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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第6章

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6-03 『3区行方不明者家族の会』

今回もケイト視点です。

 老婦人――ナタリー・エルナン氏の依頼については、どう3区へ渡ってメグちゃんに引き合わせるか、具体策がまだ思いつきません。

 依頼は受けますが、具体的な話はまだ保留にさせて貰いました。


 ちなみに今日の御婦人の庁舎への訪問は、テレビのニュースで話題に挙がっていました。エルナン氏が政府に要望書を提出し、翌々日に再訪問する予定であることが報じられました。

 映像は要望書をローモンド氏に手渡すところだけで、その後の二人の口論は映っていませんでした。




 翌々日、御婦人の政府庁舎への訪問に同行します。秘書のカッパーナ氏から依頼があり、交渉が上手くいくようサポートをして欲しいとの事です。

 待ち合わせ場所には、エルナン氏、秘書のドーラ氏の他、マスコミも数グループいました。エルナン氏達が手配した以外にも、何社か居る様です。


 マスコミを引き連れて庁舎へ向かうと、庁舎前で老婦人達の集団から呼び止められます。


「ナタリー・エルナン様でいらっしゃいますでしょうか。

 私達も、あの3区で家族が行方不明になっております。今日の要望書に対する回答を、私達にも教えて頂ければと思い、お願いする次第です。」


 一団の中で、一際お年を召した老婦人がエルナン氏に声を掛けます。


「それは、皆様も今までご心労も多く大変だった事でしょう。

 私も末娘が行方不明となっております。

 宜しければ、私たちと一緒に庁舎へ参りませんでしょうか。」


 こうして、他の行方不明者家族の方々も含めて担当部署へ向かいました。



 目的の場所に着くと、ローモンド氏は目を剝いていました。

 人数が更に増えている事に驚いた様です。

 エルナン氏が前へ出て話し始めます。


「一昨日に提出した要望書について、回答をお聞かせ頂きたく伺いました。」


 ローモンド氏は、文書を出しながら回答します。


「頂きました要望書について、政府内で検討致しました。

 ……エルナン氏の3区への訪問の要望書について、政府の立場としては個別の要望を受理することは出来ません。」


 個人の要望としては受けられない、と言う方向で断りを入れてきましたか。


「丁度、こちらに以前の事故の行方不明者家族の方々が沢山おられますから、まとめて出せば受理して頂けるのですよね?」


「……何度も申請を出されてもこちらとしては対応できかねますので、出来ましたら、そういった要望を行方不明者家族の方々の中で取りまとめをして頂いてから、ご要望を出して頂きたく思います。

 こちらも政府は最小限の人数で運営しております。

 何度も同様の要望を出されても対応できかねますので。」


「……政府側の回答としては理解しましたわ。

 今の内容を、文書で頂けます?」


 エルナン氏は、政府側の回答文書を受領しました。

 ここでマスコミ側が一斉に写真を撮影します。


 行方不明者家族の方々は、連絡先を交換して、一度解散するようです。

 ここまで、交渉のサポートとして口を出す必要はありませんでした。

 平穏に終わった様で……と思ったら、エルナン氏が私を手招きしています。


「エインズフェローさん、ちょっとこの後、時間あるかしら?」


「? はい、1時間位でしたら大丈夫ですけど。」


 エルナン氏、カッパーナ氏と、庁舎近くの喫茶店に移動します。

 コーヒーや紅茶を注文した後、エルナン氏が話し始めます。


「今日の政府側の回答の通り、行方不明者家族の方々を取りまとめる団体を作らないと交渉出来ない事になりました。

 しかし、素人集団では団体を作るのにも時間が掛かるでしょうし、政府側の交渉も難しいでしょう。」


「そうやって、また政府側は3区への訪問を躱していくつもりなのでしょうね。」


 そう言いつつも……私が呼ばれた事に、ちょっと嫌な予感がします。


「ここはすぐに被害者団体を作ってしまうべきだと思っています。

 そこで、私がまとまった資金を出資して団体を設立します。

 エインズフェローさん……貴女には、その団体の事務局をお任せしたいと考えています。」


 えっ?


「私との面識、政府側の担当部署との面識、3区への訪問経験……いずれもお持ちである貴女が、一番適任だと思っています。

 どうか、引き受けて頂けないでしょうか。」


 代表にはエルナン氏が就任するでしょう。しかし、彼女は帝都在住です。方針や指針を出しても、実際の団体運営には関わる事は出来ない筈です。

 その団体運営をやって欲しいという事でしょう。


「ちょっと、考えさせて貰っても良いでしょうか。」


「即答は求めていないわ。でも出来れば……私がここに滞在している、1週間後までに返事を頂けるかしら。」



 エルナン氏との打ち合わせを終え、帰宅してマルヴィラに内容を話すと


「まあ、ケイトが話を受けざるを得ないと思うけど……ケイトの思う通りにすればいいわ。そういう団体があった方が、メグちゃん達の救出の役にも立つと思うからね。」


 と、特に反対されませんでした。



 エルナン氏からの要請の後、帰宅後に郵便を届けに来た連絡員にメモを渡します。

 すると翌日、午前中に来た配達員から、荷物と共にメモが渡されます。

 メモには、以前裏口から抜けてホテルでトム氏と面会した時に使ったレストランで昼食を、と記載してあり、食事券が添付されていました。

 マルヴィラと0区に行き、レストランに2人で入ると個室に通されます。そしてまた私の替え玉の方と入れ替わって、裏口からホテルのVIPルームまで案内されます。

 VIPルームでは、准将閣下とトム氏が既にお待ちでした。

 トム氏が尋ねてきます。


「至急の相談ということですが、一体何があったのでしょうか。」


 私は昨日の御婦人、エルナン氏の3区への訪問申請の件、そして3区訪問の手伝いを依頼されたこと、そして被害者団体の設立の件を明かしました。


「しかし、どうして今になって、3区への訪問を?」


「彼女の孫……向こうで生きている子の歌が、巡り巡って帝都まで流れたそうです。

 それで、エルナン氏はその子が3区で生きていると思ってやって来たそうです。」


 ここで准将閣下もトム氏も怪訝な顔をします。


「ちょっと待った。

 3区に居る子供の歌が、どうして王都まで流れることに?」


「彼らが管理エリアに既に入っている事はお伝えしましたが……彼らは自分たちの娯楽の為、管理エリア内のAMラジオ局を稼働させました。勿論、出力はかなり下げたらしいのですが……。

 その電波を、高性能電波受信機を持っている0区の子供が偶々電波を拾ったところから、歌だけが漏れて拡散したようです。

 ラジオ電波の方は、クローズドボードを閲覧できる十名くらいの人しか把握していないようです。

 この情報は、そのクローズドボードのメンバーから直接聞きました。」


 閣下もトム氏も頭を抱えます。


「……出力を下げて流しただけ、マシですか。

 侯爵側が事実に気付くのも時間の問題の様な気がしますけどね。

 それで、我々への相談と言うのは?」


「被害者団体を作って、これから3区への訪問を交渉しようとしているのです。これに乗じて、向こうの4人の救助を行いたいと思います。

 ここに、お二方の手をお借り出来ないかと思いまして。」


「……つまり、自治政府との交渉や3区への被害者家族の訪問に、手を貸して欲しいと?」


「今回、行方不明者家族の個別の申請は応じられない、という口実で3区への一般人の訪問を回避してきました。

 恐らく、被害者家族の意見を取りまとめる団体を作るのは素人の集まりでは難しく時間が掛かるだろう、という目算だったのだと思います。

 ですが、エルナン氏が自ら出資して団体を作る意向を持っています。ここでさっさと団体を作って意見を取りまとめ、政府へ交渉を持ち掛けたいと考えていらっしゃいます。


 エルナン氏は、政府側の担当者とも面識があって、3区への渡航経験がある私に事務局長になって、実質的に団体を運営して欲しいと依頼してきました。

 被害者家族達が3区へ訪問することが出来れば、向こうに採掘場の調査員を送り込んだりするのはもう少し容易になるかと思います。


 私の方でも、実家から人手を借りられないか打診はしてみますが、お二人の方も協力頂けないでしょうか。」


 この話は、軍の3区への内偵の隠れ蓑にもなりえる筈で、二人にもメリットがある筈です。


「……軌道エレベーターへの侵入路の情報は受け取ったが、これからどう調査員を向こうに送り込むか、なかなか検討が進んでいませんでした。


 ここの自治政府の規模は小さな市役所程度ですから、大勢のマスコミが押し掛けた時に対応しきれなくなるでしょう。

 向こうの警備の人数ではカバーできない位に、大勢の3区訪問希望者とマスコミで押しかけて3区へのシャトルを出させれば、警備の隙をついて数人くらいは向こうに送り込めるのではないかと思います。

 この話は乗るべきかと思います。准将はどうですか?」


 トム氏は乗り気の様です。

 准将閣下は少し考えた後、口を開きます。

 

「団体交渉するなら、昨日来ていた家族以外の関係者からも意見を収集しないといけないが、その辺りはどう考えている?

 行方不明者名簿を1件1件当たっていては、時間がいくらあっても足りんぞ?」


「各星系に、テレビやネットで告知を流す事を考えています。ただ、具体的な事は専門家を招いて意見を聞いた方が良いかと思っています。

 こちらはエルナン氏の伝手で当たって貰おうかと思っています。」

 

「確かに、そういう事はメディア戦略の専門家を招いた方が良かろう。」


 その後、団体の運営方針について准将やトム氏のアドバイスを受けました。人手については、トム氏の伝手で何人か星系外から呼んでくるそうです。




 准将やトム氏との会合の後でレストランに戻ってきたら、食べられなかった食事はまた後で自宅に届けてくれるそうです。


「その様子ではあの話を受ける事になったと思うけど……大変な事を背負いこむわね。事務作業のあてにはしないで欲しいけど、私も手伝うわよ。」


 とマルヴィラが言ってくれました。


 その後エルナン氏に連絡を取って、事務局長を引き受ける事を伝えました。

 翌日以降、私が3区へ行く日を除いて、エルナン氏と打ち合わせを重ねたうえで団体設立手続きを進めました。

 団体の名前は、そのまま『3区行方不明者家族の会』、略称『3区の会』としました。


 団体の設立を政府に届け出た後、エルナン氏から出資金を口座に振込して貰い、事務所の賃貸手続き、銀行口座と電話の開設など必要な手続きを、エルナン氏が帝都に戻る前に済ませました。

 エルナン氏はまた1か月後に来るという事で、それまで他の行方不明者家族への周知についてはエルナン氏の方で検討すると言い残し、エルナン氏とドーラ氏は帝都へ帰って行きました。


 私の方は、御父様とハルバートさんに団体設立の報告と、事務作業の為団体で何人か雇用したい旨を連絡しました。

 活動開始は、エルナン氏が再びクーロイに戻ってきた時です。

 それまでは回収業者の仕事をしながら、団体設立の話を取引先に広げていき、協力者を募っていきましょう。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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