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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第4章

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33/230

4-07 紡ぎ歌は一人歩きする

今回は俯瞰視点です。

 AM3区のラジオ放送が流れ始めて2か月ほど経った頃。

 毎週水曜日の午後5時30頃になると、ラウロが『星姫ちゃん』と名付けた女性の神秘的な歌は相変わらず流れていた。

 ただこのラジオ放送の存在は、ラウロ含めたクローズドボードの住人以外にはあまり知られておらず、ひっそりとボード内で議論が交わされていた。


---------

324: 名無しのラジオ好き

 こうして昔の年代のラジオをランダムに聞いてると

 流行りの音楽の傾向って結構繰り返すんだな


325: 名無しのラジオ好き

 初めてキャランドゥの『私はロバ』聞いてハマった

 録音したくてもう一回掛かるのを待ってたが

 あの1回以降全く流れん


326: 名無しのラジオ好き

 >>325

 そんなドマイナーなものを……。

 確か265年頃の曲だぞ

 古すぎて俺もデータ持ってない

 

327: 名無しのラジオ好き

 そういや3区の生き残りが居るかもって話はどうなったっけ

 誰か回収業者に聞ける伝手ないのか


328: 名無しのラジオ好き

 >>325

 これか?

 (リンク)


329: 名無しのラジオ好き

 >>328

 声が違う

 誰かのカバーか?


330: 名無しのラジオ好き

 >>327

 保留中

 因みに過去の議論はこっちな →(リンク)


---------


 ラウロとロイも時々ボードを覗いているが、その週のラジオで掛かっている曲の年代など、放送されている内容が話題の中心になっていた。

 ラウロはロイに相談する。


「アレの事、ここで相談した方が良いと思う?」


「一応、話題に上げた方が良いと思うな。」


 ラウロはロイの同意を得て、ボードに投稿する。


---------

331: 名無しのラジオ好き

 どうしようこれ

 →(リンク)


332: 名無しのラジオ好き

 >>331

 おい待て

 どこから漏れた


333: 名無しのラジオ好き

 >>331

 クーロイで12000 Goodって凄いな


 >>332

 星姫ちゃんって出てる時点で察しろ


334: 名無しのラジオ好き

 >>332

 想像だけど


 学校で女子が勝手に僕の端末からデータ持って行った

 → BGMにした謎ダンス動画UP

 → これを参考に女子高校生がダンス動画UP

 → バズった(イマココ)


----------


 以前ラウロの端末から曲データを持って行った女子達が曲を気に入り、これをBGMに謎ダンスを踊った動画を動画投稿サイトにUPした。

 そして別の女子高校生がこの動画を気に入って、これを参考に友達数人とコンテンポラリーダンス動画をUPした。

 このダンスが寸劇の要素もあって面白いと、星系内の高校生や大学生を中心に拡散していった。人口が10万に満たないクーロイ星系で1万を超えるGoodが付くのは非常に稀である。


----------


335: 名無しのラジオ好き

 >>334

 AMラジオの件は?


336: 名無しのラジオ好き

 >>334

 そういえば娘がこの動画好きだって言ってた

 曲はよく聞いてなかったから気付かなかった


337: 名無しのラジオ好き

 >>335

 単に曲が好きだから持って行っただけ

 ラジオの話はしてない


338: 名無しのラジオ好き

 もうどうしようもない

 ラジオとセットで話すのは止めとこう


339: 名無しのラジオ好き

 動画のレス見たが

 歌手は誰だとか、曲名は何とかの話題は多いが

 歌詞の内容まで踏み込んでる奴はいなかった


 どっち道どうしようもない、放っておこう


----------


「……やっぱり、放っておくしか無さそうだね。」


「拡散した時点でどうしようもないよ。」


 その裏で、データを持って行った女の子の「キャー! FMの取材だって!」という声と、それに反応した女子達が群がっていた。



*****


 0区に2局あるFMラジオ局の1つ、ホットビートFMの人気番組『ウィークリー・ホットビート100』の番組DJ、マリー・ケンジットは困惑していた。


 この番組に限らず、ラジオで曲を流す際には当然曲や歌手の紹介をしなければならない。しかし幾つかの番組で、歌手も曲名も不明のある曲に対するリクエストが入り始めている。

 数が少ないうちは無視も出来たが、動画が拡散し人気が出るとリクエストも増えて来る。他の番組では歌手名も曲名も不明でもなんとか流す事は出来たが、この『ホットビート100』ではそうはいかない事情がある。週間ランキングを番組サイトに載せているので、歌手名や曲名が分からないと、ランキングを見ても何の曲か見る人が分からないのだ。


 それでも先週まではまだ50位以下のランキングだったので、放送内では10秒くらいの尺しかなく、ダンス動画に上げられた『歌手:星姫ちゃん? 曲名不明』という情報と、動画内容や拡散度合いの紹介で凌いできた。

 しかし、今週になって動画の拡散とリクエストが急増し始め、一気に上位20位以内に食い込みそうな勢いである。


 切ない別れとそれを乗り越えて前を向く気持ちを歌っていることは感じられる。流行りの曲調ではないが、若干幼さを感じさせる声質と、聞き手の感情を揺り動かす力強さ。動画が切っ掛けとなったが、曲自体かなりいい曲だと思う。

 人気も上がって来たし、そろそろこの曲の詳細な情報が欲しい、追加情報が無いと番組の間がもたない。そんな声が同僚のDJ達からも挙がっている。

 マリーはダンス動画をUPした女子高校生にメッセージを送り、取材を申し込んだ。割とすぐOKの返事が来たので、音声通話で今からでも問題ないかを聞くと即OKの返事が返ってきた。

 早速音声通話のリンクを送り通話を立ち上げると、直ぐに相手も入ってきた。


「こんにちは。FMホットビート100の番組MCのマリー・ケンジットです。今サイトで話題の寸劇ダンス動画をUPしたミメイちゃんですか?」


「きゃ~、本物のマリーさんだ~! はい、ミメイです。

 この通話って番組で放送するんですかぁ~?」


「えっと、この取材内容は番組で放送しませんから、気楽に話して貰っていいですよ。

 今あの動画が結構バズっていますね。私もあのダンスが面白くて、時々見させてもらっています。」


「ホントですか!? 嬉しい! 有難うございます!」


 そうしてしばらく雑談した後、本題のあの曲の事について尋ねると


「あーあの曲ですか?

 元々一緒にダンスを踊ってるブリちゃんの妹がUPした動画で使ってた曲なんですよ。曲データもブリちゃんが妹から貰ったらしくて。で~、その妹もクラスの男の子からデータを貰ったんだって言ってましたよ?

 なので、私もソースは知らないんです。」


「そっかー、有難う。

 その曲についてもっと詳しい情報が知りたいんだけど、もしよかったらそのブリちゃんの妹がUPしてる動画のリングを送ってくれないかな?」


「良いですよ~。」


 そうしてミメイちゃんから送られて来た動画を確認する。……歳の頃は小学生か。詳しい話を聞こうとしたら親の許可が必要な年齢だし、取材面倒そうだなあ。

 

 ミメイちゃんとの通話を終了してから、ブリちゃんの妹という動画のUP主にメッセージを送って取材を申し込む。

 OKの返事が返ってきたのは午後12時過ぎ。そっかー学校だよね。

 ……ミメイちゃん、女子高校生じゃなかったっけ。午前10時頃で即取材OKしてくれたあの娘、一体何してたんだろう?


 音声通話での会話もOKを貰ったから、リンクを送って通話を立ち上げる。


「こんにちは。FMホットビート100の番組MCのマリー・ケンジットです。今サイトで話題の寸劇ダンス動画をUPしたミメイさんから聞いてご連絡しました。動画をUPしたリリーちゃんですか?」


「はい、そうです! ラジオはお姉ちゃんとよく聞いてます。」


 辛うじて聞こえるけど、周りにいるだろうクラスの子がキャーキャー煩い。慌ててボリュームを下げる。


「あっと、リリーちゃんの声がよく聞こえないから、周りの子たちは静かにしてくれるようお願いしますね。」


「ごめんねー、ちょっと静かにしてて。

 ……あ、これで聞こえますか?」


 静かになったのでボリュームを上げる。


「うん、大丈夫。ありがとね。」


 マナーとして、リリーちゃんの動画を見たことを感想と共に伝えて、あの曲の出元について聞いてみると、


「あ、あの曲?。

 あれはクラスのラウロ君が聞いてた曲データを貰ったんです。あの子電波少年だから、どこかで拾ったんだと思うんですけど。ラウロ君呼んでみましょうか?」


 電波少年? 拾った?


「んーそうね。もし代われそうなら代わって貰っていいかな?」



*****


「ラウロくーん、ちょっと来て!」


 さっきの女子集団から声が掛かった。何だろう?


「んっと、よく分かんないけど、あの曲の事を聞きたいんだって。」


「誰が?」


「FMラジオの……マリーさんだっけ?」


 FMラジオは聞かないからよく知らない。誰なんだろう?

 とりあえず、差し出された携帯端末で立ち上がっている音声通話で話をしてみる。


「ラウロ君ですか? 初めまして。

 私はホットビートFMでDJをしている、マリー・ケンジットです。」


「あ、ラウロです。

 すいません、FMラジオあまり聞いてないのでよく知らなくて。」


「いきなりごめんなさいね。私はFMラジオで、一週間の間でリクエストとかで人気が出ている曲を紹介する番組をしているの。

 最近動画サイトで流行ってるダンスの動画は、ラウロ君は知ってますか? あの動画で掛かってる曲について、リリーちゃんに聞いたらラウロ君から貰ったって聞いたので、話を聞かせて欲しいなって思ったの。」


 あ、これやばい。


「えっと、動画で使ってる曲ですか?

 ……ちょっと、後でもいいですか? もうそろそろ昼休み終わるから。」


「そっか。ラウロ君って小学生だよね。

 ちゃんと取材申し込みしたいから、お父さんかお母さんの連絡先を教えてくれないかな?」


「いいですけど、これ僕の端末じゃないから、どこに送ればいいですか?」


 教えて貰ったのは、FMラジオ局の番組サイトの『問い合わせ』リンクだった。

 ちょっと後でお父さんと相談しよう。




 あの後ロイとも相談したけど、結局お父さんと相談してみようということになった。

 お父さんが帰ってきて、夕食を食べた後にお父さんに相談する。


「ウィークリー・ホットビート100って、人気番組じゃないか。それがどうして、ラウロに取材を?」


「それがね、この動画なんだけど……。」


 ラウロは父親に女子高校生のダンス動画を見せ、動画で使われてる曲の出所が、ラウロが受信機で拾ったものだと明かす。

 取材はこの曲の事について聞きたいらしい、という事を父親に告げる。


「成程、この動画が人気が出たから、かかっている曲の事を知りたいと。

 それだけだったら、取材は別に構わないと思うけど、ラウロは何をお父さんに相談したいのかな?」


「……ちょっと、この曲の出所は秘密にしたくて。」


「どうして?」


 3区のAMラジオの件を父親に話すべきか迷っていたが、事が大きくなって自分に降りかかりつつある今、これ以上秘密を抱えたままで居るのは、小学生のラウロは正直辛かった。

 ラウロは勉強部屋に父親を連れて行き、AM3区のラジオが流れている事、週に1回放送する週が切り替わる際にあの曲が流れる事、それからクローズドボードの内容を父親に明かした。


 ラウロの父親は、ラウロに妄想癖がある事は理解していたから、取材でその妄想を垂れ流されても相手が混乱するだろう、取材を受けるとしても自分が整理して伝えなければと思っていた。

 しかしラウロから明かされた内容は、単純に妄想として片付けるにしては筋が通っていて、気味の悪さを感じた。ただこの秘密を抱えることがラウロにはかなり負担になっている事は理解できたので、ラウロから全部聞き出した上で、ラウロにこう言った。


「こんな事を抱えていて、ラウロは大変だったな。

 取材の件はお父さんに任せなさい。

 お母さんにもこの話は内緒にしておくから、ラウロもあまり学校でこの話を広めないようにね。」


 ラウロは父親に秘密を委ねる事ができてホッとした。

 ただ、クローズドボードの内容は父親も見る事、書き込みはラウロが勝手にしない事を約束させられた。


 取材は結局、ラウロの父親がラウロを交えない形で応じ、偶々受信機で拾った電波で掛かっていた曲だと誤魔化した。




 マリーは番組の前日、次のホットチャートランキングを確認すると、例の曲のランキングは18位になることが分かった。上位にランクインしたので、ある程度詳しい情報を話さなければいけない。

 取材の結果、結局歌手や曲名について分からなかったが、ラウロ君がどこか宇宙から流れてきた電波から拾ったというエピソードは使えると思った。

 これを踏まえて、曲名をどうするか考え、スタッフとも相談した結果、スタッフの伝手を含めて他星系で音楽業界に携わる関係者達に、曲について知っているかを問い合わせた。

 しかし返信が放送に間に合わないため、一旦『歌手:星姫 曲名:星に祈りを(仮題)』としてランキングに載せることにした。


いつもお読み頂きありがとうございます。

4章の人物紹介は近いうちにUPします。

仕事が忙しくなってきたので、5章のUPは2~3日に1話ペースになりそうです。


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よろしくお願いいたします。

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