表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第16章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

180/233

16-07 帝室と宙賊団の闇、側仕えたちの決断

引き続き、第四皇子視点

「四十年前の実行犯ではなく……。

 私が言っているのは――天体衝突事故が起きた17年前。

 その当時の宇宙軍の関係者から特定できないか、という事だ」


「ちょっと待ってください。

 17年前ということは、既にガンマ採掘場は枯渇していて……」


 ミルヌイが反対意見を述べる。

 皆の顔を見渡す。


 ミルヌイ、タンクレーディ、スツケヴァル、ペドラス、トマセオ。

 誰も、私の意図が掴めていないようだ。

 ……ガレッティがこの場に居たら、理解してくれていた気がするが。


「横流し犯達はガンマ採掘場にマスドライバーを設置し、それを使ってリオライト鉱の横流しをしていた。それはリオライトが枯渇する時まで続いただろう。

 それで枯渇した後、マスドライバーを彼等はどうしたと思う?」


 私の質問に、皆は考えだす。


「惑星オイバロスは大気が薄かったから、コロニーから惑星を眺めれば地表まで確認できました。

 だとしたら……用がなくなっても、破壊や取り壊しは出来なかったでしょうね。

 3区コロニーの全員が関係者でない限り」


 スツケヴァルの答えに、私は頷いた。


「恐らく、隠蔽し封印するのが精々だったはずだ。

 だが隠蔽したとしても、マスドライバーが見つかれば自分達の横流し行為が明らかになる可能性がある。実行犯達は気が気では無いだろう。

 見つからない様に付近を監視し、近づく者が居たら追い返さないといけない」


「……つまり当時のクーロイ駐留艦隊に、実行犯が?」


 ミルヌイの問いに頷いた。


「しかも艦隊の中でも高い地位にいた可能性は高い。

 少なくとも艦隊の一部を動かせなければ、監視体制など作れはしないからな」


 四十年前の実行犯を追うより、十七年前の実行犯を追う方が調べやすい。


「まさか、駐留艦隊司令官とか……」

「当時の司令官含め、数える程度に絞られるだろう。あるいはその全員と言う可能性もあるな」


 トマセオの呟きに答える。


「四十年前からリオライトが枯渇するまで二十年に渡る間に、この横流しは大きな規模になっていただろう。資源が尽きてしまったあと、ほとぼりが冷めるまで隠蔽を続けるためには長い時間がかかる。

 だが彼等にとって幸か不幸か、あの3区の事故が起きた」


 皆の表情には困惑が浮かんでいる。

 彼等はまだ、私の言いたい事が分かっていないようだ。


「裏にいた『力を持った者』は、これ幸いと手を回し、3区コロニーを閉鎖させることにした。

 3区が閉鎖されれば、マスドライバーが見つかる可能性はぐんと減る。

 だが同時に、大きくなり過ぎた横流し組織の解体に頭を悩ませただろう。

 全員をクーロイに縛り付ける必要はなくなったが、完全に野放しにもできない」


「……黒幕の目の届く所に置いている可能性が高いと?」


 タンクレーディが、ようやくそれに気付いたようだ。


「既に処分されている者もいるかもしれない。

 だが全員をそうするのは目立つ。何人かは存命だろう。

 ならば当時の宇宙軍関係者の足取りを追えば、黒幕近くまでは辿り着ける可能性はある」


「辿り着いて、どうするのですか」


 ミルヌイが、ぽつりと言った。



「……十中八九、黒幕は――陛下だろうな」


 彼に答えず、私は呟いた。


「私は、監察官に任命され、第七突撃部隊を編成してクーロイに向かい……叛乱首謀者と聞かされていたカルロス侯爵とラズロー中将を捕らえ、クーロイを掌握しようとした――全て、陛下の命だ。

 帝室に残れない私にクーロイ総督の地位と爵位を約束され、私は与えられた命を全うしようとした。

 ――裏の事情を、知らされないままにな」


 一つ、溜息が零れた。


「黒幕に辿り着いて、どうするのか……聞いたな、ミルヌイ。

 図らずも陛下の企みに加担してしまった私には……辿り着いたところで、どうもできん。

 精々、陛下と一緒に責任を」

「待ってください」


 スツケヴァルが、私の言葉を遮る。


「聞かせて欲しい事があります。

 ――我々側仕えを遠ざけたのは、どういう理由だったのですか」


「端的に言えば……陛下がグロスターを私に付けたからだ」


 皆の顔に戸惑いが窺える。


「グロスターには、以前からどこか胡散臭いものを感じていた。

 大学卒業あたりからあいつが私に接触してきて、今回監察官に私が任じられた時にグロスターが副官につけられた。

 上手く説明できないが……私は、君達を奴に関わらせたくないと咄嗟に思ったのだ」


 言葉を切り、皆の反応を見る。

 しばらく待っていると、ミルヌイが口を開いた。


「今はこれ以上話すつもりはないという事ですか。まあいいでしょう。

 もう一つ聞かせてください。

 あの第二二三陸戦連隊という連中ですが、あれは一体、何者ですか」


 第二二三陸戦連隊――。


「あれは、陛下がどこからかでスカウトした者達だとしか知らない。

 白兵戦闘力は非常に高いが、扱いが難しいとも聞いている」


 ミルヌイが、何か思いつめた顔で口を開いた。


「殿下。私は……。

 実はあの連中の正体を――『クロップス宙賊団』と同じだと想定しているんです」

「な、何だと……!」


 彼の言葉に、驚いて言葉が零れる。

 彼以外の側仕え達も、驚いてミルヌイを見る。


「クロップス宙賊団がスパニダス星系を襲い崩壊させたのは、当時隆盛を誇っていたカーネイジ侯爵家の力を削ぐため。

 その為にクーロイのデルタ採掘場からリオライト鉱を、黒幕は彼等に融通した。

 それに、その後に宙賊団が襲った星系も全て、当時陛下の政敵であった貴族家の領地ばかり」


 言葉が出ない私達を置いて、彼は言葉を続ける。

 

「宙賊団に星系を襲わせ、何十万何百万といった犠牲を出した、その理由。

 ――『政敵を追い落とすため』としか、私には思えませんでした。

 何も、証拠はありません。

 ですが想像通りだとしたら……私は、陛下の事が許せません」


 そういう、彼の気持ちは……わかる。

 ただそれだけの理由で、多大な帝国民の犠牲者を出したとしたら。



 ミルヌイ家は、元々……カーネイジ侯爵家の家臣だった。


 クロップス宙賊団がスパニダス星系を壊滅させた時。

 彼の母親は妊娠中で、たまたま被害の少ない地方に里帰りしていた。

 だが父親と兄は、宙賊団の襲撃で犠牲となった。

 知らせを受けた母親は、ショックで子供を早産したのだ。

 子供は無事に命を繋いだが、母親はそのまま亡くなった。


 ――その時の子供が、私の前にいるロヴロ・ミルヌイだ。


 カーネイジ侯爵家は家臣団の多くを、家臣の家ごと失って、没落した。


 その後、ミツォタキス侯爵が星系の復興を任されると、子爵家となったカーネイジ家と、少なくなった家臣団を侯爵は引き取った。

 そして宙賊団によって家を無くした元カーネイジ家家臣団の係累が見つかれば、侯爵は彼等もまた引き取った。

 ロヴロ・ミルヌイがミツォタキス侯爵に引き取られたのもこの頃だ。


 そして彼は、侯爵家の優秀な家臣団の教育を受けて育った。

 その後、ミルヌイ家復興の近道になるだろうと、侯爵の推薦で私の側仕えに送り出されたのだ。



 だが、もし本当にあの連隊が宙賊団と同じもので、陛下の私兵だったなら……。

 私は、彼にとって家族の仇の子供だ。

 ――彼が今こうして私を睨みつけるのも、道理だというものだ。


「その想像通りでなければいいと、私は願っている。

 だが、現時点ではミルヌイの想像を否定できる材料が、何一つない。

 ……どの道、私はこれから帝都に戻り次第、謹慎となるだろう。

 確かめる術も、私には無い」


 何も言わない彼等に、私は続ける。


「未来の無い私から、未来を切り開ける君達を解放すべきだ。

 私は、そう判断した。

 ――長らく側仕えを勤めてくれた事に感謝する。

 私は君達が誇れる上司足り得なかった」


 私は執務机の引き出しを開け、封筒を二つ取り出し、机の上に置く。


「これはそのせめてものお詫びだ。

 この場にいないガレッティとジェマイリ含めた七人で分けてくれ」


 私はそう言って――封がされた茶封筒を、すっと、彼等の方に押し出す。


「それ、は……」


「個人的に持っていた資金だが、違法なものではない。

 大学卒業までの私の養育予算の中から、一部を貯蓄や投資に回していた分だ。

 だが、私にはもう使い道がない。

 こちらを君達への餞別としたい」


 そしてその封筒の隣に、もう一つ……青い封筒を差し出す。

 こちらは第四皇子としての印が、封蝋に押されているものだ。


「こちらは……クーロイ自治政府、クラークソン長官代行に宛てた書簡だ。

 私はもう彼と会う機会は無いだろう。

 君達から、彼に届けてくれると有難い」


 しばらく、誰も何も言わず、沈黙が流れた。


「一晩、相談させてください」


 しばらく皆で顔を見合わせた後、タンクレーディが言った。


「それは構わない。だが、封筒は持って行きたまえ」

「……わかり、ました」


 タンクレーディが封筒を二つ受取り……そして、五人は執務室を出て行った。




 翌日、五人揃って執務室を訪ねて来た。

 五人は何故か……喧嘩でもしたのか、顔を腫らしていたり痣を作っていたりしている。


「我ら殿下の側仕えとして、様々な経験をさせて頂きました。

 この度、側仕えの解任をうけ、我らはこれより独自に行動させて頂きます。

 ()()()()()()()()()、またお会い致しましょう。

 有難うございました!」


 タンクレーディの宣言と共に、五人は頭を下げた。


「わかった。今までの精勤に感謝する。苦労を掛けた。

 貴兄らの活躍を祈っている」


 私がそう声を掛けると、五人は頭を上げ……踵を返した。



 ――だが四人が出て行ったあと、ミルヌイが残って扉を閉めた。

 彼は再びこちらを向き、執務机の側に来た。


「どうした、ミルヌイ。君は彼等と一緒に行かないのか」

「私は、これから独自に……自らの意思で、殿下の側に居させていただきます」


 どういうことだ?


「殿下は誰かが傍にいなければ何をするかわからない、危なっかしい所がおありです。

 それに身の回りのことなど、何一つお出来になりはしませんでしょう。

 長らく側仕えを勤めた私がいれば、何かと殿下も心安らげるかと思いまして。

 どうか以前のように、私をお使いください」


 ミルヌイは私に頭を下げた。


「もしかして、ミツォタキス侯爵への義理立てか」

「それもあります。

 こうして今私がいるのは、ミツォタキス侯爵のお陰ですから」


 ミルヌイは頭を上げた。


「ですが、殿下の側で仕えた日々も私にとっては財産です。

 こちらから見捨てるような不義理はしたくなかった。

 ですから、殿下の側を離れるという四人と、昨晩は喧嘩しました」


 私は目を丸くした。


「『機会があればまた会おう』そう言っていましたが、

 彼等は、殿下を見限っていった。

 誰か一人くらいは、残ってやってもいいでしょう」


 ミルヌイはそう言うと、人差し指を口に当て……シー、と内緒話の合図をした。


 もしや……グロスターの盗聴を警戒したのか?

 という事は、何か裏の意図があるのか。


 私は、胸の徽章の裏に隠されたスイッチを押した。

 これは、半径2m程の空間の会話だけを盗聴から防ぐ、盗聴防止装置だ。

 この装置の存在はグロスターも知らない、側仕え達との秘密だ。

 


「意図は何だ。本音で話せ」


 ミルヌイは私に、昔のようなニヤッとした顔を見せた。


「グロスターが、この部屋も盗聴しているかもしれませんからな。

 ……四人は殿下を見限り、義理立てして残る私と喧嘩別れしたことにしました。

 彼等はこれから真相を追います。今ならガンマに監視の目がありませんでしょう。

 それと、封筒は二つとも持たせました」


 彼等はガレッティ、ジェマイリと合流しに行ったか。


「ミルヌイは、どうして残ったのだ」

「侯爵閣下への義理立ては本当です。

 一緒に出奔すれば大恩ある侯爵の顔に泥を塗ってしまう。

 それに、殿下の側でないと調べられない事があるのも、()()()()()

 特に宇宙軍関係者の足取りを調べるなら、殿下と共に帝都に行った方がいい」


 なにか、含みがありそうだ。

 他にも理由があるのか?


「後は、そうですな……。

 事が成った時――もし全貴族総会が陛下を断罪することになった時。

 殿下の側という特等席で、その断罪劇を見たいと思いまして」


「特等席とは限らんぞ。

 その時は、私も一緒に断罪されるだろう」


 ミルヌイは首を振った。


「色々思うところはありますが……そうはさせませんよ。

 殿下は腹芸が下手です。

 ですから陛下の企みを知らなかったのは本当だと、我々は思っています」


 腹芸が下手だと、はっきり言われたな。

 それではあの聴聞会での私は、さぞピエロに見えていたことだろう。

 ……余りの醜態に、皆は恥ずかしいと思って、あの時私を止めたのか?


「この所の殿下の振る舞いに腹を立てていたのは事実ですが。

 貴方を完全に見限って出て行った訳ではありません」


 見限られかけていたのは事実だろう。

 出向させたガレッティ達も、私に思うところがある表情が何度か見えた。

 既に見限られていたとしても、今更構わないが。


 そのために、彼等にクラークソン長官代行への書簡を持たせたのだ。


 だがここで、ミルヌイは居住まいを正して、真っ直ぐに私の目を見て言う。


「ですから、念を押させて頂きます。

 くれぐれも……自裁など、なさいませんよう」


 ――見抜かれていたことに、私は言葉を失った。


 ミルヌイが残った本当の理由は……それを、止めるためか。



いつもお読み頂きありがとうございます。


ブクマや評価、感想、いいねなどを頂けると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ