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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第5章

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5-02 裏で動く者達

(??? 視点)


「中将閣下。

 例のお嬢さんからのデータを、解析した結果はこちらになります。」


 そう言ってマッキンリー・ヘンダーソン()()中佐がレポートとメモリーカードを提出してきた。


 特務階級と言うのは、帝国軍を統べる陛下が、特別な仕事をするための権限を持たせるために一時的に貸し与える階級に過ぎない。私も正式には特務中将だ。つまり私は中将と言っても一時的なもので、軍内部で子飼いの部下たちがいる訳ではないのだ。

 マッキンリーと彼の弟ランドルは私の乳兄弟であり、腹心の部下でもある。私と共に赴任してきた直接の部下は、この2人しかいない。

 ハーパーベルト准将は参謀本部付の将校だ。退役間近のため現在は無任所だが、以前は軍情報部で辣腕ぶりが知られたエリートである。今回の任務では陛下の命で情報部の一部局と共に私のサポートに付いているが、彼には割と気に入って貰えているようで色々協力頂いている。


 護衛兵を部屋の外に下がらせて、マッキンリーと2人になる。


 メモリーカードをプロジェクターに差し込み、報告内容をマッキンリーと2人で確認する。

 ちょうど、3区コロニーの近くを掠めて惑星へゆっくり降りていく様子が映し出されている。画像データの右下には、クーロイ星系の標準時の時刻が表示されている。


「マック、奴らも上手いカモフラージュを考えたな。ぱっと見て浮遊小惑星にしか見えないじゃないか。」


「ヘンディ、それは違うぞ……これを見ろ。」


 部屋には2人だけになったので、彼は私をヘンディと、私は彼をマックと呼ぶ。

 彼は端末を操作し、4時間後に惑星を離れていく物体の映像に切り替える。


「こっちの飛んでいく映像をよく見てみろ。重力に逆らって飛ぶための噴射炎が無いだろう。

 俺の予想だが、小惑星に偽装した宇宙船じゃなくて正真正銘の小惑星なんだと思う。恐らく中身をくり抜いて軽くして、そこに荷物を積んでいるんだ。

 惑星に降下する時だけは逆噴射する仕組みがあるのだろうと思うが、惑星を離れる時は多分、惑星上から射出していると思う。あとは姿勢制御用の小型噴射口が幾つか隠されているんだろう。」


「ちょっと待て。それは無理が無いか?

 いくらオイバロスが重力指数0.24の低重力惑星だからと言っても、マスドライバーでこんな大きな物を宇宙へ打ち上げるのは莫大なエネルギーが必要だろう。周りへの衝撃波も大きいじゃないか。」


「しっかりしろ、ヘンディ。

 採掘場は無人だ。そもそもここは何の採掘場だ?」


 ……そうか、リオライトを触媒に膨大なエネルギーを生み出して、それでマスドライバーで打ち上げるって事か。という事は。


「なるほど、星系内のどこかにいる相手とキャッチボールをしているって事か。

 となると、このオイバロスと公転周期が近い所に相手の拠点があるんだろう。そうでなければ、打ち出す時の軌道計算が難しくなる筈だ。」


 マックはプロジェクターの画像を切り替え、クーロイ星系の星系図を映し出す。


「公転周期が近いのは……ここか、ここだ。」


 そう言ってマックが指すのは……1つは、オイバロスの内側を周回する惑星テュンダロス。

 そしてもう1つは、星系の最も外側を周回する惑星アンドロポスの、さらに外?


「公式の星系図には載っていないが、アンドロポスのさらに外側に準惑星……惑星とは言えないほどの小天体が回っているそうだ。公転軌道は20度ほど傾いているが、公転周期はオイバロスの0.97倍だ。

 この星系の開発前の古い資料を探して見つかった。」


 開発前の資料でしか見つからなかったという事は、侯爵が存在を隠すため揉み消したか?


「テュンダロスの線は薄いだろう。恒星に近い分、昼時間の表面温度はかなり高くなる。人が長時間活動できるとは思えん。

 外側の準惑星なら、温度は低くなるが、エネルギーだけはリオライトを触媒に大きな量を生み出せる。公式の星系図からも隠匿されているとなると、ここに拠点を置いている可能性は低くないな。」


「俺も間違いないだろうと思うが、あくまでも推測だ。

 マスドライバーの軌道計算コンピューターのデータでもあれば、確定なんだけどな。」


 そうなるとやはり採掘場の調査は必須か。でもすぐには無理だな。

 1区や2区の採掘場は視察も出来そうだが、そこから抜け出して3区まで行くのは距離的にも現実的ではない。3区から軌道エレベーターで降りるしか無いが、ゴミ捨ての時の様子を見る限り、警備は厳重だ。


「まずはゴミ捨ての日以外の時に、向こうで軌道エレベーターまでの様子を確認して貰うところからだな。

 ただ侯爵側も、俺達の内偵に勘付いている可能性がある。

 手ぶらで頼む訳にもいくまい。こっちから何か手段を用意してやらないとな。」



*****


(??? 視点)


「旦那様、クーロイの3区の処理装置の件、中を探らせた目が回収できませんでした。どうも誰かに持ち去られた様です。」


 邸で執事から報告を受ける。

 あの処理装置の件は、上手く行けば先送りにしたゴミ処理に目途が立つ。

 発注先がトッド侯爵領の企業という事が気になるが、話自体は進めたい。

 しかし目が回収できなかったという事は、やはり裏で探りを入れられたという事か。


 目を誰が持ち去ったのか?

 3区に誰も入り込まない様に、出入りは厳重にチェックさせている。それを潜り抜けて3区に入り込んでも、食料も水も無い環境で長期間潜伏出来る筈がない。

 そもそも、あの装置のデモンストレーション以外は、回収業者しか出入りさせていない。星域内の宇宙船の航行も制限しているし、デモの際に誰かが潜り込んでも帰る手段は無い筈だ。

 だとしたら、予め装置の中に誰か潜んでいたとしても……3区に潜むのではなく、そのまま帰ったのか?


「仕掛けた者には何か聞けなかったのか?」


「現地で回収が出来なかったので、帰ってからもう一度調べる、という話でした。

 クセナキス星系に戻ってから、やはり装置内部にも無かったという連絡が入ったのですが、それ以降は会社のガードが固く近づけません。」


 ……こちらへの連絡だけさせて、軟禁されたか。泳がされていたと見ていいだろう。

 そっちも軍が手を回しているのか。

 だとしたら、そこそこの規模の内偵部隊が居ると見ていいだろう。


「その者に直接接触した手の者は、早急に帰らせよ。

 既に見張られている可能性があるから、ガードは固めておけ。」


「了解致しました。」


 結局、処理装置の中に誰かが潜んでいたと見て良いだろう。その者が目を回収して、そのまま帰った……いや、それだけで済む筈がない。

 軍の内偵だとしたら、3区の調査をする為には……大きなものは隠して持ち込みにくい。調査用の小型ロボットを3区で解き放ったか。

 小型なら活動時間が短い。ということは向こうでデータを回収したり、バッテリー補充したりといった事を行う協力者は不可欠だ。

 という事は……この線が一番ありそうだな。


「3区に出入りする回収業者の中で、軍と通じていそうな奴は居るか?」


「そうですね……可能性の高い者は1人居ます。

 クセナキス星系出身の若い女の回収業者で、2区に事務所を構えています。1人だけ居る従業員も同郷の様です。」


 また、トッド侯爵領か。

 ということはこの女も、初めから内偵目的で送り込まれた可能性があるな。


「その女の経歴と、クーロイにやって来た経緯。そして3区での動向を洗え。

 軍がガードしている可能性がある。慎重に進めろ。

 後は、3区のゴミ回収時の監視を強めた方が良いな。特にその女の動きには注意しろ。

 以上だ。」


「了解致しました。それでは失礼致します。」


 1区や2区への内偵は鬱陶しいが、そもそもあちらには何もない。適当に何かを守っている振りをしていれば、勝手に労力を割いてくれる。

 それに3区に軍の査察部が乗り込んでくる兆候はまだ無い。回収業者の女の動きさえ気を付ければ、当分の間は軍の3区採掘場への内偵は防げるだろう。


 3区の事が知られるのはまだ不味い。

 悲願の成就まではもう少し時間が掛かる。


 そう思って儂はまた、溜まった決済書類の処理を進めた。



*****



(ガストン 視点)


 政府から委託された第三者機関による住民サービスの聞き取り調査、と言う話で店に訪問してきたのは、30歳代の眼鏡を掛けたスーツ姿の男だった。

 名刺を渡してきたので見ると、偶に0区の市街に行った時に路上アンケートを取っている民間調査サービス会社の名前が書かれていた。


「只今、行政府からの依頼で住民サービスの品質向上のためのアンケート調査を行っております。

 お手間は取らせませんので、ご協力頂きたいと思いまして。」


「……まあ、見ての通り今は客も居ないから、少しなら構わないが。」


 そう言うと、その男はアンケート用紙を出してきた。


「まずはこちら、全住民向けのアンケートになります。こちらをご記入頂けますでしょうか。」


 アンケートの内容は一般的な行政サービス……電気、ガス、水道などのインフラや、ゴミ回収、交通等に関する、行政府への評価をする物だった。

 当たり障りの無いように記入し、男に返す。


「有難うございます。後はですね……ゴミの再利用品回収についての聞き取り調査をさせて頂きたいと思います。

 リサイクル品回収と言っても、住民の皆様からの回収の話ではなく、捨てられたゴミからの再利用の話です。

 ゴミ処理場で処理しきれない分は3区で一時保管され、ゴミから再利用品を選別し回収する業者が居る事は、御存じですよね?」


 回収業者の事を言っているのか。


「そりゃあ、回収業者との取引もあるからな。」


「そうですか。

でしたら、回収業者と取引がある所に対しての聞き取り調査もありますので、是非もう少しお時間を頂ければ有難いです。」


 回収業者に関する調査?


「実は、現在登録されている回収業者について、幾つか苦情が上がっている様なのです。そこで、回収業者との取引を行っている会社に対して聞き取り調査を行っています。

 お手数をおかけしますが、まずは聞き取りの前情報として、このアンケートにもお答え頂きたく思います。」


 そう言って男が出してきたアンケート用紙は、政府に登録した回収業者のリストと、それぞれの業者に対する接客・取引内容などの評価を行う物。

 つまり、回収業者が今の数だと多すぎるから減らすかもって事か。


 リストアップされた回収業者の中から、取引が現在ある所、過去にあった所にチェックを付ける。

 過去に取引があった所は、居丈高な態度の所が多かったので評価はかなり低い。お嬢さん達の所は礼儀も正しいし、加工して売ってくれたりして便利なので高評価を付ける。今取引のあるそれ以外の所は普通の評価だな。

 記入してアンケートを返す。


「有難うございます。確認させていただきます……なるほど、この業者だけが高評価な所を見ると、こことは結構取引が多いのですか?」


「そうだな。他と比べて礼儀正しいし、融通も効くからな。」


 それから暫くあのお嬢さん達の事について色々聞かれた。


「なあ、回収業者を淘汰するのなら、駄目な方を聞くんじゃないのか?」


「……そうなんですけどね。

 高評価の部分も公平に聞かないといけない事になっていますので。」


 その後、俺が低評価を付けた業者の事も聞かれた後で、男は帰って行った。

 ただ、低評価の業者に対する質問は、さっきと違って根掘り葉掘りと言う感じでは無く、不思議な感じがした。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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