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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第3章

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3-03 小父さん達との顔合わせ

(ケイト視点)



 ハルバートさんを交えて3人で話し合いをした後、家に帰ってからマルヴィラを問い詰めた。


「マルヴィラ、警察の仕事を辞めて私の所に来てくれたって聞いたときはちょっと嬉しかったけど、馘になったなんて聞いてないわよ!」


「ちょっとケイト、帰りはダンマリだったのは、さっきのハルバートさんの話で考え込んでると思ってたのに。そっちで腹を立てて黙ってたわけ!?」


「誤魔化さない!」


 襟首をつかんで怒ると、マルヴィラは観念して話し出す。


「……警邏隊の副隊長に昇進して、署長から訓示を受けた時に目をつけられたみたいでね。それからずっと署長に迫られてたのよ。妾になれってね。


 署長は貴族家の出身で既婚者だったからやんわり断り続けてたけど、ある時業務命令で署長室に一人で呼び出されて。行ったら署長が部屋に鍵をかけた上で私に襲い掛かってきたのよ。

 それまでも胸とかお尻とか触ろうとしてきて気持ち悪かったし、襲い掛かってきたならもう遠慮は止めようって思って……()()()()にして、辞表を叩きつけて帰った。」


 あーなるほど、迫ってきた相手が強硬手段に出たから、思わず手を出したってことね。

 マルヴィラが反撃したのだから、相手は何か所か骨折くらいはしてそう。


「……それ、後で御父様が尻ぬぐいしたの?」


「後処理は全部任せておけってハルバートさんが言ってたから、多分そう。

 びっくりする金額が後で振り込まれて、ハルバートさんに聞いたら、退職金だと思って取って置けって言われたの。

 想像はしてたけど、トッド侯爵が動いたっていうのは今日初めて聞いたわ。」


 ……多分、トッド侯爵が相手の署長に逆抗議して、マルヴィラへの今までのセクハラ行為の証拠を突き付けて、慰謝料をもぎ取ったって所かしら。


「全く、何やってんの……。」


「まあ、確かに旦那様のお世話になっちゃったけど。旦那様やハルバートさんからも『気にするな』と言って頂いたわ。

 そのまま続けて『それよりもケイトがまたトラブルみたいだ、助けてやってくれ』って言われたら、私にここに来る以外の選択肢があったと思う?」


 うっ、と言葉が詰まったところで、マルヴィラに畳み掛けられる。


「『身の危険を感じて警察に駆け込むなんて何をやったんだ、何故そうなる前に知らせなかった!』って、旦那様はお怒りだったわよ?」


「っ……。」


 あまり実家の力を頼らずに、やれるだけやってみたかった、って言ってもダメでしょうね。


「ケイトの性格を考えると、自分の力で一からビジネスを立ち上げてどこまでやれるか、確かめたかったってところかしら?

 それで回収業者になって3区に行ってみたら、若い女一人の新参者は爪弾きにされて、仕方なく出涸らしのゴミを探ってたら、そこで偶然メグちゃんに会っちゃって、人の良さを見抜かれてそのまま彼女達と取引を始めた。メグちゃん達がゴミから洗いざらい使える物を拾っちゃうから、彼女達との取引で安定的に成果が出たけど、それが他の回収業者の妬みを買った。

 ……今までの経緯って、大体そんな感じであってる?」


「……何でそこまでわかるのよ。」


「何年、貴女の友達してると思ってるの。

 ケイトの性格と、良いんだか悪いんだか分からない妙な引き寄せ力を考えたら、こうなんじゃないかって思ったわ。」


 妙な引き寄せ……マルヴィラが容姿と腕っぷしでトラブルを引き寄せるのに対して、私は『何でこんな事になった?』と後で思うようなトラブルに巻き込まれることが多い。


「ケイトのそういう妙な引き寄せってさ、話しかけ易そうな雰囲気と、ちょっぴりお人好しな所と、思い込んだら突っ走っちゃう性格の相乗効果の様な気がするなー。

 ケイトはよく旦那様に、『行動した結果どういう影響が出るか考えてからやれ』って怒られてたしね。」


 雰囲気はともかく……他は思い当たる事が多すぎて否定できない。


「トラブルを引き寄せてるのは、私も人の事は言えないんだけどね。

 ……それで、ケイトはハルバートさんの話、どうなの?」


「覚悟の話は……ちょっと、時間を頂戴。」


 思いがけない大事に発展してしまって、ゆっくり考えたい。それに……。


「言っとくけど、私の事なら『巻き込んでしまって申し訳ない』って思わなくて良いわよ。」


 私の気持ちを先回りして、彼女は言う。


「そのトラブル体質含めて、貴女の事は友達としてとっても気に入ってるのよ。私からしたら『ああ、またか』くらいの話。

 どの道、貴女1人じゃ解決できる事じゃないんだから、ケイトがやるって決めたなら私もやるわ。

 

 ……第一、ここで貴女を見捨てて帰ったら『友達を見捨てる様な娘に育てた覚えはない』ってお母さんに半殺しにされるわ。」


 それが比喩じゃない事はよく知ってる。

 マルヴィラのお母様、クレアさんの性格と腕を考えると、それ位はやりかねない。


「まあ、ゆっくり考えなよ。」

「……うん、有難う。」



「ケイトお嬢様、当面は今の取引を続けて頂ければと思います。

 先日のお答えは、また私がこちらに来た時にお伺いしましょう。」


 話し合いをした3日後、次に3区へ行く日の前日に、ハルバートはそう私達に言い残して、クセナキス星系に帰って行った。

 それから数回、いつも通りに3区でメグちゃんとの取引をした。


 事故後の3区で生まれた彼女は当然ながら学校に行った事も無く、このコロニーで生き抜くことに知識が偏った女の子。私との会話ではコロコロよく笑い、また私が彼女の足りない知識について色々教えると素直に聞く。初対面では男の子の様な言動だったのが、ニシュが加わってからは徐々に女の子らしい言葉遣い、振る舞いになってきている。

 このまま彼女が真っ直ぐに成長していく様を見守っていきたい。妹ができたらこんな気持ちになるのかなって思う。


 でもこの環境では、いずれそれが叶わなくなることは分かっている。

 両親は既に他界し、養い親は3人の小父さん達。彼らもメグちゃんに愛情を注いでいるのでしょう。でも彼ら自身いつまでこの環境で生きていられるのか。

食事は再生レーションパックのみで、ギリギリ食べていけるだけの量。

 住居は軍に守られていない廃棄コロニーで、デブリや天体衝突などで再度事故に遭う危険性は否定できない。

 なんとか4人で力を合わせて生き残っているという状況。多分ここから1人でも欠けたら、上手くいかなくなってもおかしくない。


 まだ、小父さん達がどんな人かを見定めてない。こんなに真っ直ぐに成長しているメグちゃんを見ると、彼らも決して悪い人では無いのでしょう。まだ皆が元気なうちに、何とかこの状況から助けてあげたい。

 取引を重ねる度にその思いが強くなってくる。



 2週間後、ハルバートさんが再びクーロイにやって来た。

 出迎えは不要ですと手紙を受け取っていたので、彼が来るのをオフィスで待つ。


「それで、ケイトお嬢様。先日の答えを聞かせて頂けますか。」


 荷物を置いて落ち着いてから、ハルバートさんはそう問うてきた。


「……彼女達はギリギリの環境で生きています。今ならまだ間に合うと思うのです。

 このまま彼女達を放って逃げるなんて、私にはできません。

 彼女達を助けるためだったら、頭くらい幾らでも下げます。コネだって何だって使います。少々の危険だって厭いません。

 御父様には、機会を見て話をします。ハルバートさんも、協力して頂けないでしょうか。お願いします!」

「どうか、私達に力を貸してください!」


 頭を下げてハルバートさんに協力をお願いする。マルヴィラも頭を下げてお願いしてくれている。


「……途中で諦める事は許されませんよ。分かっていますか?」


「今やらなければ、彼女達が助かりません。20年近く放置された彼女達に、次の機会を待つ余裕はないのです。」


 しばらくそのまま沈黙が流れる。


「……ケイトお嬢様は、ちょっとお人好しで、曲がった事が許せなくて、そしてこうと決めたら頑固一徹。やると決めたら、その為には平気で何でもする。

 御兄弟の中でも、若い時の旦那様に一番気質が良く似ておられる。

 そんなケイトお嬢様ですから、そういう答えが返ってくるだろうと思っていました。」


 やれやれ、とハルバートさんは溜息をつく。


「旦那様にも話しておきました。旦那様の伝言です。

 『思う存分やってみなさい。ただし後戻りはもう出来ません。避けられる危険は極力避ける事。それから、マルヴィラとはよく相談しながら進めるように。』

 とのことです。」


「あ、あ、有難うございます!」


 ハルバートさん、先に御父様に話を通していてくれたのですね。


「……とはいえ、まずは彼女達の証言を証明するところからですね。

 次に3区に行くのは、いつです?」


「明後日です。その時にIDを貸してもらうお願いをして、その次行った時に受け取るつもりです。

 ただ、IDをそのまま持って帰るのが見つかると咎められるので、電波や音波を通さない箱を用意した方が良いのかな、と思っています。」


「その方が良いでしょうね、ただ、シャトルに乗り降りする際の荷物チェックはどうするのでしょうか?」


「それについては――という風にすれば大丈夫かと思っていますが、ハルバートさんはどう思います?」


 そこからはマルヴィラも含めて3人で意見を交換しあい、IDを持ち出すための段取りを組んでいった。



 そしてその翌々日3区へ行った時に、取引が一通り終わった後で、メグちゃん達にIDを貸してもらうお願いをした。

 案の定、色々質問を受けたけど、今彼女達に教えても良い事は普通に答えた。でも御父様の伝手を使う事は言えても、まだ協力を取り付けていない方々の事は言えない。

 即答できる話ではないと思ったから、次回に答えを聞かせて欲しいと言ってその場を去った。


 IDを持ち出すための仕込みは、取引先の一つ、ジャンクヤード『プロトン』を営むガストンさんの所で行った。

 彼の店の裏にはジャンク品を自分で修理するための工房があり、そこには一通りの加工・修理設備が揃っている。普通は他人に使わせないそうだけど、私の事は取引先として非常に気に入って貰えており、時々使用料を払って工房を使わせて頂いている。

 ハルバートさんもマルヴィラも加工設備を使う技術は無いので、作業は私が一人で行う。


 作業の合間にハルバートさんが質問してくる。


「ガストンさんに気に入って頂いて、こうした設備まで使わせてくれる理由は何ですか?」


「……他の回収業者はリサイクル技術者出身が多いみたい。

 彼らはどんな素材が売れるかは詳しいけど、ガストンさんからすれば、どういう物を回収して欲しいのかを説明するのが難しいらしいの。

 私の場合はこうして機械も使えるし、装置の構造の事も知っているから、話がし易いって喜んでくれたみたい。それにこうやって私が自分である程度加工してから売ると、ガストンさんも自分で加工する手間が省けるでしょ?」


「回収した素材そのものではなく加工して売るのですか。それなら他の回収業者よりも取引の幅が広がりますな。お嬢様は事前にちゃんと調べて、勝算があったから回収業に参入しているのですね。なるほどなるほど。」


「ハルバートさんに褒めて頂けて、嬉しいですね。」


 実家の若い使用人達には、彼は気難しくて厳しいと思われている。厳しいのは本当だけど、彼は彼なりに、褒める時はちゃんと褒める人だ。褒める表現が分かりにくいだけで。



 そうして準備をした上で、次のメグちゃんとの取引の日を迎えた。

 シャトルの中には警備の人間がいるので実力行使はされないが、相変わらず同業者達は私を無視する。マルヴィラが着いて来てくれるようになってから、1人の時は本当に心細かった事に気付いた。


 3区に着いて、その日のゴミからリサイクル品を回収する同業者達から離れ、マルヴィラと2人でコンテナの山の奥へ向かう。

 待ち合わせ場所に着くと、「今日はちょっと場所を変えるね」と、メグちゃんが着いて来るように促して来る。

 彼女に従ってあるコンテナの中に入って行くと、彼女は何かを操作する。するとしばらくして、コンテナ中ほどの床にある隠し扉が開く。中からロボットが開けたよう。


「宇宙服越しじゃなくて、小父さん達を交えて直接話がしたいと思ったの。この先のエアロック室の向こうに会議室があるから、来てくれない?」


 了承すると、彼女は隠し扉の奥にもう一つある扉を開けて中に入る。

 中はエアロック室になっていて、扉を閉め空気を入れてから宇宙服を脱ぐ。奥にもう一つある扉が、会議室に繋がっているのだろう。

 宇宙服越しでは分かりにくかったメグちゃんの容姿は、肩口までありそうな栗色の髪を後ろで束ねた、藍色の瞳のかわいらしい女の子。ただ気になるのは、やっぱり背がちょっと低めな事……140㎝ちょっとかな? それほど背の高くない私よりも、更に頭一つ分位低い。


 宇宙服を脱いで、中の服を着替えて身形を整えた後、メグちゃんに促されて奥の扉をくぐる。

 そこは殺風景な部屋で、中央に大きめの丸テーブルと椅子が6脚。既に3人の男性が座っていたが、私達が入ると立ち上がって挨拶してきた。


「初めまして、ケイトさんにマルヴィラさん。

 前回の取引で、IDの話をされたとメグから聞きましてね。詳しい話をお伺いしたいと思って、ご招待させて頂きました。」


 そう言って、3人のうち恐らく一番年配の、大柄な男性が話しかけてきた。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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