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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第17章

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17-06 お姉さんを帰して (前)

メグ視点

 秘密会議から二日後の、夕方。


 現地から一番近い町までは電車で向かった後、駅から向かう手段を探します。

 駅の派出所でラミール村に行きたいと話して、行く方法を尋ねてみると、たまたまラミール村近くの駐在所にこれから向かう警察官がいると教えてくれました。


 それが今、私が乗せてもらっている車を運転する、ポパン巡査長。

 派出所までで良い、後は歩く、と言ったのですが。


「もうそろそろ、村の入口に着きますよ」


 親切にも、村の入口まで送ってくれると、申し出てくれました。


「村の皆は、町でのお祭りに呼ばれて出かけちゃって、今は誰もいないんです。

 用事が終わっても誰も居なかったら寂しいですから。

 私、ミゲーレさんの用事が終わるまで待ってますよ」


 村の人は、全員近くの町のお祭りに招待……なんとも平和的な人払いですね。


「良いんですか? 有難うございます。

 もし何かあったら、私を置いて戻って貰って構わないです」


 私の答えに、ポパンさんは狼狽えます。


「いえいえ。どうせこの辺りは平和なんです。派出所を二時間くらい開けても問題ありません。

 でももうちょっとしたら暗くなります。

 そんな場所に、若いお嬢さん一人置いておけないですよ。

 入院中のおばあさんの為に、家に物を取りに来たんでしたっけ?

 ゆっくり見てきてください」


 そう言って待ってくれる彼を入口に待たせて、私は村の中へ歩いて入って行く。


 村の中とはいえ、歩道や農業機器が通る場所以外は、下草が私の腰くらいまで伸びている。

 茂みを歩くと足を取られそう。

 風もあって、その下草がさわさわと音を立てて揺れている。


 でも、茂みの傍に、黄色い小さな花が咲いているのが見えた。

 ちょっと屈んで、その花――図鑑で見た記憶がある。タンポポっていったかな――が、ゆらゆら揺れているのを、肩掛けしていたバッグを側に置いて眺めてた。


 それから歩道を辿って、村の真ん中の広場を目指す。

 村の広場はそこそこ広い。

 例えれば、私達の船の食堂と会議室を合わせたよりも、もう少し広いくらい。

 広場の隅にベンチが二脚。

 ここに座って、待っていようかな。


 段々と恒星が地平線の下へ隠れていくのか、徐々に辺りが暗くなってきます。

 私はただ、ベンチに座りながら、空が赤く、青黒く、色が変わっていくのを待って……


 丘の向こう――海のある方角から、ヒューンと高い音が聞こえます。

 その音が、段々と大きくなっていき……

 丘の向こうに、赤褐色の宇宙船の、大きな船体が見え始める。

 船体前面は、特徴的なハンマーヘッド型。


 見えてくる船体はますます大きくなり……そして、広場の真上に停止。

 そこから、何かが降りて来た。


 ズゥーーーーン!

 大きな音がして地面が揺れる。

 土埃が舞い、目に入らない様に顔を覆う。


 気付くとベンチに座る私の前に、マルヴィラお姉さん位の背丈の、がっしりした男の人が立っていた。

 この人が、あの……皆さんが『破壊神』って恐れていた人か。


「お前が、メグ――マーガレットか」

 私は、男に頷いた。


「手紙には、四人で、あと船を持ってこい、と書いたはずだが?」

「この星には……私一人で来ています。船も持ってきていません」

 私の答えに、男は顔を顰める。


「何故だ。答えろ」

「長くなりますが――聞いて頂けますか」

 私は、男の返答を待った。


「……なるべく、簡潔にな」

 私は頷いて話します。


「3人――グンター小父さんにセイン小父さん、ライト小父さんは……3区で私が生き延びるのを、ずっと助けてくれていました。

 そんな3区の活動には、外側に出ての修理活動も、数多く含まれていますが、あそこは惑星上と違って、宇宙放射線から私達を守る大気はありません。

 長らくの放射線の被ばくで、今、三人とも病に倒れています」


 私の言葉に、男は少し顔を顰めた。


「そんな小父さん達を、無理に宇宙へ連れ出すことは……私には出来ませんでした。

 三人は今、共和国で病院に入院しています。

 私は小父さん達の為に、宇宙放射線被ばくによる病の専門家のお医者さんを探すために、こちらに来たのです」


 私一人で交渉に臨むための、物語……。

 筋書きは、秘密会議にて皆で知恵を出し合って練り上げた。

 そのために、色々下準備もした。


 あとは、私の演技力と、交渉力の勝負。


 しばらく待つと、男は口を開いた。


「船は、なぜ持ってこなかった。船を操縦していた、軍人二人もいただろう」


 彼の言葉に、首を振った。


「あの人達は、まだ帝国に帰ってくるのは危険でしょう。お二人も向こうに居ます。

 それに、私は来てくれるお医者さんが見つかれば、すぐ共和国に戻るつもりでした。

 それにあの船は、入院中の小父さん達にとって、帰る家です。

 持って行って行くよう、共和国に頼むことはできませんでした」


 男は、チッと舌打ちをした。


「それじゃあお前は今日、なんでここに来た」


「もちろん、ケイトお姉さんの様子をお聞きするためです。

 私一人が来てもお姉さんを帰してくれるか分かりませんでしたが、それでもあの人は私にとってかけがえのない恩人です。

 無事を確かめたいと思い、やってきました」


 頭を下げると、ふっと男が鼻で笑う音がする。


「ふむ。お前はもっと強かな女かと思っていたが、そうでもないのか。

 まあ確かに、お前がお姉さんと呼んでいるあの女は、お前一人が来たところで返してやるわけにはいかん。ただ、今の所、命に別状はないと伝えておこう」


「荒くれの男の人達に攫われた、と聞いて……命は無事でも、お姉さんの尊厳は」


 そう言うと、男は盛大に顔を顰めた。


「お前……そっち方面の話は疎いのかと思ったら、そうでもないのか」


 なんだか、段々と男の口調が砕けて来た気がする。


 本当のところ、こう聞いてくれってトッド侯爵に頼まれたんだけで、実は意味なんて分かってない。

 でも、顔には出さない。

 何か守るべきもの、っていうのはわかるから。


「安心しろ。そういう方面でいきり立ってる奴はいる。

 だが、俺があの女を部下達の慰み者にはさせん。大事な人質だからな。

 ところでお前、ここまでどうやって来たんだ」


 聞かれた事には正直に答える。


「近くの駅までは、共和国を通じてトッド侯爵様にお願いして、電車の乗り方を教えてもらってきました。私、電車も乗った事がありませんでしたし。

 そこから先は、土地勘のある地元の駐在さんに頼んで、送ってきてもらいました」


 予想外だったのか、男は目を丸くして驚いた。


「はああ⁉

 船を見て腰を抜かしていた、軍人にしては変な奴が居るのが見えたが……。

 あいつがそうなのか? 駐在さんだと……」


 私は男に頷いた。


「ええ。あの方は何も事情を知らない。

 本当にただの、近くの駐在さんだそうです」


 私の答えに、男は頭を振った。


「お前、無事を確かめに来ただけの何も考えてない女なのか、腹括ってやって来た強かな女なのか、よくわからん奴だな……」


 前者とみられているなら、話し合う余地はあるのかな。


「俺が訊いてばかりだが、もう幾つか質問したい。いいか」

「質問されて困る事はありませんので、良いですけど……その前に」


 会話のペースを取られっぱなしなので、ちょっと間を挟もう。


「本当はお姉さんの無事を、声を聴きたいのですが……そればかり聞かれてもお困りでしょうし。えっと、他に何を聞こうとしてたかな……あ、そうそう。

 私は、貴方を何とお呼びすればよろしいのですか?」


 さっきから、質問されては答えて、の繰り返しだから。

 ちょっとペースを乱して、こちらから質問する。


「好きに呼べばいいだろう」

「そうは参りません。お名前でなく適当な呼び名で呼ぶのは、失礼に当たりますでしょう」


 男は顔を顰めた。


「お前と話してると調子狂うな……まあいい。俺の事は、リオンと呼べ」

「はい。分かりました、リオンさん。それで、質問って?」


 ぐっ、とリオンの口から音が漏れる。


「ホント、調子狂うな……で、質問だが。

 お前等が、3区から脱出した時の事だ。あのケイトって女、3区に来た時に荷物検査したんだが、怪しいモノを持ってるように見えなかった。

 後で尋問しても、あの女自体が情報を持っていなかった。

 だから、何か物に情報を入れていたのは確かなんだ。

 純粋に疑問なんだが、あの時ケイトって女は、どこにお前たちへの情報を隠し持っていたんだ?」


 今となっては、知られても問題にならないと思う。

 教えてもいいかな。


「確か、あの時届けられたのは……宇宙服の足の裏に入れるウェイトだったと思います」


「馬鹿な。ウェイトも調べたはずだ。

 だが、何の変哲もない金属の塊だった。あれでどうやって?」


「上手く説明できるか分かりませんが……。

 こう、厚みのある金属板が二枚あって。

 片方は文字の所だけ窪んでいて、もう片方が同じだけ出っ張っていて。

 それを二枚張り合わせた時にピッタリ隙間がなくなるように、加工されていたんです」


 グンター小父さんがケイトお姉さんにそういう技術の存在を教えたことがあったらしい。


「話聞いただけで、多分ミクロン単位の加工が要りそうな話だな……

 一つ、疑問を解消したかっただけだ」


 彼は納得したようだ。


「それじゃあ次、訊くぞ。

 お前、脱出前にラジオで17年前の事故の秘密があるって話してたな。

 それじゃあお前自身は、その秘密についてどこまで知ってる」


 ……遂に、この質問が来た。


「どこまで、と言われても……。

 あの船の航法コンピュータに掛かっていたロックを、解除させるのに必要なくらいですけど」


「……結構知ってるじゃないか。危険だな」


 このままだと、余り良くない流れになりそう。


「私から、一つ確認してもいいですか」

「なんだ」


 リオンは顎をしゃくって、私の言葉を促します。


「あの、仮に私が深いところまで知っていたとして……。

 でもそれって、私が産まれる前の話です。

 私の実体験の話ではないのですが、それを誰かに話したところで、正式な証言、でしたっけ、になったりするでしょうか? リオンさんは、どう思います?」


「……」

 リオンは、考え始めた。


「病気で倒れているってお前が言う、残り3人だったら別だが。

 お前個人に関しては……また聞きの話にしかならんな。

 それじゃあ質問を変える。お前の言う小父さん達は、どこまで知ってる」


 私は、首を傾げる。


「もちろん小父さん達も、私と同じくらいは知っていますが……。

 だからと言って、小父さん達にとっても又聞きにしかなりませんけど。

 間違っていたら教えてください」


「正式な証言になるかどうかの問題じゃない……危うく煙に巻かれるところだった。

 そもそも知られてはいけない事なんだよ。

 まったく、お前らがほじくり返さなきゃ、面倒な事にならなかったのに」


 今のリオンの言葉は、ちょっと……許せなかった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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