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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第6章

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6-01 料理に励む日常

「はあ……美味しい……。」


「今度はセインの好物か……いや、確かにあったまるし、美味い。

だがメグ、これはすごい手間掛かってないか?」


 今日の料理はミネストローネ。


「これは外に出る前に作り置きしてたの。温め直しただけだよ。

 それにこの間お姉さん達から貰った野菜は、全部切ってあったから、作るのはそんなに手間じゃなかったよ。」


「外での作業は体が冷えるからなあ。作業の後に温かいスープは有難い。」


 軌道エレベーターへのルート探索以降、料理はスープ類を作ることが多い。これには理由がある。


 管理エリア……というか、宇宙船の修理は、シャトル発着場奥の探索までには内部は大体終わっていた。あの探索以降は外殻修理剤を使って、外側の修理作業をやっている。

 修理作業は、デブリで損傷した箇所に修理剤を注入し、冷えて固まってから、修理剤と元の外殻との隙間をバーナーで溶かして固める、といった作業工程になるんだけど、この『冷えて固まってから』と言うのが厄介な所。


 損傷個所を特定するのは、明るい昼時間でないと出来ない。でも昼時間だと、外殻の表面温度が上がってしまって修理剤が固まらない。だからちゃんと外殻が冷え切る、夜時間に入って2時間後以降しか作業が出来ない。

 真っ暗な夜時間に宇宙空間で1人で作業するのは危ないし、照明やバーナーの電源を管理したりする必要もあるから、結局4人全員で作業することになった。


 そうして4人で夜時間の宇宙空間作業を長時間すると結構体が冷える。だから作業終わりにこうしてスープを作って飲むことが増えた。


「メグ、おかわりくれ。」


「あ、私も。」


「俺ももう一杯くれないか。」


「はいはい、順番に注ぐからちょっと待ってて。」


 ただ、いつも小父さん達は何回もお代わりするからすぐ無くなっちゃう。

 ……って、鍋にあと1杯分しかない!


「メグ、もう1杯だけ。」


「セイン小父さん、好きなのはわかるけどどれだけ飲むのよ!

 さっきから小父さん達のお代わり注いでばっかりで、私まだ1杯目なのに。

 最後の1杯は、私が貰うからね!」


「……あ、もうそんなに減ってたのか。悪かったよ。

 メグの作ってくれたスープが美味しくて、つい食べてしまった。」


 美味しかったって言ってくれるのは嬉しいけど。

 私だってもう少し温かいスープでほっこりしたい。




 食べた後は皆で食器の片づけをして、シャワーを浴びる。シャワー室は住居エリアの以前住んでいた場所にある。ライト小父さんとグンター小父さんが管理エリアへの移設を検討中らしい。

 シャワーを浴びる順番は私が最初で、その後はグンター小父さん、セイン小父さん、ライト小父さんの順。

 ライト小父さんは食べた後でトレーニング室で筋トレしてから浴びるから、いつも最後にシャワーをして、掃除までしてくれる。


 私はシャワーを浴びて着替えてから、食材の残りを見て明日作る物を考えるのが日課になってる。

 マルヴィラお姉さんからは、レシピで新しい料理を覚えるのも良いけど、今までの料理の作り方を他の食材で試してみるのも上達には良いって聞いているから、残りの食材をどう料理しようかって考えることにしてる。


 でもある日、起きてから残りの食材を確認して違和感を感じた。


「あれ? おっかしいなあ……。」


 冷凍庫に入れてる食材の量が、昨日寝る前に見た量より減ってる気がする。


 サラミは小父さん達の酒のつまみ用だから、減っていようと私は気にしない。誰がどれだけ食べるかは小父さん達で話し合って決めてってお願いしてる。

 ただ、昨日今日と使ってない筈のミックスベジタブルや、コーンも減ってる気がする。ソーセージも少し減ってるし、唐揚げは昨日まではもう少しあったはず。一方、ミックスベジタブル以外の冷凍野菜は減ってない。


 まあ、犯人は小父さん達の誰かしか居ない。


 きっとお酒のつまみに持ち出したんだと思う。最近お姉さん達が小父さん達の好きなお酒を差し入れてくれているから、小父さん達は寝る前に飲んでいるって聞いてる。

でもお酒を飲んでて小腹が空いたからって、冷凍庫の食材を勝手に持って行かれても困る。


 誰がどれだけ持って行ってるか、証拠を押さえて小父さん達を問い詰めよう。

 冷蔵庫の扉を開けた時に中身が見える様な位置を探すと、空調ダクトの吹出口が見つかった。ここの中に監視カメラを設置した。




 そのまま何日か様子を見てから、小父さん達を会議室に集める。


「どうして私が、小父さん達に集まって貰ったか分かる?」


「いや、分からんが。一体どうした?」


 小父さん達の顔色は特に変わりがない。


「最近、冷凍庫の食材がちょくちょく減ってるんだけど、心当たりは?」


「……いや、特に。」

「最近いつも料理を作ってくれるから、それで減ってると思うけどな。」

「……。」


 セイン小父さんだけはちょっと顔色が悪くなったけど、グンター小父さんとライト小父さんはしらばっくれる積りみたいね。


 プロジェクターに監視カメラの映像を映し出す。

そこには、私が寝た後で小父さん達が別々に冷蔵庫から食材を持ち出している映像がバッチリ映っていた。


 調べて分かったのは、グンター小父さんは2日に1回、ソーセージを何本か持ち出しては茹でて持って行ってる。

 セイン小父さんは不定期で、ミックスベジタブルとかコーンを炒めて持って行く。ライト小父さんは毎日すこしずつ、唐揚げをレンジで温めて持って行ってる。

 ……まさか、小父さん達全員だとは思わなかった。


「最近冷凍庫の食材が知らない間に減ってるから、おかしいって思って監視カメラで何日間か様子を見させてもらったの。

 あのねえ、私が寝た後で、食材をこっそり持って行くのはどういうことなの?」


「か、監視カメラなんて。」

「……。」


「今はお姉さん達が毎回持って来てくれるけど、トラブルがあってお姉さん達が来られなくなったらどうするの?

 トラブルでお姉さん達が1回2回来られない場合でも大丈夫なように、ストックを考えて料理してるの。でも小父さん達が無計画に食材を持って行っちゃうと、いざと言う時困るじゃない!」


 小父さん達は単なるつまみ食いのつもりなんだろうけど、食材の残量は非常時に死活問題になる。

 

「罰として、3日間レーションパックだけの生活に戻りましょう。」


「それだけは勘弁してくれ!」

「わ、悪かった! 頼むからそれだけは……。」

「い、今更それは困る!」


 小父さん達が縋り付いて来る。


 まあ、小父さん達の気持ちは分かる。

 他に食べる物が無かったら別だけど、私も正直、レーションパックだけの生活にはもう戻れないと思う。


「……じゃあさ。勝手に食材持って行かないでね。

 お酒飲むなとは言わないし、酒のつまみを時々作ってあげても良いから。

 その代わり、小父さん達が勝手に持って行かない様に、冷凍庫には鍵をつけさせてもらうね。」


「時々と言うのは……。」


「私が寝てからも作業する時とか、皆で飲むときとかね。

 事前に言ってくれてて、食材に余裕があったら何か作って冷蔵庫に入れておくよ。

 それでいい?」


 小父さん達はぶんぶん首を縦に振ってるし、この辺が妥協点かな。



「それから、この間の探索の報酬は決めてなかったよね。

 あれさ、冷凍食材を多めに持って来てもらう様に頼んでみる。

 他に小父さん達が頼みたいものってある?」


「絆創膏とか、細々した医療品はケイトさん達に頼めばいいし……。」

「外殻修理剤の追加が来るなら、修理の方も困ってないな。」

「そうですねえ……ニシュの方は要る物ってないですか?」


 小父さん達は特に要る物が思いつかないみたい。


「私としては、そろそろメグさんの追加の教材が欲しい所です。今の学校で教えている内容までは分からないので。

 中学、高校の内容が入っている教育用タブレットなんかがあればいいですね。」


「ああ、それは要るかもしれんな。じゃあそれも追加しよう。」


 小父さん達と相談して、幾つかの物資の要求を追加することにした。

 タブレットの他に追加されたのは、電子百科事典とか、私の教育関係のものが多かった。脱出した後の事を心配してくれてるのは分かるんだけど、そこまで勉強に使う時間あるかなあと思ってたら、『脱出した後に要らなくなるものじゃないから』って言われた。

 依頼の報酬の話は、小父さん達からケイトお姉さんに手紙を書いてくれるみたい。私の方は、小父さん達のつまみ食いの経緯と顛末をお姉さん達に手紙で知らせた。




「メグ、ケイトさん達に何って書いたの?」


 手紙の返事が返ってきたとき、セイン小父さんに詰め寄られた。


「ケイトさんからは、あまり私達がお酒のつまみを食べ過ぎるなら、しばらくお酒の持ち込みを止めるって来たんだけど。」


「……ああ、その話。この間の小父さん達のつまみ食いの話と、冷蔵庫に鍵をつけた事を書いただけだよ。」


「ええ……メグ、何とか取りなしてくれない?」


「食材はお姉さん達の好意で持ち込んでくれてるでしょ。小父さん達がその好意を台無しにしちゃったんだから、ちゃんと小父さん達が謝ってよね。」


 まあ、お姉さん達から私に来てる返事には、謝罪の返事が来れば、お酒をまた持ってくることが書かれてたけど。

 もうちょっと反省して貰おう。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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