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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第4章

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4-02 思わぬ所から漏れていました

今回からしばらくケイト視点が続きます。

 グンターさん達からIDを預かって帰るシャトルの中で、数人の回収業者達が私達の所に近寄ってきた。


「あの、お嬢さん達。

 いつもそこそこの量を回収してるみたいですが、一体どこにそれだけ素材が眠ってるのか、教えて頂けませんかな。」


「お答えする必要を感じません。」


 メグちゃん達の事は絶対に教えられません。


「まあ、そう言わずに。同業者のよしみで……。」


「大体、貴方がたはカルテルを結んで、私達を新規ゴミからの回収現場から締め出しているではないですか。

 普段仲間外れにしておいて、都合が悪くなったら同業者仲間でしょうって。随分と節操のない方々ですこと。」


 そういうと、宇宙服の向こうで彼らの表情が変わる。


「てめえ……下手に出てりゃ、女の分際でつけ上がりやがって。

 出涸らしの廃棄ゴミから、それだけの素材を取って来れる事がおかしいだろう!

 お前らの事、帰ったら不正だって役人に告発してやる。」


「最近は良質な素材は向こうでも取れなくなって来ていますから、困っているのですけどね。誰かさん達が、新規ゴミの現場から締め出してくれているもので。

 ……そのことで、政府の担当者と相談しているところですわ。」


 良質な素材は全部メグちゃん達の宇宙船修理のために使いますから、最近は劣化素材を引き取っています。

 持ち帰った品は政府に申告が必要です。私達が持ち帰る量は減ってきている事は、恐らく政府側も把握しているでしょう。

 定期的にお茶菓子を持って行って政府の担当者と茶飲み話をしながら、政府や軍に変わった動きが無いか情報収集しています。締め出しについてはこちらも好都合ですが、政府と相談していると思わせておきましょう。


「っ……。どうせ、女の武器でも使って篭絡したんだろう。」


「そんな物で便宜を図って貰えるような安い男だと、貴方がたに思われているという事は、今度担当者にお伝えしておきますね。」


 実際、こちらの政府の下級官僚の方々は、皆さん真面目に職務をされていらっしゃいますよ?

 下級官僚の方々は大体の方が出向扱いで来られていますし、何もなければ5年で安全な出身星系に帰られます。人数も少ないですから互いに監視されていますし、採掘現場送り等の重い処罰を受けるリスクを負って、わざわざそんな犯罪をする方なんていません。


 マメに情報収集をしていない彼らは、そんなことも知らないのでしょう。

 精々、担当者の方々に睨まれてくださいね。


「チッ……。」


 彼らは舌打ちをして、悪態をつきながら元の場所へ戻っていきます。

 ここで暴力沙汰を起こせば回収業者登録は取り消しされるでしょうから、シャトルの中では問題ないのですが。

 一度、帰ってから襲撃されそうになりましたから、十分気を付けておきましょう。




 預かったIDは、マルヴィラの宇宙服の中に隠し場所を作って持ち帰りました。

 自力で宇宙服を持っていない業者には、政府に有料で貸出して貰える制度がありますが、私達は自分で用意しました。

 私の宇宙服には、持ち込んだ荷物を宇宙服を着たまま取り出せるようにバックパック内部に隠しポケットを作って、スキャンの際には普通のバックパックの様に見える様偽装しています。

 マルヴィラの宇宙服にも隠しポケットを作りました。メグちゃん達とはエアロックを通って会議室で会う事になったので、収納スペースの場所は同じですが、取り出し口は反対側……宇宙服を脱がないと取り出せない様に作りました。こちらも、スキャンされても隠しポケットや中身が分からないように偽装しています。


 私達のオフィスに帰って、ハルバートさんにリストとIDを託しました。事故当初の死亡者のIDはこちらに戻すのではなく預かって頂き、メグちゃん達の脱出後に公表して遺族に渡すなどの手配をして頂くよう、お願いしました。

 ハルバートさんは、IDを受け取った翌日に帰って行きました。




 それからもゴミ捨ての度に3区に行きました。

 最初はクッキーを持って行ったのですが、作った物を持っていくだけではメグちゃんの食料事情の解決にならないと思いました。

 その次からは冷凍食材や調味料、調理器具などを持って行って、メグちゃんに料理を教える事にしました……マルヴィラが。


 私もついでにマルヴィラに料理を教わる事ができるし、一石二鳥だと思っていたのですが、私はメグちゃんの料理の様子を見過ぎて、中身を焦がしてダメにしてしまいました。

 メグちゃんの食料事情の改善をしに行ったのに、食材を無駄にしてどうするの、って後でマルヴィラに叱られました。……ええ、仰る通りなので、何も文句が言えません。




 ハルバートさんが帰ってから1か月位した頃、3区へ行って素材をメグちゃん達から受け取って帰り、取引先へ受注した品を渡しに行く。

 その一つ、ジャンクヤード『プロトン』を訪れた時、私を見たガストンさんの顔が一瞬曇った。何でしょう?

 いつもの様に受注品を渡して代金を受領する。次の受注について聞くと、


「あー、そうそう。次の発注なんだが、ちょっと相談があるんだ。

 ……奥の事務所まで、来てくれないか。」


 今までガストンさんに事務所の中に呼ばれたことはありません。

 不思議に思いながらマルヴィラと一緒に奥に入ると、ガストンさんは扉の鍵を閉める。部屋の中はガストンさんと私達2人のみ。


「ちょっと、内密な話なんでな。人払いさせてもらった。

 まずは……これを見てくれ。」


 そう言って、ガストンさんはタブレット端末を見せてくる。

 そこには、この星系のチャットボードサイトの、とあるボードの書き込みが表示されていました。ボードのタイトルは……『例のラジオ放送と、切り替え時間の歌について』。


 内心引っ掛かる物を感じながら、ガストンさんに尋ねる。


「これは?」


「事故の前に3区コロニーで放送された昔の番組のAMラジオ波が、微弱に飛んでるのを、最近になってキャッチした人間がいるんだ。

 かなり増幅しないと聞けないくらい弱い電波だ。AM波は遠くまで届くから、どこかの星で反射して帰って来てんだろうって推測だった。」


 やはりどこかで聞いた話のような気がして、内心冷や汗をかく。


「それが、どうかしたのですか?」


「最近になって風向きが変わった。週に1度だけ、番組の合間に変わった曲が流れるようになってから、その曲の内容から違う推測が出てきたんだ。

 どうも、3区に人が生き残ってるんじゃないかって話になってきた。」


 大丈夫、まだポーカーフェイスを保てているはず。

 マルヴィラと顔を見合わせ、お互い知らないふりをする。


「ちなみに流れていたのは、こんな歌だ。」


 そう言って、ガストンさんはボードの中の1つの書き込みにあるリンクをクリックする。そうして流れ出したのは、メグちゃんのあの歌。


「そっちの姉ちゃんの反応を見る限り、心当たりがありそうだな。」


 私は反応を隠すのが精一杯だった。でもマルヴィラが反応したみたい……今回ばかりは、マルヴィラを連れてきた事が裏目に出たかしら。

 もう少し白を切ることにする。ガストンさんの目的を確かめないと。


「それで、3区に行っている私達が、何か知らないか、と?」


「……前から、気になってる事もある。

 最近でこそ、ケイトさんが工房を使って加工をしてくれる様になったが、前は時々、加工済の物を持って来てくれてたじゃないか。

 俺は助かったんだが、俺でも出来る域じゃない代物をあんたが加工出来ると思えんし、クーロイに来て日の浅いあんたに、そんな腕の良い伝手がここにあるとも思えなくてな……ずっと気になってたんだ。

 向こうに、腕の良い職人が生き残ってるんじゃないかって。」


 数度だけ、メグちゃんを通じて小父さん達に加工を依頼した物がありましたが……。

 そこから疑問を持たれたとは迂闊でした。


「あんたが素材を安定して回収してて同業者から妬まれてるって話は、俺も同業者達からちらほら聞くんだ。向こうの生き残りから余ってる資材を貰って、代わりにこっちで物資を買って援助してるって考えれば、辻褄は合うと思ったな。」


 ……ここまで推測されていれば、ガストンさんに隠し通すのは難しいでしょうか。


「ちなみに……確かめて、どうするつもりなのですか?」


「お前さん達は大事な取引先だしな。今更、他の回収業者共と取引したいとも思わん。

 ……お前さん達が困っていることがあったら、儂に手伝えることは無いかと思ってな。」


 え?


「あっちは廃棄されて久しい。今まで生き残りが居るとしたらそれこそ奇跡だろう。食ってくのも生命維持機能もギリギリじゃないかと思う。

 もしあんた達の援助があっても、ギリギリなのは変わらないんじゃないか。」


 彼の言葉には、嘘は感じられません。マルヴィラと顔を見合わせます。

 彼女は頷いてくれたので、ガストンさんに事情を説明しましょう。


「……今からの話は、内密にして頂けますか。」


「チャットボードの住人含めて、誰にも漏らすつもりは無い。」


 そうして、私達はガストンさんに事情を説明しました。

 3区に4人だけ生き残っていること。ガストンさんの推測通り、余った素材の引き取りの代わりに彼らに援助をしていること。3区への物品の持ち込みは制限されていて、宇宙服に隠せる分しか持ち出せない事などを伝えます。


「フーム……想像以上に深刻そうだな。それで今、困っていることはあるか?」


「彼らは限界に近いので、脱出する手段を模索中です。これは、私も出身星系の伝手も使って調べていますが、少し時間が掛かります。

 後は、向こうに持っていく物資の量を増やせないかと言うのが、目下の悩みですね。」


 私達が持ち出せる量は限りがあります。

 しかし無暗に人や荷物を増やすと怪しまれますし、シャトルに乗る費用は一人いくらで掛かるので、これ以上人が増えるとコスト面で割に合いません。


「荷物チェックでバレない様に、多くの物資を向こうへ運ぶ方法か。

 大きい荷物を運ぶのであれば、納得できる大義名分も必要だしな……すぐには浮かばんが、俺も考えてみる。」


「有難うございます。

 ……参考までに教えて欲しいのですが、どうしてAMラジオの事が知られたのでしょう。この星系では、今はAMラジオ局はありませんよね?」


「それがな……『この宇宙のどこかに宇宙人がいる』っていう空想を持った小学生がいてな。

 宇宙人の交信を受信できないかって、高性能なアンプ付き電波受信機を日々受信機をいじり倒す変わり者だったんだが、その彼が偶々電波を拾ったらしい。

 あまりに微弱な電波だったから増幅してみたら、どうもラジオ放送みたいだったが、聞いたことが無いラジオ局や番組名だった。

 そこで彼はラジオ好きの集まるチャットボードにアップして、何の放送か質問したところから、この話は始まったんだ。」


 ……まさかそんな所から。


「幸い、AMラジオの話はあのクローズドボードに入れる10人位しか知らん。ラジオの事を口外するのは止めておこうって話で落ち着いている。

 歌の方は、曲名や歌手の確認をした外部の数人がいるが、こっちも口止めはしている様だ。

 だから、他に漏れる事は無いと思うが……。」


「状況理解しました。

 重ねて言いますが、このことは漏らさない様にお願い致します。

 ……彼らの身の危険に及ぶ可能性もありますので、くれぐれも。」


「わかった。肝に銘じておく。

 他に何か困った事があったら、いつでも相談に乗るぞ。」


 そうして、私達は『プロトン』を後にしました。


 内密に協力してくれる方が現れたのは有難いです。

 ガストンさんの事は信用できそうですが……思わぬところから他に漏れる可能性も否定できません。

 ラジオを止めてもらったりする必要はあるでしょうか?

 ちょっと、小父さん達と相談してみますか。



いつもお読み頂きありがとうございます。

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