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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第13章

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13-08 エインズフェロー女史護送.......していなかった

ケイト視点。

最後だけ視点が変わります。

 外からコンコン、コンコンと箱を叩く音がして、パチリと目が覚める。

 私は箱の壁をコンコンと叩き返す。

 程無くして箱の上側が持ち上げられた。

 向かいで丸まるエルナンさんは、まだ眠っている。


「エインズフェローさん、大丈夫ですか」


 聞き覚えのある声に、起き上がってそちらを見る。

 病院で何度か顔を合わせたことのある、近衛第二小隊長ダナッツ大尉だ。

 後ろには、彼の隊の見覚えある隊員が二名。


 隊員二人は宇宙服を着ているけど、大尉は何かモコモコした服を着ている。

 あと、なんだろう。この場所自体が動いている感じがする。


「ここは?」

「0区から宇宙港へ向かうシャトルの貨物車両の中です。

 貴女がたがトラックの中で箱に入った後、宇宙港へ運ぶ途中です。

 第三小隊以下、他の皆は前の旅客車両にいます」


 この動いている感じは、シャトルで移動中だということね。


「という事は、私達はこのまま宇宙船に乗って?」


 このままクセナキス星系にでも行くのかと思ったら、大尉は首を振った。


「実は、どうやら我々近衛の動きが漏れているようでして。

 このまま星系を出れば、()()()()()()が宙賊のフリをして襲ってくる可能性があります。

 このまま貴女がたをお連れするのは危険ですので、こうして貨物室の中で起こした次第です」


 式典前に私達に襲い掛かったあの偽警備兵のように……監察官の手下が襲ってくるって事ね。

 そもそも私と会長は宇宙服を着ていません。

 最初から、私達は0区に戻すことになっていたのでしょう。


「ところでエインズフェローさん、ハイヴェ大尉からメモを受け取ったでしょうか」


 あの、アンダーシャツと一緒に入っていたメモか。

 あのメモには二つの事が書いてあった。


 まず一つ。

『ファネス少尉かワッツ曹長のどちらかあるいは両方がグロスターと内通しているかもしれない。気を付けたし』


「装甲車の中で、近衛隊駐屯地に戻ることをハイヴェ大尉が話した際の感じでは……ワッツ曹長が蒼褪めていたように思います。どちらかと言われれば、ワッツ曹長の可能性が高いかと」


 ワッツ曹長も病院で何度か話したことがある。

 ハイヴェ大尉を尊敬する、気立ての良い女性だった。

 でも、あの時の蒼褪めた表情が気になる。


「エインズフェローさんの見立ても、やはりそちらですか……」

「も、ってことは、他の誰かもワッツ曹長の事を?」


 ダナッツ大尉は頷いた。


「ハイヴェ大尉と、我々の上司少佐、連隊長……いずれも、ワッツ曹長だと想定しています。

 彼女の方が、挙動がおかしかった」


 彼女は進んで内通者になるような女性ではなかった気がする。


「私が接する限り、彼女は進んで内通するタイプには思えません。

 脅迫の線はありませんか」


「ハイヴェ大尉も同意見です。なので二人の身辺、親族関係を近衛本隊で調査中ですが、残念ながら作戦開始までに間に合いませんでした。

 念のため第三小隊には、ハイヴェ大尉とリエンド少尉以外には、今回の作戦全容を伝えていません」


 つまり容疑者二人、ファネス少尉とワッツ曹長のいずれも、私が箱に入ったまま別星系へ護送されると思っている、ということ。


「貴女がたにはこの貨物室の床下にある隠しスペースに入って頂いて、0区に戻って頂きます。

 向こうでは第九小隊が貴女がたを保護し、また近衛隊駐屯地に戻る手筈です」


 内通が疑われる彼女達の想定を覆し、私達を0区へ帰す。

 そして、宇宙空間で襲ってくる相手を返り討ちにするのか。

 私は頷いた。


「ですが、まだ貴女……特にエインズフェローさんには危機は去っていません」


 ダナッツ大尉は警告する。


「今回、我々第二小隊も含めた近衛隊の大半が、この作戦で宇宙船に乗り込みます。

 0区に戻ってから駐屯地に入るまで、貴女がたの護衛には一個小隊しか付けられません」


 今まで三個小隊が付いていたことを考えると、一個小隊では手薄に映る。

 駐屯地に戻るまでの間に、向こうの手札が襲い掛かってくる可能性があるのね。


「殿下の周囲を探らせていますが、向こうは貴女の身柄の確保をあきらめていません。

 カルソールさんの事は二の次のようです。

 特に貴女が、と言いましたのはそういう理由です」


「……御執心なのかしら。迷惑なのだけど」


 ふう、と私はため息を吐く。


「そこでエインズフェローさんには、その為の対策を伝授します。

 私の服が変だと思っていたと思いますが、これはその為のものです」


 あのメモにも

『保険を掛けているので、第二小隊長から伝授します』

と書いてあったけど。


「確かに、その綿襦袢のような全身服は何だろうって思ってたわ」


 私の言葉に大尉は苦笑する。


「これは、エインズフェローさんに不快な思いをさせないために、わざわざ用意したんです。

 どういうことかというと……」


 大尉が素早く私の背後に回り、左腕を私の首に巻き付け引き寄せる。

 とっさに逃れようとしたけど無理だった。


「グロスターの配下に襲われて、万が一こうして捕らえられた時の対処訓練のためです。

 こんな形で私が触れて、貴女が不快な思いをしないようにと思って作ったのですよ」


 こうして背後から直に抱き留められると、例え見知った大尉であっても、確かにいい気分にはならないわね。

 でも男性に触れられてるというより、触れる部分は大部分が綿のようなモコモコした感触。

 男性に触れられている不快感は多少和らぐ。


 本当は、ハイヴェ大尉あたりが訓練を付けてくれた方が嬉しいけど。

 作戦上そうもいかなかったのでしょう。

 だから大尉がこうした準備をしてくれた。

 モヤモヤする気持ちが無くなるわけではないけど、かなり配慮されている事は理解したわ。

 この少々の不快感は、飲み込みましょう。


「大尉の配慮の気持ちはわかりました。それで、対処訓練って?」

「貴女の隊服には仕掛けがあって、襲撃者にこの体制になられた時に使用する機能があります。

 貴女には、その使い方を覚えて頂きたい」


 それからしばらく、大尉のレクチャーを受けた。


 同じような機能がエルナンさんの服にも仕込んである。

 でも、彼女は老婦人だし、パニックになって対処できなくなる可能性がある。

 そういう理由で、私にだけレクチャーするみたい。


 じゃあ、エルナンさんの方はどうやって起動するの?

 大尉はその方法を教えてくれた。


「ン……事務局長、ここは?」


 一通り訓練をし終えた頃、エルナンさんが目を覚ました。

 ダナッツ大尉が私の時と同じ説明を彼女に繰り返した。

 メモと内通者、レクチャーの話は除いてだけど。

 説明を終えた後、ダナッツ大尉は貨物室の隅へ行き……そこの壁際のパネルを操作すると、彼の足元の床が開いた。


「ここから床下の隠しスペースに入れます。

 中はちゃんと空気がありますが、念のため中に用意してある簡易宇宙服を着ておいてください。

 隊服の上から着ることができます」


 私達は、そこに隠れたまま0区に帰って欲しいということね。


「大尉たちは?」

「私達は、貴女がたの代わりに荷物箱に入ります」


 そういう事か。

 荷物に隠れて宇宙船に乗って……襲撃者を返り討ちにするのね。


「分かりました。御指示に従います。御武運を」

「ありがとうございます。0区に戻ったら、どうか御気を付けて」



 私達は指示された床下スペースに入る。

 天井は低めで立っては入れないけど、屈んで進める程度の高さがある。

 そこに二着の宇宙服がある。

 大尉が言っていた通り、大きさ的に隊服の上から着用できそうだ。

 お互いに手伝いながらその宇宙服を着こむ。


「そろそろ、着られましたか」


 スペースの入口の向こうから大尉の声がする。


「二人とも着られました」

「では入口を閉めます。お気をつけて。

 向こうに付いたら、第六小隊隊長ラッサム大尉がここを開けます。

 それまでここから動かないでください」


 そう大尉が言って、入口が閉じられた。



 * * * * *


(第四皇子視点)


「殿下。一つ気になる報告が」


 先ほど近衛隊の動向を報告してきた士官が、数時間後に再度報告に来た。


「近衛隊の駐屯地ですが、妙に人が少ない気がします。

 隣のホテルの警護も政府の警備隊の者ばかりが目に入ります」

「何? ということは、近衛隊の大半が出払っている?」


 そうだとすると、どこへ行ったのだ……?


「どうやって……そうか、しまった。貨物船に積み込まれた荷物……」


 グロスターが舌打ちをする。


「姿を消した近衛隊の連中も、元々の運搬貨物に紛れて先に同じ船に乗った可能性が高いです。

 となると、マクベスの方が危ない」

「何! 我々の作戦が読まれていたか!」


 この時期に大勢の近衛兵が姿を消す理由。

 我々の作戦を読んで、宇宙船に潜んで襲撃を返り討ちするため以外には考えづらい。


「ならば、中止するか?」


 グロスターは首を振る。

 

「今連絡を取って、マクベスの居場所が露見する方が危険です。

 ここは、彼の機転に期待するしかありません。

 最悪、突入部隊の四十名は切り捨てざるを得ないかと」


 ん、待てよ。


「だとすると……グロスター。そもそも、貨物船に女は乗っていると思うか」

「!」


 グロスターは目を見開いた。


「我々の動きを察知していたなら、近衛共はそもそも女を船に乗せていない可能性が高い。

 であれば、0区に帰ってくるのではないか? しかも今なら近衛は手薄だ」


 グロスターは頷いた。


「戻って来たとして、向こうは護衛に出せたとしても一個か二個小隊が限度でしょう。

 我々も、今残っている手勢は少ないですが……残しておいた手札を切りましょうか」

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