表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第19章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/231

19-11 歌謡祭前夜――熱狂の渦巻き始めた星

俯瞰視点。短めです。

本日は、当話含め二話更新です。

 首都星エオニアには、二つの入星管制局がある。

 一つは北大陸にある、帝国全体の政治の中心ダイダロスへと受け入れる、帝都ダイダロス管制局。

 もう一つは南大陸にある、帝国の商業の中心地、商都エンポリオンへと受け入れる、エンポリオン管制局。


 年の瀬を前に、ダイダロス管制局には、続々と貴族たちが集まり始めていた。


 目的は、年明けに控えた恒例の年賀行事。

 そしてそれに続く、全貴族総会と帝室との間で行われる、歴史的な全体協議。

 ――言い換えれば、この帝国という巨大な器の「今後」を定める、臨界の会談である。


 しかも今年は、それだけでは終わらなかった。


 星系外からの来訪者――クセナキス星系に突如姿を現した、異文明国家「ラミレス共和国」の使節団が、この会議に正式に加わることが決定されたのだ。


 帝国がこれまでほとんど交わりを持たなかった共和国との、初の国交樹立交渉。

 その場に臨むべく、共和国代表団は、外交官、技術顧問、そして護衛部隊を含んだ一団を一隻の大型宇宙船に乗せて、帝都宙域へと進入してきた。


 だが、いかに政治の中心地ダイダロスといえど。

 それだけの規模の艦隊を受け入れるのは、不可能だった。


 貴族達や共和国使節団は、まとめてエンポリオン管制に回されて。

 そこでタイミングよく整備されていた、商都エンポリオン郊外の臨時停泊区域――“観光再興プロジェクト”の一環として準備されていたエンポリオン郊外のエリアが、それらを受け入れることとなった。



 そして――その日、商都の空気が変わった。


 もともと“星姫”と呼ばれる謎の存在の歌謡祭への出演が囁かれ、浮き立っていた街。


 そこにやってきたのが――


 帝国の諸侯。

 共和国の使節。

 付随する軍属、官僚ら随行員。


 そうした人たちが一気に集まると、それを呼び水に更に人を呼び寄せる。


 報道各社の取材班。

 物資不足を懸念し、大量発注された食糧などを運搬する、運送業者。

 商都警察が事態を懸念し近隣星系からも呼び寄せた、応援の警察官や臨時スタッフたち。

 

 さらには、こうした“大勢の熱気”に呼び寄せられて集まる大衆たち。

 

 エンポリオンには一夜にして“今”を見届けるための当事者たちが殺到した。


 宇宙港に降り立つ彼らは、見せびらかすように振る舞うことはなかったが――

 「そこにいる」というだけで、人は気配を察する。


 世界が、動いている。

 その予感だけが街を満たしていく。


 浮き足立つ群衆。

 どこか警戒を強める警備部隊。

 貴族たちの動向を探るメディア。

 特需に沸く商人と、そこに殺到する周辺星系からの旅客たち。


 情報、噂、期待、不安――あらゆる“熱”が交差し、ついにそれは、形となって現れ始める。


 商都エンポリオンの宇宙港は、急激にその処理能力を超えた。


 入星申請は倍増し、貨物便のスケジュールは軒並み遅延。

 高軌道には入港待ちの旅客船が何十隻も列を成し、入港調整用の周回コースが新たに設けられる事態となった。


 入星管制局の通信回線には、悲鳴のような交信が絶えず続く。


 それでも、人は来る。


 “星姫”とやらの姿を見たい者。

 年越しのライブイベントに並ぶ者。

 帝都の貴族に売り込む商人。

 国交交渉を取材する報道員。

 そして、何か“決定的な瞬間”に立ち会おうとする、名もなき目撃者たち。


 それぞれの動機が入り混じりながら――一つの方向へと引き寄せられてゆく。


 年の瀬、深夜。

 商都の夜空を見上げた者は、夜空に輝く一筋の光の連なりを見ただろう。


 それは、軌道上で商都への入星申請を待つ、長蛇をなした宇宙船の列。


 いつ商都に降りられるのかという、焦燥感。

 それだけでなく、義務感、期待感……いろんな感情が、その列には渦巻いていた。






 全貴族総会の参加議員たちは、帝都入りする前に、商都郊外で会合を始めた。

 各家の代表たちが滞在する施設の周囲には、早くも警備用の封鎖ラインが敷かれた。



 そして商都エンポリオンには、逆に「緊張と熱狂」が共存していた。


 歌謡祭――かつては帝国最大の娯楽イベントだったこの祭典は、

 いまや“何が目玉なのか”すら語られぬまま、ただ期待だけが熱気となり、街に渦を巻いていた。


 そして、その舞台に立つ者はすでに、密かに決まっている。


 民衆は、それを知っている者も、知らない者も、あるいは知ろうとしない者も含めて、集まってくる。

 帝国最後の歌姫と目される者が、現れる――

 その噂ひとつで、世界が少しずつ、傾き始めている。


 

 今や、全貴族総会、共和国使節団の到着でさえ、”歌謡祭”に飲み込まれつつある。

 歴史に名を刻む瞬間は、いつも“演出”の皮を被って訪れるのかもしれない。






 こうして首都星エオニアは、得も言われぬ熱狂を孕みながら――”その日”を迎えたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ