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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第16章

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16-09 守り手の崩壊、そしてケイトの決断

 私達が地下階に降り、シェルターに向かって急いでいると、邸の上の方から轟音が響きます。

 近衛の皆さんは大丈夫でしょうか……心配です。


「ケイト、今はとにかく急いで!」


 マルヴィラの声に気を取り直し、シェルターへ急ぎます。



 ドォン!

 シェルターへ辿り着く前に、もう一度、上の方から轟音が響きます。

 しかも先ほどより音が大きい!


 前方にシェルターの大きな扉が見えてきました。

 マルヴィラが通路の非常パネルを操作して、私達が通ってきた通路に隔壁を下ろします。

 しかし、先導していた護衛達が扉を開いている最中。


 ドカン!

 突然、轟音と共に扉の上の天井が崩れ、扉を操作していた護衛達が瓦礫に飲まれます。


「きゃあ!」

「うわあ!」

 お兄様お姉様達は悲鳴を上げ、後ろにいた私達の方へ駆け寄ってきます。


 そこに、天井に空いた穴から、一人の人影が飛び降りてきました。


「際どいところだったが、間に合ったようだな」


 その男は扉の方を向いて言いました。

 ――どこかで、聞いたことのある声です。


 男の方へ向かって、クレアさんとマルヴィラが駆け出していきます。


「お前たちがここに居るって事は……当たりか」


 二人をちらりと見た男は、二人を意に介さず言います。


「何者!」


 クレアさんが先に男に挑みます。

 ですが、次の瞬間。


 ドン!

 壁に何かが当たった音がした、と思ったら――クレアさんが吹き飛ばされていて。


「ぐうっ!」


 私の背より高い所に飛ばされたクレアさんは呻き声を上げて、そのまま壁をずり落ちていきます。

 壁に当たった場所から、赤いものを壁に残しながら……!


「母さん! こ、このぉぉぉぉ!」

「く、クレアさん!」


 マルヴィラが激昂して男に向かいます。

 私も思わずクレアさんの所に駆け寄ります。


「ごふっ! ……ひゅー、ひゅー、……」


 クレアさんは……壁際に倒れていました。


 血を吐いている上、呼吸がおかしい。

 それに白目をむいていて、意識も無さそうです。

 これは……クレアさんの命が、危ない!


 ドォン!

「ぐあぁっ!」


 大きな物音とマルヴィラの叫び声に顔を上げると、マルヴィラが壁へ吹き飛ばされていました。

 彼女もまた、吹き飛ばされた場所で崩れ落ちました。

 マルヴィラの方はまだ意識もあって、クレアさん程の重篤では無さそうですが。


「ケイト・エインズフェロー。また、会ったな」


 男が、私の前に来ました。

 顔を上げて、男の顔を見ます。


「あ、あなたは、最初の尋問の時に!」


 そこに居た男は……

 宇宙軍に拘束され最初に尋問を受けた時、尋問官の後に控えていた男。

 当時は、直接彼と話をする事はありませんでした。

 ですが、宇宙軍士官の服を着ていたこの男の、存在感が妙に強かったので覚えています。


「名乗りはしなかったが、覚えていたか。

 まあ、まだ名乗るのは控えておこう。お前には一つ質問がある。

 3区から逃げた者達は、どこへ行った」


 近衛の者達の動きを見て、私とメグちゃん達が今日ここで会うって想定して襲ってきたの?

 ということは、向こうの諜報の手はまだ、この星系を離れていないという事。


 私は、首を振ります。


「最初から、来ていません。

 私が家族に会いに来ただけですから……」


「なんだと?

 3区のラジオで、メグと名乗っていた――マーガレットとかいう女の子が、共和国の船でユーダイモニアに来ている事は分かっている。

 隠し立てすると、唯では済まんぞ」


 ですが私は、再度首を振ります。


「そう言われても……。

 3区のあの時から会っていないですし、連絡を取り合ってもいないのです。

 本当に、家族に会っていただけなので」


 男はあからさまに失望した顔をしました。


「チッ、そっちの予想は外れたか」


 本来なら、色々情報を引き出したいところなのですが。

 今は何より時間が――一分、一秒が惜しい。


「それで、どうすれば貴方がたにここから立ち去って頂けるのですか」

「――お前には、我々と共に来てもらう」


 真面目な顔に戻った男が言いました。


「邸の他の人達に、手を出さないでくれるなら」


「決断が早いな――そうか、その女か。

 いいだろう。我々もそこまで暇じゃない。

 手加減はしている。早く手当てをすれば、命は繋がるかも知れんな」


 私の目線の先――クレアさんを見て、男は了承しました。

 あれで、手加減……。


「ケ、ケイト、駄目……ごほっ!」

「ほう、あいつは息があるか」


 静止の声を上げたマルヴィラの方を向いて、男が言います。


 クレアさんや、マルヴィラまで圧倒するこの男……尋常の者ではありません。

 ここへ来るのも天井を突き破って降りてきています。

 この男……人間という範疇を超えているようにも思えます。


 逆らえば、御父様達も、マルヴィラも、どうなる事か。

 それに、クレアさん――時間に猶予はない。


「む、娘をどうする積りだ!」


 御父様が声を上げます。


「安心しろ。この娘は丁重に扱ってやる」

「ケイト、駄目!」


 マルヴィラの静止の声が、再度響く。


「……マルヴィラ、ごめん。

 早く、クレアさんを病院に……!」


「暴れても困るのでな。お前には眠ってもらう」


 男はそう言ってスプレーを取り出し、私の顔に吹きかける。

 途端に、私は意識が朦朧となり始め……。



****

(マルヴィラ視点)


「ケイト、駄目よ!」


 そう叫ぶも空しく。


 催眠剤を吹きかけられたケイトは気を失い、男に片手で抱きかかえられる。

 もう片手で、男はインカムマイクを口元に持ってくる。


「目標Aは不在。プランβに切り替え、目標Bを確保した。

 総員、速やかに撤収」


 そして、男は懐から何かを取り出し、床に放り投げる。

 彼は気を失ったケイトを肩に担ぎ、何も言わず床からジャンプして天井の穴から消えていった。


 しばらく、誰もその場から動けなかった。

 私は男に吹き飛ばされた怪我で。

 旦那様とその家族は、恐怖で。


 でも旦那様がいち早く立ち上がり、母さんの方へ駆け寄る。


「クレア君……いかん!」


 そう旦那様が声を上げたところで、上の穴から近衛隊の者が顔を出す。


「皆さん、御無事ですか!」

「ウチの者が一人、命が危ない!」


 旦那様が声を上げます。


「今行きます!」


 近衛隊が上からロープを下ろし、そこから数人が降りてきて母さんの方へ向かう。

 彼等は母さんの様子を見て……白い大きなシートを取り出し、母さんのいる辺りを覆う。

 アレは、救命措置に入ったのね……母さん!


 上からビゲン大佐も降りて来た。

 彼も頭や腕から血を流し、他の所もあちこち大きな傷がある。


「命に危険があるのは、ここは彼女だけか……。

 ん⁉ ケイト嬢は!」


 ビゲン大佐が声を上げる。


「娘は……連れ去られた」


 旦那様が、ぼそりと言う。


「そうか……守り切れず、申し訳ない」


 大佐が旦那様に頭を下げた。


「あの男は、そこに何かを放り投げて行った……」


 私が言うと大佐は辺りを見回し、男が投げたもの……青い封筒を拾い上げた。

 大佐は封筒を開け、中の便箋を開いて目を通す。


「一体、何が書いてあったのですか。娘の行方は……!」


 旦那様が大佐に詰め寄り、大佐は便箋を旦那様に見せる。


「この件はトッド侯爵と相談する。娘さんの奪還には全力を挙げる。

 申し訳ないが、今はそれだけしか言えない」

「……どうか、お願いしたい。我々にできる事なら、何でも協力する」


 旦那様の懇願に大佐は頷いた。


「私にも……見せて、くださ、い……」


 大佐は、私の所に来て便箋を見せてくれた。


『使節団と共に、3区の逃亡者達がこの星系に来ているのは分かっている。

  メグ(マーガレット)

  グンター・シュナウザー

  セイン・ラフォルシュ

  ライト・ヤシマ

 以上四名を、三日後に下記の場所へ連れてこい。

 ケイト・エインズフェローの身柄は、彼等の身柄、そして彼らの船と交換だ。

 土地勘が無い彼等の引率者は、一名のみ許可する。』


 そう書かれた便箋の下には、薄いチップが貼り付けられていた。


 また封筒には、二枚の写真が同封されていた。

 そこに写っていたのは……。

 商店街を歩く、軍服のようなものを着た三人の女性。

 その内の一人の女の子が、若い男に花束を差し出されている様子。


 髪の色は記憶と違うけど、花束を差し出されている女の子は。

 ――顔立ちは確かに、メグちゃんのものだった。



 その後、邸に救急隊が到着。

 近衛隊によって救命措置をされた母さんと、そして私を担架に乗せた。


 担架に乗せられた私に呼吸器が当てられ……私は意識を失い。

 そのまま、病院に運ばれた。

 

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