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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第15章

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15-02 焦る帝室

話の途中で視点が変わります。

(マクベス大佐視点)


 近衛からのエインズフェロー女史の奪還に失敗し、そのまま帝都近くの拠点に戻った私は、呼び出しを受けて帝都へ向かった。

 普段ならグロスター宮廷伯と共に陛下に面会する――私は本来はグロスターの配下ではないが、奴とは長らく仕事を一緒にしていて、陛下への面会はグロスターを通すことが多い――のだが、グロスターの奴はまだ第四皇子の傍を離れられない。

 なので今回は、私とは面識の薄い陛下の別の腹心、カエサリア宮廷伯の立ち会いだ。


「大佐よ。クーロイの方はどうだった」


 陛下はそう直接私に問う。

 カエサリア宮廷伯は顔を顰める。貴族位のない私へ陛下が直接話しかけるのが気に入らないようだ。

 だが私は陛下へ直答することを陛下自身に許可されている。

 それを知っているのか、カエサリアの奴は私を睨みはするが口に出すことはないようだ。


「例の証人を奪還出来ませんでした。

 それに、あの方はこれといって領主としての成果もまだ挙げておられません。

 暫定領主を続けるのはそろそろ難しいでしょう」


 私の言葉に、陛下は顔を顰める。


「グロスターも付けてやったし、優秀に育った腹心もいるはずだ。

 なのにアエティオスの奴は何をやっておる」


 私は首を振る。


「伯はともかく、殿下と側仕え達の間にはどうも溝ができたようです。

 今回の作戦も殿下は彼等に深く関わらせませんでしたし」

「何、溝だと……何故だ!」


 陛下は驚きの表情を見せるが、陛下自身に原因があるだろう。


「アエティオス殿下の卒業成績に、陛下が殿下を麒麟児とお褒めになりました。

 あれで気を良くした殿下は……増長したようです」

「あれは、あいつに付けた者達への言葉だったのだが……それも分からん程だったのか?」


 陛下は自分の言葉で殿下が増長したことに、愕然としている。


「あいつがクーロイを掌握できてないとなると……クーロイを手中にするのは、最早難しいか。

 ならばせめてクラタ―ロだけでも……。

 それで大佐。カルロス侯爵やラズローを罪に問うための追及はどうなっておる」


 陛下の問いに、私はまた首を振る。


「私の方で、一応の理由付けの書面は作りましたが……。

 殿下と伯は、証人の奪還に注力していましたゆえ、それ以上はまだ進んでおりません」

「……そうか」


 陛下はそう言ってため息を吐いた。


「カエサリアの方はどうだった」


 陛下の顔はカエサリア宮廷伯の方を向く。

 トッド侯爵領に、ラミレス共和国とやらの使節団が来たのだったか。

 それで、この宮廷伯が帝室の意向を伝えに行ったらしい。


「朝貢するなら帝都に来いと申し渡したのですが、奴らは拒否しました。

 こちらに来るつもりは無さそうですな。

 奴らが陛下の元に来ず帝国に従わないなら、退去勧告でも出しますか」


 宮廷伯は顔を赤らめてそう息巻く。

 だが、陛下は首を振った。


「3区から逃げた奴らの行先が恐らくあの国だ。

 使節団の船に奴らが居ても不思議ではない。

 使節団を退去させては奴らを捕らえる機会は来ないだろう」

「……奴らというのが私にはわかりかねますが、それでは陛下の威光が」


 この宮廷伯には、詳しい作戦や目標は伝えられていないのか。

 彼へ向ける私の目線に気付いた陛下が、小さく首を横に振る。

 宮廷伯にはこのまま詳細を伝えるな、ということか。


「それにしても……アエティオスへの追及が近いとなれば、手段を選んでおれん。

 大佐は、その書面をカエサリアに渡して、連隊に戻って待機してくれ」


 私は陛下へ一礼した。


「それからカエサリア。

 書面を受け取ったら、カルロス侯爵とラズローめの身柄を早急に帝都へ移す手続きをせよ。

 理由は、反乱容疑の捜査がクーロイで進まぬ故、帝都にて行う事とする。

 アエティオスの問題とは切り離す」


 陛下はそう宮廷伯に命じた。


「全貴族総会の反発は必至ですが……よろしいので?」

「構わん」


 カエサリア宮廷伯は疑問を呈したが、それを一蹴した陛下へ一礼した。


「今のままでは、全貴族総会と争う手札が足りぬ。

 なんとしても、カルロス侯爵とラズローを罪に問わねばならん。

 それが出来たら、全貴族総会と合わせて使節団を帝都に招待するか。

 カエサリアには、帝都に招喚した際のもてなしの手配を頼む。団の扱いは伯爵相当で構わない」


 一星系を治める力の弱い地方領主程度の扱いで構わない、か。

 使節団に国家元首が来る時点で、それほど大きな国ではないのだろうと思われるのも理由の一つ。

 カエサリア宮廷伯は、恭しく頭を下げた。


 陛下は、自身の右手の爪を噛んだ。これは陛下が相当イライラしている時の癖だ。

 残っていては、私も色々言われかねないな。


 カエサリア伯も私も、陛下へ一礼してその場を退出した。



*****


(フォルミオン第四皇子視点)


「近衛を載せて宇宙港に入港した船は、民間軍事会社スクトゥール所属の輸送船だそうです」


  グロスターの報告に、首を傾げた。


「民間軍事会社? そのスクトゥールという名前はどこかで聞いたことがある気がするが」

「譜代派閥であるペルサキス伯爵家の所縁ですが、ペルサキス家はどちらかというとトッド侯爵の派閥と近い意見を持つ家です」


 譜代派閥の中からも、トッド侯爵家の全貴族総会側に付いた家があるということか。


「その家が近衛を支援していると?」

「恐らくは……」


 そう言ってグロスターは頷いた。

 つまりは、トッド侯爵やクラッパ伯爵らが、譜代派閥を切り崩し始めているのか。

 それは不味いな。

 何とかカルロス侯爵やラズローめ等の罪を問わねば。


「カルロス侯爵からは、物資横流しの言質や証拠は得られたか。

 それから、あのラミレス共和国とやらとの連絡については」


 グロスターに尋問の状況を訊くと、彼は首を振った。


「FTL通信機が侯爵の私室に置いてありましたが、登録されている回線は陛下との通信回線のみでした。

 通信機の使用記録も陛下とのもの以外はありません。

 横流しについても、採掘場に関与する権限がない自分が何もできる訳がないとの一点張りです。

 あの手この手で尋問していますが、失言一つ漏らしませんね」

「進展は無いか。やはり、マクベスの作成した報告書で父上と進めるしかないか」

「裏付けが弱いですが、それしか無さそうで」


 ここで、控室のタンクレーディから通信が入る。


「なんだ」

「カエサリア宮廷伯の名前で、帝都より通信要請が来ています」


 思わず、グロスターと顔を見合わせた。


「わかった。通信室へ行く」


 タンクレーディとの通信を切り、グロスターと執務室を出てFTL通信室へ行く。

 通信室で帝都と回線を繋ぐと、画面にはカエサリア宮廷伯が映った。


「カエサリア宮廷伯。どういった要件なのだ」


 私が発言すると、カエサリアは一礼して発言する。


「殿下に置かれましては、ご健勝の程喜ばしく思います」


 そう前置きして、伯は続ける。


「三日後にクーロイへ伺いますので、カルロス侯爵とラズロー中将の身柄を引き渡して頂きたいのです。二人への尋問は以後我々が引き受けます」

「な……。これは陛下から命じられた重要任務だぞ! 命令書もある」


 そう反論するも、カエサリアは首を振る。


「尋問の移管は陛下からの命でございます。

 後ほど書面をお送りしますので、対応をお願い致します。それでは」

「待て!」


 呼び止めるも、回線は向こうから切られてしまった。

 この状況で二人の尋問が移管されるという事は。


「父から、見放されたのか?」


 そう呟くも、横にいるグロスターは何も答えない。

 そこに執務控室のタンクレーディからまた通信が入る。


「今度はなんだ」

「クセナキス星系から全貴族総会名義で、クーロイ暫定領主宛への通信連絡が入りました。

 五分後に接続するそうです」

「……わかった」


 このタイミングで、全貴族総会名義で暫定領主宛ということは……。

 不味い状況なのは分かるが、彼らからの通信を断るという選択肢はない。

 彼らに認められなければ、私が正式に領主となるのは難しいのだ。

 何とか、認められるように振る舞わなければ。


 だが五分後に回線を開くと、状況はより厳しい物であることが分かった。


 向こう側は画面が左右に二分割されている。

 左側は総会の発起人であるトッド侯爵。

 そして、右側は……譜代派閥の領袖であり、皇太子の義父君である、ミツォタキス侯爵だった。


「お久しぶりでございます、フォルミオン殿下」

「……久しいな、侯爵」


 そう答えるのが精一杯だった。

 彼がトッド侯爵の側、全貴族総会側に立ったということは、まず有力な貴族家の支持が得られない事を意味する。譜代派閥は、ミツォタキス侯爵は……帝室の味方ではなかったのか⁉


「この度全貴族総会の臨時会議にて、私ネストル・ミツォタキスが議長に拝命されました。

 そこで……クーロイ暫定領主を称するフォルミオン殿下へ、全貴族総会の決定事項を通達致します」

「称する、とは何だ。陛下から正式に拝命している。命令書が必要ならデータを送る」


 私の反論に、ミツォタキス侯爵もトッド侯爵も首を振る。


「帝国法では、領主就任には陛下の命だけではなく全貴族総会の承認が必要です。近年は半ば形骸化していたことは否めませんが、今回は総会として看過し得ないと判断致しました」


 ここでミツォタキス侯爵が一度言葉を切る。

 今まで形骸化していたなら、そのままにしておけば良い物を。


「一つ。クセナキス星系にて、全貴族総会にて殿下の領主としての資格を問う公開聴聞を開きます。五日以内にクセナキス星系へお越し下さい」

「行かなければどうなる」


 分かってはいるが、敢えて聞いてみる。


「その時点で、総会が殿下を領主として認める事はありません」


 トッド侯爵が答えた。やはりか。

 望みは薄いかもしれないが、こちらの主張を聴聞会で展開するしかあるまい。


「一つ。クセナキス星系へお越しの際に、ラズロー中将とカルロス侯爵、他の拘束中のクーロイ自治政府幹部達の身柄を近衛へ引き渡して頂きます。

 近衛は我々からも帝室からも中立の立場にて、彼等の容疑の捜査を致します」


 父……陛下は、これを見越していたのだろうか。

 だとすれば、まだ見放されてはいないと思うのだが。


「幹部達についてはともかく。

 ラズロー中将とカルロス侯爵の二人の身柄は、私から引き渡すことはできない」


 私の答えに、二人は眉を顰めた。


「どういうことですか」

「二人の尋問は帝都へ移管された。

 身柄の引き渡しについてはカエサリア宮廷伯に問い合わせて頂きたい」


 トッド侯爵が音声をOFFに切り替えた。

 こちらに聞こえないようにミツォタキス侯爵と二人でしばらく何かを会話した。


「……そちらは帝都と交渉致しましょう。総会の通達事項は後ほど文書にてお送りします。

 では、クセナキス星系にてお待ちしております」


 ミツォタキス侯爵のその言葉を最後に回線が切られた。



「尋問会の対応を急がねばならん。グロスターも手伝え」

「乗りかかった船ですからな。仕方ありません」


 そう答えたグロスターと通信室を出て、執務控室に戻る。

 そこで仕事をしていた側仕え達に命じる。


「五日後に、クセナキス星系で全貴族総会による聴聞会が開かれる。

 私はこれに出席せねばならん。ここで領主として認められる必要があるため、皆に働いてもらいたい」


 命じたのだが、思ったほどの側仕え達の反応がない。

 側仕え達は父が私に付けた以上、私と一蓮托生だろう。

 それが何故、こんなに反応がない?


「具体的には何をすれば?」


 タンクレーディがそんな質問を上げてくる。


「どうすれば聴聞会にて私が領主と認められるか、手立ても含め知恵も出してほしい」


 だが、皆は首を振る。


「私達は、単なる殿下の手足なのでしょう? 口を出すなと言われたのは殿下です」


 彼らの一人、スツケヴァルが言う。


「何を言う。君達は私の側仕えとして……!」


 反論しかけて、気付いた。

 いつから……いつから彼らは、私をそんな冷めた目で見るようになった⁉


「監察官への就任前後に宇宙軍の進駐部隊招集まで始めて、ガレッティがその理由や意図を殿下に尋ねた時に、殿下がそう仰いました」


 そ、そんなことを言ったか? 覚えていないぞ。


「大学の卒論で次席を取って陛下にお褒め頂いたときに、『君達も優秀な私に仕えられて光栄だろう』と仰って、我々を見下した目で見ておられました。殿下の論文作成をずっとサポートしていた我々は、自分達の論文にほとんど時間をかけられませんでしたがね」


 なっ……!


「そんな優秀な殿下ですから、どうすれば良いか既に腹案がございましょう。

 手足たる我々に具体的な御指示をお願いします」


 タンクレーディがそう言い、ここに残っている五人が私に頭を下げる。

 くっ……そ、そうだ。


「ま、まずは、ガレッティとジェマイリを自治政府から呼び戻して……」

「アポイントメントは私が取っても良いですが、我々は長官代行と直接交渉できません。

 そこは契約を結んだ殿下の方で交渉をお願いします」


 タンクレーディが私を遮って言う。


「……わかった。まずはなるべく早くアポイントメントを取ってくれ。

 それから、侯爵やラズローについては、三日後にカエサリア宮廷伯が身柄を引き取りに来る。

 その受け入れ準備を頼みたい」

「了解しました」


 タンクレーディが頷いた。


「あと、二人の罪状と証拠や証言を書面に纏めておいてくれ。

 それと、私の領主としての実績もな。後は……追って指示する」

「「「「「了解しました」」」」」


 彼らが頭を下げる中、グロスターと執務室に戻った。


*****


(ジュゼッペ・タンクレーディ子爵令息視点)


「どうする?」

「領主としての実績と言ってもなあ……」


 そうなのだ。

 殿下はクーロイ進駐以降、領主としてはまともに動いていない。

 実績をまとめろと言っても書くことがないのだ。


「領主として、就任以来つつがなく領地を運営していますとしか書けないだろう。

 それとて事実ではないのだがな」

「宇宙軍による犯罪行為を取り締まったことも実績に上げるか?」

「領主権限で発行した命令書とその結果を、事実として列挙しておくしかないだろう」


 私は、発言したペドラスに頷いた。


「それしかないかな。紙面の枚数が無かったら、『これだけしか実績があげられない無能と見なされるではないか!』って怒り出しそうだし」


 皆も私の言葉に頷く。


「そっちはそれでいいとして、カルロス侯爵とラズロー中将の方はどうする?」

「実際尋問は進んでいないのだし、最初の殿下の主張書をそのまま添付しようか」

「そうしよう。それしか書くことが無いよね」

「実績をまとめて体裁を整えるだけでそこそこ時間かかりそうだから、そっちは手を抜こうか」

 そうして五人の意見を揃え、分担を決めてそれぞれ作業に取り掛かった。


 後で、ガレッティとジェマイリにも連絡した。


「まあ、それしか無いだろうな」


 殿下の命令と皆で決めた対処を話すと、二人はそれでいいと頷いた。


「そうそう、殿下には内緒にして貰いたいが……。

 私もジェマイリも、長官代行の随行員としてクセナキスに行く事になった。

 あくまでも自治政府側の職員としてだ」

「殿下に話すと煩いだろうな。わかった。

 私達も殿下に同行することになるだろうから、向こうで会おう」



いつもお読み頂きありがとうございます。


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