15-07 公開聴聞会(前)
フォルミオン第四皇子視点
近衛の連中があの証人とグロスターの配下を護送し、クーロイを武装輸送船で出発した。
そのため、第七突撃部隊には強引な手段――大型艦を衝突させてでも止めろと指示を出した。
指揮官は再三拒否しようとしたが、帝室の権威で押し切った。
しかし結果は、外壁に少し傷を与えた程度だった。
輸送船は自力でハイパードライブで飛んで行った。
ハランドリ星系でクセナキスへの曳航を申し入れたが断られた。
最後の手段として、クセナキス星系で待機していた第七突撃部隊の分隊に臨検させたが、目的の船には近衛隊は乗っていなかった。
奴ら、どこへ行った?
我々がクセナキスに到着し、用意されたホテルに入ってからも。
近衛隊とあの女についての行方は掴めなかった。
そのままホテルに滞在して三日目。
「殿下がクーロイを離れている以上、追加の成果というのは特には……」
追加情報を書類に纏めるよう、タンクレーディ達に指示を出していたが、結局は何も追加の成果が無かったと、彼等には報告された。
全貴族総会からの迎えのリムジンが到着したので、グロスターと同乗する。
タンクレーディ達に同乗するよう伝えると「私達は殿下の単なる手足ですから」と断られた。彼らは別の車で移動するようだ。
ガレッティやジェマイリが居れば……ふと、そんな考えが過ぎる。
彼らは定期的に連絡を寄越してくれるが、あの長官代行らを失脚させるほどの内部情報も、あの証人の女や回収会社を追い落とす手掛かりも流れてこない。
こんなことなら、六か月と言わずさっさと自治政府から引き揚げさせるか。
……いかんな。こんなことを考える前に、まずは今日を乗り切らねば。
第四皇子としての権威があればこの公開聴聞を乗り切れるとは思うが、今一度書面を読み返して、何があっても対応できるようにしておくか。
全貴族総会の公開聴聞会――星系政府の本会議場を特別に借りて実施するそうだ――の建物前にリムジンが到着し、政府職員に会場まで案内される。
本会議場の扉前に来たところで職員は脇に下がって扉を開ける。
入っていくとそこは半円形の会場で、縁の中心にあたる場所が何段か高くなっているが、そこは議長席のようで、ミツォタキス侯爵が着席していた。
私に用意された場所は、その議長席の下にあるスピーチ台でもなく、スピーチ台から5メートル程下がった所にあるテーブル席だった。
スピーチ台を取り囲むように半円状に並ぶ議員席には、帝国内各地を治める貴族達が着席している。
席は位階の高い順に、前席には侯爵家、その後ろに伯爵家の面々の顔が見える。
更にその後ろは子爵家、男爵家なのだろう。伯爵家より下は、顔を覚えていないため推測だ。
「自称クーロイ領暫定領主フォルミオン殿。御着席頂きたい」
中央の議長席に座るミツォタキス侯爵が私に言う。
帝室の人間が来たのに、この私に議長や貴族達から敬意を払われないのはどういうことだ。
「私は第四皇子である。帝室への敬意は」
「ここは領主としての資格や資質を問う公開聴聞会の場です。
都合よく帝室の権威を持ち出すのは止めて頂きたい」
私の抗弁は、侯爵の反論に遮られた。議長の反論に居並ぶ貴族達は首肯する。
ふと気づくと、タンクレーディ達は用意された席に座っているが、グロスターだけは会議場の中に入ってきていない。
「どうしてグロスターをここに入れない」
「グロスター宮廷伯は、暫定領主としてのクーロイ統治にあたり閣下を補佐していたと?」
私の補佐を……と思ったが、そう言えばあいつはクーロイの内政には一切の口出しをしてこなかったな、と気付く。
私に用意された席からスピーチ台を挟んで反対側には、自治政府のクラークソン長官代行やその配下、そして3区の会関係者が着席している。確保できなかった女もここに居た。
だが、ガレッティやジェマイリがそちら側なのはどうしてだ。
「ガレッティ、ジェマイリ。今より出向の任を解く。君達はこちら側だ」
「正式に六か月間の出向契約を結んでいる以上、殿下が勝手に契約を解除することはできません。
今の彼等は自治政府職員です」
クラークソン長官代行が反論する。
「二人の意思があれば解除は出来る筈だ」
二人に向かって言う。
自治政府の仕事などより、私と一緒の仕事の方が有意義なはずだ。
だが、ガレッティもジェマイリも首を振る。
「殿下の手足としての職務内容なら、五人なら答えられるでしょう」
「私達は半分以上残る任期を全うさせて頂きたく」
二人とも、私の指示に頷かない。何故だ!
私の怒気を含んだ視線に、ガレッティもジェマイリも怯む様子が無い。
「もういいでしょう。そろそろ着席を」
ミツォタキス議長の催促に、私は歩いていき用意された席へ座る。
「全員が着席したところで、今回の公開聴聞会を開会する。
この会の内容は一般市民へ直ちに公開はしないが、帝室はじめここに出席していない各地の領主、貴族位を保持する方々、帝国政府など、関係各所にはこの内容を配信している」
私が着席して、ミツォタキス侯爵が開会を宣言する。
「まず、クーロイ星系は帝国内最辺境の資源採掘星系で、およそ二十年前に帝室の命でカルロス侯爵が帝国軍から統治権を委託された」
議長である侯爵が経緯を説明する。
「しかし、カルロス侯爵に反乱の疑いがあるとして監察官が派遣され、監察官が実質的に統帥権を握る宇宙軍第七突撃部隊により、カルロス侯爵および、共謀の疑いでイデア=ラズロー中将を拘束し、監察官であったフォルミオン第四皇子殿下が領主に自らを任じた。帝室はこれを追認したが、全貴族総会としてはこれを看過し得ないため、当聴聞会を開催する運びとなった」
居並ぶ貴族達が首肯する。
「当聴聞会での議題は三点。
一、カルロス侯爵、イデア=ラズロー中将および3区の会の拘束に対する正当性の疑義。
二、監察官が自らをクーロイ領主に任じた事に対する疑義。
三、領主を自称するフォルミオン殿下の、領主としての資質に対する疑義。
以上である。まずは、自称暫定領主たるフォルミオン閣下のこれらに対する主張を伺いたい」
ミツォタキス議長が、開会の論点を述べ、私に発言を促す。
係員がマイクを持ってくるので、ひったくって発言する。
「まず一番目の論点について。
クーロイ第三惑星オイバロスの地表、3区コロニーの真下に当たる採掘場跡から、多数の鉱石が隕石型コンテナに詰められ打ち上げられている事を確認している。これは採掘場を管理する宇宙軍クーロイ駐留部隊の主導するものではなく、カルロス侯爵主導のもとで行われた事は明白である。
この持ち出された鉱石に、戦略物資リオライトが含まれていた。リオライトの横流しは重罪であり、侯爵が叛意を持っていた証左と見なした」
カルロス侯爵の拘束についての主張は、当初からの物を繰り返す。
「イデアの名は正式名称ではないためラズロー中将と呼ばせて頂く。
かの中将はクーロイ星系の内偵を陛下から任じられていた。
彼はこの鉱石の横流しを知りながら放置していた。
それに、侯爵と中将は直接打ち合わせの場すら持っていた。
これを以って、中将はカルロス侯爵と共謀関係にあると断じた。
二人の拘束についての疑義には、これを否定するものである」
奴の側近ヘンダーソン特務中佐の端末を解析して、ラズローの奴がこの鉱石の流れを掴んでいたことはわかっている。
「3区の会については、ラズロー中将と頻繁に連絡を取り合っており、彼らの叛乱の疑義に加担する者と見なした」
実際、准将の配下があの女とラズローの奴とのやり取りを仲介していたからな。
「次に、監察官であった私が自らを領主に任じた点。
これは監察官に任じられた時点で、万一そのような事があれば自ら領主に任じ事態を鎮静化せよと、陛下に指示されていたことである。
これも、疑義については否定するものである。必要であれば任命書を提示する」
帝国は帝室が治めているのだ。
帝室の正式な任命書がある以上、全貴族総会といえども、疑義を挟むいわれはない。
「最後に私自身の領主としての資質に関する点。
領主交代に伴い当初は混乱があったものの、現在、事態は沈静化しており、領主としての資質には問題ないと自任するものである。これも、疑義には当たらない。以上だ」
主張を終えたが、議長以下全貴族総会側の反応は冷ややかだった。
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