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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第5章

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5-01 お祝いと、オクタの居る日常

 作戦当日はお姉さん達の置き土産を持って帰って、その日は寝てしまった。

 床下の受け取った荷物は、翌日にロボットを使って回収した。


 カメラについては、ケイトお姉さんの話では内蔵バッテリーで1か月位は稼働するらしい。50㎝立方の箱の上に30㎝のドームがくっついているから、このまま外壁に取り付けるとデブリが当たって壊れる可能性があるから、外壁に穴を空けて箱の部分を埋めて設置して欲しいんだって。

 そして、使用目的もお姉さんに聞いた。


 小父さん達と相談した結果、電源と通信ケーブルを繋いで、宇宙船の録画記録だけじゃなくて管理エリアのコンピュータで解析すれば良いんじゃないかって話になった。でもこれはまだ、お姉さん達には話してない。

 カメラの設置には10日ほどかかってしまった。

 外側の壁に設置用の穴を空けるのと、それぞれのカメラに外から電源供給する改造、カメラからコンピュータまでの通信線と電源の配線、更には配線を見えにくくする処置もした。

 さらに、宇宙船の飛行を検知したら自動で撮影を開始してカメラで追いかけ、飛んで行った先をコンピュータで計算するところまで行うよう、セイン小父さんと私でプログラムを書き上げた。

 手間はかかったけど、後はお任せでデータを取って解析してくれるので、定期的にデータを確認すればいい。


 外殻修理剤は結構な量が入ってた。管理エリア側の外殻を修理するには充分な量があると思うけど、足りなくなったらまた貰えるのかな?

 外殻の修理箇所は多くて直すのに時間は掛かりそう。


 それから、ニシュが捕まえてくれた小型の8本脚ロボット。小父さん達に聞いたら、蜘蛛は小さな8本脚の動物で、他の小さな生き物を捕まえて食べるらしい。このロボットはその蜘蛛って生き物に似せて作られているそうだ。

 ロボットに搭載された簡易AIに命令と条件を組み込めば、勝手に考えて動いてくれる便利なロボットだった。カメラで記録した内容はメモリカードに保存される。狭くて段差が多い所でも動けるけど、車輪じゃないからあまり素早い動きは出来ないみたい。

 セイン小父さんがAIに組み込まれた命令内容を調べてくれたけど、あの装置の格納スペースを撮影して、頃合いを見て記録を持ち帰るように指定されてた。

 このロボットは部品取りで分解してしまうのは勿体ないし、使い道もありそうだから取って置くことにした。

 ただ、元々のバッテリー容量が小さくてすぐに活動限界が来ちゃうし、複雑な命令や行動パターンを覚えられる程のメモリ容量も無い。他にも使い勝手を良くするために、小父さん達とこのロボットを少し改造することにした。




 お姉さん達が来たある日。


「メグちゃん、良いよって言うまで、ちょっとの間座って目を閉じて待っててくれる?」


 そう言ってケイトお姉さんが話しかけてきたけど、一体何だろう?

 小父さん達もなんだかソワソワしてるのが気になるけど、悪い事じゃ無さそうなので頷いて目を閉じる。

 目を閉じてから、急に周りからガサガサと、紙をどこかに擦るような音がしばらく聞こえた後、パチンと照明が切られ周りが暗くなった気がする。

 それから暫くして、ケイトお姉さんが「目を開けて」って言う。


 目を開けると部屋は明かりが消されていて、目の前の机の上には火の灯った蝋燭が15本刺さった、なにか白い物が置いてある。その真ん中に茶色い板みたいなのが載っていて、周りに赤いイチゴが円形に飾り付けられている。イチゴが載ってるってことは、これ食べる物なの?


「「「「「「♪ハッピーバースデイ トゥーユー ……」」」」」」


 そして、お姉さん小父さん達が声を揃えて、歌を歌ってくれてる。


 ……思い出してきた。

 そうだ、まだお父さんお母さんたちが生きてた頃、こうして毎年、誕生日をお祝いしてくれたっけ。この白い物は今まで無かったけど。

 そしてこのお祝いの歌が終わったら、蝋燭の火を吹き消すんだっけ。


 お父さんお母さん達が亡くなってから、なんだかんだバタバタしてて――それに、4人だけの寂しい誕生日会が嫌で――こんな誕生日のお祝いってしてなかった。


 茶色い板には、白い字で『マーガレットへ 15歳の誕生日おめでとう!』って書いてある。

 ……ああ、また思い出してきた。

 お父さんお母さんも含めて、みんな普段私の事を愛称でメグ、メグちゃんって呼んでた。でもお母さんがつけてくれた本当の名前、マーガレットっていう名前も大好きで忘れたくないから、お祝いの時だけは本名で祝って欲しいってお願いしたことがあった。


「「「「「「マーガレット、15歳の誕生日おめでとう!」」」」」」


 もう目が滲んでよく見えないけど、そろそろ、蝋燭を吹き消さなきゃ。

 ふぅーーって蝋燭を吹き消して真っ暗になったら、誰かが部屋の明かりをつけてくれてすぐに明るくなった。

 ふと見ると壁にも色々飾り付けされているし、テーブルの真ん中にはプロジェクターで『マーガレット 誕生日おめでとう!』の立体文字が映し出されてくるくる回っている。

 そして小父さん達もお姉さん達も、皆ニコニコと嬉しそうに私の方を見てくれる。


「あ、あ、あ……有難う……ぐすっ……グンター小父さん、セイン小父さん、ライト小父さん……ぐすっ……ケイトお姉さんと、マルヴィラお姉さんも……ぐすっ……みんな、大好き! わああああああ!!!!」


 みんなの気持ちが嬉しくて、お姉さん達に抱き着いて大泣きしてしまった。私が落ち着くまで、お姉さん達は優しく背を撫でてくれて、小父さん達もかわるがわる頭を撫でてくれた。


 私が落ち着いてから、プレゼントを皆から貰った後、白い物……バースデイケーキを切り分けて皆で食べた。

 ケイトお姉さんからは薄いグリーンのカーディガン。マルヴィラお姉さんからはピンクの口紅。小父さん達からは3人合同でゴールドの細いネックレスを貰った。

 ケーキは生地を焼くところからマルヴィラお姉さんが全部作ったらしい。失敗作をお祝いに出すわけにいかないからって、ケイトお姉さんには手を出させなかったとか。

 みんなの気持ちがこもったケーキは、とっても甘くて美味しかった。


 今回のお祝いはセイン小父さんの発案で、ケイトお姉さんと2人で取り仕切ったらしい。

 セイン小父さんとケイトお姉さんの話に私が入っちゃ駄目って言われてたのは、そういう理由だったのか、と思ってグンター小父さんやライト小父さん、マルヴィラお姉さんに訊いたら、どうも理由はそれだけじゃ無さそうなんだけど、教えてくれなかった。

 マルヴィラお姉さんに訊いてみる。


「それって、私が鈍いってこと?」


「そうじゃないの。まだメグちゃんが経験した事が無くてわからないだけよ。経験すれば、後から『ああ、そういう事だったの』ってわかる筈よ。

 ケイトはそういう経験をしている筈なんだけど、それでも気付いてないから『鈍い』って言われるの。

これ、ケイトには絶対言っちゃ駄目よ……色んな意味でね。

 セインさんとケイトが2人で話してるときは、温かく見守ってあげてね。」


 お姉さんは何だか含みのある言い方をするけど、これからも2人だけで話をしている時は、あまり邪魔しない方が良いって事は分かった。




 お姉さん達が私に料理を教えてくれるようになってから、会議室の横で料理が出来る様料理台を据え付けた。マルヴィラお姉さんから教えて貰う料理はコンソメスープから始まって、煮込み、炒め物と、調理法も作れるものも段々増えてきてる。

 誕生日を祝って貰ってから何回か経った頃。

 今日は餡かけ肉野菜炒めを習ってるけど、調味料を何種類も使うから、覚えられるかな?


「そろそろ、とろみをつける頃ね。

 片栗粉を水で溶いて、それをこの中に入れて混ぜていきましょう。」


「うん、わかった。オクタ、片栗粉持って来て。」


 私の命令を聞いた8本脚ロボットが、シャカシャカシャカ……と動き、調味料置き場から片栗粉の袋を持ってくる。

 私はこのロボットをオクタと名付けた。

 オクタは簡単な音声での命令を理解できるよう、音声認識機能を追加してある。


「……可愛いなあ。オクタちゃんが家にも欲しい。」


 ケイトお姉さんが呟く声が聞こえる。


 私は袋からお玉に片栗粉を少し入れる。それを水で溶いている間に、ケイトお姉さんが同じように片栗粉をお玉に入れてる。

 ケイトお姉さんが入れ終わったのを見て、オクタに次の命令を出す。


「オクタ、片栗粉の口をクリップで止めて、置き場に戻してきて。」


 ロボットは私の次の命令の通り、片栗粉の袋の口を前2本の脚を使って器用にクリップで止めた後、袋を調味料置場へ戻していく。


「便利ねえ、それ。」


「簡単な命令なら音声で出来るように改造したら、思った以上に便利だったの。

 火を使う時は目を離すなって言ってたでしょ。それに調味料を間違えたくないしね。」


「メグちゃん、それは私への当てつけ?」


 あ、ケイトお姉さんがちょっと怒った。


「えっと、そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさい。」

「メグちゃんが謝る必要ないわ。

 ケイトがそういうミス多いのは事実なんだしね。」


 マルヴィラお姉さん、料理に関してはケイトお姉さんに対して結構辛辣だね。


「ほらケイト、貴女も手を止めてないで。

 お鍋をちゃんとかき混ぜないと、とろみがつかずに塊ができるわよ?」


「……あっ!」


 料理を作ったあと、いつもの様に小父さん達も入れて6人で食べた。

 私の方はマルヴィラお姉さんが言うには「初めてにしては上出来」だそう。ケイトお姉さんの餡かけもそれなりの味にはなったけど、片栗粉の塊が幾つかできてしまった。


「メグちゃんは筋が良いわね。

 それに初心者にありがちな失敗はケイトがしてくれるから、それを見て学べるのも上達が早い理由なのかな?」


 マルヴィラお姉さん、ちょっとそれは……私も思わなくも無かったけど。

 ケイトお姉さんがむくれちゃうから、思ってても口に出さなかったのに。


 料理を食べた後、オクタを改造した成果をお姉さん達に披露した。

 音楽に合わせて躍らせたり、ジャグリングさせたり、グーチョキパーのカードをオクタの前に置いてオクタとジャンケンしたり。


「わ~オクタちゃん可愛い!」


「ここまで出来ると面白いわね。

 色々家事のお手伝いもしてくれそうだし、家事ロボットより便利かも。」


 ケイトお姉さんはやたらと可愛い可愛いを連発してた。

 一方マルヴィラお姉さんは実用的で面白いって感想だった。

 可愛いって感覚は分からないけど、ともかく二人とも楽しんで貰えたみたいで良かった。




 カメラをコロニーの外壁4か所に設置して以来、撮影データは2日毎に確認している。

 データを取り始めて10日目、3区コロニーの近くを通って下の惑星へ降りていく物体をカメラが捕えた。しかし、その時間は夜時間。恒星が惑星の真反対側にある時間帯で、物体を照らす光は無かったので、大体の大きさや輪郭ぐらいしか確認できなかった。

 その物体が惑星へ降りて行って4時間後、まだ夜時間が明けない時間に、今度は惑星表面からコロニーを離れた方向へ、似たような物体が飛び去って行く映像が確認できた。


 このデータを解析したところ、物体は全長45m、幅20m、高さ20m位の大きさがあった。輪郭は全体的に不規則に凹凸がある。

 この物体の映像データの明度を上げてみると、岩か何かに覆われているように見える。惑星に降りたり出て行ったりする映像を見なければ、岩の塊か何かに見えないことも無い。


「これってやっぱり宇宙船だよね?」


「それはそうだね。宇宙で見かけたら浮遊小惑星って見えなくも無いけど、それが惑星表面から飛んでいくって有り得ないからね。」


「でもこれだけだと、横流しの証拠にはならんだろうな。」


「次は軌道エレベータを動かして、下にいって調査してくれって言われるんじゃないか?

 それはいくら何でも、俺達には荷が重いな。」


 確かに、次に協力者に何を頼まれるかが分かんない。あまり危険な事は頼まれたくないし。次にお姉さん達に会ってデータを渡した時に、あまり危険な調査依頼は受けないって言わないとね。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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