6-02 帝都から来た老婦人
この章の詳細を練り直していて時間が掛かりました。
1か月ぶりの投稿となります
これから2~3日おきにUPしていきます。
今回はケイト視点です。
ある日、ローモンド事務官との定例の打ち合わせのために0区の自治政府庁舎へ向かいました。
ところがこの日は、庁舎の前に人だかりができています。
何だろうと思いつつゴミ処理の担当部署の方へ向かうのですが、どうも人だかりはそちらの方へ続いている様です。
何とか部署へ近づいて行くと、何やらマスコミらしい人々……テレビカメラを構える者、マイクを付けた長い竿を持つ者などが部署の近くにいて、その向こう側、部署の窓口で誰かがローモンド事務官と押し問答をしている様です。
「ですから、一般の方の3区への立ち入りは禁止されております!
後ろのマスコミの方も、撮影の許可はしておりません!」
「軍関係者以外にリサイクル品の回収業者が出入りしている現状で、業者が良くて遺族の訪問が駄目だと言う明確な理由を示しなさいと言っているのです。
ちなみにマスコミの撮影は、事後に映像を確認する前提で広報部の許可は頂いております。」
「ですから、規則で……。」
「規則ですからと言うのは理由になりませんわ。
貴方がお答えできないのであれば、答えられる上役を出しなさい。」
更に近づいてみると、窓口で老齢の御婦人がローモンド事務官に詰め寄っています。でもローモンド事務官にそこまで権限はない筈ですし、かと言ってこの様子ではご婦人が引き下がるとは思えません。
このままでは埒が明かなさそうですから、仲裁に入りましょうか。
「こんにちは、ローモンドさん。これは一体?」
「あ! エインズフェローさん。こんにちは。
こちらの御婦人、以前の事故の行方不明者の御家族の方だそうですが、3区への立ち入りを希望されているのです。
ですが、立ち入りは出来ないと……。」
「回収業者が入れて遺族が入れない理由をこの担当者が答えないから聞いているだけです。
ところで、貴女は?」
サングラスを掛けたご婦人が誰何してきます。後ろに控えている若い女性は秘書でしょうか。
「私は回収業者をしています、エインズフェローといいます。
そちらの担当者との打ち合わせで来たのですが、そちらの話し合いを待っていても埒が明かないと思いまして。」
「回収業者の方でしたか。なるほど……。」
私が回収業者だと知ると、御婦人は何かを思案しだしました。
「いずれにせよ、担当者のレベルでは即答できない事のようですので、ひとまずは許可の是非と、認められない場合はその理由を後日回答いただく、という方向ではどうでしょうか?」
「……そうね。ただ私は今回、あまり長くクーロイに滞在できませんの。
それで、そちらの担当者の方……ローモンドさんだったかしら。明日には回答頂けるの?」
「い、いえ、かなり上の方への問い合わせが必要なので……明後日ではダメでしょうか?」
「それでいいわ。では明後日の午後、またこちらに伺います。
……あ、それと、そちらの回収業者の方。」
ひとまずローモンド事務官の方は話が済んだと思ったら、私?
「貴女にもちょっと、お話を伺いたい事がありますの。
これから、空いています?」
「いえ、私はこれから、こちらの担当者との打ち合わせですから。」
「そうでしたわね。では今晩か、明日の午前中では?」
「……明日の午前中でしたら。」
「わかったわ。具体的な日時と場所はドーラと調整してくれる?
ドーラ、彼女に名刺を。」
御婦人の後ろの若い女性が、バッグから名刺を取り出し渡して来るので、こちらも名刺を取り出し交換する。
受け取った名刺を見ると……え!?
「ナタリー様の秘書のドーラ・カッパーナと申します。
私から後程お電話差し上げますので、よろしくお願いいたします。」
「……了解しました。」
「それでは、また。」
御婦人は秘書とマスコミを引き連れて去っていきました。野次馬も去っていきます。
そして私はローモンド事務官と会議室に入りました。
「有難うございます。助かりました。
それにしてもあの御婦人は一体何者なんでしょう。あんなマスコミを連れて来るなんて……。」
「先ほど名刺を頂きましたけど、あの方『ナタリー・エルナン』だそうですよ。」
「えっ……あの、歌手の?
参ったなあ。
下手な回答をするとまたマスコミを連れて押しかけて来そうですね。」
こればっかりは政府の方で対処して貰う必要がありますから、私はこれ以上口を挟みません。
1時間ほどで定例の打ち合わせを終えて、庁舎を出た所でドーラさんから連絡が入りました。
以前トム氏と打ち合わせをしたあのホテルに泊まっているようで、そのロビーラウンジにて待ち合わせする事になりました。
翌日、私はマルヴィラを連れて、0区の高級ホテルへ向かいました。
ロビーラウンジに着くと、秘書のカッパーナ氏が待っていました。
「エインズフェロー様、お待ちしておりました。
後ろの方は、電話で伺った方ですか?」
私はマルヴィラを紹介し、彼女はカッパーナ氏と自己紹介をし合います。
「それでは、こちらへどうぞ。」
カッパーナ氏の案内で客室行きエレベーターを上がり、彼女は上層階のスイートルームの一室の扉をノックした後、カードキーで鍵を開けて入室します。
スイートルーム内の応接室に、昨日の御婦人、ナタリー・エルナン氏が待っていました。
彼女は私達を席へ座らせ、秘書のカッパーナ氏が全員分のお茶を給仕し、彼女の隣に着席して、ようやく話し始めました。
「貴女方を今日御招待したのは、私から貴女方にある仕事を依頼したいと思ったからなのです。
こちらの星系に来る前から、適切な回収業者を探して依頼する積りだったのですが……親切にして下さった回収業者が、偶々見つかりましたのでね。」
「仕事、ですか?」
「あの担当者の昨日の様子では、3区の訪問許可は下りないかも知れません。でも私はどうしてもあそこへ行く必要があるのです。
ですから、貴女方にそのお手伝いをお願いしたいと思いますの。勿論、それに見合う報酬はお支払い致しますわ。」
3区へ行きたいという彼女の目的が分かりませんが……親族の弔いでしょうか? マルヴィラも困惑した表情を浮かべています。
「どのような理由で3区への訪問をご希望されているのか、お伺いしても宜しいでしょうか?」
「17年前の事故に巻き込まれ、3区で行方不明になった……娘に会うためです。」
老婦人の娘さんと言うと……生きていれば、40歳台くらいでしょうか。
「当時、生存者はいないと発表されませんでしたか?」
「ええ。そのように発表されましたし、3区への訪問申請は今まで何度も出しましたが却下されてきました。
ですが、今回はどうしても3区に行かなければならないのです。」
「何か、その娘さんが3区に居るという確信のようなものがある風に聞こえますが、何か切迫したものがあるのですか?」
「……これは、ここだけの話として頂きたいのですが。」
そう前置きした老婦人は、紅茶を口に入れます。
私が頷くのをみて、続きを話し始めます。
「17年前……あの事故直後、私は全ての仕事をキャンセルしてこの星系にやって来て、娘の無事を確かめるために政府の担当者を訪問したり、1区や2区を探し回ったりしましたが、遂に娘を見つける事が出来ませんでした。
しかし最近になって、娘が生きているかもしれない、手がかりが見つかったのです。」
ここで老婦人は言葉を切り、秘書に向かって頷きます。
秘書のカッパーナ氏は携帯端末を操作すると、端末から歌が流れ始めます。
『星は光 星は闇
照らされた 青い光 黒はより深く――――
星は命 星は死
赤い炎 皆を送る 遠い旅へと――――』
この歌を流しながら、老婦人は続けます。
「この歌が、星系クーロイを起点に流行り始めた事までは分かったのですが、誰が歌っているのかは分かっていません。
ですが、私が帝都でこれを耳にした時――末娘の声や歌い方にそっくりだと、感じたのです。恐らくあの娘か、あるいは彼女の産んだ娘なのでしょう。
そして娘が事故後に1区や2区で暮らしていた記録が無い以上……娘か孫が歌ったのであれば、この歌の出所は3区だろうと思ったのです。」
「つまり貴女は、娘さんかお孫さんに会うために、3区に行こうと?」
老婦人――ナタリー・エルナン氏は頷きます。
「どうやってか分かりませんが、助けの無いまま17年間、今も3区で娘か孫は生きていると思っています。
なるべく早く助けてあげたい……そう、切に願っています。」
ナタリー氏はハンカチを取り出し……涙を拭いています。
念のため、確かめてみましょう。
「行方不明者の一覧には、エルナンと言う姓の女性は居りませんでしたが……娘さんのお名前は?」
「私は結婚前から歌手活動をしていましたから、エルナンというのは旧姓になります。
娘の名前は……メリンダ・カルソールと申します。」
やはり、そうでしたか。
この御婦人は……メグちゃんの、御祖母様になるのですね。
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