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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第13章

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13-02 狐と狸の探り合い

この話は、途中で視点が変わります。

(近衛第三連隊 エリー・ハイヴェ大尉視点)


 ある日、私は上官であるチューリヒ近衛少佐から内密に招集された。

 指定された会議室に、私の副官の一人ファネス少尉と二人で入る。

 そこにはチューリヒ少佐だけでなく、連隊長ビゲン大佐もいた。

 少佐に目を向けると、彼は瞑目し頷いた。


「急な呼び出しで申し訳ないが、重要な話をせねばならん。二人ともこちらに座ってくれ」


 そう言う連隊長に応じ、彼らの向かいに着席する。


「クーロイの問題は、全貴族総会と帝室の間で決着をつけなければ解決すまい。

 そこで近衛総監から内密に要請が入った。ナタリー・カルソール女史とケイト・エインズフェロー女史の二人を、あちらに気付かれずに護送して欲しいとの事だ」


 二人の警護は、女性近衛隊員のみで構成された私の小隊の任務だ。

 呼び出しは二人に関することだろうと推測していたが、護送という事は……。


「いよいよ総会による証人喚問が行われるのでしょうか」


 全貴族総会側と帝室側で、意見が真っ向から対立している現状だ。

 総会側でこの件に関する公聴会を開いて、そこに証人として二人に証言してもらい、世論を全貴族総会側に傾けようという事になるのだろう。

 そんな道筋を想定しての質問だ。

 連隊長は、私の質問に頷いた。


「彼女達に対する、殿下の()()()はどうだ」

「相変わらずの様です」


 少佐が連隊長に答えた。彼等が流してくれる情報を読む限り、殿下はエインズフェロー女史の身柄の確保をあきらめていない様子だ。


「例の部隊の方は」

「行方を晦ませた約百二十名はまだ行方が掴めていません。

 拘束済の者達を尋問していますが、口を割りません」


 市民への暴行や略奪紛いの行為の頻発が問題になった際

 殿下の身辺警護や既に拘束されている者達を除いて、例の部隊出身者が入れ替えられた。

 そして入れ替えられた後、彼らの多くが行方を晦ませている。


「そちらも駄目か……」


 少佐の報告に、連隊長は眉間の皴を揉み解しながら零す。

 連隊長のこの仕草は最近とみに増えてきた。それだけ頭を悩ませているのだろう。


「そもそも我々には独自の移動手段がありません。どこへどうやって護送するのですか」


 私が質問の声を上げる。

 近衛隊も軍人だが、宇宙軍とは別組織になっている。

 帝室の警護を主任務とする我々は、帝室の者が移動する際はその艦艇に同乗するのが常であり、独自行動するための艦艇などは所持していない。

 全貴族総会と帝室との対立に際し近衛は中立を宣言した今の様に、近衛が帝室と距離を置くなど、長らく想定していなかった事態だ。


「快速小型艇を総監が手配下さるそうだ」


 快速小型艇自体に星域間を航行する能力は無い。

 ということは……。


「我々の小隊だけで秘密裏にコロニーを脱し、どこかで本隊に合流することになりますか」

「星域外のランデブー地点で総監の手配した部隊と合流し目的地に向かう。

 そこまでの航行ルートはその小型艇パイロットのみが知ることになる」


 連隊長は頷いて、概要を伝えてきた。


「詳細は別途知らせるが、出発は三日後の予定だ。大尉と小隊は密かに護送の準備を進めよ。

 御本人達へは直前まで伏せてな」

「了解しました」


 私とファネス少尉は、少佐の命令に頷いた。

 私達は席を立ちあがる。

 少佐も立ち上がり、私の肩を叩く。


「頼んだぞ」

「了解しました」


 私達二人は少佐と連隊長に敬礼をし、踵を返して会議室を退出した。



 * * * * *


(第四皇子視点)


「殿下、病院を警護する近衛部隊が慌ただしく動いております。

 それに近衛隊の中に、宇宙港やシャトル駅、貿易会社と連絡を取り合う動きも見えます。

 近々例の女二人を星系外へ運び出す可能性があります」


 グロスターの奴が、近衛の動きを報告してきた。

 あの3区の会の女共、会長と事務局長を二人とも押さえれば、逃げた連中に対するカードになる。

 立ち位置によってはトッド侯爵を押さえる手段にもなり得るのだ。


「我々に要請してくれば楽なんだが。運び出す手段は掴めないか」

「一般の旅客航路を使う事は考えづらいですな。

 貨物航路を調べたところ、二日後に入港予定の貨物船があります」


 グロスターは一枚の書類を差し出した。


「運航会社はクーロイ自治政府と何度も取引実績のある、ハランドリ星系の商社です。

 ですが今回寄港予定の貨物船は、この会社の今まで運航していた船より一回り大きいのです。

 一番怪しいのはこれかと」


 出された書類は、その会社の貨物船寄港の申請書だ。

 今回の取引相手はクーロイ自治政府で、目的はケイ素やリンの鉱石購入。

 グロスターの添付しているこの会社の申請履歴と見比べても、取引内容自体は以前と変わらない。

 だがグロスターの言う様に、取引予定量の割に貨物船の容量が大きいのは疑問だな。


「出航前に臨検させるべきか」


 私の意見にグロスターは首を振った。


「出る前に押さえても仕方がないでしょう。

 こちらが期先を制してしまうと、向こうが病院を出ない可能性があります。

 かと言って病院を出て乗り込む前に押さえようとすれば、近衛連隊全体から反撃を食らいかねません」


 そうなれば、こちらの被害も大きいか。


「対象会社のクーロイ側の駐在員は、通常通り取引準備を進めているようです。

 という事は、この取引自体は行われる見込が高いです。

 取引が行われれば、通常通り船に貨物を積みます」


 グロスターの言いたい事は分かった。


「取引した貨物を積めば、貨物船のスペースに余裕が無くなる。

 残りの隙間に乗れる人数は限られるか。

 この取引量だと、空きスペースに何人くらい乗れる」


「合流地点がクーロイから近いと想定してですが、標的二人に、警護が一個小隊くらいでしょうか」


 航行が長ければ、その分落ち着いて寝食するための居住スペースが必要ということだ。

 グロスターの言うのはそれが無い場合の人数。

 その場合、クーロイ星系から割と近い所で落ち合う本隊が居ることになる。

 そっちの方が可能性が高そうだな。


 スペース的にはもう少し乗りそうな気がしなくはないが、護送車に缶詰にされるような形で乗り続ける訳にも行くまい。そう考えてみれば、だいたいその位の人数が限度の様に思える。


「クーロイ星系から出る前に押さえる必要があるわけだな。

 人数が少ないといえど相手は近衛だ。人数を多めに手配すべきだろう。

 あまり大人数を動かして察知されるのも困るがな」


 事前に察知されるリスクも考えろと、グロスターに釘を刺しておく。


「貨物船内で動かせる人数も限度がありますから……そうですな、四十人が限度でしょう。

 彼らも腕っぷしだけは近衛に引けを取らないと思います。

 向こうの倍以上の人数が居れば、まず大丈夫かと」


 それくらいの人数なら、万一最悪の事態が起きても何とかなるだろう。

 私はグロスターに頷いたが、彼はまだ浮かない顔をする。


「ただ……荷物を少し少なくすれば、快速小型艇がギリギリ入るサイズです。

 万が一そんなものが潜んでいた場合、臨検から逃れられる可能性があります」

「だとすると、一隻だと不十分か」


 グロスターは頷く。


「接舷しての臨検は一隻だけにして、そこに連中を乗せておけば良いでしょう。

 万一を考え、後詰として足の速い船を二隻ほど用意して頂ければ」

「……わかった。マクベスを呼んでくれ。彼を交えて細部を詰めよう」






 * * * * *


(近衛第三連隊 チューリヒ少佐視点)


「動きはどうだ」

「グロスター伯爵やマクベス大佐と頻繁に打ち合わせをしているようです」


 連隊長から訊かれ、側仕えが漏らしてくれた最近の殿下の動向を報告した。


「こちらの動きが漏れていると考えて良いだろう。

 ()()()()()()()()()()()()。奴め、侮れんな。

 二重三重に保険をかけて良かった」


 連隊長の言葉に私は頷いた。


「それでは手筈通りに」

「うむ。よろしく頼む」


ちなみに、ここで出てきたチューリヒ近衛少佐は

10-02にてマルヴィラが宇宙軍兵士にリンチされていた時にそれを止めに入ったのと同一人物です。

その後、暴行を働いた兵士達に代わってシャトルの警護に就いていた女性兵士はハイヴェ大尉達でした。

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