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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第14章

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14-04 止まった時間、捧げられた想い

引き続き、メグ視点です。

前回の答え合わせから始まります。

 私は……エラーデータの内『292年4月32日』のものを選んだ。


「それが、そうなの?」

「うん。だって、4月は31日までしかないじゃん」


 セイン小父さんに答えた。


「てっきり、304年2月30日のデータだと思ったんだが。

 304って7で割り切れないし。違ったのか?」


 グンター小父さんが首を傾げる。


「最初に2月が30日になったのって帝国暦3年なの。

 だから、2月30日のある年の数字を7で割ったら必ず3余るんだよ。

 304年もそう」


 同じように、12月32日のある年の数字を140で割れば余りが94になるはず。


「しかし、わかってみれば単純な隠し方だが、よく今まで見つからなかったもんだな」

「いえ、これは簡単には見つからないですよ」


 グンター小父さんが出した疑問に、ナナさんが答えた。


「存在しない日付のデータがあると確信して、メグさんみたいにプログラムを組んで全件確認しない限りは、元の15,000件ほどもあるアーカイブから1件を探すのは難しいものです。

 すぐに分かったのも、全件データチェックして7件に絞ったからですよ」


「そういうものなんだな」


 グンター小父さんは感心してるけど、ナナさんの言う通りだと思う。

 同じものを探すにしても、7件からと15,000件からっていうのは全然違う。

 15,000件のデータから何かを探せって言われたら、私だったらげんなりする。


「なあ、これは……」


 ライト小父さんが指さすのは、『308年11月29日』のデータ。


「それは、3区に天体が衝突した日か」


 ライト小父さんの指さすデータ日付を見てドクが呟く。


「あの事故の衝突で色々壊れて、エラーになったってことだと思う。

 最初はそのデータが音声記録かとも思ったけど、スパイさんも軍人さんだったらそのデータは調べそうだったしね」


 事故当日のデータはどんな風になってるか……なんか、私も気になるし。


「このデータは、別の意味でとっておかないとな」


 ライト小父さんが呟く。

 それは、事故の記録として。



 エラーデータが特定できたので、皆で会議室に戻る。

 まだドクと色々話すことがあるし、そもそもラジオ放送室は、大勢での話し合いが落ち着いて出来る場所じゃない。


「プロテクトが掛けられた音声記録データは取り出せたのはいいけど。

 船の外でプロテクトを解除するのに、あの通信記録装置が必要なんじゃないの?」


 ドクに質問する。


「コロニーの建造時に据え付けられているものだから、あの装置自体は外せない。

 だが、コロニー自体は昔の大型航宙艦の設計を変えたものだ。

 多くの装置に軍の規格品が使われている。通信記録装置も中身は四十年前の軍の規格品だ」


 ドクの言葉に、ランドルさんは首を振る。


「四十年前だと、それから軍の規格が二回は変わっているはずだ。

 規格が変わるとき、前の規格との互換性は保っているものだが、二回前やそれ以前の規格とは恐らく互換性が無い。

 ただ、規格が変わっても帝国中に行きわたるのに時間が掛かるから、クーロイのような辺境の駐留艦隊なら装備に残っている可能性はある」


 ランドルさんの意見だと、手に入れるのは不可能ではないけど難しそう。

 でもここでナナさんが手を挙げる。


「……クーロイなら、駐留艦隊からでなくても入手できるかもしれません」


 ナナさんが言う。


「規格変更による装備交換の際、通常なら古い装備は返却します。

 ですが、何らかの理由で引き取れない場合は廃却することになっています。クーロイのような辺境だと、交換前の装備が古すぎて引き取られないこともあります」


「なら、それは廃却処分になるのではないのかね」


 ドクが指摘するけど、私はナナさんの言いたい事がわかった。


「そこが、クーロイならと思う理由ですが……今のクーロイのごみ処理施設は常にフル稼働です。壊れた機械ならともかく、古いだけで動くものは処理施設でも引き取られません。

 そういった物が2区のジャンク屋に流れる事が結構あるそうです」


 ジャンク屋で古い機械がよく売られてる事は、私もお姉さんから聞いたことがある。

 そういった機械も、ジャンク屋に置いてる間に保管が悪くて壊れることがあるんだけど、そんな時にお姉さんは私達が売ってた廃材を加工して、修理部品を作ってそのジャンク屋に売ったりしてたんだそう。

 修理部品を作れる人もお姉さんの他にも何人かいて、壊れてても直して売られる環境にある。


「入手できる可能性が無いわけではないか。

 あの議長にでも頼んで、貴族側で探して手に入れてもらうしかないだろう」


 グンター小父さんが、この話を締め括った。




「あとは私の家族……妻と娘についてだ。

 彼女達が元気でやっているか知りたいが、こればかりはあの議長に頼めない。

 貴族側に向こうのスパイが潜んでいる可能性が否定できないからな」


 貴族側に家族の捜索を依頼して、それが向こうに知られたら、それこそバートマン中佐の生存が知られてしまう。そうなったら家族が人質に取られるかもしれない。


「どうにか彼女達の今の状況を知る方法はないだろうか。

 3区で生きていた君達は知らないと思うから、そちらの宇宙軍の者達に知恵を借りたい」


 そう言って、ランドルさんとナナさんにドクが頭を下げた。


「えっと……奥様と娘さんのお名前を確認させてもらっても?

 できれば、奥様の旧姓も」


 ナナさんがドクに尋ねる。

 何か、心当たりがあるのかな。


「ああ。妻はヒラリー・マリーヌ・バートマン、旧姓はヴィラード。

 娘はナターシャ・ラファエラ・バートマンだ」


 ナナさんは頷いた。


「ありがとうございます。

 もしかして、お二人はクリスチャンでいらっしゃいます?」

「その通りだ。マリーヌやラファエラは洗礼名だ。私は入信していなかったがな」


 クリスチャン? 入信?


「そうですか、やはり……。

 御安心ください。お二人は元気でいらっしゃいます」


 ドクが目を見開く。


「二人を、知っているのかね」


 ナナさんは、ドクに微笑んで頷いた。


「エインズフェローさんが立ち上げた、メグさんを助けるための団体――3区行方不明者家族の会。そこで、3区の事故で行方不明になった方々を偲ぶ式典を開催したのです。

 それが、メグさん達が3区を脱出した日」


 詳しくあのイベントの事を聞いていなかったんだけど、そういう内容だったの。


「私はその式典より前に3区に来ていましたが、準備の途中までその会にいたのです。

 その準備の最中、クーロイにある会の事務所に――バートマンさんのことについて問い合わせしたいと、お二人が直接いらっしゃいました。

 お二人には会長と私で応対しましたので、覚えています」

「なんと……」


 ドクは驚いているのか、口を半開きにしたまま固まっている。


「実は、バートマン中佐の名前は……あの事故での死亡が、軍より正式に発表されています。

 ですがお二人は仰っていました。

 『遺体と対面したわけでもないので、私達の中では行方不明なのです』と。

 それで、行方不明者名簿にはバートマン中佐の名前は無いのですが、それでも3区で開く式典へ出席できないか……そんな問い合わせでした」


 採掘場に降りても食料も水もないし、ドクは既に亡くなっているだろうって思われたのかも。

 あるいは……多分、何かあった時に死んだ中佐に責任と罪を負わせるため。

 そんな気がする。


「『亡くなられたと発表されても、御遺体と対面していない以上は他の行方不明者と変わりません。

 そうしてご家族が行方不明になり、残された家族の皆様が抱えている行き場を無くした気持ちに寄り添い、応えるための式典です。ですから、どうぞいらしてください』

 私達はそう答えました」


 ――私にも、その『残された家族』の気持ちが、わかる。

 

「すると……彼女たちは涙を流し、その場で神への祈りを捧げていました。

 お二人は今でも、神へあなたの事を毎日お祈りしているそうです」


 ドクの見開いた目から……涙が溢れ、頬を伝い、流れ落ちていく。


「きっと今でも、お二人は貴方の無事を祈っておられます。

 全てが終わったら、お二人に会いに行きませんとね」


「頑張って病気を治さないと。

 記憶が戻る前は自棄になっていましたが、もう、諦めている場合ではありませんよ」


 ナナさんの励ましに、クロも横から諦めるなと言う。



 病院で会った記憶が戻る前のドクって、重い病気だとは聞いてたけど。

 その割には拍子抜けするほど生き生きしてた。


 今思えば、それは……あの時のドクには、家族の記憶も、3区の事故の記憶も無かったから。

 あの事故の裏事情を隠蔽しようとした、皇帝やその配下達への怒りも。

 無事を願って事故の前に送り出し、そのまま会えなくなった家族への未練も。

 そんな3区に、帝国に残してきた事を――全部忘れていたから。


 自分一人なら、いつ死んでもいい。

 ドクは、そんな風に思ってたのかもしれない。



 でも、私の言葉で自己暗示が解けて、記憶が戻ってみれば。

 十七年もの時が経っていて。


 あの事故を起こした皇帝やその配下は、相変わらず権威を振るっている。

 家族は未だバートマン中佐の事を想い、毎日祈りを捧げている。

 自分は重い病気を患い、年齢だけは重ねていたけど――自分が帝国から姿を消した時から、何も状況が変わってない。

 そんなことを、ドクは思ったのかもしれない。

 

 お父さんやお母さん、マンサ小母さん達――みんなを病気で亡くしてから、ケイトお姉さんが小父さん達を叱ってくれた、あの時までの私の様に……。

 事故の時から――ご家族は多分、時間が止まったままなんだろう。


 お姉さん達のおかげで、私はそこから前に進み始める事ができた。

 そんな今だから、私にもわかる。


 そんな風に、時間が止まったままなんて。

 どこにも心の行き場がないなんて。

 苦しいだけ。

 切ないだけ。

 目の前の一日一日を……ただ――何の感慨も無く、生きてるだけ。


 苦しんでいる彼女達の時間を、もう一度前へ進ませることができるのは。

 ドク――バートマン中佐。

 あなただけなの。


 だから――彼女達を想って、そんなに流す涙があるのなら。


 さっさとこの件を解決して、御家族に会いに行かなきゃ。

 二人の前に現れて、「ただいま」って言わなくちゃ。

 そして、二人を抱きしめてあげなきゃね。




 ドクとクロには、そのまま、自室に戻ってもらった。

 彼にはまだ、色々と聞きたいことはあったんだけど。

 そんな雰囲気でもなかったし。

 一番大事な事――音声記録の事は、聞けた。

 後の事は、そんなに急ぐ話じゃない。


 それに、ドクには――しばらく、時間が必要。

 家族の事を思い出す時間。

 想う時間。

 そして彼女達の為に、生きる気力を取り戻す時間。


 そのために――戻り際のドクに、採掘場で見つけた彼の日誌を返した。

 もちろん、元本をね。


 私達が必要な部分は、もうデータ化してある。

 彼に必要なのは、それ以外の部分。

 

 ――家族との思い出。

 それを、彼自身の手で綴られた記録。


 それを読み返しながら、十七年間の間に失ったものを……ゆっくりと、取り戻してほしい。

ダブルネーム持ちがいたり。

二つの姓を名乗る人がいたり。

洗礼名をもってるひとがいたり。

――名前の設定がややこしくてすいません。


諸事情により、14章の続きはしばらく日を開けます。

申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。

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