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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第20章 帝国年末大歌謡祭――その日、帝国は

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20-04 祝祭幕間――そして乱気流の予感

幕間の場面、俯瞰視点です

 午後五時、飾った若手シンガーの演目で第一部の最後を迎える。


『帝国第一放送大ホールからお届けしている、第七十七回・帝国年末歌謡祭。

 TVやFTL通信を通してごらんの皆様とは、しばしお別れとなります。

 それでは、午後五時三十分からの第二部でまたお会いしましょう!』


 観客の熱い拍手が波のように押し寄せる中、TV画面を通したこの歌謡祭の視聴者達にはメイン司会の二人、バーナードとミカエラによる宣言で、第一部を終えることになった。



 会場となっている大ホールでは、第一部の放送終了と共に舞台照明がふっと落ちる。


「ここで、会場は三十分の休憩に入ります。ご飲食やお手洗いなどにご利用くださいませ」


 場内アナウンスが流れ、それにあわせ観客席の照明が明るくなる。

 ざわめきが広がり、観客たちは思い思いに立ち上がった。


 トイレに立つ者も多い。

 だが、この大ホールの外、広く取られたロビーエリアには多くの売店が並んでいる。

 サンドイッチなどの軽食の他、香ばしい菓子と飲み物の香りがロビーを包んでいる。

 熱気の余韻を残したまま、友人同士が感想を語り合い、家族連れは写真を撮りながら、ロビーで飲食を楽しんでいる。


 またグッズ売り場では出演アーティストたちや放送局が用意した、数々の記念の品を取り揃えている。

 ここにも多くの観客が殺到し、思い思いに記念品を買い込んでいる。


 この休憩時間ですら、どこもかしこも華やかで、まるで星を一つ借り切った祝祭のようだった。



 一方、配信放送ではバーナードとミカエラの終了宣言の後、ニュース画面に切り替わる。


「じゃあ俺、帰るわ」

「うん、わかった。また第二部も家で見るんだよね?」

「ああ、もちろん」


 ラウロの家にお邪魔して、二人で歌謡祭を見ていたロイは、ここで家に帰っていった。


「さーて、第二部もじっくり見れるように準備しなきゃ」

「晩御飯もあるんだから、お菓子ばっかり食べてちゃ駄目よ」

「……はーい」


 長丁場になりそうな第二部の為に沢山お菓子を持ち出そうとして、ラウロは母親に叱られていた。


 この三十分間は、いつも各星系でローカルニュースを流す時間。

 まだ小学生のラウロは、当然ニュースに興味なんか無い。彼にとってはトイレに行ったり、飲み物やお菓子を準備する時間だ。

 彼等は、今年の歌謡祭の幕間ニュースが、例年と様相が異なる事に気づかなかった。


 

 各星系でローカルニュースを流す例年と違い、今年はFTL通信で帝国第一放送から直接ニュース報道が行われていた。

 画面が切り替わり、先ほどまでいた司会陣の姿が消え、代わって特設の報道スタジオが映し出される。


 突如として画面が切り替わった時、FTL配信の視聴者たちは一瞬、配信トラブルかと思った。

 だが、すぐに重厚なニュースジングルが流れ、画面下の帯に「速報ニュース」の文字が浮かび上がると、その空気は一変する。

 帝国第一放送の看板アナウンサー、落ち着いた口調の男性がカメラに向かって頷き、背景には全貴族総会の会場映像が映し出されていた。


『例年ですと、各星系にてローカルニュースをご覧いただく時間ですが。

 本日は帝国第一放送の報道局から、帝国全星系へニュースをお届けします。

 帝国標準時の12月31日午後。全貴族総会より、重要な共同声明が発表されました』


 画面下にテロップが走る。


『速報:全貴族総会、拘束者解放を要求。帝室に対し対決姿勢』


「本日、商都エンポリオン郊外にて、全貴族総会の全体会議が開かれ、現在帝室にて拘束中のラズロー中将およびカルロス侯爵に関する議論が活発に行われました。

帝室による一連の拘束を不当とする見解で、総会を代表するミツォタキス侯爵、トッド侯爵、グリシッチ侯爵ら派閥総帥をはじめとする主要貴族が、両名の即時解放と、帝国法に定められている帝室の在り方の遵守を求める声明を発表しました」


 スタジオの脇には、声明文を読み上げる記者たちの映像。

 現地の会場に詰めかけたメディア、そして記者会見で映し出される両侯爵の顔。


「全貴族総会としての具体的な帝室への要求書の作成には至らず、明日も会議を開いて内容を精査するとの事です。

 ただ、全貴族総会側が帝室への対決姿勢を取る事は一致しており、これにより、年明けに予定されている帝室と総会の公式会議は、極めて緊迫したものとなる見通しです」


 画面下には『年明け決戦か』『帝室の応答は?』『問われる帝室の“正統性”』といった見出しが、赤と金の速報帯に点滅しながら連続して表示されていた。


 スタジオでは、政治専門の解説員とアナウンサーが、この声明について言葉を交わす。


「これは、単なる政治的アピールを超えた、事実上の“挑戦状”ですね」

「まさにその通りです。しかもこれを敢えて“今日”、つまり国民の目が最大限に集まるこの日にぶつけてきたことで、全帝国民に対して帝室対貴族の対決姿勢を鮮明にしたのです――」


 帝国第一放送の音楽祭が「娯楽」だけでなく、「国民の場」であることを、否応なく突きつけるような報道だった。




 そんな報道がなされ、帝国全土に衝撃を与えている中。

 歌謡祭の熱気に沸く会場では、午後五時二十分、場内アナウンスが響く。


「十分後、第二部が始まります。

 ロビーでおくつろぎの方は、お席へお戻りください」


 照明がゆっくりと灯り、ざわつきながらも整ってゆく観客席。

 ロビーでの喧噪から、観客は期待と共に、歌謡祭という舞台へと引き戻されていく。


 会場ロビーには、まだ名残惜しげな観客たちの声が残っていたが、第二部の開演が迫るにつれ、人々は座席へと戻ってゆく。


 舞台はまだ静まり返っているが、楽屋裏の空気には、観客席とは違う種類のざわめきがあった。




 帝国第一放送大ホール楽屋裏、スタッフ用の控室。


 モニター前に集まった数名のスタッフが、放送されているニュース速報の映像を巻き戻して見直している。

 ドレッシングルームから出てきたバーナード・ワシリエフが、その画面を一瞥してため息をついた。


「まさか、こんな日にぶつけてくるとは……何考えてるんだ、あいつら」


 額の汗を拭いながら呟く声には、俳優らしい感情の制御があったが、その奥に動揺が滲んでいた。

 バーナードは、歌謡祭が政治的意図に巻き込まれたという思いから、このニュースに不快感を露わにしていた。


「いや、むしろ“今日”だから、かもね」


 ミカエラ・ワインハウスが水の入った紙カップを手に、隣に立つ。

 彼女の顔にはまだ舞台の熱が残っていたが、その瞳は鋭かった。


「多くの人が、最も“目撃している”この日。

 音楽祭の裏で何が起きたか――忘れられないようにするためのタイミング」


「いつもの歌謡祭のように、気楽な“歌のお兄さん”と“お姉さん”でいいと思ったのにねえ」


 バーナードが溜息をつくと、ミカエラがふっと笑った。


「一部のスタッフの間では、誰かが“特別な演目”を仕込んでるって話も出てるのよ。

 ワシリエフさんも、例の“極秘ゲスト説”、耳にしたんじゃない?」


「まあ、ね。噂は噂、ホントかどうかわからないけど。

 ホントだったら、僕らに一言も無いのはおかしくないかな」


 バーナードは肩をすくめた。

 

「噂はともかく……今朝配られた、本番の台本を見たかしら?」


 ミカエラの問いに、バーナードは頷いた。


「ああ、びっくりしたよ。第二部以降が昨日のリハーサルから大分変ってるよね。

 出演者達にはあまり影響しない様配慮されてるみたいだけど、進行する僕達は覚え直さなきゃいけなくて大変だよ」


「まったくよね。でも、一番大変なのは……最後のページ、見た?」


「最後のページ?」


 ミカエラに指摘され、バーナードは控室の机の上にあった台本を手に取って最後のページを開く。


「……な、何だ、この注意書き……!」


 帝国第一放送は歌謡祭に限らず、ニュース以外のほぼ全ての番組でリハーサルを入念に行うことで『とにかく予定外のことを起きにくくする』ことで、業界内で知られている。

 にも拘らず、台本のそのページには……


『予期せぬ事態に備え、各自以下を確認のこと』


 という大きな見出しの下に、”何かあった時”の心構えと、役割別の困った時の対処法が書かれていた。

 

「つまりね、今回の歌謡祭はサプライズどころか、”ハプニング”が想定されているってこと。

 きっと……とんでもない事が起きると思うわ。

 だからこそ、今回この場に司会として立ち会う価値があると思ってるの」


 ミカエラのその言葉に、バーナードは短く頷く。

 彼も、何かが起きる強い予感を感じ取っていた。




「ただいまより、《帝国年末歌謡祭》第二部を開演致します」


 午後五時半。

 FTL配信による帝国全土への同時中継という性格から、時間きっちりに場内アナウンスが流れる。

 そして、舞台だけでなく観客席まで暗転する。


 ――すでに空気は、確かに変わっていた。

 第二部の始まりは、司会者による宣言でも、演者によるパフォーマンスでもなく。

 全てが暗転した大ホールのスクリーンに映し出される映像により始まった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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