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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第17章

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17-05 共闘の誓い、命を懸ける決断

メグ視点

 秘密会議は結局、ペドロさんと私で出席することになった。

 小父さん達やランドルさん、ナナさんは、今はここに居る事は使節団の一部以外には知られていない。だから、表に出すのは危険って判断した。

 それに侯爵さんの邸での会議だったら、トッド侯爵は当然出てくる。

 だったらペドロさんが行かない訳にはいかない。



 私はファレルさんが持ってきたお土産の箱の中に紛れて、箱ごとファレルさんの車に乗せられて行った。上から、共和国側からファレルさんへのお土産を色々詰め込まれた。


「ちょっと苦しいかもだけど、我慢してくれるかな。

 荷物検査には引っ掛からないように箱に仕掛けがしてあるから、見つからないと思う」


 ファレルさんが事前にそう言ったように、見つからないままファレルさんの宿舎に帰った。

 ペドロさんは、別口でファレルさんが夜に連れ出すらしい。


 宿舎で箱ごとエレベーターに乗せられた。

 軌道エレベーターで採掘場に降りていく時の感覚がずっと続いてたから、かなり深くまで降りてるんだってわかった。

 そこから何かの乗り物にまた乗せられて、箱ごとまた運ばれて……。

 いつの間にか、箱の中で丸まって寝てしまっていた。


 気づいたら箱の外からノックされてた。


 外へ出ると、船の自室の倍くらいの広さの部屋にいた。

 ノックしていたのはファレルさんだ。


「夜の会議まで、この部屋で待っていてください。

 水や食事は、ここのパネルを操作すれば届けられて、この壁のボックスに入れられます。

 私が外に出たら外から扉は開かないので、誰にも顔を見られることはありません」

「わかりました。その前に一点だけ」


 私は、ファレルさんにセルジオさんの言動について質問したけど……答えを聞いた感じでは、確実にバレてるのは私だけのようだった。



 彼が出て行った後、私は頭の中で状況を整理した。


 ファレルさんの言葉を信じれば、見つかったのは、確実に……私だけ。

 小父さん達や、ランドルさんとナナさん、そして管理エリアの船については、『多分使節団と一緒』くらいの類推でしかないはず。


 ただ、向こう側の目的や、こちらの『切り札』……いろいろ考え併せても。

 今は――こちら側にはまだ、勝ち筋が見えない。


 こちらが勝つための必須条件で、今足りないのは……二つだと思う。

 だから、今の方針は――こちらの勝ち筋が見えるまで、時間を少しでも稼ぐこと。



 これ以上は、今は考えてもしょうがない。

 注文した食事を採って、寝て待つことにする。

 ……ケイトお姉さん……もう少し、待ってて……。



 大分時間が経って、扉がノックされる。

 食事と休息をとったので、すっきり目が覚める。


 入って来たファレル氏に付いて歩き、彼の後ろから会議室に入る。

 私達が最後だったようだ。


 会議室にはペドロ氏とファレル氏の他に、ファレル氏とちょっと面影の似た男の人と、もっと年配の男の人、そして車椅子の男の人がいる。


「私はリチャード・トッドという。この星系を治める侯爵を勤めている。

 緊急会議に参集頂いて感謝する」


 この人が、ファレルさんのお父さんっていう、トッド侯爵か。


「私は、トッド侯爵と共に『全貴族総会』を主宰している、ミツォタキス侯爵だ。よろしく」


 この初老の男の人が、貴族の集まりをまとめている人ね。


「私は、ケイト・エインズフェロー氏を護衛していた近衛第三連隊長、サーム・ビゲン大佐という。この度は、彼女を攫われることになってしまい、申し訳ない」


 軍服っぽい服を着た、車椅子の人が……お姉さんを護衛してた部隊の人か。

 自己紹介は全員私の方を向いて言っていたので、皆私が来る前に自己紹介をし合っていたのか、あるいは全員顔見知りだったんだろう。


 私は、以前ケイトお姉さんに叩きこまれた――

 スカートをチョンとつまんで礼をする『カーテシー』をした。


「ご紹介有難うございます。私が3区コロニー生存者の一人、マーガレット・ルマーロと申します。よろしくお願いします」

「それは、ケイト君の教育の賜物か……彼女とは、親密な間柄だったんだな」


 トッド侯爵が、優しい表情で言う。


「はい。あの方ともう一人が、私達に援助をしてくれた御蔭で生き永らえました。

 それはともかく、今の私達には時間がありません。

 早速、会議に入って頂ければ」


 私はそう言って、本題に入るのを促した。

 トッド侯爵が、円卓に一つだけあった空席に私を促す。

 ファレル氏は部屋の隅の席に座るようだ。


「マーガレット君には、ファレルから聞いていると思う。

 昨夜、帝室の手の者と思われる一団によって、実家にいたケイト・エインズフェロー女史が攫われた。

   君と、君と一緒に3区で生きていた生存者達3名。

   そして3区を脱出した際の宇宙船。

   これらを揃えて引き渡せば、代わりに彼女を解放する……。

 そう、その一団は要求してきた」


 トッド侯爵に私は頷いた。


「指定された交換場所は、ここから車で3時間程行った田舎の農村。

 そこへ、君達と、船を持って連れてこいと要求されている。

 同行者は一人だけ、とも指定された。


 危険を避けるため、既にその農村の住民は、離れた場所に避難している。

 だが、ケイト女史を攫った一団は、その場所の周辺にはまだ、確認されていない」


 今朝ファレルさんから聞いた話では、お姉さんを護衛していたビゲン大佐達では太刀打ちできなかった。しかも、戦闘アンドロイドっぽい個体に一方的に被害を食らったらしい。



「三つ、質問させてください。

 まず、皆さんは……私達3区の生存者を、引き渡す方針なのですか」


 この質問には、全員首を横に振った。


「君達を引き渡せば、今の皇帝を野放しにしてしまう。

 それで暴君を生んでしまえば、帝国に住む二百億の臣民にとって未曽有の危機となる。

 かといって女史を見捨てる積りも全くない。彼女もまた、帝国の臣民の一人。

 いかにして彼女を救い出し、彼女を攫った一団と、その背後にいる皇帝を掣肘するか。それなくして、帝国民の安寧は無いと考えている」


 ミツォタキス侯爵の言い方は難しいけど、要は私達もお姉さんも見捨てないって事、皇帝とお姉さんを攫った一団をぶっ飛ばさないと皆が安心して暮らせないって事が言いたいのは、わかった。


「そこで、この脅迫に対してどう対処するか。

 その先どうするかについて、決めていきたいと思っている」


 トッド侯爵が、私の質問に対する回答を締め括る。


「ペドロ議長。貴方がた共和国の、この件に関わる目的は、何でしょうか」

「恩人である、カルロス侯爵の解放だ。現在彼は帝室に捕らえられている。

 今の皇帝を打倒しなければならないと言う彼等とは、利害は一致している」


 ペドロさんの言葉に、私は頷いた。


「私達の目的は、普通の暮らしをすることです。

 しかしあちら側は、私達が生きて3区でのことを証言されると困るからか、命を狙われています。ですから現皇帝を打倒することに対し、私達も皆さんと利害が一致していると思います。


 最後の質問……どうして皆さんは、この場に私を呼んだのでしょうか」


 偉い人達なら、自分達で決められるのでは、って事も思った。


「それは、君達が……一番平和的に、現皇帝を追い落とす手段を持っているからだ。

 私達は、現皇帝に武力で反旗を翻し、帝国内に内乱を起こしたい訳ではない。

 誰もが現皇帝を非難する、奴の犯罪の証拠……それを突きつけ、現皇帝を引きずり下ろす。

 その為に、協力を仰ぎたいがために、貴女を呼んだ」


 ミツォタキス侯爵が言う。


「帝国民であれば、私達は命令できる立場にはある。

 だが3区に打ち捨てられながら生きて来た君達に、我々の職位や爵位など意味のないモノだろう。

 だからお互い人間として、貴女にお願いし、共に戦うために呼んだのだ」


 トッド侯爵も、それを補足する。


「現皇帝を打倒するため、貴女と仲間達の協力が欲しい。

 ぜひ、協力をお願いしたい」


 ビゲン大佐も、頭を下げる。


「私達も協力して皇帝打倒に力を尽くすつもりだ。

 君達も、是非力を貸してほしい」


 ペドロ氏も、私に頭を下げます。


「……帝国籍もない単なる流浪の人間に、皆さん頭を下げて頂く必要はありません。

 私達が生き残るため、そして私達にとって大事な人を助けるため、皆さんと一緒に立ち向かっていきたいと思います。

 力を借りないといけないのは、私達の方です。

 どうか、私達にお力を貸してください」


 私も皆さんに頭を下げます。


「わかった。マーガレットさん、有難う。

 これで、皆の当面の目的……現皇帝と、奴の抱える武装集団の打倒。

 そして女史の救出を、共有できたと思う」


 ミツォタキス侯爵が、この場をまとめる。


「では、中身に入って行こう。

 まずマーガレットさん。現皇帝の犯罪の証拠……17年前の3区の事故に関する、皇帝の関与の証拠は、今すぐ出せる状態なのか?

 あるいは、君自身の証言ができるのか?」


 ミツォタキス侯爵の質問には、私は首を振る。


「17歳に満たない私自身の証言に、証拠能力がありません」


 事故当時生まれていなかった私が17年前の事を証言をしても、証拠にはならないの。

 言葉を続ける。


「証拠になり得るものとして、17年前の事故直前に録音された実行犯自身の証言データがあります。内容は私も大まかに把握していますが、まだ出せる状態ではありません。

 暗号化されていて、復号化できる条件が整っていないためです」


 ミツォタキス侯爵は頷いて、追加の質問をする。


「復号化には、何が必要かね」

「3区の装置と同じ年代の、軍仕様の暗号化復号化装置。

 そして特定の人物に特定のワードを解除キーとして言わせること。

 これが揃って初めて復号化でき、証拠となり得ます」


「暗号化復号化装置については入手した。問題ない事は、彼女自身に確かめてもらった」


 先日視察に行ったときに、こっそり商店街の店の裏に連れられて確かめた。


「その、特定の人物、特定のワードと言うのは、わかっているのかね」

「人物については、17年前当時の誰かはわかっていて、現在の所在はわかっていません。

 ただ現在も生きている可能性は高いと思っています。

 ワードについて私はわかりませんが、私達の中で心当たりのある人はいます」


 トッド侯爵の質問に答える。


「つまり、その鍵を解くまでは……時間を稼ぎつつ、その人物を探さないといけないのか。

 それで、その人物は一体誰だね」


 ビゲン大佐が訊く。


「実は当時のコロニーシステム管理者ダニエル・バートマン中佐の、事故直前まで書かれた手記を見つけました。

 それによると彼の命を狙ったのは……グレン・クレッグ中尉という人物。

 軍から自治政府へのメンテナンスの引継ぎを、軍から監査していた人物です。

 事故の直前、クレッグ中尉がバートマン中佐に管理エリア内で襲い掛かった旨の記述がありました。音声データも管理エリア内で記録されていましたので、彼がその『特定の人物』だと思われます」


 その答えに、ビゲン大佐は首を傾げた。


「3区には誰も残っていなかったとの、公式記録があるが」


「本当にそうなら、私は生まれていません。

 それに一緒に脱出した、私を育ててくれた小父さん達も存在しません。

 小父さん達によれば、事故後に調査船が3区に来たそうですが、小父さん達はコロニーに閉じ込められて助けを求められなかったと言います。

 調査やデブリ回収が全て終わって初めて、その開かなかった扉が開くようになったとも。

 これは、3区で犯人側が残っていたことを示す証言となり得るでしょう」


 この答えに、ビゲン大佐は難しい顔をした。


「残念だがその証言も、状況証拠としか言えない扱いになるだろう。

 それに貴女の証言が正しいとしたら、益々そのグレン・クレッグ中尉を探すのが難しい。

 おそらく、その名前自体が偽名の可能性がある。

 身体的特徴とか、そういったものは分からないか」


 私は大佐に首を振った。


「事故前に会ったことがある小父さん達なら、会えばひょっとしたらわかるかもしれませんが」


 私の答えに大佐は溜息を吐いた。


「そんなあやふやな情報しかないのなら、探すのは困難だ。

 せめて顔写真でも残っていればな。

 そもそも、実行犯を皇帝は生かしておくだろうか」


 その疑問は当然、私達も考えたけど。


「グレン・クレッグ中尉は、17年前の事故の真相を知る人物です。

 確かにそう言う意味では、彼は皇帝にとって危険人物ですが……。

 バートマン中佐は行方不明ですし、万が一彼が生き残っている場合、中佐を探せるのは中尉しかいないでしょう。ですから万が一に備えて、中尉は皇帝の目の届く所で生かされている可能性も高いと思っています」


「ちょっと待て。バートマン中佐が、生きているかもしれない?」


 トッド侯爵が色めき立つ。


「あくまで皇帝側から見たらの話です。

 手記には、大怪我を負いながら中尉の手を逃れた直後まで書かれていました。

 つまり中尉に怪我を負わされながら彼は逃走したということ。

 中尉からしたら、中佐は生きてるか死んでいるか分からない、ずっと気にかかる存在です」


 ペドロさんもドクの正体は知っている。

 ペドロさんにとってはドクも大恩人。彼の事を知らせて、こちらで良い医療を受けさせるか、それとも直近の彼の身の安全のために隠すか、ペドロさんと最後まで悩んだ。

 でもドク本人が、隠してほしいと頼んできた。


「その手記を、見せてもらう事はできるか」


 ミツォタキス侯爵が言います。


「原本は、身の安全のための保険として持たせてもらいますが……。

 スキャンデータであればお渡しします」


 メモリカードを懐から取り出す。

 トッド侯爵の視線を受け、ファレル氏が立って、カードを受け取る。


「やはり、現時点での証拠固めは難しいだろう。

 後は……この呼び出し当日、どうするかだ」


 トッド侯爵が言う。


「私達に必要なのは、グレン・クレッグ中尉を見つけるまでの時間です。

 ですから結局、私達がやるべき事は時間稼ぎです」


「それは、そうなのだろうが……」


 大佐が言い募ります。


「向こうが確実に知っている事は、私がこのユーダイモニアに居る事だけ。

 三人の小父さんや、私達が脱出した船もまたこちらにある事は――そうかも知れないと言う可能性でしかありません」


 皆さんの顔色が変わらないので、船もこちらにある事は予想済だったみたい。


「ですから、私が現場に行きます。

 私しか来ていない、船もまだ共和国にある、と言い張れば……多少は時間が稼げるかもしれません」


「危険だ!」


 大佐が声を上げます。

 心配してくれているのは分かりますが、続けます。


「ただ、ケイトお姉さんの命を繋ぐために、代わりに何か利のあるものが必要になります……。

 持って行くとしたら、バートマン中佐の手記の原本でしょうか」


 船を渡しても、音声データは持ち出しできるので大丈夫だと思います。

 ですが、最初から船を渡しますってあっさり言ってしまうと、持ち出せることがばれてしまうかもしれない。

 だから、まずは手記の原本で、様子を見た方が良いと思います。


「だが……幼い君の身が、危険に晒されることになる。

 私も心配している」


 ミツォタキス侯爵が、気づかわしげに私を見ます。

 でも……私は、首を振った。


「宇宙軍が3区に押し寄せた時、ケイトお姉さんは兵士達に追われながら――命を懸けて、私達に脱出先の情報を届けてくれました。

 そして私達を逃がすために。

 私を助ける為に動いてくれた人たちを、助ける為に。

 そのためにコロニーに残って……お姉さんは、兵士達に捕まりました。

 今ここに私が居るのは、ケイトお姉さんのお陰。だから――」


 皆さんの心配そうな目を受けながらも、決意を示す。


「今度は、ケイトお姉さんを助ける為に――私が、命を懸ける番なのです」


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