2-05 小父さん達との喧嘩
ケイトさん達と話した結果、ジャンク品は材質によっては劣化した物でも引き取ってもらえることになった。特に銀配線等の高価なものは、炉で溶かして不純物を除いた後で新品に再加工する業者が向こうにいるんだって。売価は新品よりは落ちるけど、量次第では十分儲けが出る物みたい。
他にも、民間に出回っている資材なら金額次第で調達してもらえることになったけど、一度に扱う量が多いとまた目を付けられる可能性があるから、細々と取引していくことになった。
それから、軍用の外殻修理剤とかリオライトの調達は流石に無理だって。軍用物資は向こうの民間には流れて来なくて、売るのも買うのも難しく足も付きやすいらしい。
航行コントロールやアタシ達の受け入れ先については、ケイトさん達には何ともしようがないとのこと。これらは解決に時間が掛かることは分かってるから、もしそういう伝手が出来たら、というお願いに留めておいた。
外殻を除けば、時間を掛ければ修理用資材が調達できそうな目途が立ったので、修理箇所の担当を各人に割り振って順次進めることにした。
生命維持に必要な分の修理は先に終わっているので、後は工具やロボットメンテナンス等の共用設備の移設は優先的に、修理はその次、私室の引っ越しは修理と並行して徐々に、って事になった。
アタシは私室の引っ越しはもう終わってるし、配線や部品のジャンク品保管棚の移設もすぐに終わったから、まずはグンター小父さんの管理する機械工具類の移設について小父さんと相談。
「あー……そうだな、ひとまず全部、整備室に持って行ってくれんか。
確か、まだまだ空きスペースがあっただろう。
備え付けの工具とどっちを使うかは、向こうで使い勝手を見て判断したいな。」
「持ってくのは良いんだけど、何から持っていくか優先順位は小父さんが決めてくれない?
アタシじゃ分かんない部分もあるんだろうからさ。」
「そうだなあ……メグも使うんだから、ひとまずメグがこうだと思う優先順位で工程表を作ってくれ。
俺はちょっと先にやることがあるから、頼むよ。」
皆でやる事の優先順位決めたのに、まだ他にやることが?
「ひょっとして、物が多い私物の整理とか?」
「ん、まあ、そんな所だ。」
……?
ロボットメンテナンス設備とか、船外活動用の宇宙服や機械類の移設も、セイン小父さんやライト小父さんと相談したけど、グンター小父さんと同様にまずアタシに工程表作りを丸投げされた。その間何をするのか聞いてもはぐらかされる。
……小父さん達の態度、揃いも揃って何か引っかかる。
でも違和感を感じても、それが何なのか確かな事は分からない以上、ひとまず工程表を作って小父さん達に見せに行く。
小父さん達からは幾つか作業順序について指摘を受けたけど、後はアタシのやり易い様に移設を進めて良い、移設後に出来上がりを確認するって言われた。
これって、アタシに作業を丸投げ? その間、小父さん達は何をしてるの?
なんか小父さん達はアタシに隠し事をしてる感じがする。
怪しいと思ったので、翌日小父さん達が起きる前に、こっそり小父さん達の作業服に発信機を取り付けておく。小父さん達の行動を追跡するためだ。
アタシが設備の移設作業をしている途中、小父さん達が揃ってどこかへ移動する反応があった。コロニー内マップと照らし合わせながら追跡すると、どうやら管理エリアに向かう模様。
小父さん達の様子を窺うと、管理エリア奥の入口前で3人が作業確認をする声が聞こえた。
「昨日と変わらんが、念のため作業確認だ。
俺が出力アンテナの修理で、セインがスタジオの装置の確認、ライトが船外で補修をしながら、宇宙服内で試作機の動作確認。
13:00にセインが試験出力して受信できれば良し。ダメならそれぞれの配置で原因調査だな。
試作機の改善点はまた夜に、メグが寝てから連絡してくれ。」
「了解。もうちょっとでイケると思うんだけどな。」
「上手くいくのが待ち遠しい。メグに気づかれる前に完成させないとな。」
アンテナに、スタジオの修理……小父さん達、真っ先にAMラジオ放送設備を修理しようとしてる?
でも相談してくれれば良かったのに、なにかアタシに隠さなきゃいけない事でもあったのかな?
でも相談が無かった事も、結果としてアタシに設備移設を押し付けてるのも腹が立った。
小父さん達には仕返しをすることに決めた。
小父さん達には、今使えるロボット3台を全て設備移設の為に使う了承を貰った。そこで、工具類やロボットメンテナンス設備、船外活動用品の移設を、ロボットを駆使して、全部の移設が同日に終わるように調整しながら全部アタシ一人でやった。
作業をしながら、小父さん達が隠れてやってるラジオ設備の修理の状況もこっそり確認する。修理自体はともかく、試作機と言われる何かの調整に手間取っているみたい。
小父さん達の内緒の作業が終わったのと、アタシの設備の移設作業が終わったのは同じ日だった。
「小父さん達、共用設備の移設作業が終わったよ。確認しといてね。」
「ああ、やって貰って有難うな。」
小父さん達が移設後の設備を確認しに管理エリアへ行く。
まあ、そのうちまたアタシの所に駆け込んでくるだろうけど。
案の定、しばらく経って3人がアタシの作業場所に戻ってきた。
「メグ! なんだあれは!」
「あれじゃあ俺達が使い難いじゃないか!」
「今すぐ直してくれ!」
そう、小父さん達に丸投げされたことに腹が立ったので、アタシが使いやすく、小父さん達が使いづらい様にしたのだ。
作業台や椅子や棚の高さを低くしたり、作業台への通路が狭くなるように棚を配置したり。
「……共同設備や備品の移設をアタシに全部丸投げするくらい、忙しかったんでしょ?
だから、もう使う気が無いのかと思って、アタシが使いやすい様に変えたんだけど。
何か問題でも?」
そう言って小父さん達を呆れた目で見ると、3人は黙り込んだ。
「いや、実は……。」
ライト小父さんが言い掛けたけど、アタシはそれを遮る。
「AMラジオが聞きたくて設備を優先的に直したかったのなら、一言アタシにも相談があるべきじゃなかったの?」
「し、知ってたのか……。」
「当たり前でしょ。小父さん達3人とも隠し事が下手過ぎて、あからさまに怪しかったわ。
だからみんなの作業服の襟の所に発信機を付けて、どこで何をしてるか追跡させてもらったの。」
小父さん達がギョッとして、作業服の襟を確認する。
それぞれ首の後ろ側にあたる部分につけられた発信機にようやく気付いたみたい。
「それで、どうしてアタシに内緒でこんなことを?」
「そりゃあ、メグが怒ると思ったから……。」
いい歳して、子供か!
「それで小父さん達のやる気が出るんだったら、相談に乗らない事は無かったわ。
妥協案も出たかもしれない。
だから今度からは、ちゃんと事前に相談して!」
「う、うむ……すまんかった。」
「悪かったよ、メグ。」
「ごめんな。」
反省はしてるようだけど、これで済ませるとアタシの気がすまない。
「AMラジオは電波の出力を下げて、他のコロニーで聞こえにくくすればいいと思う。
それから共同設備や備品の移設先は、直したかったら小父さん達が直してね。
ちなみにアタシはその間、管理エリアの修理だったり、住居エリアから使える部品取ったりするのに、ロボット全部使うからね。よろしく!」
「「「え……。」」」
ロボット抜きで、全部自分達で直してね、小父さん達。
とっても大変だと思うけど。
後日、ロボットメンテナンスの作業台の高さを直す為にロボットを使わせてくれって、小父さん達が泣きついてきたので許した。
あれは結構重いし、ギックリ腰になられても困るからね。
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