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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第2章

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2-04 お引っ越しと、新たな協力者

 方針が決まって、まずは管理エリアへの引っ越しをすることになった。


 アタシの場合、元々部屋にそれほど物を置いてなかった。お父さんお母さんの形見の品もそんなに無いし、趣味の物と言っても裁縫セットとか、スカッシュで使うボールとラケット位。

 服や下着はケイトさんから貰って増えてきてるけど、ある程度は既に向こうの部屋に置いてるし、こっち部屋の荷物はまとめれば台車1回で運べる程度の量しかない。


 アタシが管理してる、ゴミから漁った配線や部品は、別の部屋に種類別に棚を作って保管してる。種類別に箱に詰めて持って行って、それから今の保管棚をバラして、向こうの武器庫で組み上げれば大丈夫。

 ロボットに手伝ってもらえば1日あれば終わる作業。


 小父さん達の管理してる機械工具類やロボットメンテナンス用の設備、船外活動用の宇宙服や機械類は、向こうの整備室や、場所が足りなければ会議室のテーブルをどけて設置することになる。

 それぞれ整理はされているけど、量が多かったり重さが有ったりするので、引っ越し作業は、作業ロボット達に手伝ってもらってもそれぞれ数日かかると思う。


 これらは作業工程を立てて、段取りよく進める必要があるけど、見通しが立つだけまだマシ。

 問題は小父さん達の私室。



 グンター小父さんの私室には、アタシが拾った覚えのある酒瓶が一杯溢れかえっていた。どれもこれもチビチビ飲んで、少なくなったら飲まずに取って置いてたみたい。それに小父さんが趣味で描いてる絵が、失敗作を含めて部屋の隅に山積みになってる。


「何、この酒瓶の山! どれもこれも中身ちょっとずつ残して、どうすんの! 何本かにまとめればいいじゃん!」


「全部味が違うから分けてあるのに、一緒くたになんかできるか!

 絵も全部持っていく。」


「……工具部屋の引っ越しは手伝うけど、こっちの部屋はアタシ手伝わないからね!」


「…ちょっとくらいは手伝ってくれんか?」


「無理!」



 セイン小父さんの部屋は、ブランデーについてはグンター小父さんのウィスキーと似たり寄ったり。それにワインの空き瓶も床に何本も転がってる。

 それにポスターの収集癖があって、コロニー内で見つけて気に入ったポスターを持ち帰って壁に貼ってるんだけど、それがもう層になってるし、丸めて保管してるポスターも山程。


「セイン小父さん……このお酒とポスター、どうするの?」


「全部持っていくよ。メグも引越手伝ってくれる?」


「ワインの空き瓶は捨てても良いんじゃないかなあ……他はどう整理していいか分からないし、変に扱うと小父さん怒るから、アタシ手伝うの無理だよ。

 ロボットメンテナンス室の方なら手伝ってもいいけど。」


「気に入ったワインは空き瓶を取って置かないと、次に同じのを見つけても分からないからね。

 仕方ない、少しづつやるか……。」



 ライト小父さんの場合は、焼酎は飲み切って空き瓶はゴミにするから、グンター小父さんやセイン小父さんの部屋みたいに、酒瓶が山ほど置いてあるなんてことは無い。

 じゃあ何が問題かと言うと……。


「ダンベルとかベンチプレスとか、向こうに同じような器具無かったっけ? 置いて行ったら?」


「トレーニング室は皆で使うだろ? 部屋にも欲しいんだよ。

 手伝ってくれると嬉しいんだけどな。」


「工具とかロボット設備とかの引越もあるんだから、私物の引越くらい自分でやってよ。

 大体、大きすぎて扉から出せないじゃない。全部バラして持って行って、向こうで組み立てる訳?

 これ全部?部屋の隅に置いてある、使って無さそうなのも?」


「ああ、隅のやつはひとまず置いていく。あとで必要になったら持っていくよ。」


「またそう言って、段々部屋に溜まっていくんじゃないの?」


 こんな調子だと、小父さん達の私物の引っ越し、いつ終わるんだろ……。



 管理エリアの配線修理は、維持装置エリアの空気浄化装置や再利用処理装置を優先して行うことになった。引っ越すんだから、引っ越し先の環境を整えるのは当然なんだけど、

 それだけだったら手持ちの資材で修理できそうだし、工程表を引いてみんなで分担して作業を始めた。


 最低限の装置配線の修理は済ませ、工具やロボット設備、船外活動用品などの引越の工程表を小父さん達と作って引越作業を始める。

 小父さん達は並行して私物の引っ越しもする予定なんだけど、あんまり進んでる様子無いなあと思っていたら、またゴミコンテナのやってくる日……ケイトさんとの取引の日がやって来た。



 いつものようにコンテナの積まれた奥の場所で待っていると、センサーに2人分の反応があった。1人はここから離れた場所で止まり、もう1人はこちらへ向かってくる。


「こんにちわ。メグちゃんは元気?」


「ケイトさん、いらっしゃい。向こうに居るもう1人は誰?」


 ケイトさんは肩を竦める仕草をする。


「……まあ、人を連れてきたら分かるか。

 私の会社の従業員ってことにしているけど、実際は私の護衛。以前に他の業者から危ない目に遭わされそうになって、それを御父様に話したら寄越してきたの。」


 護衛……センサーの感じからは大柄な人みたいだったけど。


「危ない目って?」


「メグちゃんと取引した資材は、信頼できる口の堅い業者にしか売ってなかったわ。でも、それなりの量を売っていたのがどこかで漏れたみたいでね。

 それで他の業者から詰め寄られたり、跡をつけられたり、ひどい時には襲われそうになったりしてね。」


「大丈夫なの?」


「本当に危なかった時は警察に逃げ込んだわ。

 でも御父様がすぐに護衛を寄越してくれて、それからは大丈夫よ。」


 アタシ達との取引で、ケイトさんも危ない橋を渡ってるのかな。

 身の安全もそうなんだけど、他にも心配なことがある。


「その護衛の人って信用できるの?」


「子供の時からの友達で、口も堅い人だし、私はとても信頼しているわ。これからもここに来るとき連れてくるし、メグちゃんに紹介していい?

 多分、あの人もメグちゃんを可愛がってくれると思うわ。」


 アタシが頷くと、ケイトさんはもう1人を呼びに行って、程無く戻ってきた。

 その人はケイトさんより頭一つ分以上背が高い。宇宙服から覗く顔は、ケイトさんと同じくらいの歳の若い女の人だった。


「初めまして、お嬢さん。私はマルヴィラ・カートソン。

 ケイトの小さい時からの友達で、今は彼女の会社の従業員ね。」


「初めまして。アタシはメグ。ここでジャンク品を売ってます。取引相手はケイトさんだけですけどね。

 後ろにいるのは侍女アンドロイドのニシュ。アタシの護衛みたいなものね。」


 マルヴィラさんが握手を求めてきたので応じる。

 後ろでニシュがペコリと一礼するのが、宇宙服につけた鏡で見える。


「マルヴィラさんはケイトさんの護衛って聞いたんですけど、女性なのに大丈夫なんですか?」


「多少は武術もやってるし、地元で警察に少しだけ務めてたこともあるわ。」


「多少って、そんな謙遜を……並みの男なら貴女には敵わないと思うわよ。」


 ケイトさんが言うには、マルヴィラさんはかなりの腕前らしい。

 マルヴィラさんの身のこなしが何か違うなって事は宇宙服を着ててもわかる。



「ところで、ここでジャンク屋って……こんな人の居ないゴミ捨て場(ガベージ)で?

 どうやってここに来てるの?」


 ああ、ケイトさんはマルヴィラさんにまだ何も事情を話してないんだ。


「マルヴィラさんって、ここがゴミ捨て場になった経緯は知ってます?」


「この星系に来る前に調べたけど、20年近く前に天体がこのコロニーに衝突して、住民が全滅したって。」


 ケイトさんに目を向ける。


「彼女から変な所に話が漏れることは絶対に無いわ。私が保証する。」


 そう言ってケイトさんが頷く。

 この会話を聞いている小父さん達からも、話して良いって文字メッセージが宇宙服内のディスプレイに届いたので、話すことにする。


「……アタシはその衝突事故の後にここで生まれて、ずっと住んでるの。

 お父さんお母さんは何年も前に病気で亡くなって、今はアタシと小父さん達3人だけね。

 ここでジャンク品を取引してるのも、アタシ達が必要な物を向こうで買ってきて貰うためよ。」


「今まで救助とかは求めなかったの?」


「事故直後の事はお父さんお母さんや小父さん達に聞いた話だけど、事故後はデブリの撤去に1か月以上かかったみたいだし、向こうとは通信も繋がらない。撤去後も捜索や救助なんて1回も来てない。

 どこにどうやって救助を求めたら良いか分からないし、救助に来ない時点でここの軍や政府が信用できないの。」


 マルヴィラさんは左手で頭を押さえ、ため息をつく。


「ケイト、貴女ってば……またこんなトラブルを引き寄せて。」


「またって何よ。好き好んでトラブルに遭うわけじゃないわよ。

 それに、こんな話聞いてメグちゃんを放っておける訳無いじゃないの。」


 マルヴィラさんとケイトさんは随分と気安い会話をしてるし、2人が友達だってことは本当みたいね。


「……それはそうなんだけど。

 迂闊に漏れたら危ないのは分かったし、メグちゃん達の事は誰にも言わないわ。

 それで、メグちゃん達はこれからどうする積りなの?」


「具体的な事は、まだ何も。

 ただ今日は相談したいことがあるの。」


「私は向こうに戻って見張りに立ってなくても大丈夫?」


 暗に、深く関わらない方が良いかって聞いて来るけど。

 なんかケイトさんと同じく人が良さそうな雰囲気だし、巻き込んでしまおうかな。


「あちこちにパッシブセンサーを仕掛けてるから、動くものが近づいてきたらすぐ分かるよ、マルヴィラさん。

 今日の相談ってのは……これなんだけど。」


 整備室で見つけた外殻修理剤を見せる。


「……これって、軍用の宇宙船修理に使う外殻修理剤じゃない。よくこんな物が見つかったわね。」


 マルヴィラさんは首を傾げるけど、ケイトさんは知ってたみたい。


「これって向こうで手に入りやすい物なの?」


「難しいと思うわ。民間にはこういう軍用、特に宇宙船用の物品は流れて来ないわよ。」


 ということは、これを向こうで買って来て貰うのは難しいか。


「ケイトさんはこれが軍用の品ってわかるんだね。」


「……以前、御父様の仕事の関係で見たことがあったのよ。実家は軍関係の仕事も一部請け負っているの。

 それよりこれが見つかったってことは、宇宙船が見つかったの?」


 それに気付いたのなら話は早い。ケイトさんとマルヴィラさんに協力を求めてみようか。

 そう思っていると、小父さん達からもGOサインが届いた。


「これからの話は、絶対に内緒にして欲しいの。いい?」


 2人が頷くのを見て、話すことにする。


「軍が管轄してたコロニーの管理エリアに入れる道が、最近見つかったの。

 管理エリアを調べて分かったんだけど、ここのコロニー自体が元々宇宙船として飛んできたみたい。そのエンジンは外されて、コロニー自体を宇宙船として動かすことはもう出来ないけどね。

 ただ、管理エリアにもエンジンがあったの。どうやら管理エリアを切り離して、単独で宇宙船として動かせる設計になってたみたい。」


 2人が驚くのを見ながら、話を続ける。


「宇宙船のブリッジも見つけた。

 けど、宇宙船として使える設計になってると言っても、問題はたくさんあるの。


 まず、修理のための資材が足りない。この外壁修理剤もそうだけど、内部の配線もあちこち劣化してて交換が必要なの。いまの手持ちの資材ではとても足りない。


 次にエネルギー源ね。エネルギー触媒のリオライトが無いと、宇宙船として動かせない。


 それから航行コントロール。今は航行コントロールの機能はロックされてて使えないの。どうやってロックを外すのかもわからないし、外したところでアタシ達には宇宙船を動かす方法も知らない。


 そして、これらを全部クリアしたところで……アタシ達はどこへ脱出するのか。どこへ行けば安全にアタシ達を受け入れてくれるか。


 どれ1つ取っても、アタシ達だけでは解決できない。

 外部の協力がどうしても必要なの。

 ……解決策を、一緒に考えてくれると嬉しいんだけど。」


 宇宙服越しに、2人の顔が盛大に引き攣るのが見えた。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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