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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第3章

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3-01 AMラジオの流れる日常

 ケイトさん達によると、向こうには今はAMラジオ放送は無いらしい。

 だから小父さん達と話し合って、わざわざAMラジオ電波を増幅してまで聞く人は居ないだろうってことで、AMラジオの送信アンテナの出力はかなり下げることにした。

 向こうには全く電波が届かないとはいかないけど、かなり増幅しないと聞けない位にはなるみたい。

 

 AMラジオの受信機はグンター小父さんが自作した。

 ラジオを運用する前に何度も調整してたのは、送信側じゃなくて小父さんが自作した受信機の方が大変だったって。簡単な部品だけでの自作だけど、バランス調整が難しかったらしい。

 そうして調整が完了したので、AMラジオの運用を始めた。



 ライブラリには事故の前日まで20年分くらいの放送記録が残ってるから、一番古いのから順に流せば良いじゃないのってアタシは言ったんだけど。小父さん達はどうも違ったみたい。

 AMラジオは7日単位で一通りの番組を放送するものらしい。だから、ライブラリの中からどの7日分を流すかをランダムに選択して、前の7日分の放送が終わった後にライブラリから読み込むプログラムをセイン小父さんが自作してコントロール端末に仕込んだ。

 切り替えに大体5分くらい掛かって、その間ラジオが無音になるんだけど、何か気に入った曲があれば切り替え時間に流すことも出来るみたい。


 受信機は調整が終わった試作機を参考に、グンター小父さんが4台、1人1台持てるように作ってくれた。小父さん達は管理エリアや外の修理、荷物整理中の住居エリアの自室と、どこへ行くにも常に持ち歩いてる。

 最初は小父さん達が何でそんなに持ち歩いているか、アタシは不思議だった。でも聞いている内にアタシもラジオが面白くなって、常に持ち歩くようになってしまった。


「♪ふふふんふんふんふー、ふっふ、ふっふ、ふーん♪」


「メグ、ご機嫌だな?」


「こんなに音楽でいっぱいな生活は楽しいね、ライト小父さん。

 作業も捗るし。今までラジオ無しで作業してた頃にはもう戻れないよ。」


「俺達がラジオの修理を優先した理由、分かっただろ?」


 7日分をセットで放送しているから、当時流行った曲はその中で何回も流れることになるようだ。そうしてラジオで繰り返し聞いて気に入った曲を鼻歌で歌うようになった。

 軽いリズムビートに乗って明るい歌が流れる曲は、修理作業や運動の時に掛かると捗る。しっとり歌い上げる様な曲や不思議なリズムを刻むピアノ曲なんかも、裁縫とか細かい作業をしているときは集中力が増す気がする。



 それでも、ラジオを流せない時間はある。それは……。


「では、背もたれに体を預けないようにして、その頭の上の本が落ちないように、20分座っていてください。」


「……背中がちょっとつらい……。

せめて、気を紛らわせるためにラジオかけさせて。」


「ダメです。メグさんは好きな曲が掛かると音楽に合わせて体が動き出しますから、訓練の邪魔です。」


 マナー教育や勉強の時間は、ラジオをニシュに取り上げられてしまうので、ラジオをかける事が出来ない。

 手を使う作業に集中する時は音楽によってリラックスしたり集中したりできるけど、勉強やマナー教育みたいに五感を使って学習する時は、ラジオは集中を乱すから逆効果なんだって。


「メグさんは体幹がまだ弱いです。ちゃんと体幹を鍛えれば、女性らしい美しい姿勢をちゃんとキープできますし、運動面でも効果が出るのですよ。

こういう地道な鍛錬は大事なのです。」


 ニシュの言う様に、小父さん達とスカッシュをする時の自分の動きが少しずつ良くなっていくのを感じるし、マナー教育が無駄だとは思わないんだけど……しんどいのは変わらない。


「はい、20分経ちました。本を下ろして良いですよ。よく頑張りました。

 つらかった箇所はストレッチで伸ばしておきましょう。」


「……ふう。やっと終わった。」


「今日は20分キープできたので、明日はもう少し伸ばして30分にしましょうね。」


「えー……。」


 ニシュのマナー教育は、こうしてクリアしてもちょっとずつハードルが上がっていく。いつまで経っても終わる気配が無い。



 ゴミ捨てシャトルが来る日。

 宇宙船修理用の物資調達をお願いした時以降も、ケイトさんはマルヴィラさんを連れて変わらず来てくれている。


 ケイトさんも顔立ちの整った綺麗な人だけど、マルヴィラさんは大柄なことも含めて、ケイトさんより人目を惹く美人さんだ。

 ケイトさんの話し方は丁寧で優しくて、マルヴィラさんの話し方はケイトさんよりは砕けた感じ。2人ともアタシに対して裏表が無くて、とっても話しやすい。

 ただいつも、アタシがケイトさんと商談に入ると、マルヴィラさんはアタシ達から少し離れてしまう。


「ケイトさん、アタシ達が商談に入るとマルヴィラさんが離れてしまうのはどうして?」


「私はあんまり周りの事に目が行き届かないから、誰かがこっちに来ないよう注意してくれているんだけど、ニシュさんに気を遣っているのもあるみたいよ。」


 ニシュに、気を遣う?

 首を傾げると、ケイトさんが話してくれた。


「彼女が貴女のそばに居ると、ニシュさんの気配がちょっと変わるって言っていたわ。ニシュさんにまだ警戒されてるんだと思って、危害は加えないって示すために離れているんだって。」


 驚いて、後ろにいるニシュに振り返る。


「……ええ、マルヴィラさんはどう見ても武術の心得がありそうですし、何かあればいけないと思ってちょっと身構えていました。」


「ニシュ、どうにかならないの?それ。」


「メグさんが指示してくれたら警戒対象から外しますよ。

 ケイトさんの時は、すぐに外してくれとお願いされましたけど。」


 いけない。誰を警戒しないかはニシュに指示しないといけないんだった。


「あー……。ごめん、ケイトさん、マルヴィラさん。

 マルヴィラさんをニシュの警戒対象から外す指示を出してなかったわ。」


「そうね、外してくれると有難いわ。」


「それじゃあニシュ、マルヴィラさんを警戒対象から外してくれる?」


 ニシュは「了解しました。」と言うだけで、その場から動かない。


「……ふう。ちょっと気分が楽になった。

ニシュさんの気配が変わったのは分かったわ。有難う、メグちゃん。」


 マルヴィラさんが離れた場所のままで声をかけてくれた。彼女の声からはいつも感じられる緊張感が薄れた。

 でもニシュは動いた様子も無いけど、何が変わったんだろう?


「実は前の職場でニシュさんと同型のアンドロイドが何体かいてね。訓練の相手をして貰っていたんだけど、こっちが本気で挑んでも毎回コテンパンにやられてね。一度も勝てた試しが無かったのよ。

 そんなアンドロイドに警戒モードで傍に立たれてたから、冷や汗ものだったわ。」


「気配が変わったって、そんなのわかる物なの?」


「姿勢とか変わらない様に見えても、重心の掛け方とかね。すぐわかったわ。」


 ケイトさんの方を向くと、ケイトさんは首を横に振る。

 彼女も分からなかったみたいだけど、マルヴィラさんにはすぐわかる物なんだ。


「警戒を解かれてちょっと落ち着いたけど、それでも一応私はここで見張りしてるわ。ケイトは商談を進めて頂戴。」


「わかったわ。」


 それから、ケイトさんと物々交換をする。

 交換した品物、特にケイトさんが好意で買って来て貰ったものの説明を受ける。


 小父さん達に()()()()()()()()()()の処理をどうするか、前回ケイトさんに相談した時、そういった物をゴミとして捨てる前に原型を留めない様処理する『廃棄前処理ボックス』という物が向こうにある事を知って、買って来て貰うようお願いした。

 普通どの家にある物だったら、このコロニーの住居にもあるんじゃないのかと思ったけど、今までそんな物を見たことが無かった。マルヴィラさんが言うには、「大きなものじゃないし、退去の時に皆持って行ったんじゃないのかな」とのこと。

 これで小父さん達が寝てからこっそり捨てたりしなくて済む。


 アタシは受け取ったものをニシュに預け、ケイトさんは宇宙服のバックパックに仕舞う。



「私からメグちゃんと、これを聞いている小父様方にお願いがあるのですけど、宜しいかしら。」


 取引が終わって、雑談をしてからケイトさん達とお別れをしようかという段階で。ケイトさんがそんな事を言い出した。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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