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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第15章

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15-08 公開聴聞会(中)

引き続き、フォルミオン第四皇子視点

「それでは、第一の論点から整理しよう。自称領主の主張に対し、質問がある方」


 議長が質問を促すと、貴族側が何人か挙手をする。

 ミツォタキス侯爵はその内一人を指名した。


「そもそも3区コロニー下のガンマ採掘場からリオライト鉱脈が枯渇したというのが、採掘場の閉鎖理由であったはずです。コンテナで運び出された鉱石から、どのくらいのリオライト鉱石が見つかったのですか」

「全部がそうだと言う訳ではないが、その中の一部がリオライト鉱石であることは確認した」


 指名された者の質問に、用意していた答えを返す。


「横流しだと主張するのであれば、その横流し相手や、資金の流れは解明したのですか」

「現在のところ、その資金の流れは解明されていない。だが横流しがある以上、侯爵が隠している口座があるはずだ。その為の取調べをしている」


 別の貴族からの質問に答える。

 ケイ素やリンの鉱石であっても、多少は売買の流れがあっておかしくないと思ったのだが、鉱石の横流しについては、明確な金の流れは全く掴めなかった。


「鉱石を接収して中を確認したのは、クーロイ星系の各コロニーへ第七突撃部隊が突入し占拠した後のことだと認識しています。これより先に宇宙軍にコロニーを占拠させた理由は何ですか」


 トッド侯爵の質問には一瞬躊躇した。

 我々がコンテナを接収して中身を調べたのは、あの生存者達の行方を調べていた時だ。


「コンテナの件はそうかもしれないが、コンテナの打ち上げについてラズロー中将が事前に把握していることは認識していた。捜査の為にラズローやカルロス侯爵の身柄を確保するのは、他と連絡が取りにくい式典中をおいて他にないと判断した」


 この回答で、おかしなところはないはずだ。

 だが、トッド侯爵は首を振った。


「これを聞いて頂きましょう」


 トッド侯爵はそう言って、係員に向かって合図を出す。


『侯爵、貴方にはラズロー中将と共謀の上、採掘場からの戦略物資横流しの疑いがある。

 加えて、各コロニーで暴動の兆候を確認したので、それぞれ鎮圧部隊を送っている』

『何ですと? 証拠はどこにあると言うのだ!』

『こちらの独自調査で判明した。

 充分な証拠と判断したため、友軍を動員して鎮圧に当たらせて頂く。

 また貴方のクーロイ星系領主としての権限は、監察官の権限により一時凍結とさせて頂く。

 近衛隊、侯爵を丁重にお連れしろ』


 これは……3区に宇宙軍を突入させ、カルロス侯爵を拘束した際のやり取りだ!

 軍用回線で話していた筈だが、誰かが傍受していたのか!?


「宇宙軍を突入させて、明確な証拠も令状も示さず。

 いきなり領主貴族や第二帝室の方を拘束するのは越権行為でしょう」

「監察官に認められた捜査権は通常の捜査とは異なり、通常より強い権限を振るう事が認められている。証拠があると認めたから拘束したのだ。そもそも、先ほどの会話は軍用回線の傍受ではないのか。作戦行動中の軍用回線の傍受こそ違法であろう」


 トッド侯爵への私の答えに、ミツォタキス侯爵から横槍が入る。


「これは捜査のための証拠提出ではなく、貴方の今回の一連の行動の正当性に対する疑義の審査の参考資料です。この音声を当聴聞会で使用することは全貴族総会にて認められている。

 そちらが強権を振るうなら、こちらも法で認められた強権を振るうまでです」


 くっ……!

 これはひょっとして、あの何とかいうジャーナリストが持ち込んだものか?


「あと、3区の会事務局、特に事務局長ケイト・エインズフェロー氏を拘束しようとしていましたが、掛けられた容疑、カルロス侯爵とラズロー中将による叛乱に加担したというのは、果たしてそれは本当でしょうか」

「……なんだと?」


 トッド侯爵は私の反論を無視し、また係員に合図を出す。


『元々式典参加者名簿にある他の事務局メンバーは確保しました。しかし最優先確保対象……3区の会事務局長、ケイト・エインズフェロー氏は、見当たりませんでした』

『速やかに行ける所から管理エリアへ向かえ。最優先は女の身柄。

 生きたまま、向こうと接触前に確保しろ。

 接触済の場合は向こうの者達も確保。大した抵抗は出来ないと思うが、賊だと思って当たれ』


 こ、この音声は……!


「宇宙軍が3区に突入してカルロス侯爵とラズロー中将の身柄を確保し、式典会場を制圧したあとの軍の通信内容です。

 さて監察官閣下。ここで言う『向こう』とは、一体誰の事を指しているのですかな?

 誰かが3区の管理エリアにいる事を示唆する内容ですがね」

「叛乱に加担していたと思われる、3区に潜んでいた宙賊と思われる者達だ」


 答えを返す。

 ここで、トッド侯爵が議長であるミツォタキス侯爵に向き直る。


「ここで監察官閣下としての証言が正しいか、別の証人に話を伺いたいと思います。

 3区の会事務局長兼、回収会社エインズ代表、ケイト・エインズフェロー氏の尋問をお願いしたい」

「トッド侯爵の申請を許可する」


 議長は申請を即座に了承した。

 向こう側の席から、あの女が起立する。


「エインズフェローさん。

 貴女が叛乱ほう助の容疑で拘束されたとのことですが、取り調べはどうでしたでしょうか」

「ほぼ全ての時間を費やして訊かれた内容は……3区奥にいた者たちはどこへ逃げたか、です。

 叛乱ほう助の容疑については、尋問や拷問でもほとんど質問されませんでした」


 結局、あの連中を使って拷問までさせたが、聞き出せなかった。


「……とのことですが、監察官閣下?」

「当たり前だろう。かの者たちは宙賊である可能性が高いとみていた。

 あるいは、不法移民だな。

 そういった者達を匿っているという容疑が固まり次第、彼女を罪に問うことになっていた」


 ミツォタキス侯爵の詰問に答えた。

 論理としては、間違っていないはずだ。


「……まあ、現時点ではいいでしょう。

 エインズフェローさん。

 貴女が式典での宇宙軍突入後、3区コロニーの奥に向かっていたのは何故でしょうか」

「あの奥には――17年前の3区コロニーの事故からの、生存者がいたのです」


 あの女め、余計な事を!


「異議あり!」

「今、閣下に発言を求めておりません。証人、続きをお願いする」


 私の抗議は、ミツォタキス侯爵に却下された。


「約1年前に私が出会った時から彼らはギリギリの生活をしていたので、最初は私一人で、そのうち回収会社として、彼等を密かに援助していました。

 しかし宇宙軍が3区にやって来ると察知した時点で自分達の生命の危機を感じていた彼らに、カルロス侯爵から託された逃亡先の情報を彼らに渡すため……あの日は、その情報を届ける為に、3区の奥へ向かっていました」


 やはりあの女が逃亡先の情報を握っていたのか!

 しかし、一体どうやって誰にも気付かれずにその情報を持ち込んだのだろうか?


「その生存者達はどうして名乗り出ずに、ずっと3区の奥で暮らしていたのですか?」


 この質問をしたのは、クラッパ伯爵のようだ。


「彼等が言うには……17年前の事故の際に、事前に天体接近を察知した政府職員や軍人らは我先に逃げ出し……警報が出たころにはシャトルが止まっていて、脱出する手段が無かったと聞きました。ですから自治政府の事を、彼等は信用できなかったそうです」


 会場は、女の証言の内容に静まり返る。


「事故後、生存者達はコロニーの中に閉じ込められたまま、宇宙軍は外のデブリを回収するだけで、コロニーの中を探しにも来なかった……その他の理由もあって、宇宙軍は猶更信じられなかった。

 私が彼等を見つけるまで、誰の事も信じられないまま、密かに彼等は生きてきました」

「成程……自治政府も宇宙軍も何も信じられなければ、3区でひっそり生きていくしかない」


 クラッパ伯爵は頷き、着席した。


「どうして生存者達は、宇宙軍が来ることに生命の危機を感じたのですか?」


 質問者はまたトッド侯爵だ。


「ここからは私に証言させてください」


 そう言って挙手をしたのは、エインズフェローの横に座る別の女。


「許可する」


 ミツォタキス侯爵は即座に許可を出し、その大女が立ち上がる。


「回収会社エインズ従業員マルヴィラ・カートソンです。

 私はケイト……社長が3区の奥にやってくる前に、事前に向こうの生存者達と接触していました。向こうで聞いた、宇宙軍が来ることに生存者達が生命の危機を感じた理由は……17年前の3区コロニーの事故について、裏で起こっていたことを掴んだからです」


 発言を遮るため立ち上がろうとした。

 途端に、タンクレーディたちに取り押さえられ、再び着席させられた。


「殿下、今はお静かに。心象が悪くなります。反論でしたら、後で堂々と」


 しかも口を押えられ、声を出す事が出来ない。

 この私に何をする!


「裏で起こっていたこと、とは?」


 私を無視してトッド侯爵が大女に質問をする。


「事故当時の3区コロニーの管理責任者である、ダニエル・バートマン中佐の手記を発見しました。あの事故の4か月前……クーロイ星系の第五惑星のずっと外側を回る、氷に覆われた小惑星トラシュプロスを『クロップス宙賊団』を名乗る者達が占拠し、『以前の様に』リオライトを提供するよう要求した……という、クーロイ警備艦隊の交信の記録が書かれていました」


 ちょっと待て。一体どういうことだ。

 私が父やグロスター、マクベスから聞いた話とは少し違うぞ。


「クロップス宙賊団だと!」

「なぜその名前が!」


 貴族達、特に年配の者達の間に、どよめきが起きる。

 私はその団を知らないが、クロップス宙賊団というのは何か大きな問題を起こしたのか?


「殿下。クロップス宙賊団というのは、二十年ほど前に帝国内を荒らしまわった大規模な宙賊団です。帝国内に多数の被害を出し、幾つかの星系は壊滅的ダメージを受けて、治めていた領主家が没落する事態となりました」


 側仕えのミルヌイが私に伝える。


「その宙賊団はちゃんと討伐されたのだろう?」

「いえ、突然行方が分からなくなり、それっきりだそうです」


 討伐されないまま、行方知れず?


「クーロイ警備艦隊は結局その宙賊団を討伐したのですが、その際にトラシュプロスから飛散した巨大な氷塊が、その後に発生した恒星フレアの影響で軌道を変え……同じフレアの影響を受け動けなくなった警備艦隊では氷塊を止められず、結果として3区コロニーに衝突しました。

 これが、17年前の事故の経緯のようです」


 大女の発言で、貴族たちの間のどよめきが止まらない。

 ここでカンカン、と壇上から音がする。

 ミツォタキス侯爵が、木槌を鳴らしたようだ。


「諸君。議論が進まないため、静まってくれ。

 事故のあらましはともかく、疑問点が多数残っている。私からいくつか質問させてほしい。

 まず、トラシュプロスというのは?」

「中佐も警備艦隊の交信を傍受して知ったようなのですが、クーロイ星系の第五惑星アンドロポスの外側、公転軌道半径がアンドロポスの7倍となる軌道を回っている小惑星のようです」


 正式な星系図には載っていないその小惑星の事は、私はマクベスから聞いていた。


「つまり、宇宙軍は知っていてその小惑星の存在を隠していたわけか。

 次に、その手記には宙賊団と宇宙軍警備艦隊との関係についての記載は無かっただろうか」

「軍政時代に宇宙軍は警備艦隊を通じてクロップス宙賊団にリオライトの横流しを行っていたことも、警備艦隊の通信から中佐は把握していました。

 ガンマ、つまり3区コロニー下の採掘場にマスドライバーを設置し、隕石型コンテナに鉱石を詰めてトラシュプロスに向けて飛ばしていたようです」


 ……ちょっと待て。

 それが正しいとすれば、帝国内を暴れまわっていた宙賊団に対して、クーロイ警備艦隊がリオライトを横流ししていたということか?

 3区の採掘場が稼働中にマスドライバーが設置されていたとすれば、そう言う事になる。

 私が聞いていた話とは、様子が違う。


「由々しき事だな……。他に、手記にはどのようなことが書かれていただろうか」

「はい。3区に氷塊が近づいている最中、警備艦隊内部では責任の擦り付け合いのような通信が飛び交っていたようです。

 それを中佐が警備艦隊司令に抗議したところ……中佐に対して、暗殺者が差し向けられました。

 中佐は身を守るため、把握した事実を3区の管理エリアに隠し、かつ管理エリアが宇宙船として使用できないようプロテクトを掛け……採掘場に逃亡しました」


 私が聞いていたのは……。

 クーロイの3区コロニー管理エリアに、3区コロニーの事故が警備艦隊のミスで起きた記録が残っている。今となってはこれが明るみになると、帝室の権威が下がってしまうから、消さないといけない。

 3区に残っている生存者は、この事実を知っている可能性があるから、捕えて隔離せねばならない、ということだった。

 どうしてこうも、私が聞いていた話と違うのだ……。


「なぜ、中佐は管理エリアを宇宙船として使用できなくする必要があったのだ?」


 トッド侯爵も質問をする。


「その時にはすでに、3区内部に暗殺者が入り込んでいて、かつ他にコロニーを脱出する手段が無かったためです。管理エリアを切り離して宇宙船として暗殺者が脱出するのを防ぐために、プロテクトを掛けた模様です」


 大女の話は、それなりには筋が通っているように聞こえる。


「つまり、暗殺者達は取り残された3区住民と一緒に、事故の犠牲に?」


 ミツォタキス侯爵が再び質問するが、女は首を振る。


「3区管理エリアと周辺は、それほど事故の影響を受けませんでした。

 事故を生き残った生存者達も、事故の時点では管理エリア近くにいたそうです。

 生存者達の推測ですが……暗殺者達は、その後にやってきた宇宙軍のデブリ回収部隊に回収される形で3区を脱出したようです」


 あの女の発言が正しければ、クーロイ警備部隊やデブリ回収部隊は、事故原因を隠蔽するために暗殺者を出し、回収した、ということか。

 だが……。


「まだまだ疑問点は多いが、一つ聞かせてほしい。

 この一連の件は、クーロイ警備艦隊による独断での事とは思えない。

 関与していたと思われる人物について、手記の中で何か示唆されていなかっただろうか」


 この質問には、大女は答えを躊躇したが、しばらくの沈黙の後、口を開いた。


「あくまで手記に記載された内容ですが……。

 3区に氷塊が近づき、事故が不可避になった時。警備艦隊に内部分裂が起きました。

 反旗を翻した側が、こう言っていたそうです」


 ここで、大女は一息ついた。


「『宙賊団への横流しは陛下の密命だったから、今回の事故も陛下が責任を取るべきだ』……そういう内容だったそうです。この発言をした側は……警備艦隊に、艦ごと撃沈されたそうです」


 大女のこの発言の重大さに、会場のどよめきは一層強まった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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