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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
閑章2 近衛第三小隊の仲間たち

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01 頭と妄想は使いよう

近衛隊第三小隊 サーラ・リエンド少尉視点

 作戦中、貨物船に突入して私達を襲撃してきた賊の一撃。

 余りに強烈な一撃に、防ごうとした隊長と三人の壁役が吹き飛ばされ、その勢いのまま私達残りの隊員も吹き飛ばされた。


 隊長達がだいぶ威力を削いでくれた御蔭で、私達は怪我を負ったけどまだ動ける。

 でも防いだ隊長達四人は動けない。

 特に隊長は意識こそ()()あるけど、一番の重傷だ。

 咄嗟に武器を捨てて避けた二人は無傷。


 だけど、その内の一人ワッツ曹長は敵へ内通していた様子。

 向こうの賊のリーダー達とエアロックを通って行ってしまった。


「隊長、急を要します。指揮権を一時移譲願います」


 作戦ではもう少し粘って敵を引き付ける筈だったけど、これは無理。

 動けない隊長に、この場の指揮権の移譲を要請。


「……了解した。リエンド少尉、頼む」


 隊長が失う前の意識を振り絞って答えてくれた。

 守ってくれて有難う、隊長。

 立て直しは任せて。


「第三小隊総員。負傷の隊長に代わり、一時リエンド少尉が指揮を執る。

 指揮者権限で、全員の通信回線をD71回線へ強制切替する」


 小隊全員に、暗号回線の切り替えを通達する。


「指揮AI、小隊全員の回線をD71へ切り替え」

『……切り替え完了』


 隊長や私、ファネス少尉の宇宙服には、指揮権を補佐するAIが搭載されている。

 そのAIに、この場の小隊全員の通信回線の切り替えを指示。

 切り替え完了の応答と同時に、D71回線に繋いでいた、潜んでいる他の小隊に連絡する。


「こちら第三小隊、負傷のハイヴェ大尉の代わりにリエンド少尉が指揮を執っている。

 敵の想定以上の攻撃で防御陣形が壊滅。

 隊長含む四名重傷、残りも被害多数。想定より早いが、至急救援を要請」


 救援要請に、即座に応答がある。


「こちら第一小隊長、了解した。即時参戦する。リエンド少尉、第三小隊をまとめ退避してくれ」

「こちら第四小隊長、同じく了解」

「こちら第五小隊長、同じく了解」


 回線から、小隊の皆の安堵のため息が漏れる。

 ごめんね、みんな。

 もうひと踏ん張りして。


「第三小隊総員、重傷者を守りつつ、増援部隊の参戦まで踏ん張って。

 安全が確保されたら、動ける者は隊長以下重傷者を救護の上、倉庫奥へ撤退。

 隊長は特に重傷だから、気を付けて運んで」


 私達第三は、他の小隊に護られながら戦線離脱。

 数はこっちが多かったけど、相手は屈強な者揃い。

 参戦してくれた三個小隊も苦戦していた。


 少し時間が経って、あっちのエリアに潜んでいた第二小隊の半数も追加参戦。

 これでようやく天秤がこちら側に傾いて、侵入者は全員が拘束された。

 突入してきた船も総監の手配した船に拿捕された。

 けど、船長以下は脱出ポッドで脱出後、後詰の船に回収され逃亡したそうだ。


 私達は総監の手配したその船に乗り、0区へと帰った。

 ワッツ曹長は第二小隊に拘束され、彼女は私達に深く頭を下げた後、大人しく営倉入りした。


 ちなみに総監の手配したその船は某民間軍事会社の所属。

 大型貨物船を改造し、装甲や武装を追加したものらしい。

 貴族は私兵を持つことを禁じられてる代わりに、こうした民間軍事会社を作ってる事が多い。

 つまり貴族家のバックが付いた、結構グレーな存在ってこと。

 それがよく近衛総監の依頼を受けてくれたなあって思う。



 隊長達四人は、0区に帰ったらそのまま病院へ運ばれていった。

 残った私達は駐屯地に帰って救護班の手当てを受ける。


 隊長と一緒に壁になった三人は、翌朝駐屯地に帰って来た。

 腕や肋骨を折ってて、激しい訓練はNGが出たけど、固定用のギブスやコルセットなんかを巻けば動ける程度だった。


 でも隊長は、そのまま入院。

 隊長は左腕も左脚も折れてたし、肋骨も何本も折れていた、一番の重傷者。

 肋骨の折れた一本は肺に刺さり掛けてて、緊急手術したらしい。

 術後の経過は良好だけど、何日か入院が必要だった。


 連隊長と翌日お見舞いに行ったら、本人は入院したくないってごねてた。

 連隊長が「せめて三日は入院してなさい」って宥めていた。

 そういう言い方したら、隊長は四日目には無理やり退院しそうで怖いんだけど。



 隊長が入院中は、私とファネス少尉で分担して隊を運営するんだけど。

 隊長は無事だと分かっていても、怪我で離脱してることに皆の意気が下がってるのがわかる。

 ワッツ曹長の事も小隊に影を落としている。


 ファネス少尉と話し合ったうえで、上官のチューリヒ少佐にアポを取った。

 私達の提案は、隊長を交えて、早いうちに小隊内で先日の作戦の振り返りミーティングを持つこと。

 入院中の隊長の視点も必要なため、同席の為の隊長の一時外出の手続き、およびオブザーバーとしてチューリヒ少佐の同席を求めた。


 少佐の回答はこうだった。


「この件は連隊長とも話し合った。

 様々な要因で、特に第三小隊の皆に不安を与えてしまっていることを連隊長は憂慮している。

 当日は私と連隊長も出席するため、二日後の午後の開催で小隊内の調整をしてほしい。

 大尉との調整は私がする」


 連隊長も出席という事は、重要な伝達事項が含まれるんだろう。


 * * * * *


 二日後の午後、中会議室に小隊を集めた。

 隊長は退院したかったらしいけど、今日は一時外出の扱いで参加。

 皆に緊張感が走るのは、会議室の端に連隊長とチューリヒ少佐が居るから。


 会議進行は私が立候補した。


「入院中の隊長が本日一時外出できましたので、本日は先日の作戦について小隊内の振り返りミーティングを行います。

 連隊長とチューリヒ少佐が同席していますが、伝達事項がある以外はミーティングに関与しません。

 当ミーティングは小隊内部の打ち合わせなので、この会議内の発言の一切は査定の対象にはなりません。なのでいつも通り、ざっくばらんに行きましょう」


 いつもの通り進めてほしいと連隊長が言うので、本当にいつも通りで良いのか念押しした。

 その『いつも通り』を何となく知ってる少佐は引いてたけど、連隊長が了承したので、その通りにさせてもらう。


 ただそうは言っても、連隊長が居るので皆が緊張してる。

 だから私が率先していつも通りの口調で進めるのだ。

 私が会議進行するのはそういう理由。


「最初に、連隊長から話があるそうなので聞きましょう。

 連隊長にもざっくばらんに話して頂きます」


 車椅子で参加する隊長が、私の物言いにくすっと笑った。

 隊長が笑うだけで、隊の皆の雰囲気が柔らかく変わる。


「あー、リエット少尉が言う通り、私もざっくばらんに話す。

 最初に言うべきは、今回の作戦。

 結果的に第三小隊に囮役をさせ、大きな被害を出してしまった。

 これは、作戦立案した私のミスだ。済まなかった」


 そう言って、連隊長が頭を下げた。


「それは、何に対しての謝罪なんですか」


 流石に連隊長にざっくばらんに話しにくいだろう皆に代わって、私が質問する。


「第三小隊に囮をさせるべきではなかったし、次善の策として皆の安全を担保できる保険を用意すべきだったと思っている」


 連隊長が言う。

 でも私は、それってなんか違うと思う。


「よろしいでしょうか」


 そう発言したのは、ファネス少尉。


「力に力で対抗しようとしたとき、第三小隊が対抗できる力は、他の小隊ほどではありません。

 連隊長はそれを言っているのだと思います。

 ですがあの攻撃は恐らく、どの小隊でも受けきれませんでした」


 他の皆の手前、ファネス少尉はその見立てをぼかして言ってるんだと思う。


 実は、あれでも手加減されていた気がするんだ。

 隊長は大怪我したとはいえ、あの強烈な一撃で、誰も死人が出ていないのがその証拠。

 なんかあいつらの口調が下品だったから……。

 もし他の隊が参戦してくれなかったらと思うと、ぞっとする。

 

 でも、最初から他の小隊が相対していたら、もっと酷いのが振るわれていたかもしれない。

 それこそ死人が出てもおかしくなかった。

 そんな気がするんだ。



「それに男性隊員達ほどの身体能力は無いとはいえ、私達も近衛としての矜持があります。

 ある程度配慮頂くのは有難いですが、皆さんにただ守られるだけの存在にはなりたくないのです。少なくとも私は、囮役になってしまった事に対する不満はありません」


 私も含め、大勢の隊の仲間が彼女に同意して頷く。

 ファネス少尉はとても言葉の使い方が上手い。

 私達がモヤモヤ思っていることも、ちゃんと言葉にしてくれる。


「それは、そうかもしれないが」

「私達に求められているのは結果です。

 であれば、ああいう想定外の力が出てきたときにまともに対抗するだけでなく、搦め手や罠も積極的に使っていくことも考えていきたいのです。

 例えば今回試験的に作った特殊隊服の有用性は、御理解いただけたのではと思います」


 他の男性隊員たちは、強い相手にはより強く鍛える方向に話が行く。

 悪く言えば脳筋な方向に偏ってしまうなのだ。

 だけど私達女性隊員では、その方向には限界がある。

 ならば、搦め手、罠、使えるものは何でも使いたい。


 男性隊員が多い近衛では私達の意見は通りにくいけど、今は内部ミーティング。

 連隊長には第三小隊の意見具申として聞いて考えてくれると嬉しい。


 今回エインズフェローさんに着てもらった、特別製の隊服。

 あれは、小隊の中でアイディアを出し合い、以前に小隊の予算で近衛本部技術部に試作品を作ってもらったものだ。

 自分たちで着る場合は色々難点があるけど、護衛対象に着てもらうなら使えそうだったから、今回の作戦で使用した。

 見た目が普通の隊服と変わらなかったから、それと知っていたのは作戦全容を知っていた人だけ。

 うちの小隊では隊長と私だけだし、他の小隊も小隊長しか知らなかった。

 ちなみに作戦が終わって帰ってきた後で、間近で成果を見た第六小隊長から皆で使用した結果を聞いた。

 みんな、挙げた成果に喜んでた。


「そうだな。君達が不満に思っていないのなら、私の謝罪も取り下げよう」


 連隊長は謝罪を取り下げてくれた。


「今回使用した特殊隊服は、幾つか運用上の問題が上がっている。

 だが、一定の前提を満たせばかなり使えると思う。

 ああいう搦め手は他の小隊では思いつきにくい。

 必要に応じて連隊全体でも予算を取るので、積極的にアイディアを出してくれると有難い」


 よっしゃ、これで追加予算ゲット。

 今まで小隊の予算を無理やり調整して開発予算を捻出していたから、出てくるアイディアに対して実証実験にまで持っていける数が全然少なかったのだ。

 他の小隊長もいろいろアイディアを出してくれるかもしれないけど、必要は成功の母という言葉もある。

 他の小隊ほど身体能力に優れない私達は、頭と()()を使って勝負するのだ。


 どうやって訓練で他の隊を出し抜くか。

 シミュレーションでどうやって仮想敵を出し抜くか。

 そうやって頭と妄想を駆使した積み重ねが、実戦で相手を出し抜くための礎になる。


 妄想から生まれた突飛な発想と、そこから出てきた開発品のアイディアはまだまだ多い。

 追加予算が出そうなので、技術部には頑張って形にしてもらおう。


 ちなみに私も妄想を垂れ流す派。

 私達の垂れ流す妄想を現実路線に落とし込むのは、隊長とファネス少尉の得意分野だ。

 ……決して、押し付けてるわけじゃないよ?


思ったより長くなってしまいました。

13章のネタバレを兼ねたこの話はまだ続きます。

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