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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第14章

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14-10 お礼はまだ言えなかった

セルジオ視点。

 父さんからオルゴールを受け取った後も、夜遅くまで父さんと話した。

 だから、次の日はちょっと寝坊した。


 午前中は父さんや官僚の人達と、向こうの貴族達に会った時の想定問答を繰り返した。

 勝手に変な約束を交わしてしまったりしない様に、注意点のレクチャーを受けた。

 言ってはいけない事が色々あるからね。


 もうすぐ昼前かなって時間に空きができた。

 早速、マーガレットさんにお礼を言うため、あの船へ再び向かう。


 コールチャイムを鳴らすと、画面に現れたのはマーガレットさんじゃなかった。

 確かこの人は、帝国軍の協力者、カービーさんだったな。


「あら、セルジオさんじゃないですか。今日はどうしたのですか?」

「えっと、マーガレットさんには一昨日お世話になりました。そのお礼をお渡ししたくて」


 そう言うと、カービーさんはちょっと考えるような仕草をした。


「そうなの……困ったわねえ。

 今日は彼女ちょっと、応対は難しいかしら」

「そうなんですか? 体調が悪いようでしたら、出直します」


 カービーさんは僕の言葉に慌てて首を振った。


「ああっと、そういう事じゃないの。

 ほら、先日セルジオさんが、メグちゃんと二人で部屋に入ってやったことがあるじゃない」


 あの様子をカービーさんも見てたのか。


「今日は、同じようなことをメグちゃんが一人でやってるの。

 だから、邪魔しちゃだめだと思って」


 それって、あの……僕が彼女に導かれてやったようなことを、マーガレットさんは今、一人で取り組んでるって事か。

 それは、邪魔しちゃ悪いとは思う。でも……。


「あの……それでしたら、僕も外から見学しても良いでしょうか。

 彼女の邪魔をするつもりはありません。

 ただ、僕が同じように自分一人でできるのか、参考にしたくて」


「セルジオは駄目だ」

「シュナウザーさん!」


 横から年配の男の人の声が割って入る。カービーさんはその人に怒っている様子。

 あの声は……マーガレットさんが『グンター小父さん』って呼んでる、シュナウザーさんだったか。

 ここで、向こうの音声が突然ミュートになる。


「……まあ、外から見ている分にはいいだろう。入ってこい」


 しばらく待ってミュートが切れ、シュナウザーさんの声で入る許可が出た。

 またアンドロイドが僕の迎えに来たので、ニシュという名の彼女の案内で船内に入っていく。


 マーガレットさんは、またあの暗い部屋にいるみたいだ。

 部屋の外には、さっきのシュナウザーさんを始めとしたマーガレットさんの親代わりの男性達と、さっき応対してくれたカービーさん。


「何しに来た」


 これは『ライト小父さん』……ミヤマさんだ。


「マーガレットさんにこの間のお礼を渡そうと思ったんですが……それは、また今度にします。先ほどカービーさんから、この間僕がやったようなことをマーガレットさんが一人でやってるって聞いたので見に来ました。何か、参考になることがあればと思って」


「……まあ、メグの邪魔をしないならいい」


 そう言って、ミヤマさんは顎をしゃくって、この間の部屋の中が見えるモニターを示す。

 モニターの中のマーガレットさんは、目を閉じ、左胸に手を当てて体を揺らしていた。

 多分、僕がこの間彼女に導かれてやった、あれをしているのか。


「邪魔なんてしませんよ。あれは、僕も体験したんですから」


 だから、終わるまで見守ってようと思ったんだけど。


「まあまだ時間かかるから、お前は帰れ」

「シュナウザーさん!」


 一番年長のシュナウザーさんが、僕に邪険に振る舞う。

 それをカービーさんが怒っている。


「ま、待て。儂はただ、メグに悪い虫がつかないようにと……」

「よっぽどアコスタさんがメグさんに悪さしたわけじゃないんですから、そういう事は本人が決める事だって言ったじゃないですか。そんなことをしてたってメグちゃんに後でバレて、小父さん達嫌いって言われても、責任持ちませんよ」

「んぐっ……!」


 シュナウザーさんとカービーさんが言い争っている。

 僕が、何か悪いことをしたことをしたのか?

 ひょっとして……食べ物の件かな?

 マーガレットさんはそんなに怒って無さそうだったけど。


「食事を強請った事は謝ります。

 でもマーガレットさんに先日相談したおかげで父さんとも和解できたので、お礼を言いたかったんです。終わるまで待たせてください」


 そう言って、僕は『小父さん』たちに頭を下げた。


「んぐっ……これでダメだって言ったら、儂らが悪者じゃないか……」


 何かをシュナウザーさんが呟いた。


「……まあいい。じゃあ、君も見てなさい」


 そっぽを向いてシュナウザーさんが言う。

 そこに、カービーさんの上司というモートンさんと、クロミシュの押す車椅子でドクもやって来た。


「おや、セルジオ君じゃないか。どうした」


 ドクに声を掛けられた。


「ドク、この間はありがとうございました。

 おかげで、モンタルバンさんの干渉が無くなりました」


 あの場でドクがモンタルバンさんの企みを推察して明かさなかったら、こうならなかったかもしれない。そう思って、ドクに頭を下げた。


「いや、私は思ったことを言ったまでだ。

 それより君は、父親とは和解できたのかい」


「ええ……マーガレットさんにも相談に乗ってもらったおかげで和解できました。

 今日はそのお礼の為に来たんですが、この間指導してもらったことを彼女自身がやっているから、終わるまで待たせてもらうついでに、見ておこうと思って」


 ドクは頷いて、モニターを見る。


「あれは、何をしているのかね」


 モニターに映る彼女が声を上げ、身体を不規則に動かすのを見てドクは言う。


「彼女曰く、『感性』を目一杯働かせるための事だそうです。

 僕の場合は、今までモンタルバンさん達に受けた仕打ちで溜まった鬱憤を、ああして感性を使って処理して、本当に望んでいる事を見つけました。

 彼女も同じことをしているのだと思います。

 マーガレットさんも……何かに悩んでいたのでしょうか」


 感性を目一杯使うってことは、マーガレットさんも、何か抱えきれなくなったものがあったのかな。


「……メグは『気持ちを色々整理したい』と言っていた。

 これから僕たちは帝国に戻って、皇帝に立ち向かって、ケイトさん達を助けに行く。

 目的ははっきりしてるけど……いろいろ、気持ちが落ち着かなくなったんだと思う」


 そう話すのは、『セイン小父さん』……ラフォルシュさんだ。


 話す間にも、マーガレットさんの声は大きく、唸るような声になり。

 身体の動きは大きく、不規則になっていく。


「感性、か……」


 ドクが呟いた。


「あれを見ていると、クーロイに赴任する前の、娘が小さい頃を思い出す。

 野原を駆けまわっていた幼い娘が、突然踊ったり、笑ったり……」


 何の意図もなければ、恥も照らいもない。

 ただ、身体が求めるままに動き、声を上げているだけ。

 言われてみれば、小さい子供が無邪気に駆け回り遊んでいる様子にも、似てるかもしれない。



 そうしているうちに、マーガレットさんの動きは更に激しくなり。

 部屋のなかを目一杯動き回るようになっていく。


 彼女……目を閉じてるのに。大丈夫なのかな?

 そう思ったけど、壁にぶつかったり転んだりすることは不思議と無い。


 どれくらいそうしていただろうか。

 気づけば、マーガレットさんの動きは徐々に緩やかになり。

 上げる声は、落ち着いてきて。

 やがて、部屋の中央で……。

 彼女は動きを止めて、静かに、目を閉じながら、深呼吸を繰り返す。


 そして、ふと……彼女が目を開いた。

 そしてマーガレットさんは……歌を歌い始めた。


 最初は、小さな声だった。

 でも彼女は歌い終わったと思ったら、同じ歌を繰り返し始めた。


 繰り返すうち、声は大きくなり。

 身体の動きも付いてくるようになり。


 そして、彼女の歌声が、そこから伝わるものが――僕の胸を打つようになり。



 そうか……マーガレットさんは。

 大人になりたい。

 それを、願っているのか。

 

 僕も……モンタルバンさんの干渉を撥ね退けられる、大人になりたかった。

 僕一人ではできなかったけど、結局モンタルバンさんを退ける事ができて。

 ドクや、マーガレットさん、そして父さん……手を貸してくれた人たちには、感謝をしてる。


 今はまだ、僕は一人で大したことはできない。

 でも、僕だって。



 そんなことを感じながら、彼女の歌に聞き入り、魅入られていた。

 ふと周りを見れば、皆……まさか、あのドクまで。

 涙を流しながら、彼女の歌に聞き入っていた。

 そして僕も、涙が流れていたのに気が付いた。


「やっと……やっと、メグが、前を向けるようになったんだな……」


 シュナウザーさんが、涙を流しながら呟いた。

 


 そして、彼女は何度か繰り返した歌を歌い終えて。

 ゆっくりとその場で大の字に寝転がった。


 誰も動かないので、僕もそのまま、マーガレットさんを見守る。


 しばらくして。

 あれ? あまりにも動かないな……と思ったら。


 モニタの向こうから、すー、すー、と規則正しい息が聞こえて来た。

 彼女は……どこか満足気な表情で、


「どうやら……あのまま、寝ちまったか」


 ミヤマさんが呟いた。

 彼女は、あのまま眠ってしまったのか。


 不意に後ろからポンと肩を叩かれる。


「メグは寝ちゃったから、悪いけど今日は帰ってくれるかな」


 ラフォルシュさんだった。


「ええ……そうですね。ゆっくり寝かせてあげてください」


 お礼を言いに来たんだけど……直接言えないなら、仕方ない。


「メグさんには後で、セルジオさんが来てた事は伝えておくわ」

「よろしくお願いします」


 僕はカービーさんにお願いして、船を後にした。

 

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