16-08 家族との再会、招かれざる客
ケイト視点。
少し短め。
ビゲン大佐から話のあった二日後。
クーロイ星系やハランドリ星系などに展開していた第七突撃部隊所属の艦隊は、クセナキス星系近くで終結した後……一隻は再びクーロイへ、残りは帝都へと向かっていったそうです。
「第七突撃部隊も去った。二日後にエインズフェロー家の邸へ伺う手筈を整えた。
夜にはこちらに戻ってくることになる。
半日しかないが、向こうでゆっくり家族と会ってくるといい」
「ありがとうございます、大佐」
半日でも、久々に実家に帰れるのは嬉しい。
当日、私達は近衛隊の装甲車に乗って、私の実家へ向かいました。
ハイヴェ大尉の小隊は、怪我をした大尉以下数名が本調子ではないため、ホテルに残るようです。
他に多数の小隊が私達の護衛に付き、兵員輸送装甲車五台の大所帯で向かいます。
一時間程走って、郊外にある邸に到着します。
広い庭付きの大きな邸に装甲車ごと入って行き、正面玄関の前で停車。
先に近衛の護衛達が降車したあと、大佐に続いて車を降ります。
正面玄関では、父とハリエット兄さん、邸に勤める使用人たちが並んで待っていました。
ハルバードさんやクレフ達の姿も見えます。
「アルバイン・エインズフェロー殿。ケイト嬢と、彼女のお供数人をお連れしました」
「ビゲン近衛大佐。娘との時間を取る事を許可頂き、感謝します」
大佐と父が、互いに礼をします。
「我らは邸の外を警備しております。
短い時間ですが、御家族で積もる話があるでしょう。どうぞごゆるりと。
さあ」
そう言って、大佐は下がり、私達を促します。
「御父様、ただいま戻りま」
「ケイト!」
挨拶をしようとした私に駆け寄った御父様に、力いっぱい抱きしめられます。
「無事でよかった。心配したぞ」
「御父様……心配、かけました」
私も、お父様を抱きしめ返します。
「全く無茶をしますね。宇宙軍に拘束されたと聞いて、私達は肝が冷えましたよ。
でもまあ、元気そうでよかった」
ハリエット兄上に肩を叩かれます。
「ハリエット兄さんにも、心配かけてすいません。
キャスパーやクレアさん、マルヴィラ、それに近衛の皆様に助けられて、何とか帰ってこられました」
御父様に抱きしめられたまま、兄さんに答えます。
「父上。邸の皆もケイトの無事を祝いたいのです。
いつまでもそのままでは、ケイトも皆も困るでしょうから」
「……そうだな」
ようやく、御父様が私を離してくれました。
ちらりとマルヴィラの方を見ると、クレアさんとマルヴィラに、クレアさんの夫ブリュノさんが抱きついています。
「ブリュノ君にも今日は休暇を取らせた。あちらも家族水入らずにしてあげなさい」
「そうですね」
ハリエット兄さんの気遣いに感謝して頷きました。
「ケイトさんと、キャスパーさんはじめ彼女の連れて来た方々には、3区の会としていつも大変お世話になっています。
また、寄付を始めとした陰ながらの支援にも大変感謝しています」
「いえいえ。娘だけでなく、私もまた3区の犠牲者が報われないことに心を痛めました。
それに会長のお孫様のことも心配です。
これからも引き続き3区の会をご支援致します」
会長と御父様が、お互い頭を下げます。
「申し訳ありませんが、久々の娘との再会に時間を取りたいと思います。
また後程お話させて頂きたいのですが、当面の支援に関して、私の代理ハルバートと打ち合わせ頂けないでしょうか」
私達家族の話の間、会長にはハルバートさんが応対してくれるようです。
「ええ、私の方はそれで構いません。
家族水入らずのお時間を、どうぞお過ごしくださいませ」
エルナンさんはそう言って、ハルバートさんと応接室の方へ行きました。
「ではケイト、私の部屋へ行こうか。ハリエットも来なさい。
夜には他の子供達も来る。久々に皆で夕食にしようじゃないか」
そうして、他の兄姉達が来るまで、父の部屋で今までのクーロイでの私の活動や、宇宙軍とのいざこざの件、そもそもクーロイはどんな所かなど、父や兄から根掘り葉掘り聞かれるだけで時間が過ぎていきました。
夕方から夜にかけて、他の兄や姉が邸にやってきました。
今は私以外の兄姉は結婚しています。後継のハリエット兄さん一家は御父様と一緒にこの邸に住んでいて、他の兄姉は外で家を買ったり借りたりして邸を出ています。
兄姉の家族まで集まると邸の大部屋にも入りきらないので、今日は皆家族を家に置いて兄姉達だけで集まる事にしたと、御父様が言いました。
ちなみにハリエット兄さんの奥さん、ニナ義姉さんは三人目の出産前。
今は子供達と一緒に実家に戻っているそうです。
「ケイト、3区の会なんて危ない仕事は止めて、こっちに戻ってこい」
……ライアン兄さんは相変わらずの様です。
「ライアン。今のケイトは、お前より余程忙しい仕事をしている。
無事に帰ってきたことを祝えないなら、とっとと帰れ」
ハリエット兄さんに窘められ、そこからは大人しくなりました。
兄姉全員が揃ってから、大ダイニングルームへ移動しました。
こちらは客人を招いてディナーを開く際に使う部屋なのですが、今日は家族だけとはいえ人数が多いのでこちらを使うようです。
先ほどは父の部屋で私の話を散々したので、今度は兄姉達の近況を聞きまくります。
子供が産まれた、幼稚園や小学校に入った……そんな些細な報告に、兄姉達の家族の平穏な生活を感じられ、嬉しくなります。
私以外の兄姉は皆、御父様の会社に勤めていますが、会社の業績は順調とだけ聞いて、会社での仕事の話はしません。
私は家族であっても御父様の会社の関係者ではないので、そこの線引きはお互い弁えています。
そうして家族の会話を楽しみながら食事をしていると、何やら部屋の外が騒がしくなります。
段々騒ぎが大きくなると思ったら、扉を開けて近衛の人達が駆け込んできます。
「皆さん、急いで窓から離れて!」
ビゲン大佐が私達に叫びます。
まさか!
「御父様、お兄様お姉様がた、早く! 周りの皆も、急いで離れて!」
私は立ち上がって言います。
私の言葉に、家族は皆急いで窓から離れ、部屋の奥へ行きます。
給仕をしていた使用人達も避難させます。
クレアさんやマルヴィラ、他の邸の護衛達がダイニングに駆け込んできて、私達家族の前に立ちます。
さらにその前に近衛隊の者達が展開したところで、ダイニングの窓側に何か大きな物が衝突して邸が大きく揺れます。
私達は床に倒れました。
気が付いて見ると、宇宙船か何かが、直接邸に衝突してきたようです。
窓を壁ごと突き破り、そこから何か薬剤が噴き出します。
「発火剤だ! ブラスターは使えん!
総員、白兵戦用意!」
ビゲン大佐の指示が飛びます。
私達がよろよろと立ち上がる間に、近衛の兵たちは片手武器や手甲などを装備し始めます。
「エインズフェローの方々は、危険なので部屋から逃げてください!」
「旦那様、皆様はこちらへ!」
私達は邸の護衛達の先導でダイニングから退避します。
クレアさんとマルヴィラは、私達の後ろから、後ろを警戒しながら着いてきます。
「クレアさん、マルヴィラ。一体何が⁉」
「近衛隊から聞いたわ。
所属不明の艦船が二隻飛んできて、警備艦隊を振り切って惑星内に突入したらしいの。
それで一隻はここ、もう一隻は近衛隊が駐留していたホテルに真っ直ぐ突っ込んできた。
狙いは多分、ケイトお嬢様」
私の問いには、クレアさんが答えてくれた。
「邸から車で逃げても、船が追ってくる可能性が高いわ。
だから、ひとまず地下に避難して」
私はマルヴィラに頷いた。
地下の避難シェルターは、万が一この星が核攻撃を受けても耐えられる仕様。
あそこに入って扉を閉めれば、凌げる可能性はある。
私達はそのまま、地下の避難シェルターに急いで向かいました。
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマや評価、感想、いいねなどを頂けると執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします。




