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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第12章

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12-07 側仕えの告発(後)

前話に引き続き、第四皇子側仕えの一人、ガレッティ伯爵令息視点です。

「その第二二三陸戦連隊とやらに、少佐には心当たりがあるのですか?」


 ハイヴェ大尉が言う。


「式典前に更迭された自治政府の前総務長官が、3区の会に警備隊から護衛を付けていた。その護衛が式典参加直前、3区の会に襲い掛かったのだ。返り討ちに遭って彼らは逆に拘束されたのだが、尋問中に彼らがその『第二二三陸戦連隊』の正規兵だと主張している」

「なっ」


 この話を知らなかったのか、大尉は驚いている。


「しかも拘束された時、自治政府警備隊の物でもなければ軍の正規装備でもない、違法な仕様の電磁警棒を所持していた。

 軽く触れられるだけで失神し、殴られれば弱い者なら命を失いかねない程の高出力の物をな」


 3区の会の者達を拘束するために、スタンガン代わりに用意したとしか思えない。


「それが殿下の差し金だとすれば、式典への突入とは別に、その者達を使って3区の会に対して危害を加えてどうするつもりだったのでしょう」


 少佐と大尉の会話を聞いていて確信した。

 やはり殿下は……。


「殿下はその士官を呼び出して『何としても聞き出せ』と命じていました。

 別にエインズフェロー女史が明確に罪を犯しているのでなければ、3区の会は、そもそも殿下が今回軍を動かして為そうとしていたことに、大きく関わるのでしょう」


 少佐と大尉がこちらを向く。

 二人は私に頷き、続きを促す。


「今まで耳にしたことからの推測に過ぎませんが……殿下はその第二二三陸戦連隊を使って、3区コロニー奥で密かに生きていた者達を秘密裏に捕らえようとしていたのではないでしょうか。

 その生存者達を捕らえるための人質として、女史を確保しようとされていたと推察します」


 少佐と大尉は息をのむ。


「貴兄は、どうしてそう思ったのだ」


 驚きに固まっていた少佐が、質問を投げる。


「我々側仕えは最早殿下の御宸襟には触れられませんが、それでも殿下の手足として動くため、殿下が会う人や触れる情報を把握しています。

 式典でも、殿下が突入してきた軍部隊へ命じた内容やその後の軍の通信内容も聞いています。

 そこからの推測です」


「近衛ではその回線の交信は把握していない。一体どのような内容だったのだ?」

「コロニー奥へ一人で向かったエインズフェロー女史を捕らえる為に部隊が追った際に、コロニー奥に誰かが居ることを示唆する発言がありました、

 そしてその後コロニー奥から宇宙船が飛び立ち、部隊の追跡を掻い潜って逃走したのを聞いて、殿下は『逃げられる前に撃ち落せ』と発言しています」


 少佐も大尉も、言葉もなく固まっている。


「あれが3区の事故生存者であれば、殿下はその生死を問わなかったことになります。

 コロニーが廃棄される切っ掛けとなった天体衝突事故に裏があるのでしょう。

 それが露見しないよう、秘密裏に葬り去るための作戦だったのではないかと思えるのです。

 確実に生存者を捕らえるため、かなり前から女史を人質として確保する算段をしていたのかと」


「宇宙船が逃走した……そんな話はちらりと聞いた。

 確かに、星域に展開していた部隊が何かを追って動いていた形跡があるのは認識している」


 少佐の発言に大尉が頷く。

 部隊の交信は聞けなくとも、近衛隊もそこまでは把握していたか。


「殿下は、女史が逃走先を知っているものと推測して、無理やり聞き出そうとしているのでしょう。

 逃げた生存者達、あるいは逃げた宇宙船そのものに余程の秘密があるのだと思います。

 天体衝突事故が起きたのは十七年前ですから、その事故に殿下が直接関わっていた筈がありません。

 なので、これは殿下単独の企てではあり得ないのです」


 殿下が誰の意を受けているかを思い浮かべたのか、少佐と大尉の顔が引き攣る。


「確かに筋は通りますね……。

 ですが、その交信内容や殿下の命令内容などの証拠はあるのですか」


 ハイヴェ大尉の言葉に私は首を振った。


「我々が目にし、耳にした内容しかありません。

 ですが、殿下が帝国法を逸脱した行動に出ようとしているのは確かです」


 チューリヒ少佐が考え込む。


「帝国法の逸脱行為か……。

 敢えて聞く。貴兄は殿下の側仕えであろう。貴兄の忠誠心はどこにある」


 この質問は、聞かれるだろうと思っていました。


「側仕えとしては敢えて泥を被ってでも殿下に着いていくべきだ。そう仰りたいのだと思います。

 ですが、私達の忠誠は殿下個人や帝室ではなく、帝国へと捧げています。

 決して帝国と帝室は同一視してはならない。

 帝室が帝国の安寧を揺るがすなら、帝室を止めなければならない。

 例え側仕え失格だと言われようと……それが、我々七人の共通認識です」


 我々側仕え七人で、今起きている状況を整理し、殿下が何をしようとしているか推測した。

 そして我々はどうすべきか、長く議論を重ねてきた。


「今の殿下の動き……侯爵やラズロー中将を冤罪で捕らえ、生存者を闇に葬ろうとし、そして無辜の市民に拷問や不当な尋問を行おうとしています。

 恐らく後ろ盾の人物の差し金だと思いますが、これら一連の行動にきな臭さしか感じません。

 我々自身に殿下を止める手立てが無ければ、その力を持つ方々の力を借りてでも止めないといけない。

 そのために、今回近衛の方々にお願いに上がった次第です」


 そう言って、私は二人に頭を下げた。


「ちょっと待て。貴兄は侯爵や中将閣下を冤罪と言うが、それは確たるものなのか」


 少佐が言う。


「式典の前、監察官としての殿下のもとで我々も調査しましたが、そのような証拠や兆候すら欠片もありませんでした。

 殿下の手足となり調査した我々が把握していないのに、直接調査したわけでもない殿下が独自に証拠をつかんでいるとも思えません。

 証拠の提出をのらりくらりと引き延ばしているのは、そもそもそんな物は無いからです」


 この言葉に、少佐と大尉はため息を吐いた。


「やはりか……。殿下はカルロス侯爵や政府高官、ラズロー中将閣下の身柄も押さえているが、彼らが反乱や戦略物資横流しをしていた明確な証拠も一向に出てこない。

 とはいえ、残念ながら貴兄の証言に証拠が無い以上、現時点では我々は動けない。

 せめて二二三部隊の動きが掴めればな」


 それならば、何とかなりそうだ。


「……部隊招集の際に殿下がねじ込んだ、彼ら二二三出身者の一覧と個別データなら持っています」

「本当か!」


 少佐が驚きのあまり立ち上がる。

 私は少佐に頷き、懐からメモリカードを取り出して机の上に置く。


「顔写真も認識票IDも付いていますから、行動追跡しやすいかと思います」

「これは助かる。それがあれば、奴らの全容と行動が把握できる可能性が高い。

 それで、提供することで、貴兄が求める見返りは何だ」


 少佐は、何を私が求めているかを問う。

 私は……ただ、首を振った。


「我ら側仕えも国に忠誠を誓った身です。例え殿下であっても……いえ、殿下だからこそ。

 帝国法を逸脱して私的に権力を振るい、(ほしいまま)に振る舞うことが看過できない。

 ただ、それだけなのです」

「殿下が…帝国法を逸脱したと認められた場合……貴方がたも責任を問われるかもしれませんよ」


 大尉に私は頷いた。そんなことは元より承知の上だ。

 我々の行動は、見返りを求めてのものではない。


「十年も殿下にお仕えした我々が殿下を諫められなかった、導くことができなかったという事です。

 側仕え失格である我々は、甘んじて罰を受ける覚悟です」


 我々が、何の責任も無いなどとは思っていない。


「仮にだが……殿下が実は真に帝国の事を思って動いていた場合。

 その場合でも、貴兄らは何らかの責任を取ることになると思うが?」


 少佐の言葉に私は頷いた。


「その時は、殿下の御宸襟を理解できなかったわけですから、やはり側仕え失格で当然です。

 我々は甘んじて責を負います」

「そうか……罰を受ける事は覚悟の上か。それは、他の側仕え達も含めた総意だという事か」


 私は少佐に頷いた。


「貴兄らの覚悟は分かった。

 殿下の御宸襟は分からんが、二二三部隊が殿下の意を受けて法を逸脱した行動を取るなら、我らはそれを収めよう。

 エインズフェロー女史に対する命令については特に注視する」

「よろしくお願い致します」


 私は少佐と大尉に頭を下げた。

 私が頭を下げたのを見て、大尉がメモリカードを受け取った。


「追加で何か掴んで、近衛の皆様に連絡を取りたい場合はどうすれば良いでしょうか」

「折を見て大尉が何名か貴兄に面通しする。その者のいずれかに。

 貴兄だけが我々と接触していては向こうにも気取られるかもしれん。不自然に見えないよう、貴兄らも我々へ接触する担当を変える方が良いだろう。

 状況が変わればまた検討する」


 向こうもこちらも接触する人間を変えれば、それほど不自然に見えないか。

 了承して頷いた。




 面会を終え近衛の駐屯地から戻ると、殿下から呼び出しがあった。


「ガレッティ。お前は近衛の所で何の話をしていたのだ」 


 それを把握しているということは、あの二二三の連中に我々側仕えの事を監視させているのだろうか。


「侯爵やラズロー中将の件について、式典前の我々の調査結果の説明を求められました。調査の取りまとめを私が担当していました事は向こうもご存じでしたので、私が出頭した次第です」


 予め、殿下にバレた時にこう言うと決めていた内容を話す。


「……そうか、分かった。職務に戻ってよいぞ」


 殿下からの返答はそれだけだった。

 少なくとも、信頼感からの返答ではない事はわかった。

 分かっていて見切られたのか、大したことではなかったのか。

 いずれにせよ、近衛の様子を聞き出そうとしない時点で、重大事だとは思っていないのだ。

 虚しさを内心に抱えながら、一礼して領主職務室を去った。

 

 側仕え用の控室に戻ると、側仕え仲間のジェマイリが声を掛けてきた。


「殿下は何と?」

「例の通りの話をしたら、『そうか、分かった』とだけ」

 

 ジェマイリは、首を振った。


「ま、良かったじゃないか。それで済んで」

「そうだな」


 そんな言葉を交わして、我々は殿下から割り当てられた職務へ戻った。



 その後に流れてきた情報によれば。

 例の二二三部隊が病院を強襲し、3区の会の事務局主要メンバーを連れ去ったらしい。

 その一報に殿下は喜び、私たちは内心蒼褪めた。


 だが、連れ去られた方々女史含む3区の会メンバーが拷問を受けていたところを近衛隊が奪還。

 その後近衛隊により、彼女達は丁重に保護されていると聞いた。

 殿下は一人大荒れで、私達側仕えにも当たり散らした。

 

「どこからあの部隊の居場所が漏れた! ひょっとしてお前たちか!」


 控室に現れ、殿下は私達に詰め寄った。


「あの部隊とは何でしょうか」

「近衛が急襲したというあれだ!」


 殿下は激昂して叫んだ。余程腹に据えかねたらしい。


「私達を疑っておられるのですか?

 我々は殿下の命で自治政府関連の仕事は関わっていますが、

 軍関係は命じられておらず、知りようがありません。どうやってその部隊の事を知るのですか」

「私がそこまで知るか。お前たちでは無いのか!」


 頭にきて、近くにいる私達に当たり散らしているだけなのか、本当に疑っているのか。

 わからないが、これだけは言える。


「つまりそうしてお疑いになるという事は、我々は殿下の側仕え失格だと申されるのですね。

 我々では殿下のお役に立てないようです。

 どうぞ我ら七人を如何様にもなさって下さい」


 そう言って私は立ち上がり、両手を挙げて手を頭の後ろに回す。

 犯罪者が拘束される際の恰好だ。

 私に続き、他の側仕え達も同様に立ち上がって手を上げる。


「……ま、待て。

 冷静さを欠いていたようだ。貴様らを本当に疑っていたわけではない。

 職務に戻ってくれ。失礼する」


 そう言って、殿下は慌てて控室を出て行った。

 足音が十分に遠ざかっていってから、私達は腕を下ろしてため息を吐いた。

 私の顔にも浮かんでいるだろうが、仲間達の表情には呆れが隠せなかった。

 



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