17-01 突撃部隊、居残り組の日常
宇宙軍第7突撃部隊所属 第4歩兵部隊第2小隊長
ナディル・クロイスバルト曹長視点
16-01の続きのような話です。
先ほど中隊長から電話を貰った内容が気になって仕方がない。
バーを出て急いでシャトル駅に戻る。
駅に入り、急いで部隊指令室に向かう。
だが、扉を開けると……。
「くそっ、誰もいねえじゃねえか」
「……そこに居るのは、クロイスバルトか?」
その声は。
「ハーパーか。今上がったところか?」
「おう」
処理施設で処理しきれなかった廃棄物が駅の貨物ヤードに集まってくるのを整理し、回収業者がリサイクル品の回収を行うのを監督する仕事。
あの回収業者達は俺達から見ても、素行の悪いハイエナ連中だ――一社を除いてだが。
そんな連中を監督するのは大変な仕事なので、俺とハーパーの小隊、そしてもう一つクバード曹長の小隊の三小隊で交代して行っている。
今日は早番が俺の小隊、遅番がハーパーの小隊。
クバードの隊は非番だ。
「おい、なんで指令室に誰も居ねえんだ、クロイスバルト」
「俺に訊くな。俺も用事があって今来たところだ」
二人でそんな言い合いをしていると、誰かが走ってくる足音が聞こえる。
「あ、ハーパー曹長にクロイスバルト曹長! 丁度良かった」
あれは司令部の総務経理グループ所属の、ヤハタ曹長だ。
「どうした?」
「お二人と、クバード曹長、それからダニエル曹長の四人に、明日朝九時に指令室に出頭してほしいと、皆さんの部隊長ケンプ大尉から伝言を頼まれました。
なので、ハーパー曹長とダニエル曹長がお戻りになるのをお待ちしていました」
走りながら喋ったせいか、彼女は俺達の前で前かがみになって、ハァハァと息を荒げている。
「別に走って来なくてもいいのに」
「いや、指令室に入ってしまったら、しばらく出てこないじゃないですか」
彼女の言葉に、俺達は顔を見合わせる。
「指令室には誰もいないぞ」
「え!? ……そっちもですか?」
そっちもって……やっぱり、あの電話の内容か。
「も、って……司令部全体がそうなのか?」
「いえ、司令部は上の方々は残っているんですが、総務経理は皆……」
「曹長しか残ってない、と」
俺の言葉に彼女は頷いた。
考えてみりゃ、彼女は総務経理でも一番下っ端。
なのに、クーロイの処理施設長との折衝なんて大変な業務をしている。
居残りの件が本当なら、彼女がその業務の継続の為に残されたって事も理解はできる。
そもそも一番下っ端に一番大変な仕事を押し付けてんじゃねえ、って俺は思うがな。
「おい、一人で納得してんじゃねえ、クロイスバルト」
しまった、ハーパーはまだ事情を知らないんだな。
……ヤハタ曹長の耳には既に入ってそうだが。
「おう、ハーパーにクロイスベルト、それにヤハタ曹長じゃないか。
どうしたんだ、指令室の前で集まってよ」
丁度そこに、ダニエル曹長が帰って来た。
資源回収の終わった残りかすはもう3区に捨てられないので、船をチャーターしてハランドリに持って行って最終処分をお願いしている。
その護衛をしているのが、ダニエル曹長の小隊だ。
彼等は二日かけてハランドリ星系との間を往復し、一日非番というサイクルだ。
今日は、こっちに戻ってくる日か。
俺達四人が呼ばれているってのは……そういう事なんだろうな……。
「……どうせ、明日の朝には分かる話だが。今聞くか?」
ハーパーとダニエルに尋ねると、嫌そうな顔をする。
「後でいいか。今帰ってきて、報告を出さないといかん」
「ダニエル。指令室は今、誰もいないんだよ」
ダニエルにハーパーが告げる。
「はぁ!? マジかよ」
「俺も報告書出しに来て、驚いてたところだ。で、こいつがなんか理由知ってるみたいでな」
「なんだ、その理由って」
二人に詰め寄られたので、話してやろうか。
「分かった。……クセナキス星系で『全貴族総会』ってのをやってるだろ。
あそこで、あの殿下が暫定領主を解任された。
んで、ついでに第七突撃部隊も撤収が決まったんだ。
だが今全員撤収すると、クーロイの廃棄物処理が破綻することになるだろ」
ここで言葉を切ると、ハーパーの顔色が段々蒼くなる。
「俺達三人と、あとクバートを合わせた四人。
そろって朝九時に指令室に来いって知らせが部隊長から来てる。
さっきヤハタ曹長が教えてくれたんだ」
ここまで言うと、ダニエルの顔色も変わった。
「クロイスバルト、まさか」
「……多分、御想像の通りだと思います」
俺に代わってクバード曹長に答えたヤハタ曹長の言葉に、二人は頭を抱えた。
「つまり指令室が空なのは、皆帰り支度を始めてるって事かよ」
「多分な」
俺は頷いた。
「俺達とクバードの四小隊は、残って廃棄物処理任務を続けろってことだろう。
ヤハタ曹長も、司令部の中では残留組か」
「そうなんです……」
しょぼんとしている彼女が、一番可哀そうだ。
一番下っ端なのに一番大変な任務を押し付けられ、ほとんど休日無しで働いている。
「残る者同士、これからも仲良くしようぜ」
「今度、甘いモノ差し入れるよ」
「困った事があれば言ってくれ。俺達が力になるぜ」
俺達は彼女を慰めるようにポンポンと肩を叩く。
「あ、有難うございます。
クバードさん合わせてお優しい四人とが一緒なら、心強いです」
彼女は、頑張って作った顔でお礼を言う……痛々しいな。
しっかし、指令室の奴ら……。
ハーパーの完了報告も受け取らずにいそいそと帰り支度始めるとはな。
報告書受け取るのは上司の義務だろうに。
もし俺達を放っておいて祝杯上げにいってるとしたら、許せねえな。
……ん? ちょっと待て。
今何か、頭をよぎった。
「ヤハタ曹長。そういやさっきの伝言、明日の朝の出頭は何時と言った?」
「朝九時です」
状況からして、第四歩兵部隊の指令室は全員撤収のようだ。
部隊長たちは、やり逃げしたいんだろう。
ってことは、朝九時付けの辞令が出るとみていい。
……という事は。
これ、いけるか?
「ヤハタ曹長、もし知ってたら教えて欲しいんだが……」
そうして、彼女からある事を聞いた俺達は、彼女に一つお願いをした。
その後、急いで宿舎に帰って非番だったクバード曹長を捕まえ、四人で作戦会議をした。
そして翌朝、俺達四人は朝八時四十五分に指令室に出頭した。
指令室に居たのは、部隊長ケンプ大尉、俺達の直属上司の第一中隊長ミヤタ准尉。
そして、司令部幕僚でケンプ大尉の上司に当たる、ロッペン少佐もいる。
ヤハタ曹長へのお願い――副司令の代理の人を、同席させるようにしてくれってお願いが、聞き届けられたらしい。
これで、勝ち目が出て来た。
「四人揃って来たか。では早速始めよう。
四人は、そこで横に並びたまえ。辞令を伝える」
ケンプ大尉の宣言に、俺達は横並びで立つ。
「昨日全貴族総会にて、第四皇子殿下のクーロイ暫定領主解任、および監察官の解任。
更には第七突撃部隊のクーロイからの撤収が決定された」
俺達は頷いた。
「だが、3区コロニーの不幸な事故により、全部隊撤収すればクーロイの廃棄物処理サイクルに重大な支障を来たすため、担当部隊を一部残すよう、自治政府側より要請があった。
そこで司令部にて検討した結果……現時点で該当する任務に就いている貴兄らの部隊に残留してもらい、引き続き現任務を遂行してもらう事を決定した」
一息置いて中隊長が言う。
「ダニエル曹長以下第一小隊。
クロイスバルト曹長以下第二小隊。
クバード曹長以下第三小隊。
およびハーパー曹長以下第四小隊。
貴兄らの小隊は司令部副司令官ラーケン中佐の直属とし、追って中佐より変更があるまで、クーロイ星系に留まり現行任務を遂行せよ。
本辞令は、本日〇九○○より発動する」
ケンプ大尉とミヤタ准尉はそう言って、俺達の拝命を待つ。
だが……打ち合わせた通り、俺達は動かない。
「拝命せよ」
「……ちょっと待ってください」
中隊長の命令を無視し、俺は挙手する。
「以前より、廃棄物処理関連の任務を他の部隊にも交代でさせて欲しい、と嘆願書を出していましたよね。その件はどうなりましたか」
「これは決定事項だ」
中隊長は、俺の質問を無視し、平静なまま俺達に拝命を求めた。
「待ちたまえ、ケンプ大尉、ミヤタ准尉」
ここでロッペン少佐が口を挟む。
「司令部は、そのような嘆願が小隊長達から出されていたことは把握していない」
「何かの間違いでしょう」
中隊長はぬけぬけと言いやがった。
こいつら……俺達の嘆願を握りつぶしやがったな!
離任によって逃げ切るつもりだ。
だが、そうはさせん。
何のために、俺達が早く来たと思ってんだ。
「ロッペン少佐、では嘆願書提出時のメールを少佐に転送致します」
「クロイスバルト曹長、よろしく頼む」
了解を得たので、俺は端末を取り出し、メール転送の操作を始める。
部隊長達は焦りの表情を見せる。
それを横目に少佐が頷くのを見て、今度はハーパー曹長とダニエル曹長が挙手をする。
「中隊長。昨夜の任務終了後、第一小隊の任務完了報告の為にこの指令室に来たのですが、誰も居なかったので提出できておりません。今ここで提出させて頂きます」
「同じく第四小隊の昨日の任務完了報告、提出させて頂きます」
ダニエル曹長とハーパー曹長の発言に、部隊長と中隊長は顔を顰める。
「ちょっと待て。貴兄らの指揮権はすでに副司令の」
「現時刻は〇八五〇。まだ指揮権の移譲は発動されておらん」
部隊長の発言に、ロッペン少佐が割り込む。
そう、これを狙っていたのだ。
指揮権移譲後に報告書を提出しても、逃げられる可能性があったからな。
「ダニエル曹長にハーパー曹長。
昨夜、指令室が空だったことを証言できる他の証人はいるか」
「昨夜八時過ぎには誰も居なかった事を、クロイスバルト曹長と、あと総務経理のヤハタ曹長が確認しております」
ハーパー曹長の証言に、段々顔が蒼くなるケンプ大尉とミヤタ准尉を睨みながら、少佐が頷く。
「分かった。他部署の者も確認しているなら、確実だな」
「ちょっと待ってください、少佐。
彼等は証言を示し合わせています。
第一、クロイスバルト曹長の昨日の任務は早く終了していた。
その時間に指令室に来ているのはおかしいでしょう!」
ケンプ大尉が抗弁する。
「発言、宜しいでしょうか」
作業を終えた俺は少佐に発言を求める。
彼が頷いたのを見て、俺は携帯端末を取り出す。
「任務後、小隊員を慰労に連れ出している最中に、中隊長からこんな電話がありまして。
いつもなら指令室にいる時間だと思いましたので、内容を確認するために来たのです」
俺はそう言って端末を操作し、昨夜の会話の録音をスピーカーで再生する。
ピッ
『ミヤタだ。クロイスバルト曹長、今から言う内容を、ダニエル曹長とハーパー曹長、クバード曹長にも伝えて欲しい。
全貴族総会で、第七突撃部隊の撤収が決まった。だが廃棄物処理の担当は別だ。
つまり君達四小隊の居残りが決定した』
『え!? ちょ、ちょっと待って下さい。以前と約束が違うではないですか!
今から、本部に伺いますので詳しい話を……』
『辞令は明日朝九時発令だ。その時間に四人で指令室に来てくれ。以上だ』
音声を切り、端末を懐にしまう。
しかし今気づいたが、中隊長の後ろで何か音楽が掛かってたな。ひょっとして……。
蒼褪める大尉と准尉を他所に、少佐は携帯する端末を操作する。
すると指令室のスクリーンに、ここに居ない副司令官ラーケン中佐が映し出される。
慌てて俺達四人は敬礼をする。少佐の敬礼は俺達とほぼ同時。
一歩遅れて、部隊長と中隊長も。
「少佐と曹長達は楽にしてくれ。
回線を繋いだままにしてくれてありがとう、ロッペン少佐」
少佐と俺達四人は敬礼を解いた。
つまりは、今までの会話が全て中佐に筒抜けだったわけだ。
「ダニエル曹長、クロイスバルト曹長、ハーパー曹長、クバード曹長。
貴兄らの小隊は、クーロイ標準時〇九〇〇をもって私が預かる。
済まないがこれは変えられないのだ。申し訳ない」
画面の向こうで、ラーケン中佐が頭を下げた。
「だが第四歩兵部隊長ケンプ大尉、および第一中隊長ミヤタ准尉。
貴兄らのクーロイ離任は、私の権限で一旦凍結する。
これは、両名を懲罰委員会に掛けるためである」
ケンプ大尉とミヤタ准尉が蒼褪める。
敬礼のままなのは、二人はまだ、楽にしていいと言われていないからな。
「それから、今朝ケンプ大尉より提出された、指令室の慰労会の領収書に対する経費申請は却下する。君達の俸給から差し引いておくからその積りで」
「な、何故でありますか」
ケンプ大尉が理由を尋ねる。
「昨夜は午後六時過ぎから、ホテルの最上階ラウンジを借り切っていたそうじゃないか……部下の小隊が任務中に慰労会で指令室を空けるな、馬鹿者!」
少佐が二人に告げる。
って事はあの電話、やっぱり飲み屋から掛けてたのかよ!
「君達は上司への報告義務違反、そして部下からの報告受領義務違反に問う事になる。
今までの業務実態を確認するため、第四歩兵部隊指令室の端末を即時凍結、回収する」
中佐の宣言に、最早大尉と准尉の顔色は無い。
少佐が何やら端末を操作すると、指令室に数人の下士官――見たことのある顔ぶれだから、多分司令部付きの者達だろう――が入ってきて、大尉と准尉、他の連中の業務端末を全部回収していった。
「ダニエル曹長、クロイスバルト曹長、ハーパー曹長、クバード曹長。
君達のクーロイでの廃棄物回収任務での働きぶりは自治政府からも評価が高い。
是非君達の部隊を残してほしいと長官代行から嘆願されれば、拒否できなかった。
君達の小隊には、別の形で報いることにしたい」
画面に映る中佐が頭を下げるので、俺達も頭を下げた。
「ハーパー曹長にダニエル曹長。
今日は非番の所、出頭してくれてありがとう。
クロイスバルト曹長も遅番の任務に備えてくれ。
クバード曹長も任務に戻って欲しい」
ちゃんと俺達に頭を下げ、労ってくれる中佐に。
俺達は敬礼をし、指令室を後にした。
「やっぱり残留か……まあ、奴らがしっかり懲罰されるなら、仕方ないか。
じゃ、俺は任務に戻る。これからも宜しくな」
そう言って、クバードは晴れやかな顔で貨物ヤードに向かっていった。
「じゃ、俺らは宿舎に帰るか」
俺と、ハーパー、ダニエルは宿舎に帰って行った。
「私達としたら、あんた達が残ってくれて有難いよ。
ちゃんと、あのハイエナ共を制御してくれるからさ」
クバードの小隊と交代し、駅の貨物ヤードで遅番の監督任務に就いていると、簡易処理装置を担当している回収会社エインズのロージェル女史が声を掛けて来た。
「そう言って貰えると、俺達もちょっとは報われた気になるな。
だがロージェルさんこそ、最近出ずっぱりじゃないか。
貴女こそ休みは取れているか?」
彼女は首を振った。
「今、ウチの会社でクーロイに残ってて、責任者できるのが私しかいなくてね」
彼女は、諦めた顔で言った。
「あのデカい姉ちゃんとか、小っさいのにやたら怖いクレアお姉さんとか。
最近見ないが、どうしたんだ」
前はロージェル女史よりもデカい姉ちゃん――マルヴィラさんって言ったっけ――が来る頻度が多かったはず。
そして時々、あの怖いクレアお姉さんも来てた。
あの二人がいると、この現場が……締まるんだよな。
二人とも、ハイエナ共がやらかしたらきっちりシメてたから、奴らは大人しくなったし。
その分、俺達が不甲斐ないことしてたら、逆に俺達がシメられたんだがな。
「ああ……あの二人は、ウチのお嬢さんの護衛だしね。
今はクーロイにいないんだよ」
ウチのお嬢さんって、あれか、エインズフェローのお嬢さんか……。
回収会社エインズの社長にして、3区の会事務局長っていう、あの人。
すげえ美人さんだって噂だが、あの人がこの現場に来た事は無いから、よく知らん。
でもあの人の護衛ってことは……『全貴族総会』に引っ張られてクセナキス星系に行ってんのかよ。
「そっか。そりゃあ、しばらく帰って来れねえな……。
デカい姉ちゃんは美人さんだし気風も良いから、ウチの隊員達には人気なんだよ。
その情報教えると皆のやる気が減るかもしれんな」
「おばさんじゃ皆のやる気が起きないって事かい?」
げ、機嫌損ねちまったか?
「いやいやクレア姉さんもロージェルさんも、美人さんだと俺は思う。
だけどなあ……あの人が来ると、なんかこの場の雰囲気が違うんだよ」
ロージェルさんは、クスクス笑いだす。
「美人だって言ってくれたから、まあいいわ。
それにあんたの言ってること、なんだかわかるしね」
彼女は、何かを思い出すような遠い目をする。
「マルヴィラは一時期、私の息子と付き合ってた事もあるんだよ。
その時に彼女に料理の手ほどきをしたこともあってさ。
息子には勿体ないくらいのあの子が、嫁に来てくれたら嬉しいって思ってたんだけど。
――友達の方が良いからって、息子の方から恋人関係止めちゃってね。
何っていうか……自分の方が完全に位負けしてるのが、分かっちゃったんだと思う。
マルヴィラ本人は『自分は普通だ』って言い張ってるんだけど……持ってる雰囲気が、なんか普通と違うんだよね」
ああ……なんか分かるな、それ。
俺の部隊の連中からも、マルヴィラさんってかなり人気があるんだが……隊員の誰を思い浮かべても、その横にマルヴィラさんが納まっているイメージが湧かないんだよな。
ハーパーやクバードの隊の隊員でも、それは同じだ。
「しっかし……それじゃあ、なかなかロージェルさんも休みが取れないな」
「この業務は処理装置の実地検証を兼ねてるから、役に立ってる部分はあるんだけど。
いい加減、私と交代で責任者できる人を寄越してくれって嘆願中よ」
ロージェル女史は頭を振る。
「その嘆願、通るといいな……。
俺んトコは、他の部隊と任務交代してくれって嘆願は結局通らなかったしな……。
ホント、世の中上手くいかねえもんだな」
ふと気づくと、俺達に近づく足音が聞こえる。
「ああ、ここに居ましたか。クロイスバルトさん、ロージェルさん。こんにちは」
俺達に声を掛けてきたのは、自治政府の清掃処理課職員、カマロ氏だ。
「よお、カマロさんじゃねえか」
「あら、こんにちは」
俺達は挨拶を交わす。
「クロイスバルトさん。貴方がたの小隊が残ってくれて助かります。お礼を言わせてください」
「俺達が残る帰るを決めたわけじゃねえよ。上からの指示だから、礼には及ばんよ」
両手を握って礼を言われるもんだから、気恥ずかしくてつっけんどんに返してしまう。
まあ、悪い気はしないんだが。
「まあそう言わずに。
上からの命令だとしても、残ってくれたことに、皆にお礼がしたかっただけですよ」
言ってる意味が分かって、目を丸くする。
「皆って、お前さん……前の番の、クバード隊長の隊にも?」
「当然でしょう。明日はハーパーさんにもダニエルさんにも、お礼を言わせて頂きますよ」
なんっつーか……それぞれの隊に直接お礼を言ってくれるなんて、律儀な奴だねえ。
「ありがとな。ハーパーとダニエルは今日非番だから、カマロの事は後で伝えておく」
ハーパーとダニエルは、任務中は気が立っている事がある。
来るって事を言っておかないと『何しに来た?』ってなりかねん。
「隊の皆にも、お前さんが礼を言っていたことを伝えておこう」
「それは御心配なく。
これから皆さんの所をまわって、お礼を言わせてもらいます。それじゃあまた」
「それは、皆も喜ぶかもしれんな。またな」
カマロ氏は去って行った。
そこまでする奴はなかなかいないぞ。ホント、律儀な奴だねえ。
まあ、残るのが不本意な隊員達だが、お礼言われて怒る奴は流石にいねえ筈だ。
「さて、俺も見回りに行ってくるわ」
ハイエナ共がまたヤードの重機を使いたいって言ってるのか、向こうで隊員達と何人か集まってるからな。揉め事になる前に、様子を見に行かないと。
「行ってらっしゃい。
――ちなみにさ、貴方のその口ぶりじゃ知らないみたいだから、教えとくけど……。
クレアさんとマルヴィラって、ああ見えて母娘だよ」
「……え゛」
最後にロージェルさんが爆弾ぶっこんで来た。
体格が全然違うじゃねえかよ、あの二人……マジかよ。
でも言われてみれば……目元は、ちょっと似てるかもな。
あとで隊員達に、この情報教えてやろう。
皆、目ん玉剥いてびっくりするに違いねえ。
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマや評価、感想、いいねなどを頂けると執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします。




