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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第4章

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4-06 作戦の後始末

今回も視点が何度か変わります。

(ケイト視点)


 トム氏と思われる連絡員の相手は言います。


「無事受け渡しは完了したようですね。それでは、カメラの設置の手筈をお願いしますよ。」


「それは良いのですが、中を覗き見していたのはどういう事でしょう? カメラの付いた小型ロボットがダクトに隠れていた様ですけど。」


 そう言うと相手はしばらく沈黙します。


「カメラ付きの小型ロボット?

……いえ、それは誓って我々ではありません。

ちなみに、そのロボットはどうしました?」


「すぐにバッテリーを抜いて一緒に回収したそうです。」


「成程。ひょっとしたら、探りを入れられたのかもしれません。出所はこちらで調査しましょう。

 これは迷惑料だと思って、受け取って貰ってください。」


 そう言って、彼はアタッシェケースを置き、私の方に押しやります。

 受け取ってケースを少し開けると、缶詰やパック飲料などの宇宙食の他、銀配線等の修理素材が入っています。

 そのままケースを閉め、バックパックに仕舞います。


「こういう品でしたら、向こうも受け取るでしょう。後で詳しい事をお聞きしても?」


「話せないことも出てくると思いますが、それで宜しければ。また後日、こちらからご連絡します。」


 頷くと、彼はそのまま装置を回り込んで去っていきます。


 彼が見えなくなってから無線を切り、マルヴィラにバイザーを付けて話しかけます。


「これ、メグちゃん達への迷惑料ですって。」


「それじゃあ、その装置の下にやっとけば、受け取ってくれるんじゃない?」


「メグちゃんの場所は結構奥よ。そこまで押し込んでたら私達が怪しまれるわ。

それよりは、ゴミの中に置いて来る方が良いと思うわ。」


 カメラの方に見えるようにこっそりアタッシェケースを指さしてから、マルヴィラのバックパックにケースを仕舞います。


 その後、プレゼンが終わって装置の片づけを手伝います。


 プレゼン時間はそんなに長くなかったので、ロボットが装置の前に運んだゴミコンテナの中身のうち、装置に取り込まれなかった分がまだまだ残っています。

取り込み口をコンテナの中から引き抜いて片付ける手伝ったあと、最後の確認をする際に、マルヴィラにこっそりケースを残りのゴミの中に埋めて貰いました。ついでに私も、持ってきた物資をバックパックから取り出し、ゴミの中に隠します。

 そうしてコンテナを出る際に、カメラに見えるようにこっそりコンテナの中を指差してから、残りの作業に戻りました。



*****


(セイン視点)


 メグの仕事は終わったけど、引き続きゴミ捨て場の様子を監視していた。

 ついでにケイトさんの様子をこっそりチラチラ確認していたら、ライトから声が掛かった。


「セイン、ケイトさん達に誰か近づいて来るぞ。」


 おっと。あまりケイトさんばかり見てると、他の事を見落としてしまう。

 視察団は装置の格納スペースを開いた中を確認しているけど、そこからアタッシェケースを持った人物が1人離れて、装置をぐるっと回ってケイトさんの後ろから近づいていく。


 『後ろから人が来る』ってメッセージをケイトさん達に送る。


 その人物は宇宙服のバイザーをスモークにしていて、顔は確認できない。メッセージを受け取ったのか、ケイトさん達は後ろを振り返ると、その人物はケイトさんに何かを渡す。それからケイトさんは宇宙服に付いた端末を操作して、その人物と会話しているように見える。


 しばらく見ていると、その人物を手に持ったアタッシェケースを置き、ケイトさんの方に押しやって、来た道を戻っていく。

 ケイトさんはしばらくマルヴィラさんとバイザーをくっつけて会話をした後、私が見ているカメラの方を向いて、ケースを指差す。

 ケイトさんはそのケースを、マルヴィラさんの宇宙服のバックパックに入れる。

 何だろう? 同じ様子を見ていただろうグンターとライトに声を掛ける。


「なあ、あのケースは何だろう?」


「後で受け取れって事じゃないか?

 何もなかったら、俺達に合図出さないだろう。」


 その後、視察用にロボットが運んだゴミコンテナの中をケイトさんが指差したのを確認した。

 そのコンテナを後で調べろって事か。



*****


(メグ視点)


 じっと待っていると、小父さん達から『シャトルが帰って行ったよ。通信はもう大丈夫。』とメッセージが入ったので、無線通信をONにする。


「もう出て大丈夫?」


『大丈夫。もう誰も居ない。ケイトさん達も何事も無く帰って行ったよ。』


 扉を開けて、床下からシャトルの帰った後の真っ暗なゴミ捨て場に出る。ずっと座り姿勢だったので伸びをする。


「んー、やっと終わった。」


『お疲れ様。

先に、SW-442のコンテナの中を調べてくれないか? ケイトさん達の置き土産があるみたいだ。』


 床下に通じる扉を閉めて、指定されたコンテナに向かう。

 そのコンテナを開けるとゴミの量は元の3分の2くらいになってる。多分、このコンテナのゴミの処理をしたんだと思うけど、あんまり減ってないね。

 ニシュと手分けしてゴミの中を探すとアタッシェケースが見つかった。ナンバー式ロックが掛かっていたので、ケイトさん達に聞いているいつもの番号を指定すると鍵が開いた。中身は冷凍食品の詰め合わせだった。

 ふとニシュを見ると、ニシュの方もアタッシェケースを見つけたみたい。そっちは缶詰とかパック食品の他、新品の銀配線なんかが入ってたみたい。


「ケースを2つ回収したよ。」


『ケイトさんから合図があった時は1つだったから、もう1つはケイトさん達の持ち込みかな?

 ともかく、帰っておいで。

床下の荷物は明日にでもロボットを使って回収しよう。』



*****


(ケイト視点)


 3区から帰ってきて翌日、早速ライアンお兄様から呼び出しがありましたが、指定された待ち合わせ場所は、先日の0区の高級ホテルの近くにあるレストランでした。

 直ぐに来いと言われましたが、私達が居るのは2区なので、支度を含めて4時間は掛かると伝えると、代わりに明日の朝10時を指定されます。それだと諸々含めて朝5時には起きないといけません。

 いつからこんなに、人の都合を考えなくなったのでしょうか……あるいは、私が暇だと思っているのかも知れません。

 朝10時は無理だと伝え、13時ならと答えると、渋々了承されました。


 翌日、マルヴィラを伴って指定場所のレストランに行き、ライアンお兄様の名前を出すと個室に案内されました。


 席を勧められてお兄様の向かい側に着席すると、お兄様が話し始めます。


「昨日の視察はまあ、上手く行った。

あっちに捨てられたゴミの最終処理に目途が付きそうだと視察団も高評価だったよ。」


「それは、良かったですね。」


 視察団へのプレゼンが上手く行った事は良かったです。


「ゴミの処理時間が結構掛かるとか、いろいろネックがあるから、導入はまだ先になるだろうがな。しかし、これでこっちの自治政府への足掛かりも出来た。

 お前の役目はこっちの政府との足掛かりを作る事だったのだろう。それは私達が引き継ぐから、お前はもう戻っていいぞ。」


 ……何を言っているのでしょう。


「ライアンお兄様は勘違いをされている様ですね。

 最初だけは御父様には契約社員扱いにして頂きましたけど、既に回収業者として会社を作っていますし、御父様の会社とは資本関係はありません。

 今回の視察のサポートの仕事は、会社側からどうしてもと頼まれたからやっただけの事です。」


「回収業者なんて仕事は女がする仕事じゃないし、危険な目にも逢っていると聞くぞ。どうせ利益も上げるどころか、赤字を垂れ流しているんだろう。

 そんな会社はすぐに畳んで、大人しく帰ってきなさい。」

 

 どこまで行っても、ライアンお兄様との話は平行線の様です。


「利益を上げてちゃんと会社として回っている……と言っても無駄なようですね。これ以上幾ら話し合っても無駄でしょう。今回の報酬の振込はきっちりお願いしますね。

 それではお兄様、失礼します。」


「おい、待て!

 マルヴィラも、ケイトを連れ戻してこい!」


「ライアン様。

 私はもうエインズフェロー家の使用人ではなく、今はケイトの会社の従業員です。貴方のご指示を受ける立場ではございません。」


 喚くお兄様を置いてレストランを後にします。

 こうなるだろうとは思っていました。やはり時間を無駄にしただけでしたか……残念、昼食を食べ損ないました。


「マルヴィラ。お兄様の相手で疲れましたし、『雷鳴軒』でステーキでも食べて帰らない?」


「いいわね。私も丁度、ガッツリ食べたいと思ってたの。」


 私達は、0区で行きつけのステーキハウスへ向かいました。



*****


(??? 視点)


 処理装置内部へロボットを忍ばせるのは視察団には無理だろう。恐らくエインズフェロー工業側の誰かが抱き込まれたのではないか。そう思って、処理装置の片付けと撤収の様子を観察していると、格納スペース内の片付けをしている中に1人挙動がおかしい者が居た。

 その者は格納スペースの片づけの際、モップの様な物をダクトに当てて掃除しているかのように見せているが、モップが動いておらず、手元で何かを操作している。暫くそんな事をしていたが、他の者に注意されて作業を止め、他の手伝いに回っていた。さり気無く近寄って顔を確認すると、処理装置の開発エンジニアの1人だった。

 その後シャトルに乗り込むまでは怪しい動きは無かったが、帰る途中のシャトルの中で視察団の中の1人が彼に寄っていき話を始めた。あれは確か、自治政府組織内の調整役、総務課長だったか?

 シャトルが0区に着き、回収業者を除く全員――ケイト嬢含め、回収業者達は2区に拠点を置いている者が多い――が降りてから准将の部下と合流し、件のエンジニアの身柄確保と、総務課長の尾行および動向調査を依頼した。


 エンジニアを極秘裏に確保し尋問したところ、小型ロボットの仕掛けは総務課長側から依頼されたものだった。小金欲しさに誘いに乗ったらしい。カルロス侯爵側としては、3区に大型機械を持ち込んで何をするのか、裏の意図が無いかを把握しようとしたのだろう。

 彼はロボットを回収できなかった事をシャトルで総務課長に報告し、クセナキス星系に戻って再調査してロボットが見つからなかったら改めて総務課長に連絡する事になっているようだ。

 准将と相談し、今は彼を放免する代わりに、再度総務課長側から連絡があれば、クセナキス星系にいる准将の手の者に連絡するよう、たっぷり脅しておいた。


 ロボットは電波式では無く撮影記録は向こうに漏れていなかった。3区に生存者がいる事は気付かれないだろうが、3区に我々の調査の手が入り始めた事は勘付かれるに違いない。

 これで、こちらから3区の下の調査のために人を送り込むのは難しくなった。



 ケイト氏から格納スペースの覗き見を指摘された時は、内心驚いた。あからさまにカメラを仕掛けて彼らの不信感を買うのは現段階では不味いが、彼らの動向は把握したかった私は、格納スペースの壁にサーモグラフィーを仕掛けて、スペース内の人の動きを記録していたのだ。

 サーモグラフィーの記録を確認すると、格納スペース内に荷物を回収しに入ってきた人物は1人。身長は140㎝前後と推定されるため、格納スペースに入ったのは事故後に産まれた子供なのだろう。

 記録を見ていると、この子供が時々不可解な動きをしていた。格納スペースに入ってから扉を閉めるまで少し時間が空いたり、誰も居ない方を向いたり、挙句の果てにはジェスチャーをしたり……。あたかもそこに誰か居るかのようだが、サーモグラフィーには何も反応がない。

 熱を遮断する仕様の、軍の戦闘部隊や近衛などが使用する高性能な宇宙服を着ているとは思えない。という事は……。


「置物になったはずの、アンドロイド……。」


 何らかの手段で修理したのか。これは一段と鍵の回収が難しくなったな。

 

いつもお読み頂きありがとうございます。


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