6-04 家族の会の舞台裏
今回は別視点です。
(??? 視点)
私は家宰から、定例の報告を受けた。
「まずは、例の回収業者の件です。
調べました所……クセナキス星系の、エインズフェロー工業の創業者の末娘でした。3区で先日デモをした処理装置、あれの開発元です。」
「という事は、やはり内偵で送り込まれたという事か。」
「……いえ、ところがそうでも無さそうです。
経歴を調べました所、創業者の他の子供は経営学などを学んで、父親の会社に入っていますが、どうも例の娘だけは独立志向だったようで、大学のゼミの教授からクーロイ星系のゴミ処理の話を聞いて、卒業後すぐにやって来た模様です。
業者としての評判を調べてみましたが、他の業者とは異なり礼儀正しく誠実な取引をしている様で、自治政府の担当者からも取引先からも。評判はかなり高いようです。」
ふむ、内偵目的で来た訳ではないという訳か。それに仮に内偵目的だったとしても、それだけ評価の高い業者を排除するのは難しい。
「従業員の女は、元々その娘の実家の使用人だったようです。高校卒業後に地元の警察に入り、4年で機動隊の分隊長まで出世しましたが、突然退職し、数か月後にクーロイに来て従業員になった模様です。
退職の理由までは明らかになっていませんが、こちらの女は恐らく、回収業者の娘の護衛として、父親が手配したものと思われます。」
「護衛?」
「一度他の回収業者達の妬みを買い襲われそうになったと、2区警察の記録にあります。」
多少実家の力を使っている位で、経歴上筋は通っているな。
「3区での様子はどうだ?」
「他の業者はその日3区に運んだ廃棄物から再利用品を回収していますが、その娘等は古いゴミのコンテナの中から回収品を探している様です。
実家から試作品の探知機を提供された様で、それを使って効率的に回収をしている模様です。この機械の利用申請は政府に出されており、事前検査もされております。特に問題はありませんでした。
3区でここ数回、警備の者が後ろに付いて監視していますし、2区にある事務所や自宅も監視していますが、怪しい動きはありません。」
「他に疑わしい業者は居るか?」
「いえ、今の所は。」
内偵の協力者だと疑わしいが、決定的な情報は無いか。
「当面、業者達の監視体制は今のまま続けてくれ。
それで、他には?」
「3区で行方不明になった者たちの関係者による、3区への訪問申請が出されました。以前の様に突き返そうとしたのですが、3区には既に回収業者が出入りしている事を指摘されました。
以前旦那様から提示いただいた通り、次善の手として個別の家族との交渉はしないと通告致しました。」
「行方不明者の家族といっても素人集団だからな。被害者団体などそう作れるものではあるまい。」
当分の間、無関係の者に3区の立ち入りはさせられん。
「いえ、それなのですが……。
通告した3日後には、『3区行方不明者家族の会』という名前で、団体設立届が提出されました。こちらの報告書をご覧ください。」
「なんだと!」
家宰から報告書をひったくり、中身を確認する。
団体代表はナタリー・カルソール……これは誰だ。この代表が団体の設立資金を全て出資している。そして事務局長にはケイト・エインズフェロー、これはさっきの話に挙がった回収業者!
「……この、代表に挙がっているナタリー・カルソールという女性ですが、この本名より『ナタリー・エルナン』という芸名の方が知られております。」
ナタリー・エルナン?
私も何度かコンサートを聞きに行ったことがあるが……あの、ナタリー・エルナン?
「あの歌手のか……。という事は、この設立資金は個人出資か。
それにしても、この設立届は却下できなかったのか?」
「どこで手配したのか、帝都から弁護士も同伴して届を提出しに来ました。
それに後ろには多数のマスコミも取材に来ており、下手な事ができず受理せざるを得ませんでした。」
「随分なやり手がバックに付いているようだな。
ここの団体に人を潜り込ませて、骨抜きには出来ないのか?」
「団体は事務所をクーロイに置いていますが、今はまだ稼働していません。
代表は帝都に仮の事務所を作って、そちらで人を集めている様です。それからCMを流したりしてより多くの家族の賛同を得ようとしている模様です。」
そこまで金を掛ければ、割とすぐに多数の被害者家族達の賛同は得られるだろう。
となると、次は……。
「現地訪問は却下できないのか。」
「こちらの条件提示通り、団体交渉に持ち込まれれば、これ以上の回避は難しいでしょう。後は時期と規模の問題です。
恐らく、団体交渉の際にも弁護士やマスコミが付いて来ると思われます。」
「クーロイの政府の規模では、マスコミが大勢押し寄せたら職員たちは悲鳴を上げるだろう。
向こうが交渉を求めて来るのはそれほど先ではあるまい。なるべく少人数での訪問にするよう、警備体制を含めて交渉内容を考えてくれ。」
「承知いたしました。」
*****
(ハルバート視点)
「旦那様。ケイトお嬢様から、このような手紙が届いております。」
旦那様の執務室で、私はケイトお嬢様からの手紙をお渡しした。
私にも手紙が来ていたが、例の3区の被害者家族団体設立の話だろう。
一通り手紙を読んだ旦那様は、ふうと溜息をつかれた。
「ハルバート、軍の情報部の方からは何か言ってきているか?」
「ええ、3人程送り込みたいとの話を伺っています。ケイトお嬢様にも話が通っているそうです。」
「そうか。私の方も、侯爵様の方から1人送りたいという話を聞いている。救出が現実味を帯びてきて、手柄を取り逃がしたく無いのだろう。
後の事を考えると……うちも何人か出す必要があるだろうな。」
救出成功後……その後に起こりえる事を考えると、間違いなくその方が良い。
「そうですね。では、まずはキャスパーを送りますか。」
「おいおい、キャスパーは次男とはいえ、お前の跡継ぎになると思っていたのだが。」
「長男のクレフも能力は十分でございますが、ケイトお嬢様の方は何が起こるかわかりません。あちらを守るには、発想が柔軟なキャスパーの方が向いているでしょう。
あと、直ぐにではありませんが、使用人の子女の中から護衛術も心得た者を何人か準備させておきます。
被害者家族団体にあまりに多い人員が居ても目に付くでしょうから、徐々に人を増やす方向でケイトお嬢様と調整致します。」
「うむ、そうしてくれ。」
旦那様は一息ついてコーヒーを飲む。
「しかし、ケイトの奴……救出した後の事は考えているのだろうか?」
「一度話したのですが、向こうの生存者4人はそれぞれ手に職があるそうです。大人3人は希望があれば回収業者の方で雇用するとか、子供の方はお嬢様が身元引受人になる事を考えているそうです。
ただお嬢様は3区に残る4人を救出することで頭が一杯なのでしょう。ご自身の事は、まだ気づいておられません。」
「そうか……そうだろうな。
ケイトには事が成るまでは黙っておこう。とにかく集中して取り組ませた方が良い結果を出すタイプだからな。
もう少しとはいえ、これからが正念場だろう。ジャスパーには気を付けるように言っておいてくれ。
情報部と侯爵様の人員が揃ったら、出発させてくれ。」
「了解しました。」
*****
(ナタリー視点)
帝都に帰ってから、自宅に仮に作った3区の会の事務所にて、打ち合わせを行っている。
「被害者家族達から、連絡はどの程度入ってるの?」
短期契約で雇い入れたマーケティング・ディレクターが、CMの効果を報告する。
「各星系で打ったCMの効果は上々です。既に6割程の被害者家族と連絡が取れていまして、3区への訪問についてもいつ行けるのか問い合わせが多いです。」
秘書のドーラが連絡状況を報告する。
「残りの家族は個別連絡を始めています。全体の7割の賛同は得られそうですが、2割ほどは軍関係者だったり、行方が分からなかったりして、連絡が取れません。」
お金を掛けてCMを打った甲斐はあったようね。
クーロイ側の体制が整うまでの間、短期契約で数人の事務員を雇い入れた上で、秘書のドーラには被害者団体の事務作業の取りまとめをして貰っている。
クーロイ側の体制が整っても、ドーラだけはこちら側の窓口として引き続き作業をして貰う予定。
「7割の賛同が得られたら、向こうの政府も文句は言えないでしょう。上々ね。」
「7割を超えた段階でCMは打ち切ります。
後は、団体家族向けと一般向けに、エルナンさんが自ら配信する形に移行するという事ですが、そちらの専門家は?」
「既に手配は済ませているわ。
明日の打ち合わせから参加するそうよ。」
「ではそちらへの引継ぎが完了しましたら、次は3区訪問への交渉ですね。」
「そうね。今回は一気呵成に事を進めないと行けなかったから、メディア・マーケティングの専門家の貴方には本当に助かったわ。
交渉の際のメディアの使い方についても、サポートをお願いしますわ。勿論、追加料金はお支払いします。」
「ええ、契約頂けるなら、是非協力させていただきますよ。」
実際、彼が居なかったら、これほど早く被害者家族達との連絡や賛同は得られなかったでしょう。
「あと、クーロイ側の事務局の体制は出来そうですか?」
「事務局長からは、数日内に追加で5人の人員が入るそうよ。
体制が整ったら連絡が入るから、それからドーラに引継ぎを進めてもらいますわ。」
向こうの体制が整ったら再びクーロイに行って、3区訪問のための団体交渉を進めましょう。
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