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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第13章

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13-03 エインズフェロー女史護送作戦(1)

前半はケイト視点です。

後半は視点が変わります。

「大分、組織の修復が進みましたね。

 激しい運動はまだ駄目ですが、立ち座りや歩行など、普通の生活には問題ありません。

 傷跡もしばらく経てば自然に消える筈です」


 定期診察で、主治医の女性にそう告げられた。


「という事は、退院ですか?」

「ええ」


 主治医が頷いた。

 私は、診察室の隅に控えているハイヴェ大尉の方を見る。


「それで?」

「……多分、貴女の御想像の通りです。

 カルソールさんと二人で御支度願えますか」


 大尉に言われるけど、大した支度ってないんですけどね。


 2区と0区にある部屋も既に宇宙軍により踏み込まれていて、私物は全て宇宙軍に押収されている。

 本当に何から何まで宇宙軍が押収していったらしく、何も残っていなかった、と大尉から聞かされた時には、あの殿下はどういうつもりだったのか問い詰めたくなった。

 何も残ってないという事は、服とか化粧品、果ては私の下着まで押収して行ったということ。


 宇宙軍に保護された(捕まった)時には宇宙服だったから、その時着ていた下着類と、宇宙服のアンダースーツ、その上に来ていた宇宙服しか無かった。

 それも入院時の処置で宇宙服やアンダースーツは脱がされ、それまで宇宙軍は押収していったらしい。

 口座も押さえられ何も買えず、病院から貸与された病衣の下は下着類ひと揃えしかないまま警備隊もどきに拉致され拷問を受けた。


 近衛隊に保護されて、私の現状を見かねたハイヴェ大尉の隊の女性隊員達が、下着や化粧品を手配してくれた。

 普段使っていた物と同じ化粧品や、サイズの合った下着を揃えてくれたのは有難いけれど。

 ただ、これらも大尉配下の女性隊員たちの好意で買ってくれた物で、気分的には借りものと同じ。

 そういう状態のままなのは心苦しい。


 せめて、服や化粧品といった私物くらいは返してほしいものだけど。

 宇宙軍に話を通してくれるよう大尉に頼んでいる。

 下着は返ってきても処分するつもり。

 いろいろ宇宙軍に把握されているようで、ぞっとするし。



 病室に戻り、借り物しかない荷物をまとめる。

 大して量も無いので、小さ目のボストンバッグ一個で十分収まる程度。

 これも近衛が手配した借り物のバッグにまとめていると、同じ病室の会長も戻って来た。


「あら、()()()()貴女も退院?」

「エルナンさんもですか」


 近衛側が私達の退院のタイミングを調整したのでしょう。

 やはり……これから私達の、クーロイ星系外への護送が行われるという事。

 そこに、ハイヴェ大尉が何かを抱えて入って来た。


「お二人には、これに着替えて頂きたい」


 大尉は私とエルナンさんに、抱えていた物を渡す。

 透明の袋に入ったそれを開けてみると、アンダーシャツやアンダーパンツまで含めた、近衛隊の制服の様です。

 でもこの服……見た目よりも重い。


「見た通り近衛隊の隊服です。元々防刃仕様ですが、加えて少々特殊な加工を施してあります。

 そのため、見た目より少々重くなっていますがご容赦下さい」


 ちょっと大尉の言い方が引っ掛かる。


「それって、私達が聞いて差し支えない事ですか?」

「作戦の内容にかかわる話なので、今この場所では話せません」


 作戦と口にしたという事は、護送中に何かがあるかもしれない。

 あの監察官閣下が、いまだ私の身柄を確保しようとしているとか。

 それが動き出す可能性は決して低くない。そう近衛隊は考えているのね。

 今この場所で……とあえて大尉が言ったということは、後で何かしら説明があると。


 大尉が病室を出て扉を閉め、そのまま扉の前に立っている。

 その間に私達は着替えるためそれぞれのベッドに戻って、ベッド周りのカーテンを閉める。


 渡された隊服は、種類ごとにビニール袋に密封されている。

 アンダーシャツの袋を開けて取り出すと、ひらりと一枚の小さな紙片が落ちる。何だろう?

 拾い上げてみると、その紙片には手書きで何か書いてあった。


 ……これは、恐らく大尉から私宛のメッセージだと思う。

 ここで一人で着替える際に読めるよう、着替え袋の中に仕込んでいたのね。

 内容からして、この紙片は残したら不味い。


 紙片に書かれていた通りアンダーシャツの上に着る服を調べる。

 よく見ると、ボタン合わせの内側に不自然なスリットが入っていた。

 触るとそこは小さな内ポケットになっていた。紙片はこの中に入れておく。

 こんな場所に作っているのは、紙片を落とさないように、かつ服の厚みで隠しポケットが不自然にならないように、との配慮だろう。

 

 二人とも着替えを済ませてから病室の扉をノックし、支度を終えたことを大尉に知らせる。

 大尉が外から扉を開けてくれた。


「退院手続きと会計についてはこちらで済ませますので、このまま参りましょう」


 エルナンさんと私が前後に並び、その周りを十人の女性ばかりの近衛隊が囲む形で歩き出す。

 ハイヴェ大尉や、その副官であるファネス少尉とリエンド少尉は、周りを見ながら指揮を執るため囲みの外にいる。

 他にも何人も近衛隊がいて、周囲を警戒しながら進む。

 そちらは男性も含まれている様子。随分と物々しい護送ね。


 それだけ、殿下の手による襲撃の可能性があるのでしょう。

 その体制のまま病院の中を進むので、さぞかし目立つことでしょう。

 でも、マルヴィラのような屈強な女性達――マルヴィラに『屈強な』って形容詞を付けると、彼女に怒られるけど――に囲まれて、周囲の視線はそれほど気にならない。


 そのまま病棟の裏口を出て、近衛と共に、そこに停めてあった装甲車に乗り込んだ。



 装甲車の中は狭い部屋で、両壁際にベンチシートが並んでいる。

 私が片側のシート中央に誘導され、隣にエルナンさん、反対側にハイヴェ大尉が座る。

 向かいに大尉の副官ファネス少尉とリエンド少尉。

 それぞれの左右には、大尉の小隊に属する女性近衛隊員が並ぶ。

 入院生活の中で一番間近で警護に当たってもらっていた彼女達とは、顔と名前が全員一致するほどの顔見知りだ。


「今から宇宙港へ向かうのですか」


 隣に座る大尉に行先を尋ねる。


「いえ、向かうのは我々の駐屯地です」


 大尉が答えた内容に、視界に入るある人物の肩が一瞬揺れたのを見て取った。

 小隊の皆には、どうやら行先を知らされていなかったらしい。



 * * * * *


(第四皇子視点)


「殿下、やはり近衛隊はあの二人を連れ、装甲車三台で病院を出ました。ですが……」


 グロスターが執務室に来やってきて報告する。


「ですが、何だ?」

「向かう先は宇宙港ではなく……恐らく、近衛隊の駐屯地です」


 私は、執務は自治政府庁舎上層階の領主エリアで行っているが、それ以外は領主屋敷――カルロス侯爵時代にはほとんど使われていなかった――に滞在している。

 近衛隊は、初めはその領主屋敷の隣接地に駐屯していた。


 しかしその後、全貴族総会が帝室への弾劾を呼び掛け、近衛総監が中立を宣言した。

 その際、近衛隊は私の身辺警護を辞退し、駐屯地も自治政府庁舎に近い廃ビルに移した。

 3区の会事務局が再開した廃ホテルは、その駐屯地の隣接地にあたる。


 この星系では不動産は全て自治政府が所有しているのだ。

 そうした廃ビル、廃ホテルに入れるという事は、近衛の奴らに自治政府も協力しているのだろう。


「二人を護送しないのだろうか。

 本当に二人がその装甲車で移動しているのは間違い無いか?」

「乗っている事は間違いありません。手の者が確認しています」


 グロスターが答えるが、ここで執務室の扉をノックする音がする。


「近衛第三連隊長、サーム・ビゲン大佐がお越しです。

 大佐は殿下との面会を希望しております」


 側仕えの一人タンクレーディの声で、扉の外から思わぬ来客が告げられる。

 グロスターと顔を見合わせる。


「私も同席致しましょうか」

「そうだな、何が出てくるか分からん。よろしく頼む」


 グロスターの申し出を了承し、同席してもらうことにした。

 タンクレーディに命じ、このままビゲン大佐を通してもらう。


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