1-03 ジャンク屋メグと転売屋ケイト
このコロニーにゴミが運ばれて来るようになってからしばらくして、ゴミが運ばれて来るシャトルと一緒にやって来る人達が現れた。シャトルが来て、ロボットがゴミを廃棄区画に置いて帰るまでの1~2時間の間に、彼等は毎回ゴミのコンテナから何かを見つけては持ち帰っていた。
アタシは小父さん達と相談した上で、彼らがコンテナの中から何を持ち帰っているか、カメラを何カ所かに設置して調べてみた。後でカメラの画像を小父さん達と一緒に確認したら、どうやら壊れた機械類を持ち帰っている様だった。
恐らくその機械から再利用できる部品や配線などを全部取って修理業者なんかに売りつけて、残りは炉で溶かして金属素材に戻して売っているんだろうってグンター小父さんが予想した。
でもアタシ達も機械の修理用に必要な配線や部品があって、これまでも幾つか壊れた機械を集めてたけど、彼らを放っておくとどんどん来る人数が増えて、必要なものをみんな持って行かれちゃうだろうから不味いって事になった。
それ迄は必要な物があるときだけ壊れた機械類を取っておいたのを、残されたゴミから一先ず全部取っておくことにした。
その日に持ち込まれたゴミからある程度持ち去られるのはしょうがない。
すると今度は、シャトルで来る時にロボットを持ち込んで来て、次来るまでの間にロボットに回収させようとする人が現れた。
どうしようかと悩んでいたけど、「これはロボットを捨てていったんだよ。」ってライト小父さんが笑った。もちろん、そのロボットは有難く回収した。次にゴミが捨てられた時に血眼になってロボットを探している人がいたけど、見つかるはずがない。
ロボットを持ち込む人はそれから何度か現れたけど、その度に回収してたら、誰もロボットを持って来なくなった。それからは、シャトルで来る人は持ち込まれるゴミから機械を回収するだけになった。
ちなみに回収したロボット達は、アタシ達の作業補助で役に立っている。
そうしたあるシャトルが来た日、ゴミと一緒に来た人の中で、その日に持ち込まれたコンテナじゃなくて、奥の方に積まれたコンテナの方に向かっている人がいた。
その人は奥の方のコンテナを開けて何か機械をかざしては、次のコンテナに向かっていく。それを繰り返していた。
シャトルや新しいゴミコンテナを運び込む辺りは隠しカメラで監視しているけど、奥の方に行かれると直接探らないといけない。だから何してるんだろうって隠れて見てたら、どこで気づかれたのか、その人は機械をこちらにかざしてきて、直後にまっすぐアタシの方に向かってきた。
……つまり、アタシが見つかってしまった訳だ。
その人は宇宙服のヘルメットを私に当てて話し掛けて来た。
無線はチャンネルを合わせないと話せないから、見ず知らずの人と直接話すにはこうするしかない。
「……子供? シャトルで一緒に来た中にはいなかった筈だけど、あなたはどうしてここに?」
ヘルメット越しに見たその人は、若い女の人だった。
「あなたが何してるか見てたの。」
「私はこのゴミの山から売れるものを探しに来たの。でもここは許可を貰わないとシャトルに乗って来れない筈よ。どうやってシャトルに紛れ込んだの?」
ゴミのシャトルに紛れ込んで来たと思われてるわけか。
「ふーん。その手にある機械で、ゴミの山から機械か何かを探し出す訳だ。それで、何か見つかった?」
「あなた以外はまだ何も見つけられてないわ。それより答えて頂戴。こんな人が居ない危険な場所に子供が何しに来たの?」
「お姉さんが何を探しているか教えてくれたら、教えてもいいよ。」
交換条件を持ち掛けてみる。
受けてくれるなら、この人の目的次第では本格的な取引が出来るかもしれない。
「……私は、ゴミの山から壊れた機械とか金属部品なんかを取りに来てるの。あっちで今日持ってきたゴミのコンテナを開けて、中を調べている人達は皆そうよ。
で、あなたは何しに?」
……この人はいい人かも知れない。この人とちゃんと取引できるか、もう一寸見極めないとね。
「アタシは、ここのゴミから根こそぎ集めた素材とか機械部品を売るジャンク屋なの。」
「……それじゃあ、ここのゴミを幾ら探しても、探し物は見つからないって事?」
御名答。今日持ってきたゴミの分も、みんなが帰ってから後で全部探して持って行くからね。
「後でこの辺のコンテナを御自慢の機械で調べてみるといいよ。」
「……ちょっと待って……あなた、シャトルに紛れ込んで来たんじゃないの?」
「ノーコメント。」
シャトルに紛れ込んできたのなら、根こそぎ持って行く時間がないって、流石に気付いたみたい。
「ともかく、アタシから買う気があるんだったら、売ってもいいよ。」
「探しても無駄足になるんだったら……値段と量次第ね。元が取れないと意味が無いし、元々そんなに高く売れるものじゃないからね。
それに、現物を見せて貰わないと話にならないわ。サンプルを持ってきてくれる?」
渋々って感じだけど乗って来た。
サンプルを取って来るように言って来るけど、それで隠し場所を探ろうとしているのかな。
宇宙服のバックパックから、サンプル用に準備していたケースを出す。ケースを開けて中身を見せる。
中には、銅配線、銀配線や、各種ネジなどのサンプルが少量ずつ収められている。
お姉さんは食い入るようにサンプルを見つめる。
「触ってもいい?」
「いいけど、持ち逃げしたらその時点でこの話は無しね。」
「そんな事しないわよ。」
お姉さんはサンプルを取り出して、配線のよれ具合やネジ山の具合など、品質を確認してるみたい。
「……サンプルを見る限り、品質に問題は無さそうね。
で、どのくらいの量が取引できるの? あと値段も教えて欲しいわ。」
アタシはそれには答えず、サンプルの箱を閉じて、お姉さんに差し出す。このお姉さん、アタシを出し抜こうってしないから大丈夫そう。
「蓋の裏に、これの代金と次回の取引の日付と場所、注意事項が書いた紙を入れてる。今日はこれ持って行って。」
「え?」
蓋の裏に紙を差し込んで隠してある。代金として持ってきて欲しい物のリストが書いてある。あと、リストの物を持って来ることと、他の人にはアタシの事は絶対漏らさない事で、継続契約も考えるって書いてある。それと、次回の待ち合わせ場所と、その時に使う無線チャンネルね。
お姉さんはびっくりした目で、サンプルの箱を受け取る。
「お姉さんとなら、また取引しても良いかな。じゃあねー。」
「あ! ……!!」
アタシはお姉さんから離れて、コンテナの積まれた区画の奥の方に行って身を隠した。ヘルメットを離したから、あのお姉さんがその後何を言っていたかは聞いてないけど、跡をつけてはこなかった。
次回のゴミの持ち込み時に、あのお姉さんは待ち合わせ場所に一人で現れた。電波を発する物が付けられてない事は確認した。頼んだリストの物も持ってきてくれたみたい。そこで初めてお互いに自己紹介した。
お姉さん……ケイトさん含めて、このコロニーにゴミ漁りをしに来る人達は転売屋って言われているんだって。
正式には再利用品回収業者って言うらしいけど、そんな長ったらしい名前なんか誰も言わないだろうね。
ケイトさんは最近この星系にやって来たみたい。未処理でゴミを捨ててる話を聞いて、金儲けが出来そうと思って来たんだって。家族は出身の星系で金属加工の会社をしているみたい。
アタシも軽く自己紹介する。
「アタシはこのコロニーで暮らしてる、ジャンク屋のメグ。言った通り、ここのゴミから使えるものを拾い集めて、余ったものを売ってるの。」
この設定は小父さん達と話し合って決めた。
「ガベージで暮らしてる!? 1人で?」
色々引っ掛かる所はあるよね。でも、気になる言葉がある。
「アタシの他に、小父さん達が3人いる。お父さんお母さんは病気で亡くなったわ。
ところで、ガベージって何?」
「……ゴミ捨て場って意味よ。何でそう呼ばれているかは分かるわよね?
それで、メグちゃんってどこからどうやってここに来たの? もし船の故障か何かで流れ着いたんだったら、IDを提示して保護してもらう事も……。」
IDって、身分証カードのことよね。でもそれは無理。
「お姉さんは、ここのコロニーで昔あった事故の事は知ってる?」
「ええ、なんでも氷の塊が星系外から飛んできてぶつかったって。その事故でコロニーの機能がほぼ停止して、住民は全滅したって聞いたわ。」
やっぱり、全滅して誰もいないことになってるんだ。
「小父さん達はその事故の生き残り。亡くなったお父さんお母さん達もそう。アタシは事故の後にここで生まれたから、IDなんて無いの。」
「え!?」
「今まで誰も調べに来てないんだから、アタシ達がここに居るって知られたら何をされるか分かんないし、何をされても訴える所が無いの。
だからお姉さんは、アタシ達の事は絶対誰にも漏らさないこと。これは、お姉さんと取引するための絶対条件。これが破られたら、アタシ達はお姉さんの前に二度と現れないわ。」
「……。」
大分驚かせたみたい。
お姉さんが固まっている内に、取引条件を詰めちゃおうか。
「アタシ達がここで生きていくのに必要な分もあるの。だからお姉さんに提供できるのはその余りとか、アタシ達には要らない物ね。その代わり、お姉さんには……。」
「あなた達が必要な物を持って来てくれって事ね。
この間のリスト、普通の市販の薬とか部品だったから何でだろうって思ってたんだけど……やっと理解できたわ。はぁ……。
それで、確認したい事がまだ二つあるの。
まずメールとか電話とか、連絡が取れる通信手段って無いの?」
メールって何だろう?
「通信手段? 無いよ、そんな物。
あったらとっくに使って助けを求めてるって。」
「……まあ、それはそうよね。
じゃあもう一つなんだけど、サンプル以外で特別に必要な物がでてきたら、リクエストには応じてくれるの?」
「物によるかな。アタシ達に必要な物だったら渡せないし、そうでなければ有る物は渡せるよ。
どうせ必要な物なんて時々で変わるんだから、次の取引の時に持ってきて欲しい物をお互いに紙に書いて交換すれば良いんじゃない?
渡せるか渡せないか、追加で物を渡すかどうかはその時々で話し合えばいいと思うよ。」
「……それしか無いか。はぁ、何でこんな厄介な事に……。」
そうして、お姉さん……ケイトさんとの取引は始まった。
ケイトさんからのリクエストは機械部品や配線だけじゃなくて、こういう部品を作って欲しいとか、壊れた機械を持ち込んできて修理して欲しいとか、そういうリクエストが時々来る。
新参者って言ってたし、向こうでそういう業者さんとの付き合いが薄いのかな?
こっちからは、以前拾ったロボット用の修理マニュアルや特殊な修理部品、あと小父さん達のリクエストでお酒を注文したりもする。
途中から毎回、ケイトさんは女の子用のアレコレを持ってきてくれる。小父さん達には相談出来なかった事だから正直助かる。でもこれはケイトさんの善意だから代価は要らないって断られる。
助かってるからお礼をしたいのにね。
あとケイトさんはこれも善意だって言うんだけど、時々女の子用のお人形やお洋服、それから向こうで流行っているお菓子や飲み物などを持ってくる。
でもお人形は何に使うのか分からなくて、小父さん達に聞いてもアタシにはピンと来なかった。要らないけど再利用もできないから、ゴミのコンテナに捨てたらケイトさんが悲しそうだった。次持ってきたらケイトさんに返そう。
レーションパックしか知らないアタシには、ケイトさんが持って来る食べ物や飲み物の味なんてわからない。小父さん達にあげるか、要らない場合は再利用処理装置行き。
お洋服は実用的じゃなくて動きづらい。特にスカートなんて脚がスース―して気持ち悪いから着たくない。
だから再利用処理装置に入れようとしたら、たまにで良いから着て欲しいって小父さん達が悲しそうな顔をするの。だからとっても処分に困る。
そういえば、髪をバッサリ短く切ろうとした時も同じ顔をされたけど、どうしてだろう?
この話をケイトさんにしたら、ケイトさんはどういって良いか分からない微妙な顔をしてた。
いつもお読み頂きありがとうございます。
前作「王宮には『アレ』が居る」も宜しくお願いします。
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