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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第3章

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3-05 お姉さんが2人出来た

「ちなみに、メグちゃんは今、何歳?」


 いきなりさっきまでと違う話をケイトさんに振られて、ちょっと戸惑う。


「……えっと、もうすぐ15歳、かな。」

「有難う、メグちゃん。」


 アタシに微笑むケイトさんの横で、マルヴィラさんが驚いてるのはどうして?

 ……小父さん達に向き直ったケイトさんは、すごく真剣な表情になってた。


「最初に気になったのは、メグちゃんの身長です。普通、宇宙空間での生活が長いと身長は伸びやすいのです。ですがメグちゃんの身長は……既にお気付きだと思いますけど、同じ年頃の一般的な女性の身長よりも大分低いのです。

 ですから皆さん含めて、ギリギリの食生活をされているのだろう、と思いました。生きていく分には足りるけど、成長期のメグちゃんに必要な食事量では、無いのでしょう。」


 ギリギリの食生活というのは、その通りと思う。

 ゴミから拾う廃棄食料は、再利用処置でレーションパックに生まれ変わる。アタシ達の生命線だ。

 特段切り詰めているつもりは無いけど、物足りないと思う事はある。


「それから、普段の生活の様子をメグちゃんから聞きました。

 メグちゃんも一通りのメンテナンスは出来るとはいえ、基本的にはメグちゃんの学習や睡眠の時間は確保されているのは、ほっとしました。その分貴方がた3人で、生命維持や危険回避に必要な設備面のメンテナンスをしていると思います。


 ただこのままでは、何かあった時にすぐこのバランスが崩れてしまいます。

 ……最近、取引内容に医薬品が増えてきたことが、それを予感させました。」


「っ……。」


 小父さん達3人の表情が、少し歪んだ。

 医薬品の事はアタシもちょっと気になってたけど、小父さん達は何も言わなかった。小父さん達、怪我とか体調不良とかをアタシに隠してるの?


「……メグちゃんは、とってもいい子です。

 こんな環境にも関わらず、素直に真っ直ぐに育っています。貴方がただけでなく、亡くなられたお父さんお母さん、事故を生き残った皆さんも、メグちゃんを大事にしてきたことは、メグちゃんを見ていればよく分かります。


 だからこそ、これ以上メグちゃんがつらい目に合わない様に……今のこのバランスが保てている内に、何とかメグちゃんと貴方がたを助けてあげたい。

 しっかりした大地の上で、豊かな陽光の注ぐ所で、貴方がたの愛情の下で、メグちゃんが健やかに育つようになって欲しい。

 ……それが、私の偽らざる本心です。」


 ケイトさんの目尻から、すうっと一筋の涙がこぼれる。

 小父さん達は黙ったまま、しばらくそのまま静かな時間が過ぎる。


「そっちの、マルヴィラさんはどうなんだ? こんな危ない橋を渡るのは大丈夫なのか?」


「メグちゃんを助けてあげたいのは私も一緒。

 それにね、今の立場はケイトの部下だけど、20年ケイトの友達やってるの。

 彼女を1人で突っ走らせると危なっかしい事はよく知ってるから、私がフォローしないとね。」




 再びケイトさんが話し始める。


「実は、貴方がたにお会いして、言おうと思っていたことがあるのです。

 ……裏でメグちゃんと意思疎通はしていたと思います。でもメグちゃんが、取引の時に私達と応対を一人でしている理由って、何ですか?

 メグちゃんに言っていない理由が、あるのではないですか?」


「ああ、それは私も思っていたわ。」


「っ……。」


 ケイトさんの指摘とマルヴィラさんの賛同に、小父さん達がさっき以上に表情を歪めた。


「なあ、貴方達……。」

「マルヴィラ、待って。」


 マルヴィラさんが立ち上がって話し出そうとして、ケイトさんが待ったをかける。


「多分私と同じ理由だと思うけど。貴女が怒ると()()()()()()()の。

 だから私に任せて頂戴。」

「……そうね。分かった。」


 マルヴィラさんが落ち着いて再び座ってから、ケイトさんが話す。


「閉じた環境で育ったメグちゃんには、外の人と接する機会が極端に……いえ、全く今まで無かった。そんな所に、回収業者達が何度もここに来るようになった。

 貴方がたは、生き残るために外の人と接触して協力を得る必要があった。それは理解しています。

 

 ですが貴方がたは、そこにメグちゃんを1人で送り出した。

 これには、私もマルヴィラも結構腹を立てています。何故だかわかりますか?」


 小父さん達は、何も話さない。

 アタシは……薄々は、分かっていた。


「メグちゃんに、外の人と接する経験を積ませたかったのは分かるのです。

 でも腹が立ったのは……貴方がたが、いずれ()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()ことです!」


「っ……。」


 ケイトさんの今までの平静な表情は、そこにはもう無い。

 目に涙を溜めながら、身を乗り出して切々と話す。


「いずれ自分たちは命を落とすかもしれないから、今のうちに1人で私達と交流させよう、なんて考えたのでしょう。あるいは長く外の人と接してなくて、自分達も自信が無かったのかも知れませんけど。

 だからって1人で放り出す事はないでしょう!

 それをメグちゃんがどう感じるかって、考えてみましたか!」


 アタシは……。


「そのうち貴方がたも出てくるものと思ってずっと待っていましたけど、一向に出て来ずに、通信で私達と話もせずに、ずっとメグちゃんが1人で私達と応対しているんです。

 私達との会話の中で、ちょっとした言葉の端に、メグちゃんが寂しさを滲ませていたことに気付いていましたか?

 貴方がたはもう、随分御歳を召してらっしゃることは分かっています。でも……でも、いずれメグちゃんの傍からいなくなるからって、予防線を張ることはないでしょう!

 そうやって突き放されたメグちゃんの気持ちを、考えてあげて下さい!」


 目を真っ赤にして、涙を流しながらケイトさんは話す。

 マルヴィラさんも目に涙を溜めながら、横でうんうん頷いてる。

 ……2人は気付いてくれてたんだ。


 気づけば、アタシも目が熱くなってて……言葉が止まらなくなって。


「アタシは……嫌だ。

 ケイトさんやマルヴィラさんは優しくて、裏表が無くて。話してるとあったかい気持ちになるんだけど……でも、一緒に小父さん達がいないって思うと、心が冷えるの。

 小父さん達がこうする理由は、頭では分かるんだけど……そんな突き放されるの……嫌だよ……うう、ううっ。」


 小父さん達が駆け寄ってきて、アタシをぎゅっと……以前の様に、抱きしめてくる。


「……すまん、メグ。寂しい思いをさせて。」

「ごめんな……ごめんな……。」

「気づいてやれなくて、悪かった。」

「わあああああああああ!」


 アタシが泣き止むまで、小父さん達はアタシを温かく抱きしめたままでいてくれた。




「ごめんね、ケイトさん、マルヴィラさん。」


「謝らなくていいのよ。気にしないの。

 メグちゃんが小父さん達に言いたかった事が言えて良かったわ、」


「そうよ。小父さん達や私達にも、メグちゃんが我慢する必要は無いんだからね。」


 アタシはあの後、泣き疲れて眠ってしまって、その間に小父さん達とケイトさん達の間で話が進んだらしい。

 そろそろ帰る時間になるからって、小父さん達に起こされて、これからお見送りをするところ。


「あの後小父さん達と話したんだけど、次からもここで会いましょうって事になったわ。」


「えっ、じゃあ毎回、ここで皆でお話できるの!? やったあ!」


「ふふふ。メグちゃんが喜んでくれて嬉しいわ。」


 ケイトさんもマルヴィラさんもにっこり微笑んでくれる。

 周りにいる小父さん達もウンウン頷く。

 うん、やっぱりこっちて会う方がいい!


「ねえ、ケイトさん。お願いがあるんだけど。」


「なあに?」


「……ぎゅってしていい?」


「大歓迎よ!」


 アタシはケイトさんに抱き着いた。ケイトさんも優しく抱きしめてくれる。小父さん達と違って、なんだか……。


「……柔らかくて、なんだかお母さんみたい。」


「ふふっ、メグちゃんにそう言って貰えるのは光栄ね。

 でも私は、お姉さんって言ってくれる方が嬉しいかな。」


「じゃあ、ケイトお姉さんって呼んでも?」


「勿論OKよ。有難う! 妹ができたみたいだわ。」


 ケイトさん、とっても嬉しそう。

 アタシもケイトさんに抱きしめられて安心する。


「マルヴィラさんも、ぎゅってしたい。」


「ええ、喜んで。」


 しゃがんでくれたマルヴィラさんに抱き着く。

 マルヴィラさんって、がっしりしてて筋肉質で……。


「ちょっぴり、お父さんみたい。」


「えー。

 ケイトと同い歳だし、私もメグちゃんにお姉さんって呼ばれたいな。駄目?」


 マルヴィラお姉さん……うん、嫌じゃない。


「それじゃあ、マルヴィラお姉さんって呼ぶね。」


「有難う!」


「ちょ、ちょっと、痛い!」


「ああ、ごめんなさい! 嬉しくてつい、力入っちゃった……。」


 思い切り抱きしめられて痛かった。マルヴィラさんって力強い。



 ケイトさんとマルヴィラさん……お姉さん達に挨拶をして、小父さん達は会議室まで、アタシはエアロックの外のコンテナでお別れした。

 お姉さん達と何度も取引したけど、今回は初めて名残り惜しいって思った。でも次からまた会議室でお話できるんだ。それなら良いか。

 今までは取引だから会ってたって感じだけど、次にお姉さん達に会うのが楽しみになった。



 アタシが眠っている間の事は、お姉さん達がシャトルに乗って帰った後で、小父さん達に聞いた。


 事故後の生き残りで、その後亡くなった仲間のみんなのID――お父さんとお母さんのも含めて――と、それに小父さん達の名前を加えたリストを、小父さん達はお姉さん達に託したの。

 それから、アタシは知らなかったけど、事故直後にシェルターに避難したまま亡くなった人達のIDも、小父さん達が保管してたみたい。お姉さん達はそっちも預かってくれたんだって。

 そっちのIDも調べるけど、その後は信頼できる人に預かって貰って、アタシ達の問題が解決した後で、遺族の方々に引き取って貰えるよう手配をしてくれるらしい。


 お姉さん達との取引も今まで通り。違うのは、ケイトお姉さんから聞いた通り、会議室で小父さん達も交えて皆で会いましょうってことになった。

 でも小父さん達に話せないアレコレの話の時だけは、小父さん達は会議室から追い出そうかな。


いつもお読み頂きありがとうございます。


次話の投稿は諸事情により、3日程空けることになると思います。

宜しくお願いします。

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