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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第12章

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12-11 厄介事は持ってこないで

メグ視点

 病院でのドクやクロとの面会から帰った翌日、セルジオさんが私達を訪ねてきた。

 船に入るハッチの外につけたインターホンから、セルジオさんが話しかける。


『アイーシャさんから伝言を預かってる。入れてくれないかな。

 あ、後ろの人達は入っていかないから』


 セルジオさんの後ろに、カメラに映るだけで三人の男がいる。

 この間街を案内してくれた時のアイちゃんやクレトさんが着ていた服に似てるから、恐らくここの軍服なんだろう。

 セルジオさんの服は平服だから、セルジオさんの方が浮いている。

 それにしても伝言って……ドクの意識が戻って、また会う日程の調整にセルジオさんを寄越したのかな。


「わかった。今からハッチを開ける。ニシュ、セルジオさんを会議室へ案内してくれない?」

『わ、分かった……』


 ちょっとインターホンの向こうの顔が怯んでた。

 セルジオさんってば、ニシュの事がまだ苦手みたい。


「それじゃあ迎えに行ってきます」


 私達のいるコックピットから、ニシュがそう言って出て行ったのを見て、ハッチのロックを解除する。


 グンター小父さんは、日課の設備点検で今ここにはいない。

 セイン小父さんとライト小父さんが一緒にいるけど、セルジオさん相手にセイン小父さんだと押しが弱いし、そもそもセイン小父さんは何か作業中。

 一方ライト小父さんは、船外の整備作業がそれほど忙しくない今は、割と暇そう。


「ライト小父さん、セルジオさんが来たから、一緒に話を聞いてくれない?」

「いいぜ」


 二人でハッチに近い会議室へ向かう。


 向こうからニシュに連れられたセルジオさんがやって来た。

 会議室を開けて、セルジオさんを招き入れる。


「それで、アイーシャさんからは何と?」

「『まだ容体が良くないから、話の続きができるようになったら連絡する』だって」


 えっ……それだけ?

 しばらく待ったけど、それ以上の言葉がセルジオさんから出てこない。


「で、本題は?」


 痺れを切らして、ジト目でセルジオさんを見つめて言う。


「……すいません。しばらく匿ってください」


 そう言ってセルジオさんは頭を下げた。


「どういう事だ?」


 ライト小父さんが、セルジオさんに理由を尋ねる。


「表に僕の護衛が何人も居るでしょう。この間ここに来てから、あの護衛達がやたらと僕の行動を制限するようになってしまって。朝起きて寝るまでずっと付き纏われるんです。彼らはこの船に入ることを上から禁じられているから、彼らから解放されるのはここだけなんです」


 頭を下げながらセルジオさんが零す。

 セルジオさんに付いてきた護衛達以外にも、船の外には何人もいるけど。

 それは彼には言わないでおこう。


「なんで、またそんなことに」


 ライト小父さんがそう言うと、セルジオさんは頭を上げた。


「この間、ショッピングモールに連れて行ったでしょう。

 あの時、ついでに僕が買い食いをしたことが問題になって」

「……は?」


 小父さんと私が目を丸くする。


「普段はあんな風に、偶の自由時間に買い食いをしても何も言われなかったんですが……皆さんをショッピングモールにお連れした様子は監視されていたみたいです。皆さんに問題はなかったのですが、僕が自由に買い食いをする姿に『身の安全を弁える立場の者が、毒見されてない物を勝手に飲み食いするなんて何事だ』とお怒りになった方がいまして」


 私は、セルジオさんの話に唖然とするばかり。


「お怒りになった方って……貴方のお父さん?」


 そう聞くと、彼は頷いた。


「なんか、すっかり要人扱いだな。親父さんに政敵とかいるのか?」


 ライト小父さんも呆れて言った。


「そういった政治的なことは何も聞かされてないです。

 ただ、『何が有るか分からないから、口にする物には気をつけろ』とだけ」


 困ったなあ。

 家族の問題なら持ち込んで欲しくないし、この星系内の政争の問題ならもっと要らない。


「何時間か、この船の中にいればいいって事なのか?」

「あ、い、いや、その……」


 ライト小父さんの言葉に、セルジオさんが何かを言い澱む。

 ああ、そういう事。

 思わず呆れた目でセルジオさんを睨む。


「また何か食べさせてくれってこと?」

「……あ、あの、えっと……ごめんなさい」


 そう言ってセルジオさんは頭を下げた。

 結局のところ、人の……というか、私の作った料理が食べたい、と。


「うちは食堂でもセーフハウスでもないんだけど。便利に使われても困る」

「いや、そんなつもりは」


 セルジオさんが慌てて否定するけど、小父さんが遮って言う。


「いーや、そんな言葉は信用できんな」


 小父さんは、腕を組んでセルジオさんを睨む。


「同情できる部分が無いわけではない。

 だが、お前を匿うことで俺たちも危険に巻き込んでいることに気づけ」

「えっ?」


 気づいてないのか、セルジオさんが目を丸くする。


「この船の外にいるのは、貴方の護衛というか監視だけじゃないわ。私達も監視されてるの。だから身を守るために、私達は皆で買い物に出た時とドクへの面会以外に、この船から一歩も外に出ていない」


 セルジオさんが目を丸くする。

 船外の整備を担当するライト小父さんが暇なのも、そういう外の監視を嫌っての事。


「向こうからしたら俺たちを監視するのは当然だろう。ドクと接触したのなら猶更だ。

 お前を匿うことで、これ以上にこの星系の政争やら何やらに巻き込まれるのは堪ったもんじゃない」


 ライト小父さんも言う。

 セルジオさんを何時間か匿ってご飯を食べさせて、後でこっちに迷惑がかかるのは嫌。


「大体、私たちは帝国から匿ってもらっている立場なの。

 この星系での内部の諍いに巻き込まれるような迂闊なこと出来る訳ないじゃない」

「そっか……そうだよね。ごめんなさい」


 今度のごめんなさいは、ちゃんと反省した謝意を感じられた。

 さっきまでのように口だけ謝って主張を通そうとする、そんなごめんなさいではない。


「例えば、アイーシャさんとかクレトさんと一緒だったら、また来ても良いですか」

()()()()()()()()()()二人が一緒なら構わないわ」


 そう言うとセルジオさんは深く頭を下げた。

 私はニシュに目配せをする。


「ひょっとして、アレですか」

「そう。持ってきてくれる」


 ニシュは私の意図に気づいて、会議室を出ていく。

 しばらく待っていると、ニシュが透明なパック袋を手に会議室に戻って来た。

 それを見たライト小父さんが驚いて、私に言う。


「おい、メグ。あれってまさか……!」


 私は小父さんを無視して、ニシュに再び目配せする。

 ニシュは頷いて、手にした袋をセルジオさんに渡す。


「これは?」

「手羽先の甘辛揚げ……小父さんたちが私に内緒で作って隠してた、酒のツマミね。

 材料はこの間スーパーで買ったものだし、変なものは入ってないと思う。

 私が作った訳じゃないけど、それも手作りだから。良ければ持って行って」

「いいの⁉」


 私の言葉に、セルジオさんは喜ぶ。


「折角冷凍庫の奥に隠してたのに……そりゃ無いぜ……」


 一方、ライト小父さんはぼやく。


「こんなツマミ作って隠して。

 この状況にイライラしてるのはわかるけど、最近時々昼でも酒臭いから。

 もうちょっとお酒減らしてほしいの」

「うっ……」


 私が言うと小父さんの言葉が詰まる。


「セルジオさんも、自分の都合だけで頼んでこないで」

「わかった……ありがとう」


 セルジオさんは頭を下げて、渡した袋をカバンにしまい込む。


「ニシュ、セルジオさんをお見送りして」

「はい」


 そうして、ニシュに連れられてセルジオさんが船から出て行った。

 船外カメラで見ていたら、見えてた三人以外にあと五人、セルジオさんから離れて警護している人がいた模様。三台の車に分乗して去っていった。


「それにしても……あの甘辛揚げ、誰が作ったの」

「ここで醤油が手に入ったから、ずっと昔に母から教わって俺が唯一覚えている料理を作ってみた」


 へえ。ライト小父さんも料理が少しはできたのか。

 作れるのは甘辛揚げだけみたいけど。


「あれを持って行かれたのは残念だが、これで外の監視が減ればいいな」


 小父さんの言葉に頷いた。

 政争に巻き込まれるのは御免被るけど、ずっと監視される中でこの船に閉じ籠るのも疲れる。

 セルジオさんや、彼から事情を聴いたアイちゃん達が上に働きかけて、監視が緩めば嬉しいな。



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