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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第14章

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14-05 お母さんの記憶が、また一つ

メグ視点。

まだ、クセナキス星系に着くまでの、ハイパードライブ中。


話の区切り上、今回は少し短めです

 翌日、議長さんから通信が入ったので、情報交換。

 そこで、当面の使節団の予定も聞いた。


 アミステード号はクセナキス星系の外、少し離れた場所でハイパードライブを抜けるそうだ。

 それから向こうの領主さんの手引きで、通常航行で主星へ向かう。

 主星に降りてからは、歓迎式典や貴族側との打ち合わせなど、使節団には予定がいっぱい入ってるって。


 ただ、全員で船を降りる訳じゃない。

 議長さんや要人達――セルジオさんもここに含まれる――や政府職員、要人達の護衛は船を降りて、向こうとの会談や、その準備、整理等を行う。

 一方、船の運航や警備をする人たちは船に乗ったまま。

 降りる人数より、残る人数の方が多いらしい。


 私達もアミステード号から降りずに……。

 というか、今いるこの管理エリアの船から出ないで待機していてほしいみたい。


「向こうとの打ち合わせの前に、君達から向こうに訊いてほしい事、調達したいもの等等、要望事項があれば資料に纏めておいてくれないか」


 私達の要望を、向こうに伝えてはくれるみたい。でも。


「伝えるときに、帝室側に私達の事が漏れないよう、注意して頂きたいのですが」


 画面の向こうで議長さんが頷いた。


「勿論だ。オープンな場で君達の事を明かす事は無い。

 我々の出迎えには、全貴族総会を呼び掛けたトッド侯爵の嫡男が来ることになっている。主星に着く前に、彼に個人的な場でのみ話すつもりだ」


 そのトッド侯爵って、ケイトお姉さんやランドルさん達の事を裏から支援してくれていた人だよね。だったら、いいかな。


「であれば、こちらも要望したい事が幾つかあります。

 あとでリストにします。この回線を使って送ればいいですか」

「ああ、それで構わない。ハイパードライブを抜ける前までに、よろしく頼む」


 さっきドクと話した、音声記録装置の調達の話だとか。

 ケイトお姉さんやマルヴィラお姉さん、おばあ様たちが無事なのかとか、あの人達の居場所の事とか。


 あ、そうだ。

 スパイさんが潜んでいるかもしれない、皇帝周辺や第四皇子周辺の情報とか。

 ランドルさんの上司、ラズロー中将とかハーパーベルト准将の情報とか、

 この辺も、出来たら手に入れたい。

 この辺りをどう議長さんに頼むかは、ランドルさんとも相談しようか。


「ところで議長さん、セルジオさんとは話しました?」

「先ほど……話し合いの時間は、持ったのだが」


 途端に議長さんの表情が暗くなり、顔が俯く。

 これ、ちゃんと話せてないな。


 議長さんはセルジオさんに謝りたいんだろうけど……。

 長らくちゃんと話してなかったし、セルジオさんとどう向き合えばいいか、分からないんだろう。議長さんだし、じっくり考える時間も無いかもしれない。

 セルジオさんも、今までの事で議長さんに対する(わだかま)りがあるだろうし。


 その時、船の外からの来客を知らせる、コールチャイムが鳴った。


「あ、ちょっと待ってください」


 議長に断りを入れ、船の外でチャイムを鳴らした来客を確認すると……セルジオさんだ。

 匿ってくれって言ってきた時の顔ではない。何か、思いつめた顔をしている。

 それに、前の時みたいに後ろに護衛がぞろぞろいない。


「セルジオさんがこちらに来たようです。

 彼とも話をしてみますので、またあとで通信します」

「……分かった。息子を、よろしく頼む」


 議長さんとの通信が切れた。

 画面を切り替えて、コールチャイムを通して船の外にいるセルジオさんに話す。


「今日はどうしました? ご飯を食べさせてくれってのはご遠慮しますが」


 いつもと違う様子のセルジオさんだから、そんな用事じゃないと思うけど、念のため。


「そうじゃない……マーガレットさんに、相談に乗って欲しい」


 俯き加減の暗い表情のまま、セルジオさんは言った。


「わかったわ。ニシュを迎えに出す」

「では、行ってきます」


 ニシュが会議室を出て行った。


「小父さん。無重力ルーム使っていい?」


 セルジオさんは私を名指ししていたし、あまり大勢で話がしたい感じではなかった。


「構わんが……一応、外で様子はみているからな」


 ライト小父さんが了承してくれた。



 無重力トレーニングルームには、ライト小父さんが幾つかトレーニング器具を置きっぱなしにしてあったのを、部屋から出してもらった。

 重力はそのまま。

 全周を宇宙空間の映像に切り替えたところで、ニシュに連れられてセルジオさんが入ってくる。


「……こんな部屋が、あったんだ」


 セルジオさんが言う。

 彼が来た時に、全部の部屋を見せたわけじゃないからね。


「静かな場所で相談したいのかなって思ったからね」


 この部屋が一番、外の音が入らないから。


「ニシュも、外に出ててくれる。彼は貴女が苦手みたいだから」

「……わかりました。何かあったら、すぐに呼んでください」


 ニシュはセルジオさんを置いて、外へ出て行った。


「まあ、地べただけど、座って」


 そう言って、胡坐をかいて座る私の前に座る様セルジオさんを促す。

 彼が私の前に座る。


「で、相談って、何?」

「……父さんと、話をする時間を持った。でも……」

「何も話せなかった?」


 そう言うと、セルジオさんはこくんと頷いた。


「君はいつでも……君が小父さんって呼ぶ、父さんと同じくらいの年代のあの人たちと、よく話してた。だから、あの年代とも話しやすそうな君から――僕がどうやってお父さんと話をしたらいいか……何か、アドバイスが欲しくて」


 内心、私は思った。

 議長さんとセルジオさん……こういうところ、そっくりっぽい。

 話し合いの時間をとっても、お互いに、相手にどう話してよいかわからず……何も話さないまま、時間が過ぎちゃったんじゃないかな。



 こういう時……お母さんならどうしてたっけ。

 私は、自分の中と向き合うために……座ったそのまま、目を閉じた。


 お父さんは、普段はとっても明るくて、頼りになる人だった。

 でも……時々。お父さんだけじゃなくて、小父さん達も、他の生き残ってた仲間達も、お互いに激しく口論したり、大喧嘩したりして、気まずくなることがあった。

 みんな、生きるのに必死だったんだもん。

 今思えば、そりゃあもう、みんな相当イライラしていた。


 でもそういう時、決まって皆を仲直りさせていたのは、お母さんだった。

 お母さんは、一人ひとりと、静かな部屋で会って。

 そうやって、しばらくお母さんと話した人は……みんな、すっきりした顔をしてた。

 皆がすっきりした顔をしたら……自然にみんな、仲直りしてた。

 当時は、それがとっても不思議だった。


 子供だった私も、イライラしてた。

 そんなイライラを、周りのみんなにぶつけてしまう事も、たくさんあった。

 そういう時も、私を宥めてくれたのも、お母さんだった。

 その時……お母さんは、どうしてたっけ。

 ……なんとなく、思い出してきた。私も、同じ様にできるかな。


 あっ。そういえば。

 あの時……お母さんが、亡くなる前。

 お母さんがあの時、私に体験させてくれたこと。

 あれって……そういう事だったのかな。


 今までの、お母さんの断片的な記憶が……私の中で一つの形になっていく。

 ……今の思い付きだけど、やってみよう。


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