入って打ち合わせをすることになりました。

 会議にはエルナンさんと彼女の秘書カッパーナさん、私とキャスパーの4人。


 まずキャスパーから、会の事務体制と、会則や内部規約、財務報告などを行い、エルナンさんから了承を頂きました。

 カッパーナさんからは、商都でもスタッフを雇いマーケティング活動と問い合わせ窓口業務を行っている事、マーケティングの成果で既に名簿の7割近い被害者家族から賛同と署名を貰っていることを伝えられました。

 この短期間で、そこまでの成果が挙がっている事に驚きました。7割を超える署名が集まれば政府側と交渉が出来るので、交渉の準備を早めた方が良さそうです。


 カッパーナさんの立場はエルナンさんの個人秘書なので、会の方に商都側スタッフの引き継ぎたいとの要望が挙がりました。これについては、キャスパーの方に人選の心当たりがあるという事なので、後程カッパーナさんとキャスパーで打ち合わせをすることになりました。


 最後に、短い期間で体制を構築し成果を挙げた事にエルナンさんから感謝の言葉があり、カッパーナさんとキャスパーに作業に戻るよう言われました。

 2人が退室し、会議室にエルナンさんと私だけとなった所で、エルナンさんが口を開きました。


「貴女にはとても感謝しているわ。

 お金を掛けてでも広告を打って早く署名を集めた方が良いと言う貴女のアドバイスが無かったら、まだ会の活動は足踏みしていたでしょう。

 それに広告に力を入れたら寄付も大分集まって、当分私財を出さなくても会が回る位にはなりましたし。」


「いえ、人を出して貰うようにお願いした先で、頂いたアドバイスをそのままお伝えしただけですから。」


 トム氏に頂いたアドバイスが役に立ちました。

彼はビジネスの立ち上げとかマーケティングにも詳しい感じを受けましたが、どんな経歴を経たら、軍人でありながらあんなに幅広い知識を得られるのでしょう。


「有用なアドバイスを得られる人がいるのも人徳の内よ。それにこちらのスタッフもしっかりした方々が揃っているし。まだ若い貴女がそこまでの人脈を持っていらっしゃるのが驚きね。

 エインズフェローさん、貴女に事務局長をお願いして良かったと思っているわ。」


 そう言って、エルナンさんはカップを手に取り、紅茶を一口啜ります。

 カップを置いた彼女は、真剣な表情になります。

 ここからが本題でしょう。


「ところでエインズフェローさん。単刀直入に訊くわね。

 3区の生存者の方々と、コンタクトは取れますの?」


「……どうして、3区に生存者がいるとお思いで?」


 エルナンさんは少し目を伏せ、そのまま続けます。


「……貴女に事務局長をお願いした時にお聞かせした、あの歌よ。出所がこのクーロイ星系なのは間違いないの。

 3区に生存者がいると思ったのは、あの歌の歌い方や声が、私の記憶にある小さい頃のメリンダに似ているのが一つ。

 それから……前回こちらに来た時にFM局のDJから聞いた話。

 あの歌の出所を知っていそうな小学生の子供の趣味が、電波受信機であちこちの電波を拾う事だという事がもう一つね。

 子供への取材は、ここの政府職員である父親が拒んでいるらしいのですけど。」


 子供の話は、以前ガストンさんから聞いた話とも一致します。その子に取材しようとしたという、FM局のDJから話を聞いたのでしょう。


「ふと……誰かが3区のAM局の設備を使って電波を流しているのではないかと思ったの。だから今回は高性能な電波受信機を持ち込んで、AM波が飛んでいるかを別のスタッフに調べて貰ったの。

 その結果、以前のAM3区ラジオ局の周波数で、微弱な電波が飛んでいる事は突き止めたわ。内容は、昔のAM3区のラジオ放送のアーカイブだったみたいだわ。」


 たったそれだけの情報で……3区に人が居ると突き止めたのですか。


「それにね、エインズフェローさん。

 前回あの歌をお聞かせした時の、貴女と御付きの大きな女性の2人共、あの歌の事を御存じそうな反応をしてらっしゃったわね。

 貴女はまだ上手く隠そうとされていましたけど。あの大きな女性の方は判り易かったわ。

 貴女方が3区の資源回収業者をしていることも考えると……もしかして、コンタクトが取れたりしないのかしら?」


「……仮にコンタクトを取れたとして、どうされるのですか?」


「あの事故からもう17年……娘や孫がまだ生きているなら、3区から連れ出してあげたい。それだけよ。」


 はらりと、エルナンさんの目から雫が零れます。あそこから連れ出したい、という彼女の言葉に嘘はないでしょう。

 ならば、彼女には全て話しておきましょう。


「……この話は、他言無用でお願いします。」


 私はエルナンさんに、現在の状況をお伝えしました。


 3区の閉鎖区域で、現在4人の生存が確認されていること。

 領主により3区への立ち入りが厳しく管理されていて、彼らを連れ出すのが難しいこと。

 当地の領主の不正疑惑があり、軍情報部が3区の内偵を進めていること。

軍情報部の調査に協力しながら、3区で見つけた宇宙船の修理を進めていて、彼らは自力で3区から脱出する方向で準備を進めていること。

 私が資源回収の際に、食料や医薬品などをこっそり差し入れていること。


 エルナンさんは私の話を黙って聞いていました。


「……成程、状況は理解しました。

 向こうの生存者の方々とも会った事があるとの事ですが……娘は、メリンダは……。」


 私は思わず目を伏せ、かぶりを振ります。


「……事故以降、10人程で生き残っていたそうですが、5,6年前、伝染病で発生し……メリンダさんや旦那様は、その時にお亡くなりになったそうです。

 あの環境ではお墓を立てる事も出来ず……宇宙葬にした、と聞きました。」


「……そう、ですか……やはり、メリンダは、もう……。

 では、あの歌は?」


「あの歌は、メリンダさんの娘さん、マーガレットという15歳の女の子が歌ったものです。

 マーガレット……メグちゃんは、年齢の割に体が小さいですが、他の3人の生存者達とお元気で暮らしています。

 私達が彼女達の事を知ったのはこの1年以内の事ですが、食べ物や医薬品を差し入れしたり料理を教えたりと、色々面倒を見て、仲良くさせて頂いています。」


「……そう……。」


 エルナンさんは涙をハンカチで拭きながら。話を続ける。


「貴女が連れて来たスタッフの方々は、この話を御存じなの?」


「キャスパー含めて、先ほど顔合わせしたメンバーは全員、今の状況を知っています。

 皆、早く向こうの4人を救出しましょうって言ってくれています。

 ただ、向こうに危険が及ばない様、下手に口外をしない様にしていますので、エルナンさんも、そのようにお願いします。」


「ええ、わかったわ。

 特にメディアで生存者がいる事が広まるのはまだ危険ね。

 孫に……マーガレットに、連絡は取れるのかしら。」


 特にエルナンさんはメディアに出る立場の人なので、危険性を認識して貰えたのは有難い。


「資源回収の時に、こっそり手紙や差し入れを届けるくらいなら可能です。3区の監視体制が厳しくて、直接会うのは難しいですが……。

 3区へのゴミ投棄と資源回収は週2回、次は明後日の予定ですから、明日早いうちにキャスパーに渡して頂ければ、私が向こうへお届けします。」


「それじゃあ、明日の午前中にはこちらに届けるわね。」


 大丈夫なので、頷いておきます、

あと、返信の事について確認しておきましょう。


「メグちゃんから返信があれば、その次の回収の時には手紙を受け取れると思います。今後も手紙のやり取りを続けて行く事になると思いますが、エルナンさんがこちらにいらっしゃらない場合はどうすれば良いですか?」


「そうね……ドーラに連絡を貰えるかしら。

 クーロイに来る予定によって、商都の自宅へ送って貰うか、貴女に預かって貰うかを伝えて貰うわ。

私からマーガレットへの返信はすぐに書けないかもしれないから、それは私の方で手紙に書いておくわ。」


「ええ、了解しました。」


 エルナンさんは立ち上がり、私の傍に寄って来て……私を抱き締めます。


「……貴女に事務局長をお願いして……本当に良かった。

 エインズフェローさん、マーガレットの事……よろしく、よろしくお願いします……。」


「彼女達の脱出まで、もう少しのところまで、来ています。

 無事に助け出すまで、皆で頑張りましょう。」



 エルナンさんにお礼を言われた後、私はエルナンさんを1人残して会議室を辞去し、キャスパーに当面の仕事の方針を伝えます。

 私やマルヴィラは3区の資源回収の仕事……それからメグちゃん達への差し入れの準備もしないといけませんので、会の仕事でも政府との打ち合わせなどの重要な仕事以外は、キャスパーの方で取りまとめてくれています。


 エルナンさんが1人残った会議室からは……すすり泣く声が微かに漏れてきます。

 キャスパーには、彼女をしばらくそっとしてあげる様お願いし、事務所を後にしました。


いつもお読み頂きありがとうございます。


なかなか執筆の時間が確保できず、前の投稿より時間が空いてしまいました。

ストックが無くなるまで投稿します。


ブクマや評価、感想、いいねなどを頂けると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

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