15-11 MERVEROUS MODEのその先に
俯瞰視点。
今回は短めです。
また、本日は二話投稿です。御注意下さい。
帝国の首都星ダイダロス。
ここには、政務の中心地である帝都と、この惑星上の別大陸には商業の中心地である商都がある。帝都と商都は、お互いに空路やリニアで行き来ができるようになっている。
「はーい、姉のジャクリーンと」
「妹のミカエラの」
「「ハンブルク姉妹の、ゲーム攻略チャンネルーーーー!」」
ジャクリーンとミカエラの姉妹は、商都に拠点を置くネット配信者である。
女性配信者の多くがメイクやファッションなどの紹介動画を上げる。
彼女達もそういった動画を作成することはある。
しかし彼女達の配信の中心コンテンツは、ゲーム攻略である。
モーションキャプチャを使って実際に体を動かすようなアクションものであったり、音楽に合わせてステップを踏むようなダンスものであったりなど、一般的に男性に愛好者が多い、身体を使うハードなものが中心だ。
真っ当な攻略解説を交えながら、スレンダーな美人女性二人が身体をハードに動かしてゲームプレイする様子が、一定数以上の視聴者の支持を集めている。
「前回に引き続き、『カリアティからの脱出』のMERVEROUSモードに挑戦します!」
「私達のこのゲームの配信は七回目になりますが、前回結構イイ所までいったよね」
配信が七回目と言うが、裏では攻略方法の研究のために既に百回以上プレイしている。
それだけこの、携帯端末用のゲームは奥が深い……と、彼女達は思っている。
「今までのおさらいで、これまでクリアした部分の解説から入りまーす」
そして、配信画面には過去のMERVEROUSモードのプレイ動画がプレイバックされる。
「画面一杯に敵の弾が飛んでくるこのモード、エグいよね」
「その中で、どうやって弾を避けていくかと言うと」
プレイバック動画に、自機が辛うじて飛行できそうなルートが黄色い線で描かれる。
「このルートで動かすには、結構繊細な自機操作が必要なのよね。当たり判定シビアすぎるし」
「今まで何回もプレイしたけど、やっぱり、これ一人じゃ無理じゃないかな」
「だから今回も、前回に引き続き、協力プレイモードで攻略したいと思いまーす!」
「それではですね、この飛行ルートについて、ポイントとなる箇所と、その場面での協力プレイでの操作のコツをお伝えしていきます」
そして、ゲーム中のポイントとなるシーンごとに、二人の思う操作のコツを図解し始める。
「それでは解説はこの辺にして、いよいよMERVEROUSモードをプレイしたいと思います!」
「イェー――!!」
そして配信は、二人のゲームプレイへと移っていく。
『やっとか。早よプレイ動画を』
『解説はいいから、プレイ動画が見たいんだよ!』
生配信しながら、こうした視聴者のコメントは二人の目に入るようになっている。
真面目な攻略解説を見るファンもいるが、彼女達のファンの多くは、攻略中に二人が激しく動く様子を見たいという傾向が強い。当然ながら、この傾向を持つ視聴者は男性ファンの方が多い。
携帯端末のゲーム画面が、部屋の壁面にある大きなスクリーンに拡大される。
その画面を見ながら、姉妹はお互いが携帯端末を持ち、ゲームプレイが開始される。
このアプリの二人協力プレイモードは、一人がメイン操作、もう一人がブレーキもしくはアクセル役になる。
姉妹の場合は、妹ミカエラがメイン操作、姉ジャクリーンがブレーキ/アクセル役だ。
MERVEROUSモードでゲームスタート。
画面いっぱいの敵弾のわずかな隙間を、ミカエラは巧みな操作で潜り抜けていく。
「ミカエラ、ちょい斜め下」
「お姉ちゃん、ブレーキ掛けて!」
それでも時折ミスはする。そんな場合にはお互いに声を掛けながら、ブレーキを掛けたり、アクセル操作をしたりして微調整していく。
『うわ、それ抜けるの⁉』
『なんつー細かい自機操作なんだよ』
『これを一人でできる奴いたら、マジで神』
視聴者から驚きと称賛のコメントが流れる。
前回配信時に失敗した箇所を越え、最終ステージにやってくる。
『30秒間、ひたすら弾をよけろ』
そんな文字が画面中央に表示され、画面右からは帝国軍の宇宙軍艦数隻のシルエット。
軍艦は一斉に、画面一杯に弾をばら撒く。
『マジか、これ!』
視聴者からも、難易度の高さに驚くコメントが流れる。
「左3!」
「右7!」
だがジャクリーンとミカエラは。
お互いに謎の声掛けをしながら、その弾幕の隙間を巧みに潜り抜ける。
『なんだ、あのヤバさ!』
『掛け声にはどんな意味が?』
そういったコメントに、姉妹はもはや目を配る余裕が無い。
互いに前後左右に体を傾けながら、ひたすら弾幕を避けるアクションを繰り返す。
なんとか30秒が経過したら、自機が勝手に動いて画面右の宇宙軍艦をすり抜け、その向こうへ宇宙船が飛んでいく。
やがて……飛んで行った先には、氷に覆われた惑星と、その周りにいる大型宇宙船。
自機である宇宙船と、大型宇宙船がランデブーしたところで、
『おめでとう! MERVEROUSモードクリア!』
画面中央にゲームクリアの表示が映し出される。
「やったー!」
「うれしー!」
姉妹はハイタッチを交わす。
視聴者からも、お祝いコメントが多数寄せられる。
しかも視聴者からの情報では、このアプリのMERVEROUSモード初クリアとなるらしい。
「それじゃあ、エンディング見ようか。視聴者の皆も楽しみだよね!」
ミカエラが視聴者に呼びかける。
しかし生配信でこのエンディングを流しながら……ジャクリーンとミカエラは、言葉を失った。
クーロイ星系で行われた、行方不明者追悼式典。その最中に突入した宇宙軍兵士達。
そしてその後、クーロイ星系にAMラジオ電波で流されたメグと名乗る若い女性の音声、そして『憧れ』と名付けられた歌。
これらの様子が、当日クーロイで放送された映像や音声が、そのまま使われていたのだ。
AMラジオ放送の部分こそ、女の子がラジオ放送で語る様子はCGであったが、流れた音声や歌は当時電波に流れていたそのままの物が使われていた。
そこで明かされていたのは……。
メグという女の子が、3区の奥でずっと生きてきたこと。
3区コロニーには、17年前の事故に関する秘密があったこと。
その秘密を隠滅し無かったことにするために、クーロイへ帝国軍が侵攻したことを暴露していた。
「MERVEROUSモードで真実が明かされるってHARDモードのエンディングに出てたけど。
こんなヤバいネタだとはね」
「うん、そうまでして消したい秘密って……。
裏で帝国軍がもっとヤバいことしてるってことでしょ?」
姉妹はエンディングを見ながら言う。
『おい、これ帝国軍の検閲が入る前のソース映像と音源だぞ!』
『この歌……星姫ちゃんか』
『ヤベエぞこれ! 保存しろ、拡散するぞ!』
この生配信をみていた視聴者も、エンディングの内容に驚き。
このエンディング動画を、二次編集して拡散し始めた。
クーロイ騒動の起きた当初から、『星姫』の歌をBGMにした配信動画が流されては消されていた。
しかし今回のエンディング動画の拡散の勢いは凄まじく、あっという間に商都から帝都、そして帝国内の他星系へと流れて行った。
この流れに、当局側も動画の拡散を止めようと、配信者へ圧力をかけたらしい。
だが最初の配信者が、当局から動画を削除するよう要請があったことを別動画で配信し、またアプリをクリアした他の配信者も同様の圧力があったことを明かしたことで、『言論統制するのか』と帝国政府に批判が殺到することになった。
そうして、当局による規制の動きにもかかわらず、動画とアプリはあっという間に帝国全土へと拡散していった。
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