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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第13章

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13-06 エインズフェロー女史護送作戦(4)

近衛隊、ハイヴェ大尉の第三小隊に属する、某隊員視点。

前話の最後の視点と同じです。


最後だけ別視点。

 貨物船に荷物を積み込んで、第三小隊はそのまま乗船。

 第六、第七小隊に見送られながら、貨物船アルバネイア号は宇宙港を出港した。


 貨物エリアは隔壁で二つに区切られていた。

 広い側にはハランドリがクーロイから輸入するケイ素やリンの鉱石が、コンテナに入れられた状態で積載されているそうだ。

 そして狭い側、隔壁で仕切られた三分の一ほどのエリアは空気が充填されていて、私達が載せた荷物はそちら側にある。私達が乗っているのもこちら側だ。

 両方のエリアを行き来できるよう、隔壁にはエアロックが設置されている。

 宇宙空間に出た後に向こう側のエリアから空気を抜いて、今は真空になっているそうだ。


 私達が載せた荷物箱は縦に積まれず、平置きにされている。

 荷物箱が置かれた場所の更に奥には、小型快速艇――宇宙空間での事故時に船を脱出する脱出用ポッドを二回りか三回りほど大きくしたような小型艇が置かれていた。

 確かあれは……パイロットの他は二人か三人が横になってしか乗れない、緊急脱出用の用途で開発された型の小型艇だ。

 脱出ポッドと違って自力航行はできるけど、航続距離はそれほど長くない。

 第五惑星辺りで脱出しても、0区まで帰るまでに燃料が切れる程度。

 後の方は慣性飛行で帰らないといけない、というスペックだった気がする。


 でも、あれを誰が操縦するんだろう?

 操縦者資格がありそうなのは……宇宙軍からの転籍で入って来たっていう、リエンド少尉かな。

 隊長の副官の一人だけど、隊長を筆頭に大柄な女性が多いこの隊の中では小柄な方だ。

 操縦者資格を持っていそうで、かつあの狭い操縦席に乗れそうなのは、あの人くらいだろう。


 出航して三十分ほどして、隊長が声を上げる。


「リエンド少尉、例の物を出してくれ」


 命じられたリエンド少尉は、彼女の分隊員を引き連れて荷物の方へ向かい、五つの赤い箱を開けて回る。

 そして箱の中から、順次装備を取り出して持ってくる。

 それらは私の予想通り、駐屯地に保管されていた筈の私達の戦闘用宇宙服だ。

 少尉達から、それぞれ自分用の宇宙服を渡される。


 宇宙服を渡された後すぐに着用指示が来るかと思ったら、少尉達は箱から大きなブルーシートを取り出して、荷物箱全部をすっぽり覆う様に上から掛けていた。

 隅の箱を持ち上げてシートの端を下に折り込むほどの念の入れ様だ。

 ……一体、何のためにしているんだろう?


 荷物箱の全部がすっぽりシートに覆われて、少尉が隊長にOKサインを出す。


「全員宇宙服を着用後、十五分後に隔壁前へ再集合。通信チャネルはS49に設定せよ」


 ここでようやく隊長から着用指示が出た。

 十五分という事は、全員この場で着替えろという事。

 地上用の隊服を脱いで下着姿になり、宇宙服に収められていた内用と外用のインナースーツを着て、その上に宇宙服を着る。

 内用が通常のインナースーツ、外用は宇宙服が損傷した時に体を守る耐刃スーツだ。

 宇宙服もインナーも、体のサイズにピッタリ合わせて作るため、各個人専用装備になっている。


 着替え終わって隔壁前に集合したら、今度は少尉達が制式棍棒を渡してきた。

 これ、どこに入っていたの?

 身長程の長さがある金属製の棒なんだけど、長さや太さ、重心バランスが自分の扱いやすいように調整された、これも個人専用装備である。

 これを渡されたという事は、これから宇宙服着用状態での本格的な格闘訓練が行われるらしい。

 ちなみに最後まで宇宙服を配ったりしていた筈の少尉は、私達より早く着替えを終えて隔壁前に来ていた。いつの間に。


「これから隔壁向こうへ行って、制式棍棒を使った格闘訓練を行う。

 第三、第二、第一の順で分隊ごとにエアロックを通り、再度向こう側で集合。

 集合場所は、リエンド少尉が指示せよ」

「了解。第三分隊、エアロックに入れ」


 リエンド少尉が敬礼し、自分の分隊にエアロックに入る指示をする。


 第三分隊がエアロックを通って向こう側へ入り、再度エアロック内に空気が充填されたのを確認してからファネス少尉が指示する。


「第二分隊、エアロックに入れ」


 ファネス少尉率いる第二分隊に属する私は、ここで宇宙服のバイザーを閉め、他の皆と一緒にエアロックに入る。

 分隊全員が入って扉が閉まる。

 中の部屋の空気がすべて抜かれ、空気が無くなれば反対側の扉が開く。

 向こう側では周りにコンテナが置かれた真ん中のスペースが空いている。

 その真ん中に第三分隊が集合していて、私達第二分隊もそちらへ移動する。

 後から隊長率いる第一分隊が同じように集合した。


 設定されたS49回線から、隊長の指示が入る。


「まずはウォーミングアップだ。十分なスペースを確保!」


 棍棒を振るうのにはかなりのスペースが必要だ。

 互いの棍棒が当たらないよう、前後左右に四メートル確保する。


「素振りを左右、打ち下ろし、100回。はじめ!」

「「1、2、3! 1、2、3!」」


 左から、右から、上からの素振りを1セットとして、制式棍棒の素振りを100セット。

 分隊長達の掛け声に合わせて素振りを行う。

 個人別に調整されているとはいえ、重量はかなりある。

 こんな重い棍棒を300回振るうのはかなり大変だ。


 棍棒の素振りが訓練の日課としてメニューに組み入れられているから、扱いは慣れている。

 とはいえ地上でも300回も振るうと汗だくだ。

 宇宙服を着ているとその分の重量もあるから、余計に負荷がかかる。


「次、型組手。分隊毎に分かれて、分隊長の指示に従え!」


 次は一対一で互いに決まった型で棍棒を振るい、体に当たらないように棍棒を打ち合う。

 体に当てないものの、重い棍棒をぶつけ合うため、素振り以上に体力を使う。

 一回三分と短い時間だが、慣れないと一、二巡で体力を使い果たす程の過酷な訓練だ。

 私も入隊して一年近くになり、ようやく三巡はこなせるようになってきた。


 ところが、今回は分隊内で一巡したところで隊長から命令が出る。


「総員、一巡したところで十五分の休憩とする」


 途中休憩が入るとしても二、三巡してからがいつもだ。

 一巡で休憩が入るのは珍しい。

 ()()の前に体力を温存したかったのもあり、このタイミングでの休憩は有難い。


「入隊一年未満で体力を落とした者は、特別にAドリンクの摂取も許可する」


 私達の特別製の宇宙服は、中に栄養ドリンクを仕込んである。

 経験が浅いと、棍棒を振るっての白兵戦ではあっという間に体力を使ってしまう。

 栄養ドリンクは、継戦能力の維持の為に用意されているのだ。

 

 ちらっと分隊長に訊いたことがあるのだけど、隊長クラスになるとドリンク無しでも10分以上の継戦能力があるらしい。体力のバケモノか。

 代わりに、それでも体力が切れた時の継戦能力の回復にはAドリンク程度では足りないとのこと。


 ドリンクを飲むときは、宇宙服内での音声指示によって、バイザー内にストローが伸びてくる。

 私も一年未満だけど体力が付いてきたし、今回は飲まなくても休めば大丈夫。

 いざという時の為にドリンクは取っておく。


 でも、隊長がドリンクの使用を許可するってことは。

 これから何か体力を使うような事があるって事よね。

 もうじき、()()が来るって、私は知ってるけど……。

 ひょっとして隊長も……これから何かあるって知ってるってこと?


 ウォーミングアップをして、組手をして……。

 戦える状態になって、待ち伏せしているってことなの?


「総員、傾聴!」


 そんなことを考えていると、隊長から小隊全員に連絡が入る。


「現在、当船は第五惑星アンドロポスの公転軌道近くに差し掛かっている。だが、アンドロポス軌道近くの小惑星帯から所属不明の艦船が三隻、当船に向けて接近中」


 今の隊長の知らせは、多分……あれ、なんだろう。


「宙賊という最悪の可能性も考慮して戦闘態勢を取る。これは訓練ではない。

 繰り返す。これは訓練ではない」


 今回のあれが成功しないと――ちゃんと手引きしないと、母の事は保障できないって、あの人は言ってたけど。


「総員、隔壁を背にF陣形を取れ!」


 そんな私の不安を他所に、隊長の指示が飛ぶ。



 一体、私は、母は――どうなるんだろう。



 * * * * *


(??? 視点)


「発信機の反応から、協力者は船舶の中ほど、貨物室の中にいる。

 その場所近辺に()()()()する。総員、衝撃に備えろ」


 船長の指令を聞き、俺は配下に号令をかける。


「いいかお前ら。向こうは二十人程らしいが、揃いも揃ってじゃじゃ馬だ。

 女相手だと絶対侮るな。必ず二人一組で当たれ」


 配下の連中は一斉に、おうと応える。


「隊長ぉ、全員伸して標的を確保したら、後は好きにして良いんですかね」


 若い奴がそんなことを言う。


「標的の若い方は別嬪だそうだが、間違っても手を出すな。

 絶対に手荒な真似はするなと部隊長の命令だぞ。歳のいった方も同じだ。

 二人に手を出したら命令違反だ。罰は半殺しになると思え。

 勢いあまって()()()にされても知らんぞ」


 そう厳命すると、うへぇ、と感嘆符を上げる声が聞こえる。


「他の女だったら良いんですか。じゃじゃ馬を屈服させてみたいんですがね」


 さっきの若い奴は、続けてそんなことを言う。


「部隊長は、標的の二人の事しか言っていない」

「協力者もいいんですか?」


 別の奴が声を上げる。


「言ったろう。俺は標的二人の事しか聞いてない。

 ――うまくいったら、標的の二人以外は全員、お前らの好きにしろ」


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