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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第18章

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207/230

18-11 異例の出演者発表会――“テーマ未定・目玉不在”

 帝国そのものの名を関する、ダイダロス星系。

  

 その星系内の第四惑星、このダイダロス帝国の中枢、首都星エオニアである。


 エオニアには、大きく二つの大陸がある。

 片方の大陸、北大陸は、帝国の政治の中枢”帝都”ダイダロスが。

 もう片方、南大陸には、帝国の商業の中心”商都”エンポリオンが、それぞれ存在する。

 


 年の瀬が近づく中、商都エンポリオンの中央区にある帝国第一放送にて、この時期恒例の記者会見が行われていた。

 

 帝国第一放送の威信をかけた年末の一大イベント《帝国年末歌謡祭》。

 今日は、その歌謡祭の出演者発表の会見である。

 

 今回の年末歌謡祭も、例年通り帝国圏の全星系へのFTL中継の実施が予定されている。

 各星系で注目を集める歌手が一同に帝都に会し、歌の競演をするとあって、

 毎年この発表会を見て「年末がちかづいてきたな」と実感する者も帝国中に多い。

 

 全星系へのFTL同時配信には、巨額の費用が掛かる。

 そのため、通常は帝室が重大発表を行うときくらいしか使用されない。

 

 年一回とはいえ、毎年数時間を掛けた放送の全星系への同時配信をやり続けるのは、この番組くらいしかない。


 それだけ、この歌謡祭への視聴者の期待の高さ、そして局側の意気込みが違うのだ。

 

 

 通常は放送の二か月前に行われるこの発表会。

 今年は珍しく半月遅れ、一か月半前の発表となった。

 

 発表会にやってくるのは、帝都・商都のみならず、帝国各星系のメディアから派遣された記者達。

 記者達は、ようやく開かれた出演者発表会に、期待と焦りを感じていた。

  誰が出るのか。

  何をテーマにするか

  そしてどんな企画が準備されているのか。

 それらを知り、今年の歌謡祭がどのようなものになるか、少しでも輪郭を知ろうと意気込んでいた。 



 発表会が始まった。

 壇上には、番組統括責任者であるガブリエラ・サニエル女史が座り、

 別に壇上の隅に立つ帝国第一放送の若手アナウンサーが進行を行う。


 まず、歌謡祭の司会進行役が、サニエル女史から発表された。

  今年、自身が主演する配信ドラマがヒットし、再び脚光を浴びた四十代の男性俳優、バーナード・ワシリエフ氏。

  そして、ここ数年実力をつけて急成長中の若手女性俳優、ミカエラ・ワインハウス氏。

  華やかな二人の影でしっかり進行をサポートする、帝国第一放送のベテラン女性アナウンサー、ジュディス・トレーン氏。


 司会者の顔ぶれだけ見れば、華のある人物を持ってくることで例年以上に祭典としての色を出しつつも着実に進行していく、いつもの歌謡祭での傾向と似ているのではないか。

 記者達の目からは、そう映った。


 そして、続けて出演者の発表に入って行った。

 まずは、若い出演者たちから。


 帝都や近隣の星系で人気の傾向がある、ダンスを魅せながら歌うスタイルのグループが数組。

 それぞれのグループで魅力とされているものが異なり、

 全体としてバリエーションが豊かになるよう選ばれている。


 他に、独特の歌詞が人気の女性歌手や、声が魅力的な男性歌手など、ソロやデュオの歌手たちも

 それぞれが出演者のバリエーションの豊かさを増すように考えられている出演者構成だ。


 次に、若手ベテラン問わず、独特な音楽を追求するアーティストたち。

 このグループは歌唱こそほとんどしない、少数派の出演者たち。

 彼等は知名度の低い者達も含まれるが、ここは制作陣がいつも念入りに人選重ねる、選りすぐりの実力者たちだ。

 彼等自身の音楽性を発揮する時間を取る以外に、他の出演者の伴奏に加わって彩りを加えたりと、変化を加えることを企図されている。


 最後に、ベテラン歌手たちのグループ。

 若い人達だけで構成すれば華やかではあるが、永く音楽を愛する人たちにも歌謡祭を見て欲しいという意図から、長年歌手活動を続け根強い人気を誇る歌手やグループが選出されている。

 ジャンルはオルタナティブ、ジャズ、ラップ、ロック、メタル、テクノなど様々だ。



 こうした出演者の紹介を聞きながら、記者達は思った。


 『今年の目玉は、何だ……?』


 今年の歌謡祭の目玉になるものが、まだ見えてこないのだ。

 

 例年、何かしらそういった大きな注目を集めるものが用意されている。


 話題性の高い人物をシークレット出演者として招くこともあれば、

 出演者同士の意外な組み合わせによる企画であったり、

 その年の出来事にちなんだイベント企画であったり。


 今年はといえば、話題性の面では、八年ぶりの歌謡祭出演となるベテラン女性歌手ナタリー・エルナンの名前が挙がる。

 だが、それとて”強いて言えば”の類だ。


 歌手活動以外の面でクーロイ星系での騒動の渦中にあったこと。

 ”あの歌声の持ち主”とつながりがあること。

 彼女の歌手として実力は誰しも認めるのだが――歌手活動自体で話題性を集めたのではないのだ。

 

 彼女以上に今年話題を攫った人物がいないわけでは無いが。

 一番目玉になりそうな人物は――行方不明で、実現性はないと言っていい。

 それ以外の人物は歌謡祭の目玉になるかというと……演出次第だろうが、疑問がのこる。

 

 記者達は、企画の存在を中心に今年の目玉を探る方向で質問をすることを考え始めた。



 

 会場の空気がひと段落したところで、進行役のアナウンサーが小さく頷き、手元の端末を確認した。


「それでは、ここからは質疑応答の時間とさせていただきます。

 質問のある方は、挙手の上、社名とお名前をおっしゃってください」


 すぐに数名の記者が手を挙げ、その中のひとりが指名された。

 立ち上がったのは、帝都の文化系報道で知られる《アクシオン日報》の中堅記者だった。


「帝国第一放送の皆さま、発表お疲れさまです。

 今年の年末歌謡祭の“テーマ”についてお聞きします。

 本日発表された出演者構成は例年通り幅広いですが、今年の歌謡祭がどういった方向性を志向しているのか。

 企画や全体構成と併せて、現時点でお答え頂ける範囲で結構ですので、教えてください」


 控えめながらも鋭く切り込んだ質問に、壇上のサニエル女史は一拍、間を置いた。

 会場の視線が彼女に集中する。


「ありがとうございます。その件ですが……今年のテーマにつきましては、現在も調整中の部分が多く、

 本日はまだ、確定的な形で発表できる段階にはありません」


 この返答に、記者達の中からざわめきが起きる。

 だが女史は冷静な口調で、言葉を選びながら続ける。


「ただ、皆さまが気にされるであろう“目玉企画”については、すでにいくつかの方向性で検討を進めております。

 テーマは、それらの構成が固まった段階で、改めて公式に発表させていただきます」


 一か月半後に控えた本番にしては、あまりにもあいまいな回答。

 会場に微かなざわめきが広がり、治まる事は無かった。


 すぐに進行アナウンサーが話題を変えるように次の質問者を指名し、会見は淡々と続いた。


 やがて質疑応答の時間も終わり、今年の出演者発表会は静かに幕を閉じた。


 


 ◇ ◇ ◇ 


 


 ――記者達は、納得していなかった。


 「方向性が定まっていない? そんな馬鹿な……」


 記者控室に戻るなり、顔を見合わせた記者たちは、各社で即座に情報収集の方針を立て直す。

 サニエル女史が明かさなかった“目玉”とは何か。

 そして、今年だけ妙に固いこの“沈黙”の理由は何なのか。


 取材対象は、番組スタッフや出演者たち。

 いくつかの若手アーティストやバンドは、記者たちの質問に気さくに応じてくれた。


「え? いや、特別な企画って言っても……僕たちはいつも通りのステージ構成だけど」

「スタッフさんから“こんな企画あるけど出てみない?”って誘われたけど、別にそこまで大きな話じゃなかったし」


 詳しく話を聞いてみても――いずれも、“目玉”にはなり得ない企画ばかり。


 他にも何組かの出演者に話を聞いても、誰一人として「番組の中核」となるような内容を聞き出せた記者はいなかった。


 記者たちは、そこでようやく確信する。


 「目玉枠は、まだ発表されていない」

 「本当の核は、“シークレット”として伏せられている」



 一方、制作スタッフや演出陣に食い込もうとする記者もいた。

 だが、そこには例年以上に高い壁が待っていた。


「……すみません。今年は本当に、“守秘義務”が厳しくて」


「こちらも知らされてない部分が多いんです。

 現場も、ごく一部しか知らされてません」


 取材が及ぶたびに返ってくるのは、どこか怯えたような、慎重すぎる反応。

 いつもなら多少は内部事情を“匂わせて”くれるような中堅スタッフも、今は一様に口を閉ざしていた。


 一言でいうなら――異例だった。


 あまりに異例な“沈黙”の厚さに、記者達は言葉を失った。

 ただの歌番組に、ここまでの情報統制を敷く理由とは何なのか。


 逆にそこに、帝国第一放送が大きな“何か”を仕掛けようとしている――

 その確信だけが、彼らの胸に残った。


 

 取材情報を持ち帰った各社の記者達は、いざ記事にしようとして悩んだ。

 確たる情報は少なく、何かが起こる予感だけは強い。



 商都を中心に発行している、芸能・文化系の記事が充実する老舗《アクシオン日報》は、今年の歌謡祭についてこのような記事を発行した。


 ----

 《帝国年末歌謡祭》出演者発表会開催──"今年のテーマは未定"? 異例の遅れに波紋

 目玉未発表、演出も不明……例年と異なる“沈黙の発表会”


 記事本文抜粋:


【帝都発=記者・ライネル・ヴァルス】

 帝国第一放送が主催する《帝国年末歌謡祭》の出演者発表会が本日、商都エンポリオンの帝国第一放送本社で行われた。

 恒例行事ではあるが、今年は例年と違い、“テーマ未定”という異例の状況が公式に明言された。

 番組統括のガブリエラ・サニエル女史は「方向性は検討中」と説明したが、放送まで六週間を切るこの時期にしては遅すぎる状況であり、現場関係者の間にも戸惑いが広がっている。


 関係者取材を通じて浮かび上がったのは、番組全体の中核を担うと見られる“未発表企画”の存在だ。

 取材に応じた出演者や制作スタッフからは、

  「企画参加の打診はあったが、企画の規模は限定的」

  「詳しい演出は共有されていない」

 との声が相次ぎ、番組の“核心”がごく限られた層にしか知らされていない実態が明らかになった。


 今年の歌謡祭は、何かが違う――その確信だけが、静かに残る。

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 一方、若者の間で辛口コメントが好評な雑誌クロノスは、このような記事を出した。


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 “シークレット? それとも迷走?”──帝国歌謡祭、今年はナゾだらけ

 出演者は例年並みも、目玉不明・テーマ未定の“モヤ会見”に記者困惑


 記事本文抜粋:


 【商都発=記者ミラ・ケルナ】

 帝国第一放送が主催する年末恒例《帝国年末歌謡祭》の出演者発表会が本日開かれた。

 毎年この時期になると「年末来たな〜」という声も聞こえるが、今年の会見は一味違った。

 良くも悪くも、“ナゾ”の多さで記憶に残ることは確かだろう。


 特に驚きだったのは「今年のテーマはまだ未確定」という番組責任者の発言。

 えっ、あと六週間しかないよ? 本気?

 記者室では一瞬ざわめきが走った。


 出演者は例年通り豪華。だが、目玉らしきものが見当たらず。

 会見後の取材では、企画参加を打診されたアーティストたちも「自分たちはサブ扱い」「核になる演出ではない」と口を揃えた。


 一方で、裏方スタッフに食い込もうとした記者達は“守秘義務の高い壁”に阻まれる結果に。


 シークレットが仕込まれているのか? それとも、本当に企画難航中?

 一部関係者からは「重大発表級の動きが水面下である」との噂も聞かれたが、真相は不明。


 歌謡祭の“真の姿”が明かされるのは、当日のステージ上なのかもしれない。

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 アンダーグラウンド系の――正確性よりも速報性、少々偏ったメディアになると、更に様相が変わる。

 そのひとつ、《ラディウス・メディアネット》はこう報じた。


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 帝国第一放送が“隠している”何か──歌謡祭会見、前代未聞の情報統制か

 出演者発表に見えない“核心”、極秘ゲストの存在を示す複数証言も



 【記者・リリィ=Z】

 《帝国年末歌謡祭》出演者発表会が本日行われた。

 でも、実はこの会見、異常なほど“何も語られなかった”。


 担当プロデューサーのサニエル氏は「方向性は未定」との一点張り。

 番組スタッフへの裏取材でも、「守秘義務が例年と桁違い」「言ったら契約違反になる」として、ほぼ全員が口を閉ざした。


 複数の出演者からは「自分たちはメインじゃないし」「本当に重要な演出は別の誰かが担当するらしい」との声も。


 これ……《シークレットゲスト》ありえるかも。

 ここまで、情報統制してるってことは、とんでもないレベルのゲストが来そう。


 ぶっちゃけ、あの『星姫』来るんじゃない?


 私の予想、っていうか、願望も含まれてるけど。


 もしわかってて、主催側が仕掛けようとしてるなら。

 それは帝国第一放送史上、最も徹底したサプライズ演出かもしれない。

 ----



 サプライズゲスト=『星姫』説がアンダーグラウンド系中心に広まり始める中、

 主要メディアは、主催者側が何も明かさない以上、沈黙したまま推移を見守っていた。


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