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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第5章

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5-03 お手紙書きます

 お姉さん達が来るゴミ捨ての日。でもその日は、いつもと様子が違った。

 シャトルの発着場から回収業者達が降りて来るんだけど、それを警備する人数がいつもより多い気がする。数えてみると、いつも20人の所が30人になっていた。


 いつもの様に新しいゴミコンテナがシャトルから降ろされ、そこのゴミから再利用品を探す回収業者達の輪からお姉さん達が締め出されている――毎回これをするのは、仕方なく奥のゴミを探すってことを示すパフォーマンスなの、ってケイトお姉さんが言っていた――のはいつもと一緒。

 でもお姉さん達がゴミ置き場の奥のコンテナに向かっていった時、警備の人達から4人程、お姉さん達の後をつけ始めたの。

 私は『後をつけられてるよ』ってメッセージをお姉さん達に送った。



 それから暫く、警備の人が隠れて監視してる中、お姉さん達はコンテナに入ってはハンディ探知機で再利用可能品を探し、使えそうなものをゴミの山から掘り起こすって作業をしてた。

 後で聞いたら、ゴミから掘り当てた振りをして、向こうから持ち込んだ安い素材を取り出していたんだって。後をつけられるようになった時の為に、前から準備してたらしい。


 お姉さん達がコンテナを幾つか変えてそうした作業をしている内に、ある通路に差し掛かった。ここには、お姉さん達に発信機とかマーカーが付けられていないかを確認するスキャナーが見えない様に設置されてる。

 お姉さん達が通ると、マルヴィラお姉さんの右肩に何か反応がある。

 すぐお姉さん達にメッセージで知らせた。


 次に入ったコンテナで、お姉さん達はコンテナの入口を閉める。

 しばらくして、離れて後をつけていた警備の人達がお姉さん達が入ったコンテナの扉に近寄った。よく見ると、そのうちの1人がタブレットを手に持っている。あれでマルヴィラお姉さんに付けた印を追跡してたのかな?

 でもお姉さん達が今入ったコンテナは、ゴミの山を掘り抜けて反対側の扉から出られるようにしてある。ゴミの山を抜けるから、警備の人達が扉を開けて見ても、お姉さん達がゴミを漁ってるようにしか見えない。抜ける間にゴミの山の中にマーカーを置いて来れば、それを頼りにして追う警備の人を撒くことが出来る。

 20分かけてお姉さん達がコンテナの反対側から出てきたとき、警備の人達は気付いていなさそうだった。




 そうして警備の人を撒いたお姉さん達は、いつものコンテナからエアロックを抜けて会議室にやって来た。


「ケイトお姉さん、マルヴィラお姉さん。お疲れ様!」


「有難う。ゴミの山を通り抜けるのは大変だったけど、あれは助かったわ。」


 ん? ケイトお姉さんは微笑んでくれるけど、なんだかちょっと、いつもと雰囲気が違う。


「メグちゃん。

 今日はあまり、ゆっくりはしていられないと思うの。」


「え、どうして?」


「ここの3区のコロニーの事を探っている人達の、協力者として疑われているみたいね。

 向こうでも監視されてるみたいなの。とうとうこっちでも後をつけられたわ。

 あまりここに長く居て、あの警備に探し回られても困るの。」


 探し回られて、万が一エアロックから出るところを見つかっても困るか。

 ゴミ捨て場への出入口はもう一つあるから、いざという時はそっちを使えばいいんだけど。


「それでね、メグちゃん。

 ……監視が緩むまで、私達は暫くここには来ない方が良いと思うの。」


「ええっ!? そんなあ……。」


 お姉さん達と沢山話したり、料理を習ったりするのは楽しみだったのに……。


「いきなりの話でごめんなさい。

 でも私達への監視は、これからもっと強くなると思うわ。次回は多分、ずっと私達の後ろについて回られる。そうなったらここに来られないわ。

 それに無線通信を暗号化していても、そのうち傍受されるかもしれない。」


 お姉さんが言ってる事は分かる。そうした方が良い事も、分かる。


「どのくらい続くか分からないけど、しばらくは会って話せなくなってしまうわ。でも、だからと言って、メグちゃん達を見捨てる訳じゃないの。

 こうしてメグちゃんと繋がるのを止めるつもりは無いわ。

 だからこれからしばらくの間のやり取りの仕方について、提案があるの。」


 私は俯いてた顔を上げて、お姉さん達の方を見る。


「メグちゃん達から渡してくれる物は、前日までにどこかのコンテナのゴミの中に隠しておいて、私達はそれを拾う振りをして受け取るの。

 この時、1個のコンテナの中に全部入れるんじゃなくて、複数のコンテナに分けてゴミの山に隠して欲しいの。ここまでは良いかしら?」


「……回収品を探してる、そういう振りを見せるためなのね?」


 ケイトお姉さんは頷く。


「逆に私達から渡すものは、ゴミを受け取ったのとは別のコンテナ中に隠して、後からメグちゃん達が掘り起こす。これも良い?」


 私は頷く。


「どこのコンテナに入れたかは、どうやって教えてくれるの?」


「コンテナから出た時に、私かマルヴィラから合図を送るわ。こんな風にね。メグちゃん達のカメラの位置は大体覚えているから、何とかするわ。」


 そう言って、ケイトお姉さんはハンドサインをした。


「うん、分かった。

 でも……お姉さん達としばらく話せないのは、寂しい……。」


「私達もメグちゃんとお話出来ないのは寂しいわ。だからね、ここからがメグちゃんへの提案。

 これ、メグちゃんにあげるわ。」


 そう言ってケイトお姉さんは、荷物の中から何かを取り出す。渡されたのは……線の入ったカラフルな紙と、紙の袋?


「これは封筒と、便箋ね。こっちの便箋に、メグちゃんが話したいことを書いて、折ってこの封筒に入れて……お手紙にするの。

 私に話したいことなら『ケイトさんへ』、マルヴィラに呼んで欲しいなら『マルヴィラさんへ』って封筒の表に書けば、メグちゃんのお手紙を私達のどっちが読むのかが分かるわ。

 その手紙を汚れない様に袋か何かに入れて、渡すものと一緒にコンテナの中に混ぜてくれれば、私達は受け取れるわ。


 私達も、メグちゃん宛のお手紙を書くわ。

 それを私達から渡すものと一緒にゴミの中に隠すから、シャトルが帰ってから受け取って欲しいの。」


 お姉さんに言われた内容を考えてみる……会っては話せないけど、伝えたいことを伝える事はできるんだ。

 会って話せなくなるからって、お姉さん達と繋がれなくなる訳じゃないんだ。


「……つまりね、お手紙交換しない?ってこと。

 しばらく直接会って話せなくなるけど、お手紙でいっぱいお話しましょう。」


「うん、わかった。お姉さん達に一杯お手紙書くね!」




 お姉さん達への手紙は、最初は何を書いて良いか分からなかったから、小父さん達に相談してみた。


「そうだなあ……普段ケイトさん達と話してるような事で良いんじゃないか?」

「ケイトさん達にお願いする事とか?」


 用件だけ書いて送るのって、何か違う気がする。

 ニシュにも聞いてみた。


「それは、ケイトさんやマルヴィラさんに伝えたい事を書けば良いのですよ。」


「伝えたい事?」


「ええ。それは多分、メグさんの気持ちだと思うのです。

例えば、ケイトさんやマルヴィラさんに対してどう思っているか。面と向かっては話せなくても、手紙だと色々書けるんですよ。」


 気持ち……気持ち……何を書けばいいのか、まだピンと来てない。


「例えば、手紙を書いてみてどう思った、ケイトさん達との取引でメグさんが最初どういう気持ちで、どういう風に変わったか。ケイトさん達に感謝の気持ちがあるなら、それを手紙で伝えてみればいいんです。

 失敗しても良いから、まず書いてみましょう。

上手く書けなくても、ちゃんと向こうには気持ちは伝わりますよ。」


 そういう物なの?

 とにかく気持ちを書いてみろとニシュが言うので、監視が強まって会えなくなることについての気持ちを手紙に書いてみることにした。



 しばらく会えなくなるって聞いた時、とっても寂しい気持ちになった事。見捨てられちゃうかもって思った事。ただ物々交換するだけの味気ない関係になるんじゃないかって怖かった事。とても不安な気持ちになった事を書き出していった。


 そして私にとって、お姉さん達が……小父さん達と同じくらい、大事な存在になってるのに気付いた事。

お姉さん達に対する自分の気持ちを手紙に書いていると、どんどん気持ちが言葉になって溢れ出て来る。


 最後に、お姉さん達は大事な人だから、あまり無茶や無理をしないでねって書いた。



 次のゴミ捨ての日になるとお姉さん達が言った通り、警備の人が数人、お姉さん達の近くをついて回っていた。

 お姉さん達には、コンテナを開ける区画を奥の方から順番に変えて貰うように、予めお願いしている。今までここに来てた時との整合性を取るために、一番奥ではなくて、途中の区画から順番に探す振りをして貰う事になった。

 その区画の中で私がどのコンテナに物を隠しているかは、お姉さん達が来たときにテキストメッセージで送る事にしている。


 お姉さん達がコンテナの中に入ってゴミの山を掘り返している時、警備の人はコンテナの扉を開けたまま、外から覗き込んで監視してる。

 警備の人達はゴミの中に入りたくなさそうにしてる。

 彼らは扉からちょっと離れて監視してるから、お姉さん達がこっそりゴミの中に物資を混ぜてくれたりするのはバレてないみたい。


 結局シャトルに帰るまでずっと、お姉さん達は警備の人達に付き纏われていた。

 帰る間際、ケイトお姉さんもマルヴィラお姉さんも、警備の目を盗んでカメラの方を向いて『またね』って口真似をして手を振ってくれた。


 シャトルが去った後でコンテナを調べたら、こっちから渡すものは全部、私の手紙も含めて持って行ってくれていた。

 お姉さん達からの荷物には、頼んでいた医薬品や冷凍食材、調味料の他に、ケイトお姉さんとマルヴィラお姉さんからそれぞれ手紙が1通、小父さん達の宛名が書かれた箱が2つあった。


 ケイトお姉さんからの手紙は、『こんな事になって寂しい思いをさせてごめんなさい』と言う謝罪から始まっていた。

 お姉さんが私の事をもう1人の家族みたいに大事に思っている事、困った事があったら遠慮せずに伝えて欲しい事。いつか3区に滞在して私とお泊りで色々話したいと思っている事……。

 綺麗な字で書かれたその手紙は、お姉さんの私を気遣う気持ちが一杯感じられて嬉しかった。


 マルヴィラお姉さんからもストレートな気持ちを受け取った。私の事を妹みたいで可愛い、大事にしてるって事。ケイトお姉さんの事はしっかり守るから、私も無理をしないで元気でいて欲しいって事も書いてあった。

 あと、マルヴィラお姉さんの手紙には新しいレシピと、調理動画が入ったメモリカードが同封されてた。今回の料理はミソスープらしい。

 お姉さんによるとミソスープはライト小父さんの好物らしくて、作ってみたら小父さんが喜ぶんじゃないかって事だった。

 ミソっていうのは……ひょっとして冷凍食材の中に入ってた、薄黄色の柔らかい塊のことかな?


 小父さん達に届いた箱の事は、中身を調べてから、後でちゃんと教えてくれるらしい。

 先に手紙の返事を書いてあげなさいって言われた。



 届いたミソと冷凍食材を使って、早速ミソスープを作って小父さん達と食べてみた。スープの具は今回の食材に含まれていた、油揚げと冷凍ネギ。


「ああ、これは美味いな。」

「シンプルですけど、これは美味しい。」


 グンター小父さん、セイン小父さんは普通に味わってるけど。


「ああ、懐かしい……あったかくて、美味しい……。」


 ライト小父さんだけはミソスープを泣きながら食べてる。大丈夫なの?


 後でライト小父さんが、毎食ミソスープを作ってくれって私に詰め寄ってきて、グンター小父さんとセイン小父さんに叩かれてた。毎食は流石に飽きるよ?


 ちなみにライト小父さんの実家では、ミソスープにはワカメっていう海藻が入る事が多いらしい。

 じゃあ今度お姉さんに頼んでみるって言ったら、セイン小父さんに止められた。

 このワカメって体の中で消化できない人が多いらしいから、止めた方がいいんだって。


いつもお読み頂きありがとうございます。

ちなみに、生の海藻類を消化する腸内細菌は、日本人くらいしか持ってないそうです。


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