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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第13章

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13-07 エインズフェロー女史護送作戦(5)

近衛隊、ハイヴェ大尉の第三小隊に属する、某隊員視点。

前話と同じです。

 ともかく、隊長が陣形を取る指示をしたので、我々はエアロックを背に密集陣形を取る。

 これはエアロックの奥を守るための陣形。

 この奥に護るべきものがあるってわかっちゃうけど……。

 この陣形では、あれが来ても直ぐには手引きはできないな。


「所属不明の艦船が急速接近中。貨物室入口のハッチ辺りに突入してくる模様。

 総員、衝撃に備えよ」


 立ったままだと衝撃に耐えられないため、隊長の指示により、全員で片膝をつく。


 荷物を運び入れたハッチ近辺に宇宙船が突入してきた。

 外壁が突き破られ、船が激しく揺れて、私達は揺れが収まるまで片膝の体制で踏ん張る。

 揺れが収まる頃、突き破った宇宙船の先端が開き、そこから宇宙服を着た大勢の者が下りてくる。


 宇宙軍の正式宇宙服でも民間の宇宙服でもない、所属の分からない者達だ。

 奴らはみな隊長のように背が高く、隊長よりもずっと胸板が厚く、腕回り足回りも太い。

 屈強な男の体格をしている。

 そして彼らが手に手に持っている棍棒は、私達の物より長く太い。


 オープン回線で呼びかけて来た声は、粗野な男性の声。


「強制臨検って奴だ。積み荷……じゃなくて、隠れてる女を差し出せ。

 そうすれば命だけは助けてやる」


 隊長はその呼びかけには答えず、部隊のS49回線から指示を出す。


「見たところ、相手の方が数も個人の力も上だ。

 まともに打ち合って一対一で勝てる相手ではない。

 密集隊形を崩さず、こちらから攻撃せず、防御に徹して相手の体力が切れるのを待つ。

 向こうの攻撃には複数人で相手をしろ」


 この状態では指示された手引きもできない。

 隊長の指示に従ってその場で動かずにじっと防御陣形を維持する。


「まあ、この状況じゃあ動けねえだろうからなあ……。

 おいお前等。アレを持ってこい」


 相手の隊長と思しき男の呼びかけで、五人程が突入してきた船に戻る。

 しばらくすると、彼等が持っている棍棒よりずっと長く太い棒を持ってきた。

 長さは優に4メートルくらい、太さも隊長の腕や足よりも……。

 それを、隊長とみられる男に渡す。


「さーて、お嬢ちゃん達。しっかり防げよ」


 男の周りの者達はその男から離れていき、男はその巨大な棒を両手で軽々と振りかぶる。

 ま、まさか、あれを⁉ 噓でしょ⁉


「いかん! ローダス、クラバット、ハインツ! 

 私に続け! 前で防ぐぞ!」


 隊長は慌てて、隊の中でもとりわけ体の大きい盾役の三人を連れて前へ出る。

 巨大な棒を持った男も前へ走ってくる。


「おらああああああ!」


 男はその長大な棍棒を力強く振るう。

 隊長達はそれを受け止めようと……止めたと思ったけど、結局吹き飛ばされる。

 そして、振るわれた棒の勢いは止まらない。


 無理、無理、無理ぃぃぃ!

 私は思わず自分の棍棒を手放して、それが当たらないように体を伏せる。

 その刹那、伏せたすぐ上を物凄い勢いの気配が通り過ぎる。


 とっさに私のような行動が取れた者もいたけど、周りの隊員の多くは隊長と同じ様に吹き飛ばされてしまった。


「やっぱり、ちいっと加減が難しいな。

 お前ら。後は何とかなるだろう」


 棍棒を振るった隊長はその棒を脇に放って。


「さっすが隊長だぜ!」

「軒並み吹っ飛んじまった!」


 その配下達は、さっきの一振りで私達が壊滅的になって喜びの声を上げて。

 い、一体どうなっちゃうの!


「協力者ってえの、お前だろ」


 誰かが近づいてくる、と思ったら。

 巨大な棒を振るった男の声で、オープン回線で告げられた。


 でも、さっきの棍棒の脅威に足が、体がすくんで。

 何も言えなかったら、男に腕を掴まれ、グイっと体を起こされた。


「電波の発信源はお前から出てるようだが、もう一度聞く。

 協力者ってのは、お前か」


 なんか来るとは聞いてたけど。

 こんな暴風が来るとは聞いてない。

 でも……手引きをしないと、母が……。

 思わず、こくん、と頷いた。


「母を、助けて、くれるんですよね」

「ああ、お前さんの母親は助ける。だから、立って案内しろ。どこだ」


 恐怖半分、母を助けたい半分で。

 思わずエアロックを見る。


「ワ、ワッツ曹長! やめなさい! ……うっ」


 S49回線を通じて、隊長が私に呼びかける声がする。

 良かった、隊長は無事だ。


「エアロックか。ッてえことは、何とかいう女は向こう側か。

 おい、五人ほど付いてこい」


 私を起こした男は、配下を呼ぶ。

 と思ったら、私を揺さぶる。


「ボサッとするな。お前も案内しろ」


 何だか分からないまま、促されるままに立ち上がり、エアロックへと歩みを進める。


「ワッツ曹長!」


 ファネス少尉の呼びかけも来た。分隊長も無事みたい。


「お前ら、人を気にかけてる余裕はあるのか?」

「ひひひひひ」


 男の配下らしい男達の下卑た笑いが聞こえる。

 私は……何がどうなってるか、分からないまま、エアロックを操作して扉を開ける。


「よし、向こうへ行くぞ。来い」


 そう言って男は私の脇を掴み、強引に中へ私を連れて行く。

 後ろからも何人か男の配下が付いてくる。

 エアロックの扉が閉まり、空気が充填され……。

 気づいたら、元の荷物部屋に、男とその配下と一緒にいた。


「バイザーを上げろ」


 男に命じられるまま、バイザーを上げる。


「で、女はどこだ」


 隊長の男が私に問う。


「あの、ブルーシートの掛けられた荷物箱の中。

 二人が入った箱には特殊塗料が掛かっているから、このレンズを通して見ればわかる」


 そう言って、隠しポケットから偏向レンズを取り出し、隊長の男に見せる。


「上出来だ。おう、お前ら。三人で探してこい」


 隊長が命じ、レンズを私の手からひったくって配下に放り投げる。

 配下達三人がレンズを受け取り、荷物箱の方へ向かう。


「あの、これで……」

「ああ。わかってる。おい」


 その刹那、残りの二人の配下に、私はその場で押さえつけられる。


「ど、どうして……助けて、くれるんじゃ」


 押さえつけられ、両腕を後ろにひねられて。

 身動きが取れないまま男に言う。


「おいおい、俺は、お前の母親()助けてやると言ったぜ」


 ど、どういう事?


「分かってねえんじゃねえっすか」

「だろうなあ。お前の母親は助かるだろうが、お前たちを全員拘束した上で、後でたっぷり可愛がってやるって言ってるのさ」


 配下の男達の言葉に蒼褪める。


「しょ、証人の女性達を渡せば、解放するっていうのは……約束が違う!」


 私の言葉に、隊長も笑う。


「だーかーらー、何にも違わねえさ。お前の母親は解放し助ける。証人も丁重に扱う。

 俺たちが証人に手出ししたら半殺しにされちまうしな」

「だがなあ、俺達のこの昂りは誰が鎮めてくれるんだ」

「二十人くらいいたっけなあ。体力のありそうなじゃじゃ馬揃いだ、たっぷり楽しめそうだぜ」


 隊長や私を押さえつける配下達が、下卑た笑いをする。


 は、母は助けてくれるって言ってたけど。

 私は、何てことを。

 隊長、分隊長、隊のみんな……。

 ご、ごめんなさい……私、なんて……なんてことを……私……。



 突然、近くで大きな物が落ちる音がする。


「ぐっ……な、何で……」


 隊長の男が呻く。

 見ると、さっき荷物の方に向かっていた三人が、私の近くで倒れている。

 私はいきなり引き起こされ、後ろの男にナイフを突きつけられる。

 ここでやっと、状況が理解できた。


 近衛隊の、別の分隊の男性の精鋭たちがいる。

 ざっと見て総勢二十人。皆が制式棍棒を持っている。

 あの顔ぶれは……第二小隊?

 ちょっ……ちょっと待って。この場面では頼もしいけど。

 一体、どこから来たの。


 棍棒を構えた第二小隊の皆が近づいてくる。


「く、来るな。来ればこの女を……」


 配下の男が私を左腕で抱え、ナイフを右手で突きつけながら、私を引きずって後ずさる。


 男の意識は、向かってくる第二小隊に向いている。

 今なら振りほどけそう。

 私は左肘で背後の男の左わき腹を撃ち、怯んだ隙に男の拘束から抜け出る。

 そのまま私は第二小隊の方へダッシュで走り、第二小隊は入れ替わりに男達に襲い掛かる。


 相手は隊長と、配下五人。

 しかもうち三人は既に()されている。

 隊長の男はいくら屈強でも、棍棒は向こうに放り捨てられている。

 配下の男達も棍棒は持っておらず、向こうに置いてきたようだ。

 ……この場は多勢に無勢で、男たちはあっという間に第二小隊に制圧された。


 男達を拘束後、第二小隊は半数が隔壁の向こうへ向かう。


「ミレーヌ・ワッツ曹長、遅くなった。拘束からの脱出は良くやったぞ」


 こちらに残った第二小隊長、ダナッツ大尉が声を掛けてきた。


「あ、あの、ありがとうございます。じゃなくて、向こうは!」


 隔壁の向こうの、第三小隊の皆が!


「心配するな。向こうには第一、第四、第五小隊がいる。

 今頃は第三の皆を救出しているだろう。

 それにそろそろ総監が手配した船がやってきて、接舷してきた船を接収する手筈になっている」

「よ、良かった……」


 ひとまず、向こうの第三の皆が無事なら、良かった……。


「証人のお二人は……」

「最初からこの船には乗っていない。

 0区に残った別の小隊が保護している」


 そっちも、とりあえずは良かった……かな。


「だが君については、このままでは済まされない。分かるな」

「……はい。分かっています」

 


 私が隔壁のこっち側に来てから、貨物コンテナに潜んでいた第一、第四、第五小隊の総勢六十人が加勢し、乗り込んできた男達は制圧されたそうだ。

 第三小隊の皆も、振るわれたあの脅威で怪我はしているものの、無事だった。

 そして接舷してきた船も、総監が手配したという船がやってきて制圧したそうだ。


 ただ、向こうは後詰にあと二隻が近くにいた。

 接舷してきた船の船長以下、艦橋にいた者達は脱出ポッドで船を脱出。

 それを後詰の船が回収し二隻は逃走した。

 ハイパードライブでどこかへ去っていったそうだ。


 その後、貨物船を操縦していた方々ともども、私達は総監の手配した船に回収された。

 私は、第三小隊とは合流できず、第二小隊に連行されながら別に乗り込んだ。


 その際に、第三小隊の皆の前を通りかかった。

 私は皆に深く頭を下げた。

 皆の表情は複雑だった。



 私はダナッツ大尉に連行され……そのまま、営倉に入れられた。


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