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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第3章

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3-04 大きな不正の疑惑

メグ視点に戻ります。

少し投稿が遅くなりました。

 エアロックと会議室の準備を整えてから、ケイトさんとの取引の日を迎えた。

 ケイトさん達が来たところで、つけて来ている人がいない事を確認した後でエアロックまで案内する。


 エアロック室で空気を入れて、ケイトさん達に着替えるよう促す。

 宇宙服を脱いだケイトさんは、肩口までの長さのある赤みがかったアッシュブロンドの髪の、スラっとしてて落ち着きと柔らかい雰囲気のある人。ライト小父さんと同じくらいの背丈で、アタシよりは頭一つ分くらい高い。 

 マルヴィラさんは黄み寄りの明るい髪を、頭の後ろで丸くまとめている。ちょっと目がきつめの印象があるけど綺麗な人。背が高いなとは思ってたけど、生で見るとグンター小父さんよりも背が高くて、セイン小父さんと同じくらいかな?

 ケイトさんと並ぶと、マルヴィラさんの体格の良さが目立つ。


「生で見るとケイトさんは柔らかい感じで安心するね。マルヴィラさんは綺麗で恰好いいって感じ。」


「ふふふ。誉め言葉として受け取っておくわ。生で見るメグちゃんも可愛らしい。」


「格好いいって言われるのは嬉しいわね。

でもメグちゃんも、大きくなったら美人さんになりそうね。」


 宇宙服越しじゃなくて生で2人に会うのが初めてだから、ちょっと新鮮。


「えへへ、そうかな? でもなかなか背が伸びないの。」


「マルヴィラまで行かなくても、メグちゃんは私くらいにはちゃんと大きくなるわよ。」


 ケイトさんに言われると、なんだかそうかなって思えてしまう。


 2人とも宇宙服を脱ぎ、バックパックから荷物を出してから、宇宙服用のインナーの上にパンツスーツを着て、アタシに続いて会議室に入る。

 小父さん達とニシュには会議室で待ってもらっていた。小父さん達は席に座り、ニシュは部屋の隅に立っていた。

 

 全員が会議室に入った後、小父さん達とケイトさん達がお互いに自己紹介しながら握手を交わす。小父さん達に後で聞いたけど、初対面の相手と顔合わせの時に握手をするのがビジネス上のマナーらしい。

 ケイトさんの肩書は廃品回収業者、マルヴィラさんはその従業員ってことで挨拶してた。



 全員が着席してから、セイン小父さんが話し始める。


「今回は、前回聞いたIDの話と、それが私たちの求める軍用資材の調達にどう繋がってくるのか、という事の確認をしたいと思います。

 この場を用意した理由は、宇宙服で全員出て行くのは目立ちそうだったのと、電波交信よりも直接顔を合わせた方が良いと考えたからですね。」


「ええ、近いうちに皆様との顔合わせをしたいと思っていたので、丁度良い機会だと思います。」


 小父さんの話にケイトさんが落ち着いて受け答えをして、マルヴィラさんは何やらメモを取っている。



「早速だが、IDの調査に貴女の父親の伝手を使うと聞いた。

でもIDに何が記録されているか何て準軍属の俺やライトも知らなかった。それは機密情報だと思うんだが、その伝手はそんな機密情報を掴める程のものなのか?」


「IDの中身については、私も御父様の代理人に先日伺ったばかりの話ですけど、御父様ならそういう情報を把握する伝手はあるかも知れません。」


 グンター小父さんが質問をするけど、ケイトさんは澱みなく返答する。


「……エインズフェロー工業、ですか?」


「!」


「軍のミッションが無い時に、スタヴロス星系のその会社の工場で働いていたことがある。

エインズフェローと言う苗字から、そうかなと思ったんだが、合ってるか?」


「まさか固有名詞が出てくると思っていませんでしたが、そういう事ですか。……確かに、それは御父様の経営する会社です。」


 やっぱり、ケイトさんって大きな会社のお嬢様なんだ。という事は……。


「調査の伝手が本当にありそうな事は、分かりました。

その伝手は、貴族関係と考えておいて良いですか?」


「……調べる伝手はあるとは聞いていますが、具体的な事は聞いていませんので、何ともお答えできません。」


 ケイトさんの身元についての私たちの予想が当たった。という事は、次は伝手が貴族関係かどうか。

 セイン小父さんからの質問の回答に、はあ、と小父さん達が溜息をつく。


「聞いてないというのは事実かも知れんが、エインズフェロー工業の様な大企業からの繋がりであれば、間違いなく貴族関係だろうと思うけどな。

 ケイトさん自身、そう予想しているんじゃないか?」


「……多分、そうだと思います。」


 ライト小父さんの指摘にケイトさんは頷く。

 でも貴族関係の繋がりだって事を、言い淀んでいたのは何故なんだろう?


「IDを調べたあと、その伝手からどんな頼み事をされるのか、全く見当がつかないんだが。

 ケイトさんはその辺り、何か知っているのか?」


「……推測は、あります。」


 ライト小父さんの言葉に、ケイトさんは頷いて答える。


「クーロイ星系を管轄している領主はカルロス侯爵です。前皇妃、今の帝国の皇帝陛下の母親の従弟にあたる大貴族と聞いています。

 ですがここクーロイは、戦略物資であるリオライトを産出する重要拠点です。普通は皇帝直轄領になるところですが、前皇帝の時代に何らかの手段で管轄権をもぎ取ったものと思われます。

 そこまではまだ良いのですが。月日が流れて皇帝陛下が代替わりすると、カルロス侯爵の影響力は低下します。そこでカルロス侯爵は影響力の低下を補うため、多額の資金をばらまいているらしいのです。

 しかし、カルロス侯爵自身の収支報告には、それ程の資金はある様に見えないそうです。そこに、不正があるのではないか……そういう疑惑があるらしいです。」


 小父さん達が息を飲む。


「つまりは、その不正の証拠が、この星系にあるかも知れないと?」


「この3区の話ですが、貴方がたの話を信じるなら、事故後に全く調査や救助の手が無かったというのは余りに不自然です。

 ということは、事故後にここに人を入れたくなかった。この場所は何らかの不正の証拠になるモノがあって、隠す必要があった……そう考えられます。

 本当に不正があるとすれば、の話ですが。」


 ちょっと待って、それって結構危ない話じゃないの!?

 小父さん達も考え込んでいる。


 しばらく沈黙が流れた後、腕組みをして考え込んでいたグンター小父さんが口を開く。


「なあ、そんな話だとしたら、貴女方は結構危ない橋を渡る事になるんじゃないのか。」


「……ゴミを投棄しにシャトルが3区に来て、私達回収業者がゴミを漁っている間、警備の人間がシャトルやその日のゴミの傍に何人も立っている理由は、皆さんは何だと思いますか?」


 そういえば、シャトルからゴミコンテナを捨てていく時、最初はロボットと作業を見守る数人の人しかいなかった。


「言われてみれば、回収業者が来るようになってから一気に警備の人が増えた様な気がするね。

 ひょっとしてあの警備って回収業者を見張ってるって事?

 でも、ケイトさん達と待ち合わせる時って、警備の人はゴミ捨て場の奥まで来たりしてないよ?」


 アタシは疑問をケイトさんにぶつける。

 何故か、ケイトさんの横でマルヴィラさんが驚いているのが気になるけど。


「コンテナの積まれた奥側には警備は来ないわね。

 向こうで役所に聞いた話だと、3区内の他のエリアは事故の影響で使えないから、ゴミが置かれた奥にあった出入口は全部封鎖しています、という事になっているわ。

 つまり奥側には彼らが監視する理由が無いのよ。

 だから、シャトルの発着場がある側に、わざわざ警備を置いて監視する理由がある、と推測しているの。」


 シャトルの発着場がある側? あっちには何があるのか……。

 そう思っていると、セイン小父さんが急に立ち上がる。


「事故後の3区への立ち入り制限、ゴミ捨ての際の監視、侯爵の謎の資金源……そ、そういう事ですか!」


「どういう事だ?」


「……侯爵の資金源は、ここ3区の真下にある――封鎖されたはずの、リオライト採掘場。

 採掘場への軌道エレベータはシャトル発着場の奥にある、軍の管轄区域内だったはずだ。そう考えれば、3区に人を入れなかったり、警備がそちら側にだけ要る理由も、説明がつく。

 これが、ケイトさんの推測ではないですか?」


 ケイトさんを除き、セイン小父さんの発言に言葉を失う。


「……向こうでは、3区の真下の採掘場は事故後に閉鎖された、と公式発表にあります。

 3区の採掘場からはリオライトが採れる量が少なく、事故後は3区のコロニーと軌道エレベータの安全性が保てず管理費用が増大して採算に合わなくなったため、という理由です。

 ですが、ここに不正疑惑を当て嵌めてみると……元々3区の採掘場からリオライトの横流しが行われていた。そして、事故後に何らかの理由で3区を放棄した際に軌道エレベータを封鎖し、表向き3区の採掘場を閉鎖したことにした。実際は採掘を続けていて、かなりの量のリオライトが横流しされている。

 ……これは単なる推測です。」


 ケイトさんは淡々と、推測を話す。

 マルヴィラさんも驚いていたので、そっと話しかけてみる。


「マルヴィラさんも聞いてなかったの?」

「……ええ、カルロス侯爵の話までは聞いていたけど……。」


 ケイトさんはまだ誰にも推測を話してなかったんだ。


「最初は私も気付いていませんでしたが、3区で回収業を始めた時から、既に危ない橋を渡っているのです。

 恐らくこの件で私達につくパトロン……支援者は、高位の貴族になると思います。その際に求められるのはこの件の証拠集めとなる可能性は十分にあります。そこには採掘場の調査も含まれます。

 ただあれだけ監視がいる以上、私やマルヴィラは表立って調査に動けません。ですから、採掘場の調査は、ゴミの廃棄日以外のタイミングで、貴方がたにお願いすることになるかと思います。

 そういう意味では、貴方がたも危ない橋を渡って頂く必要があるのです。」


 セイン小父さんは、ケイトさんの話に茫然としたまま、再び腰を下ろした。

 しばらく、そのまま沈黙が流れる。

 アタシもケイトさんの発言について考えたけど、一つ気が付いた。


「ねえ、ケイトさん。

 その調査って今すぐやれって話じゃないんでしょ?

 IDを渡して調べて貰って、その結果を受けて、実際に依頼されてから考えたって良いんじゃないの?」


「ええ、そうね。

 そもそも、これはまだ推測の域を出る話じゃないわ。

 ただそういう可能性がある、っていう覚悟はしておいて欲しいの。」


「……覚悟、か……。」


 グンター小父さんがボソッと呟いた。


「……俺達にもそんな覚悟が必要だって事は理解した。

 それについては、皆でよくよく話し合っておく。


 ただな、ケイトさん。俺達はお前さんの目的がよく分からない。

 大企業のお嬢さんがこんな辺鄙な星系で転売屋なんぞをやってる理由もそうだが、継続的に俺達と取引する理由もそうだし、今回みたいに資材調達の話を進めようとしてくれる理由もそうだ。

 一体、貴女の目的はどこにあるんだ?」


 グンター小父さんが代表してケイトさんに問いかける。

 ケイトさんは、目を閉じてふうっと一息ついてから話し始めた。


「私は、小さくても一から十まで自分で取り回せるビジネスをしたかったのです。御父様の会社にはそんな場所はありませんでした。

 そこに偶々ここクーロイのゴミ投棄の話を聞いて、調べてみたら既存の業者が対応していない領域を見つけたので、勝算をもって回収業者になりました。


 メグちゃんとここで知り合うのは想定外でしたけど、回収業者としては目論んだ以上の成果を出すことが出来ました。順調過ぎて他の回収業者の妬みを買ってしまい、身に危険まで及んだのは想定外でしたけどね、


 でも、直ぐに気付いたのです。

 今のこんな状態は、決して長くは続かない事にね。」


 アタシは、ケイトさんのその言葉に息を飲んだ。

 でも小父さん達は……ただ静かに、その言葉を聞いていた。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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