1-02 メグの過去と、あの事故
ちょっと短めです。
アタシはあの事故の事を、直接は知らない。
あの事故――昔、大きな氷の塊が飛んできて、コロニーの居住区域にぶつかった。ぶつかった場所は勿論、その衝撃で穴が開いたり空気を維持する装置が壊れたりして、ほとんどの居住区域が駄目になった。勿論、そこにいた人たちも。
今アタシたちの居る区画は奇跡的に隔壁が壊れたりしなかったけど、衝撃でみんな壁や天井に飛ばされたらしくて、それで亡くなった人もいるし、小父さん達や両親も結構な怪我をしたとか。
あの事故で生き残ったのは20人位だったらしい。折角生き残ったんだから、力を合わせて救助が来るまで頑張ろう、とみんなで力を合わせて、壁の補修や再利用処理装置の改修、怪我で動けない人の介抱などをしてた。
外との無線通信の設備も1個だけ残ってて、そこから救難信号をずっと出してたけど、何日経っても救援が来ることは無かった。デブリ処理のために軍の航宙船が来た事もあったけど、その時は何故かエアロックが開かなくて、直接助けを求めに行くことが出来なかったらしい。
半年経った頃には、もう救助は来ない、自分達は見捨てられたんだって絶望感が広がっていた。
1区や2区コロニーとの軌道ケーブルが残っていたから、そこを伝って脱出しようと試みる人達が現れ出したのはこの頃らしく、ぽつぽつと人が減っていったらしい。
そうして居なくなった人たちは……無事脱出できたのかどうかわからないけど、誰も帰ってこなかった。
お父さんはライノって名前のロボット技師。お母さんはメリンダって名前で看護士をしてた。お父さんもお母さんも別々の星系で生まれて、人員補充ってやつでこのコロニーに来たんだって。お父さんが怪我をしたときにお母さんに出会って、猛アタックして結婚したって、昔お父さんから聞いた。
あの事故の時は結婚直後だったみたい。何とか二人共生き残ってみんなと一緒に頑張ってたけど、半年経った頃にはみんなと同じように、お父さんもお母さんも疲れ切っていた。
軌道ケーブルを伝っての脱出を他の人にも誘われたけど……その頃には、アタシがお母さんのお腹の中にいる事が分かったから、無理だって断った。妊婦が宇宙服で外に出ると、お腹の中の子供に悪い影響があるんだって。
脱出せずに残ったのは、小父さん達や両親含めて10人。その中に女性のお医者さん、マンサ小母さんが居て、小母さんの手伝いでお母さんは何とかアタシを産んだ。
女の人はお母さんとマンサ小母さんだけで、2人は船外活動や装置のメンテナンスなんてできないから、赤ん坊のアタシを2人で交代してずっと世話していたらしい。
アタシがある程度大きくなって歩いたりできるようになると、お母さんの付き添いで区画内をあちこち歩き回った。走れるようになってからが大変で、お母さんだけじゃなくてお父さんも付き添う事になった。
基本的な字や数字、計算なんかはお母さんやマンサ小母さんに教えて貰った。
絵を描くのはグンター小父さん達に教えて貰った。ああ見えてって言うと怒られるけど、グンター小父さんは絵を描くのが上手い。
運動の事を教わったのは主にライト小父さん。グンター小父さんは体が大きいから運動が得意かと思ったらそうでもないらしい。
工作とか裁縫なんかの、手先を使う事を教わったのは主にセイン小父さん。小父さんが言うには、お母さんもマンサ小母さんも裁縫の腕は壊滅的だったらしい。
他の小父さん達もとっても良くしてくれた、3人含めて、アタシにちゃんと向き合ってくれた小父さん小母さん達は小さい時からみんな大好きだった。
お父さんには、いっぱい一緒に遊んでもらった。お父さんは昔人見知りが激しくて、人の少ないここに志願したらしい。あの事故以降生活は大変だけど、お母さんとアタシがいて幸せだっていつも言ってた。
お母さんは、お歌をいっぱい聞かせてくれた。お母さんはいつもニコニコしてて、よくその場の気分で歌う人だった。
お母さんのお母さんは歌で有名な人だったらしい。お母さんもその道に誘われたらしいけど、お歌は楽しく歌うもので仕事で歌いたくないからっていう理由で断って、看護を学んでここの募集に志願したって聞いた。
お父さんがお母さんを好きになったのも、お母さんが楽しそうにお歌を歌っている所だったらしい。
ただ生活は今よりずっと大変だった。外から来る物が殆ど無かったから、食料や水の確保から難しかった。
使えなくなった居住区画を宇宙服で回って、使えるものは何でも回収した。それでも足りないからあちこちコロニーを調べていたら、農業生産ブロックが1区画奇跡的に生きていて食料を確保できた。今ではもう壊れちゃって使えないけど。
水もコロニー中に残っている水タンクを確保したり、たまにどこからか流れ着いた貨物コンテナに飲み物が入っていたりして、なんとか水も確保できていた。
装置類の修理も、他の居住区画を回って壊れた装置から部品を回収したりしてなんとかやりくりして来た。
なんとか怪我だけはしない様にしてみんなで頑張って、アタシも足手まといながら手伝ってきたけど、そんなある時……コロニー内を病気が蔓延して、全員がその病気にかかった。
マンサ小母さんが調べた所、こういう閉鎖空間のコロニーでたまに発生することがある伝染病だった。
普通は定期的にワクチンが供給されて大事には至らないらしいんだけど、見放されたコロニー内でそんなワクチンがある訳が無い。お医者さんが薬の在庫を調べたところ、使用期限がとっくに切れたワクチンが1回分残っていただけ。
大人達が話し合った結果……効く可能性を掛けてワクチンをアタシに打って、他の大人達は体力で乗り切れる可能性に賭けた。
その結果――生き残ったのは、3人の小父さん達とアタシ。他はみんな病気に勝てず亡くなってしまった。
お墓なんてコロニーで作れないから、みんなのIDカードを取っておいて、この時はまだ使えていた射出機で遺体を恒星に送り出した。
この日だけは、小父さん達といっぱい泣いた。
その後も小父さん達に色々教わりながら、4人で力を合わせて頑張って来た。でも食料も水もそろそろヤバいって時に……沢山のロボットがシャトルに乗ってやって来て、あの事故でコロニーに開いた巨大な穴を塞いでいった。何だったんだろうと思ったら、程なくゴミ捨てシャトルがやって来て、未処理のゴミを捨てていくことが始まった。
(参考) 3区コロニー構造図
圧縮されて詰め込まれていたからそのまま食べたりはできなかったけど、再利用処置をすれば使える食料や水が捨てられてきた事にアタシたちは歓喜した。それにたまに壊れた機械やロボットがそのまま捨てられていて、機械は使える部品を取れば他の装置などを修理できるし、ロボットは直せば使えるようになった。
特にロボットが使えるようになった事は、アタシたちの生活を一気に楽にした。
自分で考えて行動できるアンドロイドと違って、ロボットは予めプログラムで決められた事しかできない。それでも部屋やトイレの掃除だったり、普段の服の繕いだったり、微妙に手が回らなかった分野をロボットに任せる事で、装置のメンテナンスなどに集中して取り組む時間が取れ、ゴミから食料や水を確保できたことと合わせて、アタシたちの生活は安定に向かい始めた。
そして、1区から来るケイトさんとの取引によって、本当に生活が安定した。ケイトさんとの取引では、ジャンク品や再生したロボットなんかを渡す代わりに、薬や補修用品、時々小父さん達のお酒なんかを貰う。
これでちょっとした怪我を治せたり、装置や宇宙服などのメンテナンスがより出来るようになったりして、危険が減ったと思う。
だから今の生活は、アタシは結構快適だと思う。
いつもお読み頂きありがとうございます。
前作「王宮には『アレ』が居る」も宜しくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n6335hb/